はじまり2
王太子、にこやかな笑顔になり義姉に指輪を見せながら近寄っていく。
「なによ!どうしたのよ!」
義姉、不安そうに怒鳴るがその不安は的中しているぞ。
なんてったって、その服従機能付きの指輪で王太子に逆らえなくなる。
よかったね。その栗色のふわっふわの髪とかわいらしい顔でキャンキャン吠えてるのを気に入られたぞ。
わたしはブス認定された。
まあ、服従しなくて殺されないだけましだが、『異なる世界、わからぬ言葉』って世界に放り出される私は今後どうしようかね。
できることなら家に帰りたいけど、無理ですか?
「キャンキャン吠えるな。せっかく異世界から召喚できたんだ。かわいがってやるから待っていろ。ついでに私の為に能力も使ってやる。召喚で得たはずだ。楽しみじゃないか。」
王太子、言葉がわからないと思って本音ダダ漏れ。
でもそのおかげで情報ゲットですね。
私、不安そうに不思議そうな顔して黙って見ているけど誰も気にしてくれません。
「なに?その指輪くれるの?」
義姉、王太子が受け取ってくれってしぐさしたら手を差し出して受け取ろうとするよ。
そこにすかさづ王太子が手を優しくつかんで指に指輪をはめる。
ついでに小声でキーワードを呟く。
優しく、優雅にはめるもんだから、義姉うっとりしています。
まれにみるイケメンだもんね。
でも、これで服従決定だ。
「麗しの乙女よ。私の言葉がわかりますか?」
イケメン顔は微笑みを浮かべ義姉を見る。
「は・はい。でもなぜ急に言葉がわかったの?」
義姉、イケメンの微笑みで恥ずかしそうに赤くなっている。
手もまだつないだままだもんね。
その王子っぷりにやられるか。
「この指輪には翻訳の機能が付いております。それよりも、麗しの乙女のお名前を教えていただけますか?」
あれ?王太子、義姉が言葉をわかったとたん『これぞ王子様』って感じになったぞ。
笑えるけど笑っちゃだめだ私。
まだ、不思議そうに不安そうにしてなくちゃ。
だって私は言葉がわからないフリだもん。
「私は日岬麻里子です。あ!苗字が日岬で、名前が真理子です。・・・あなたのお名前は?そしてここはどこですか?」
義姉、私の存在忘れてるね。
いいけどね。
「ここはリヒトマージェ国で私はこの国の王太子です。どうぞジャミルと呼んでください。後ろの騎士たちは私の護衛達です。そしてフードをかぶっている者達は、麗しの乙女マリを召喚した魔術師たちです。」
あれ?王太子は正式な名前って言ってないよね?
地球の常識では王族・貴族達の名前ってやたら長いよね。
庶民だったら短い名前もあたりまえだけど。
「召喚?リヒトマージェ国?・・・日本ではないの?召喚したって?なんで?」
そうそう、それを聞いてくれなくちゃ。
「麗しの乙女マリ、ここはあなたの住んでいた世界ではありません。異世界です。召喚理由はこのリヒトマージェ国を救っていただきたいのです。」
憂い顔して義姉の目をまっすぐ見ております。
「どうぞ、麗しの乙女マリのお力をおかしください。」
マリの前に『麗しの乙女』ってつけるのは決定事項なの?
「救うって?私には特別な力なんて・・・。」
そうそう。私達には何の力もないぞ。どこにでもいる一般学生だ。
「召喚されると、神から能力が与えられると言います。その力を使いこの国を守ってほしいのです。今この世界は魔王の恐怖におびえている。お願いです。人々の平和のために。」
あれ?その話ほんとう?さっきの王太子の本音を聞いちゃったか素直に信じられないかも。
「魔王!・・・私に何か力があるの?どんな力なの?私って勇者になって戦うの?」
少しおびえた顔で王太子に聞いている。
「麗しの乙女マリ。怖いことなどないですよ。あなたは神に能力をもらい守られている。私も守ります。ですが、その神の力でこの国を守ってほしいのです。お願いします。」
そう言うと、義姉の両手を包み祈るように言う。
「能力とはどんな力なんですか?」
そうそう、私も力もらってるの?
「人それぞれ力も違うし、能力が現れるのも違います。すぐ使いこなせる方もいらっしゃいましたし、のんびりと現れた方もいます。でも、半年以内には前に召喚された方々は使いこなされていました。だから心配なさらずとも大丈夫ですよ。」
前に召喚!私達だけじゃないの?
「前に召喚?私の前にもここに来た人たちが?」
よし義姉!ナイスな質問。
「ええ、この国に危機が訪れると現れたと記録に残っています。皆、能力は違っていたと。詳しくはわかりませんが、守りの力、癒しの力など様々ですね。そして皆様この国が気に入って、この国で生涯を閉じたとあります。」
気に入って?元の世界に帰れるの?
「私がいた世界に帰れるの?」
そうそう、ちゃんと質問してね。
「ええ。召喚された理由が解決した時に・・・女神が元の世界に返すと言われています。」
だから大丈夫ですよと、にっこり笑って義姉の手に口づける。
「じゃあ、魔王からこの国を守ったら帰れるんだね。良かったぁ。」
ホッとしたように義姉が笑う。
でも、『返すと言われています』って、その言い方は何?ほんとうに帰った人いたの?
その前にも、『皆様この国が気に入って、この国で生涯を閉じた』って言ったよ。
皆様だよ。
義姉、手に口づけられてうやむやになってるぞ。
ココ大事!きっちり質問して聞くべきところじゃない?
「それよりも、あちらの方はお知り合いですか?」
王太子がそう言って私を見る。
義姉今気づきましたって顔で、なんでいるの?って顔して見たよ。
そして、フッって笑うと
「知らないわ。誰なの?」
言ってのけたよ。
私はお前の義妹だぁ~!