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DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~  作者: じょぉん
【グラウンド・ゼロ編】<フォークロアの申し子>
6/72

【6】「伝説になれますよ」

〝――弥生学院・八坂櫓、戦敗(LOSE)。戦線復帰の為には三〇〇sec以内の保健委員による回収と一八〇〇secの待機と学院累積戦功点一〇〇の支出が必要です〟

 あちらの首輪が相手に戦敗(LOSE)を告げている以上、この一戦は既に覆しようもなく決している。そもそも今しがた打ち倒した弥生の美化委員長だって――しばらくは目も覚ますまい――完璧に気絶している様子だ。

 注意を払うべき必要はどこにもない。

 だがそれでも自分が勝ちを拾って油断でもしている所にどこかしらの陣営が急襲を仕掛けて来ないとも限らない(首輪が接近遭遇(エンゲージ)を告げないように、御丁寧に遠距離攻撃だったりで)。

 故に多少ばかりの周辺警戒を残しながら桜花晃はフェイクで(・・・・・)ばら撒いたカートリッジを拾い集め始めた。

「正攻法だけじゃ落とせなかった、か…。さすがは委員長クラスでしたね」

 一人ごちながら集めた生命線達をあらかた制服の内側へと仕込み終える。

 次はどう動く――とりあえずは如月学院本陣の指示を仰ぐべきか。桜花はそう判断した。このまま各学院の遊撃手狩りを続行させられるのか、それとも、校旗奪取狙いなり生徒会長撃破狙いなり、他学院敷地を相手取っての〝攻城戦〟のゴーサインが出るのか。

 今回の合戦(ドッグファイト)も現在時刻から鑑みれば中盤戦といっていい頃合だ。自分達の生徒会長殿がどう采配するか、微妙と言えば微妙な所ではある。

(とりあえずここに居てもやることはありませんよね)

 そして桜花は踵を返した。

 まがりなりにも委員長クラスの人材。ひょっとするとすぐに弥生の保健委員が回収に現れて戦線復帰の線で手を打って来るかもしれない。

 向こうの保健委員と鉢合わせた所でこちらとしてはどうせ何もすることが無い。保健委員に対する攻撃はどこの陣営の誰であっても原則禁止――合戦(ドッグファイト)の基本的なルールだ。保健委員も保健委員で、直接の攻撃行為は同じくルール上行えない。そんなお互いが出くわした所ですることと言えば、せいぜい「ウチのDOGSをよくもやってくれたな!」「ハッハー弱い奴が悪いのさ!」と応酬するくらいしか本当にすることがない。

(まあ厳密に言えば進路妨害はオッケーってことなんですけどね。そんなわけで道路をグチャグチャに切り刻んでおいてもいいんですけど、もしそれで保健委員がとうとう現れなかったりしたら、見事に時間と弾の無駄使いってことにしかなりませんし)

 弥生学院には委員長は生徒会長含めまだ九人残っている。ひょっとするとこの美化委員長を見切ってしまう可能性だってある。

 とまあ諸々判断要素を加味した上で、桜花はひとまず自学院――如月学院本陣へと戻ることにした。連絡だけなら首輪に搭載されている通信機能で事足りるが、正直な所、カートリッジの補給をしておきたいという問題がある。


「ヘイヘイヘイヘイヘヘイのヘェーイ! おたく! そこなおたく! ちょ、見てましたでよ!? 見させて貰ってましたでよー!? そこから! あとテレビから!」


 比喩でなく心臓が跳ねた。

 目の前も目の前の超ド至近距離で、見慣れない服を着た見たことの無い顔がすっげー笑顔でグイグイ詰め寄って来ていたのだ。

 その服というのは――なんというか、一昔前のヤンキーみたいな(実物を見たことは無いが)――作務衣姿で。

 頭は銀髪。

 瞳は金色。

(〝戌亥百鬼夜行〟皐月学院のDOGS――?)

 その容貌からして桜花はすぐさま「人ならぬモノ」の血筋達が主に集う他学院のことを想起したが、しかしすぐに内心首を捻った。

 喉元に首輪が見受けられない。

 合戦(ドッグファイト)に参戦しているDOGSでは、ない――?

「…は…!? はぁ、どうも」

〝――如月学院・桜花晃、戦勝(WIN)。交戦時間二二三sec、戦功評価八〇点、委員長撃破ボーナス五〇点が加算されます〟

 とりあえずただたじろいで返すしか桜花には出来ない。

 そうこうしていると戦闘推移の評価処理を終えた首輪が合成音で喋り始めていた。






     ※     ※     ※     ※     ※






「見事な手並みでしたでよ! さてはおたく、相当手馴れてますねえ? ン?」

「いや、まあ…。ええと、ありがとうございます?」

 その作務衣姿の銀髪小僧は履き物の下駄をやかましく慣らしながら桜花の辺りをウロウロ練り歩いている。と、唐突にぴたりと立ち止まった。そだそだコレ渡そうと思ったんですっつの、とかなんとか言いながら桜花へとズイと差し出してきたのは、先刻吹っ飛ばしてしまっていた自分のキャスケット帽だった。

 礼を述べつつ受け取る。

 そこでまた内心で疑問を覚えた。

(――結構遠くに飛ばしちゃってたような気が――?)

 いったいどこから現れたんだろう。いったいいつの間に取って来たんだろう。動きがまるで感じられなかった。

 気付いたらピュッとどこかに走り抜けている、みたいな。

 受け取ったキャスケット帽を被り直しながら、まるで猫のような手合いだと桜花は脈絡なくそんなことを考えた。

挿絵(By みてみん)

「しっかしスっゲー祭りですわな、こりゃどうも。こいつはもう参加しねえってェ法はナッシング! これだけド賑やかな喧嘩御輿、ただ周りでウロウロしてるだけで終わらせる気なんざ勿論ニャーですよ!」

「? にゃー…?」

 ないですよー、と言いたかったのだろうか。なんだかますます猫みたいだった。

「ヘイそこなおたく! この祭りのテッペンはどこでっしゃろかや! こいつはちょいとばかし一花咲かせねえことにゃァ落ち着けようハズもありませんからな!」

「て、てっぺん…?」

 なんだかさっきから疑問符飛ばしまくりの桜花である。

 しかし無理からぬこと。この銀髪小僧が全てに於いて正体不明――というか、意味不明なのだ。

 染髪というわけではなさそうな銀髪に、よほど(カブ)いたセンスのカラコンでも付けない限りは有り得まい金色の瞳。人ならぬモノの血が入っている手合い、ということだけはまず間違いないだろうが、しかし皐月学院のDOGS勢の中でこんな人物は見たことが無い。いやそもそも、合戦(ドッグファイト)の戦場と化している今この瞬間の学生区ステューデンツ・クォーターラウンド路上を首輪も填めずにフラフラしている学生というのは、一体全体どんな事情の持ち主なのだろうか――?

「ヌ? なんですよそのリアクション? って、ひょっとしておたくがこの島最強とかそーゆー話っスか!?」

 桜花が二の句を継げずに居ると、銀髪小僧はこちらに向かって目をギラーンと輝かせながらシャドーボクシング(らしき動き)を始めた。どうも頭はそんなに良くなさそうだった。

 やばい。このまま血気盛んなノリを目の前で継続されていると、何やら自分にとって良くない流れになりそうだ。カートリッジの残りも少ないのに。そんなことを考えると同時、とりあえず桜花はかぶりを振った。

「僕が最強だなんて、そんな。僕より強い人はもっと沢山居ますって」

「うっはマジですかよ! 謙遜してるってェワケじゃありませんよな?」

「とんでもない。差し当たっては――そう、本当に単純に言えば――神無月学院の生徒会長。あの人がこの島の学生の中じゃ暫定的に〝最強〟なんでしょうし」

「カ・ン・ナ・ヅ・キ! おお、俺めがこれから行くトコですわな!」

 桜花はますますわけが判らなくなってきた。なんなのだろうこの銀髪君は。

 神無月学院へこれから行く所だった、という。それはつまりどういうことか。合戦(ドッグファイト)不動の王者・神無月学院相手に攻城戦をやろうというのか? この少年が? 見た所、たった一人で? どこの学院も手を出さない、手を出せない、あの〝オール・イン・ワン〟神無月学院に――?

 もうこの銀髪小僧の喉元に首輪が見受けられないことがどうでもよくなってくるくらいのトンチンカンぶりだった。きっと戦闘で首輪を壊しでもしてしまって、再給付して貰ってから戦線に復帰するという話とかなのだろう。そう思うことにした。所属はきっと皐月学院だ。

 とにもかくにも、今の桜花晃にとって重要なのは。

 今ここでこの銀髪小僧と事を構えることだけは――相手のスペックがてんで不明という不安もある――避けなければならない、ということだ。

 幸いそんなに頭が良いタイプの手合いではなさそうと見える。

 と、すれば。

 舌先三寸だけで簡単にどっか行って貰えそうだ。

「へえ…? 神無月学院へ攻め込むんですか? こと合戦(ドッグファイト)に於いては校旗(フラッグ)狙いの即離脱戦法ですらどこの学院も仕掛けようとしないっていう、あの折り紙付きの鬼門に」

「〝フラッグ〟…? ンン、何言ってるんだかよく判りませんけども。とにもかくにもー、ええと? なんですっけ? 鬼門? 鬼門と来ましたかよ! この島の名前は〝戌亥〟ですってに鬼門と言やァ〝丑寅〟たァこれいかにー、なんちって! ニャんちって! ニャーははは!」

 何を言っているのかよく判らないが(なんでかもう慣れてしまったが)、とにかく桜花は語り聞かせるように言葉を続ける。

「島内最強の呼び声高い生徒会長、そしてその懐刀と呼ばれる副会長を筆頭に、委員長勢もまたとんでもないんですよね。神無月は。さすが全十二学院中いちばんおかしい(・・・・)って言われるだけのことはあるって感じです」

「…? カイチョー? イインチョー?」

「影の薄さで評判な忍者の人とか、雷の速度でスパーリングするシュートボクサーとか…。〝禁書殺し(アンチ・グリモワール)〟なんていう通り名で呼ばれてるっていう図書委員長に至っては、たった一人で弥生学院からの警戒を一身に集めてるって話ですし」

「ヌヌ、ヌヌヌ…? よく判らねえですけどもなんだか凄そうじゃニャーですかオイ」

 腕やら足やらを元気良くぶんぶん振り回していた(もはやシャドーボクシングでもなんでもない)銀髪小僧が、やおら気後れした風な素振りを見せる。

 今だ。ここだ。

 桜花は心の内でタイミングを見切った。


「でも、凄いですね? そんな神無月相手に勝負を仕掛けるっていうんですか。きっと島中で伝説になれますよ」


「――伝、説――!」

 ただでさえビカビカしていた金色の瞳がもっともっと輝き始めた。

 桜花は内心、よし、と拳を握った。

 押して引いて持ち上げる。見事にハマった。見立て通りやはり単純な手合いのようだった。これでもうこの銀髪小僧は何あれ自分には目もくれずにどっか行ってはくれるだろう。とりあえずはそれだけでいい。

「若ァ! こちらへお戻り下せえ!」

 と、その時だった。通りに面している喫茶店『Wolf in forest』――自分も中に入ったことがある――から一つの人影が姿を覗かせた。それは、細身に着流しをまとった人物だった。右目には物々しい刃傷が跨っている。

 なんなんだろう、今日は時代錯誤な格好と妙に立て続けて出くわす日だ。桜花はそんなことを考えた。

「お戻り下せえ、若! 歯磨きがまだお済みじゃありやせん!」

「るッせェェェんですよ三毛次ィー! 今はそれどころじゃァねえんですっつの! 俺めはこれから伝説になりに行くんですわ!」

 ――これ以上トンチンカンな事態は起きないと思っていた。しかし桜花の前で繰り広げられる現実は無情だった。

 ひどくトンチンカンだった。

 というかむしろカオスだった。

「伝説…? どういうことですかい、若」

 どうもあちらの着流しは銀髪小僧の関係者らしい。彼を「若」と呼ぶ着流しは、喫茶店の戸口から声を上げている。なんか凄い無理に作っているようなハスキーボイスがとても変だった。

「フッフフー。土地の祭りの一ツもうまいこと仕切れねえで何が侠客ですかよ。見てなさいや、三毛次! 俺めはこれから今まさにナウ――御輿のテッペンに登って来まさァ!」

「!? わ、若…? い、今の啖呵、いったいどこで…?」

「ハ? どこでー、って――ンにゃ別に? 誰かから聞いたー、とか、そーゆーアレじゃねっスよ?」

 キョトンと返す銀髪小僧。

 何やら愕然とした風によろめいた着流しは、軽く俯いてくつくつと笑んだ後、たっぷりの間を置いてから語り出した。ちなみに桜花おいてけぼりの空気だった。

「――若。今のお言葉が自然と心の内より生じたと仰いやすか」

「ァ? だからそう言ってるでしょうっつの」

「まるで〝初代〟の生き写しでさァ」

 すーっ、と一筋。

 着流しの隻眼から、涙が顎先まで伝って落ちた。

「行って下せえ。後のことはこのあっし、茶斑三毛次に全てお任せを」

「――――、ッ! オッケェェェイ!」

 ズパァン! と拳を掌に打ち合わせる銀髪小僧。こっちもこっちでなんか感極まったように涙目でブルブル顎を震わせていた。

「時は満ちましたわ! 姓は白黒、名は二色――白黒一家四十六代目〝物九郎〟! この新天地でまずは一発デカい花火を上げがてら、そこで当代襲名と洒落込まさせて貰いますでよ!」

「いってらっしゃいやし! 武運を!」

「しゃオラァァァー! バトる(かど)にも福きたるなんちって!」

「…。ええ、と――」

 何やら自分の舌先三寸が超展開のトリガーになってしまったような気がする。

 桜花がなけなしの勇気を振り絞ってとりあえず声を掛けようとしてみるも、その瞬間、銀髪小僧の姿が消えた。

 ぶっつりと消えた。掻き消えた。


 そして。

 青も黄色も赤も点かない、白い外装と黒いランプをぶらさげているだけの信号機。その上に――次の瞬間(・・・・)立っていた(・・・・・)


「え…!?」

 なんか凄い跳んだ。

 超科学入ったジャンプシューズを使っている様子もなければ、何か風に乗るような呪文を唱えた素振りもない。正真正銘、脚力だけで唐突に、それもしかもノーモーションで跳躍していた。これはますます人外で確定だ。

 桜花が目をしばたいているが早いか、シロクロだかモノクロだかと叫びまくっていた銀髪小僧はまたもジャンプ。いずこかへと跳んで行った。

「ってゆーかスミマセー! ええと、おたく! オウカ君!」

 だがすぐに戻って来た。

「はい!? 僕ですか!?」

 ギシギシと揺れている信号機の上に狛犬のように座っている銀髪小僧をとりあえず見上げるしかない桜花。

「神無月学院ってなドッチの方角でっしゃろかや!」

「……………」

 スッと腕を持ち上げ、方角だけ指差してやる。

「ありがとございまさァ! 英語で言うとテンキューベリマッチョ!」

 そして今度こそ跳んで行く。

 手近な建物の屋上に飛び乗ったかと思えば、車道を跨いで反対側の建物の壁面まで跳んで行って、その壁を蹴り付けた反動でまた更に先の交差点にまで飛んでいき、今度はそこで取り付いた信号機で逆上がりしていたりと――なんだか猫なんだか犬なんだか猿なんだかよく判らない動きを繰り返してあっという間に姿は見えなくなった。

 道路の存在をまるで無視した、地図上に定規で直線を引くかのような超移動。あの分ならば恐らく指差して見せた程度の今の道案内で神無月学院へ本当に着いてのけてしまうだろう。

 桜花が改めて一人ポカンとしていると、喫茶店の戸口前で涙を拭っている着流し――の後ろに長身の青年が現れた。

 灰色髪の喫茶店店主である。

 彼は言った。

「〝後のことは全てお任せを〟ねえ…。なんだ? 別に奢りでも構わなかったんだが、皿洗いでもしてってくれるのか? それはそれで助かりはするがよ」


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