【4】
「DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~」は【じょぉん】を言いだしっぺ兼代表とする物書き仲間同士による共同執筆作品です。
本作品は【椎菜】による著作であり、当人の許可を得て投稿しています。
トンネルを抜けると、行き止まりだった。その意味では実はまだトンネルを抜けていないとも言える。
しかしその行き止まりは通って来た地下道よりも開けた場所で、他に数台の車が停まっていた。
つまり、そこは駐車場なのだ。地上部分は既に森の奥深くであり、車をそこに乗り上げるのは住人達も避けたいのだった。
このような「集落の真下の駐車場」は森のあちこちにあった。同様にトンネルの出口も、森の内外に多数存在している。
シュナイダー母娘は速やかに車を降りると、階段を使って上へと向かった。
広場の隅にある秘密の入り口から二人は外に出る。
夜気を孕んだ冷たい空気が鼻から体内へ染み込んでいく。街とは違い、森の木々や草花の匂いも一緒だ。
深夜の”黒の森”はその名の如く黒い闇に覆われ、風の音や葉の擦れる音がざわざわと響いていたが――そこから恐怖を覚えるのは人間だけであり、ここを住処とする人狼たちには心地よい雰囲気なのだった。
人狼の集落は、村と呼んでも差し支えない規模のもので、昔ながらの建築様式の住居が点々としている。
村の人口は100人過ぎというところだが、その半数は森の外でそれぞれの”仕事”にあたっていた。
深夜であったが、村に残る住人達は殆どまだ活動時間だ。家々には灯りが見え、夜警を行っている者もいる。
「よう、ユーディ! ヒルダも! 今帰ったのか、お疲れさん!」
「ギュンターがお待ちかねだぜ、どうだったい仕事は?」
道行く彼らが気さくに声をかけてくる。ユーディットもヒルダも揃って笑顔で、
「そっちもお疲れ様、首尾は上々よ」
「こんばんは、寒い中お仕事お疲れ様です」
と応えた。
「いよう、ご両人! ハハハ、お帰り! ご苦労だったなぁ!!」
自宅に帰りついた二人を迎えたのはそんな大声だ。見れば、玄関に大柄の男が待ち構えていた。
背丈は軽く190cmを越え、筋肉質な体躯と相俟って威圧感のある容姿だ。
頬に大きな切り傷が目立つ。セーターを着込んだ冬服姿の下にも、痛々しい傷痕を大量に隠していた。
「ただいま、お父さん」
そんな彼に笑顔を向けるヒルダとは対照的に、
「バカでかい声出してんじゃないわよこのバカ! 疲れが一気に襲ってくんじゃないのよ!」
ユーディットは容赦のない罵声を浴びせるのだった。
彼こそギュンター・シュナイダー。ユーディットの夫、ヒルデガルドの父。
そして――この人狼の里を纏める、長だ。
翌日。相変わらず忙しい両親ではあるが、ヒルダは休みをもらってのんびり過ごしていた。
尤も、人間とは異なり尋常でないスタミナを持つ人狼だ。体に昨日の疲れが残っているという事は全く無い。
留学を控えたこの時期に、KSKとの事やその他の懸案事項に関わるヒルダの精神のほうを労わる気持ちが両親にあったということだ。
その気持ちに素直に甘えることにしたヒルダは、日本語の本を読んだりなどして時間を使った。
夕方前になって両親が家に戻り、軽くティータイムをとった後居間に集まった。
電話をするから、ということだったが、どこの誰に掛けるつもりなのかヒルダは聞かされなかった。
「もしもし? 俺だ! 俺俺」
『おぉ。ギュンターか、久しぶりだな』
いきなり俺だ、とか言ってしまう父の大雑把な振る舞いは今に始まったことではないが、どうやら相手もそれは心得ていたらしい。
受話器を置いたまま通話のできる電話機のスピーカーから聞こえる声は、しかしヒルダにも聞き覚えがあることがすぐに分かった。
「え? え? リョーガさん?」
「そうよ。って言うか当たり前でしょう、あいつが戌亥に居るのはウチの手引きなんだから」
小声での問い掛けに、当然という顔で答える母。改めてヒルダは自分の両親のマイペースぶりに呆れることになった。
「今、こっちが夕方の4時だから…8時間進んで、日本は午前0時ね。ド深夜だけどまぁ、あいつはまだ寝ないでしょうし」
「誰に何を断わってるのか分からないけど…本当、リョーガさんが優しい人だからいいようなものの」
はぁ…と溜息をつくヒルダ。とは言え、ヒルダ自身も稜牙の声を聞けて嬉しいのは間違いなかった。
何しろ、赤ん坊の頃からの付き合いなのだ。家族同然の関係を築いた相手で、ヒルダは稜牙に完全に懐いていた。
故あってここ数年は里を離れたままだが、だからこそこうして電話越しでも肉声に触れられるのは貴重なことだった。
「どうだ、そっちの調子は? 連中についての情報は掴めそうか」
『正直、芳しくねえ。面目ない話だがな…尻尾も見えねえ』
「そうか。こっちも連中の…”ヴァナルガンドの爪痕”の仕掛けるテロに振り回されてるが、”ヤツ”の姿だけはまるで見えやしねえ」
『ああ、こっちもそっちのニュースはチェックしてる。奴ら、日に日に暴れ方が派手になってるようだな』
大加美稜牙は、もう150年も前にはるばる日本からやって来た人狼だ。少なくともヒルダはそう聞いていた。
母が言うには「本来の居場所を失った」末に大陸に渡り、延々と放浪を繰り返してこの”黒の森”に辿り着いたのだという。
そんな彼を群れは受け入れ――と言ってもすんなり話が通ったわけでもないらしいが――以来、群れの一員として長い時を過ごしてきた。
だが10年前、ある”悲劇”がきっかけとなり…稜牙はそれを引き起こした”ヴァナルガンドの爪痕”との戦いに全力を注ぐようになった。
「まあ、焦っても仕方ないがな。引き続き頼むぜ、兄弟…無理はするなよ」
『お互いにな、兄弟。…もうアビニョンの時の二の舞はごめんだ』
南フランスの避暑地として知られるアビニョンは、”悲劇”の舞台となった土地だ。
二人の人狼の間に、電話越しながらに重い空気が流れていた。
「あー、それはともかくな。ウチの群れから戌亥に留学生を送るって話、あったろ?」
『ああ…お前やユーディとJO…もとい、”第十議席”との間で詰めてたとかいう』
ヒルダたちの群れと”統括理事会”のメンバー”第十議席”との付き合いは、既にそれなりの長さだった。
元々稜牙を島に派遣した時に融通を利かせたのは、同じく”統括理事会”の”第五議席”なのだが、彼の居住地となる喫茶店を置くに辺り、島の入り口である入島管理局が近いという利便性から”第十学区”が選ばれた。
そしてその後、稜牙自身の行動によって個人的に”第十議席”と親交を持ち、必然的に群れとも交流が生まれたというわけだ。
「おう。それでな、ヒルダを送ることにしたからな。よろしく頼むわ」
『…いやいやいやいや』
恐らく電話の向こうでぶんぶん首を振っただろう稜牙の姿が、シュナイダー一家の脳裏に浮かんだ。
『お前、やめろって! こっちの環境だって別に安定してるわけじゃなし、ヒルダにはまだ――』
「早いってか? あのなぁ、親バカだってのは自覚があるが、あいつぁ既に一人前だ。去年だって、こっちに戻れねえお前の代わりにイカれたネオナチ野郎どもをブッ飛ばしたばかりだろうが」
『そりゃぁ…』
「大体お前はヒルダに甘ぇんだよ、場合によっちゃ実の親より甘いと来てる。まぁ、こっちとしちゃそれで助かってる部分もあるが――そんならそれで、お前が面倒を見りゃ済む話だ」
流石に長い付き合いだ。父は稜牙の扱いを熟知していた。
豪放磊落を地で行く男だが、それでも群れの長なのだ。相手に言う事を聞かせる術ぐらい、当然持っている。
ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる姿が、今日は何だか頼もしく見えた。
「――別に、あんたの手伝いを積極的にやらせようなんて言わないわよ。ヒルダがそっちで学校生活を送る、飽くまでそれがメインなんだから。寮にも入れるつもりだしね」
『…その声はユーディか。まあ、確かに…俺ですら2年も高校に通ったことがあるんだからな。それに引き換えヒルダは学校に短期的に「潜入」した事はあっても、「通った」事はねえわけだ』
ここぞとばかりに母も口を出す。父とは違う切り口で、ヒルダにとっての青春の充実を訴える口調だ。
そう言われてしまえば、稜牙だって強くは反論できない。母もまた、稜牙のことをよく分かっていた。
「こっちの学校に通わせてもいいけど、今は時代が大きく動こうとしている時だもの。その最前線たる戌亥ポートアイランドの、現在頂点に立つ神無月に通うとなれば、ヒルダにとっていい刺激になるどころか、その思い出は一生の宝にすらなると言えるわけよ」
『わざわざそんな壮大っぽい言い方しなくても、話は分かるさ。しかし神無月か…そりゃ、アイツと一緒になって進めた話なんだから、自然なことなんだろうけどよ』
稜牙がそう応えると、母は「ありゃ」という顔をした。学校の名前を出したのは逆効果だっただろうか、という風だ。
とは言えそこを伝えないわけにもいかない。母が意を決するのをヒルダも肌で感じた。
「あんたの店にも大勢来るんでしょ、神無月の子。フゥ君とか」
『いや、ル・フゥのヤツは…来るには来るけども』
「活き活きしてるでしょ? 青春真っ盛りで。キラッキラ輝いて」
『ま、まあな。キラキラっつーかギラギラっつーか…うん、いいヤツらだとは思うけどよ』
「その輝きをウチの愛娘にも! 可愛い可愛いヒルダちゃんにも! 分け与えたいと思わない!?」
『うーん…勿論、せっかく学校に通うんなら目いっぱい満喫した方がいいには決まってんだが』
「はっきり答えて稜牙! 「はい」か「いいえ」か! 神無月に通う生徒は、毎日充実してるでしょ!?」
『や…ヤー!』
「そこにヒルダが溶け込んだら、いいなーと思うでしょ!?」
『ヤー!』
「よろしい」
”賢狼”、”百識の白狼”などの異名をとるユーディット・シュナイダー。
その最大の武器は、「押しの強さ」であった。…そう、最後は結局ゴリ押しなのである。
これにはヒルダはおろか、父ギュンターでさえもぽかんとした顔で固まらずを得なかった。
『あー…どっと疲れた。分かったよ、分かった…ヒルダ、そこに居るんだろ』
母によって生気を奪われたかのような声で、稜牙が呼びかけてきた。
「あ、はいっ。お久しぶりですリョーガおじさま」
『…うん、元気そうなのは何よりだが、俺は断じておじさまじゃない』
「あうっ!? わたしったら、ついうっかり…」
慌ててぺこぺこ頭を下げるヒルダだが、その様子が稜牙に見えている筈もなかった。
そもそも、物心ついた頃からすぐ近くに居た稜牙をヒルダがおじさま、おじさま、と呼んで慕っていたのを、面白がった両親が止めるどころか暫く呼ばせ続けたのが原因なのだ。
ヒルダが成長するにつれ、稜牙は目に見えてそう呼ばれることを嫌がった。見た目の年恰好が近付いたからである。
『お前とも3年ぶりか。戌亥行きの調整で、里に戻った時に会ったきりだったな』
「はい。早いですよね、時間が経つのって」
『全くだ。で…いいんだな? お前の親はすっかりその気らしいが』
「…はい。わたしは、今よりもっと世界を知りたいんです」
『そうか、ならいい。お前がそう言うなら、もうくどくど言うつもりはねえさ。俺もお前に会うのを楽しみにしてるよ』
包み込むような優しさを篭めた声で、稜牙はそう言った。ヒルダもそんな稜牙の言葉が嬉しかった。
「ありがとうございます! 色々とお世話になると思いますけど、よろしくお願いします!」
『なーに、いいって。こっちでの親代わり、俺こそしっかり務めてやらないとな』
何て頼もしい一言だろう。
この先3年も外国で過ごすことになるヒルダだが、ホームシックの心配は全く必要ないように思えた。
それどころか、俄然日本行きにわくわくしてしまっているのが自分でもよく分かった。
「ま、とは言えすぐにってわけじゃないがな」
話の腰を折って悪いが、という風に苦笑ながらに父が言う。
『ん? そうなのか。今時分に連絡を寄越したんだ、てっきり春休みの間に来るのかと思ったが』
「さっきもギュンターが言ってたように、こっちもドンパチ荒れ模様で人手が足りなくてね。同盟組織と連携をとるつもりだけど、留学の件自体も関係各位に根回しとかあるし、まだ一ヶ月はかかると思うわ」
『なるほど…なら、ゴールデンウィークの手前ぐらいってトコか。4月の”合戦”に間に合うかどうかだな…』
「”黄金の…週間”? 何だっけ――ってそうか、日本は春に大型連休があるんだったわね」
これには横で聞いていたヒルダも、へえ、と感心した。日本ではそうなんだ、と。
それにしても、外国の祝日だのといった知識は普通は持っていないものだ。改めて母の見識の深さにも目を見張るところだった。
「ま、確かに噂のお祭りのデビューが延びるのは残念だけど、どうせ月イチのイベントなんでしょ? この先いくらでもチャンスはあるもの、ヒルダだってそれぐらいは我慢するわよ。ねえ?」
「はいっ。それにまず島のことを色々と知りたいですし」
『ああ、そうだな。何つっても色んな意味で凄ぇトコだ、観光がてらあちこち見て周るのもいいだろうさ』
あの稜牙をして「凄いところ」と言わしめる、戌亥ポートアイランド。
既にパンフレットは飽きるほど読んだヒルダだったが、改めてそこで待ち受けるものに未知の期待で胸が溢れた。
それから4人はあれこれと取りとめのない雑談に花を咲かせたのだが、
「よし、ならまぁひとまずはそんなトコだ…また追って連絡するぜリョーガ。夜中に長々と済まなかったな。それにしても――」
『ん?』
一通りの用件も済んだところで、ふとギュンターが何かを気にした風で言葉を繋ぐ。
「いや、お前今外に居るのか? 後ろに聞こえるの、波の音だろ」
そして――人間をはるかに超越した聴覚から、その事実を指摘した。
『――ああ…ちょっと夜風に当たりにな。軽く散歩中だったのさ』
「ハハ! どうせまだ暫く起きてるだろうたァこっちでも話してたが、相変わらずじっとしてねえ野郎だ」
『それをお前が言うかねぇ』
二人は互いに笑いあって、和やかな雰囲気で通話を終えた。
<2026年3月某日 午前0時44分
戌亥ポートアイランド研究区 港湾エリア 第三埠頭付近>
海からの夜風が冷たく頬を撫でる。身震いするわけではないが、やはりまだこの時間の寒さは厳しい。
大加美稜牙は雑然と積み重なったガラクタの山の上に腰を下ろし、白い息を吐き出した。
『サスガは“本物の人狼”だねェ? かなり整音処理の効いた通話でも、海辺だ・ってのが分かるたァ』
出し抜けに稜牙に聞こえる、戯けたような声。しかし辺りには人影どころか、猫の子一匹居る気配もない。
だが、稜牙はすっと首元に手を触れ、声をかけてきたその相手に言葉を返す。
「当たり前だ。その気になりゃ、超音波だって聞き取れるんだぞ」
『ハッハハァ♪ スゲェスゲェ。チミ達の前じゃヒソヒソ話も出来ねェな』
「言ってろ。お前が姿を晒したままで、聞かれて困る話をする筈がねぇだろ」
その首元には、首輪らしきものが見える。戌亥の学生達が付けるものとデザインはよく似ていた。
だが、色が異なる。一般学生を表す白、”DOGS”を表す黒、そのどちらでもない。灰色だ。
「――お前…知ってたな? ヒルダがこの戌亥に来るって話」
『アッア~。どォだったかにぇー』
「当事者が知らないわけあるか! 白々しいんだよ、ったく」
『アンハ。・っつっても、前もって言ってたら言ってたで絶ッ・対ェ反対しただろォ?』
「当たり前だ」
『ホラ見ろ。――ミスター・シュナイダーの言う通り、カノジョのコトだと見境なくなるんだからサ。性格は真面目! 人当たりも良し! 戦闘もバリバリこなしてアタマも良い! しッ・かァァァァァも犬耳! およそパーペキな人材だぜ? ホスト側としちゃこの上ねェ条件だ』
「犬耳じゃねえ! 狼耳と言え!」
『おーかみみみ。…舌を噛みみみそォだ』
はぁぁ…と稜牙は深い溜息をついた。
「…もう決まった事だ。今更四の五の言わねえさ、俺が駄々捏ねてるだけってのもよく分かってるしな」
『ンー。ま・チミがカノジョを大事に大事に考えてるってェのは分かるケドにぇー。言うだろォ? カワイイ子には旅をさせろ・ってね♪』
「俺はお前の目の届くトコに預けるって事が何より頭痛の種なんだがな」
遠い目をしつつ、肩を竦める。そして稜牙はふと足下を見下ろした。
ガラクタの山。朽ちた金属の残骸。波止場に無造作に積み上げられたそれは、あまりにその場所に不似合いだ。
だが、それらはよく見ればただの無意味なジャンクというわけではなかった。
強烈な破壊の痕が伺える。打撃を受け、斬撃を受け、分断され、寸断され、徹底的に解体されている。
それぞれは明らかに何らかの部品だった。或いは装甲板だったり――銃火器と思しきものも見えた。
『しッ・かし――“散歩”ねェ?』
クスクスと、”首輪”越しの声が笑う。
「仕方ねえだろ。今しがたまでテロ屋と戦やりあってました、なんて言えるか」
『そォ? チミ達の群れだって相当な武闘派だろォに』
「時と場合を弁えろっつってんだよ俺は。ヒルダの留学話っていうハレの話だったんだから」
『ハ。チミらしい考え方だねェ』
飽くまで会話のノリは軽い。何でもない世間話程度のテンションだった。
だが、稜牙の足下に転がっているのは――もはやガラクタなどではない。
同じような部品の組み合わせが、3つ分。
「四角い本体に数本の脚を持った兵器」の残骸だ。
『――戌亥ポートアイランド”第二研究区”謹製最新型多脚思考戦車、通称”タイプ・タランチュラ”。ハッハハァ♪ 同じクモでもこないだブッ倒した蜘蛛女ちゃんの方が手ごわかったってトコかねェ?』
「馬鹿言うな。アイツは話せば通じるヤツだったんだ、コイツらみてえな道具と一緒に出来るかよ。ちょっと無理な召喚を受けて暴走しちまっただけだ…召喚師とも円満に和解したんだしな」
さらりと言って、稜牙は立ち上がる。
「で? 始末はつきそうなんだろうな」
『あァ。ル・フゥのヤツが”黒いフラスコ”――小物の科学テロ組織だ、コイツらの身柄を押さえてる。連中、これから犯行声明を出すつもりだったらしいネ』
「おーおー。そりゃ悪い事したな、予想以上に早くブッ壊しすぎたらしい」
『ハッハァ! まァた心にもねェコトを♪』
スクラップの山を駆け下りて、稜牙はジーンズのポケットに両手を突っ込んだ。
『ところでサ。なァ狼男?』
「何だよ喜劇役者」
『いやァ、俺サ。ル・フゥの話とか写真とかでしか見てねェんだよ、ヒルダちゃんのコト。――”森のおおかみ”用の衣装、どんなのが似合うかねェ? やっぱメイドとか?』
「………」
暫しの間。やがて、だっ、と強く地を蹴ると――
「よーし待ってろJOKER今すぐその引きこもりルームごとグチャグチャに潰してやるからな!!」
刹那、巨大な狼の影が夜の港に浮かんで消えて。
獰猛な咆哮が、街の明かりの中に遠ざかっていった。




