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DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~  作者: じょぉん
【グラウンド・ゼロ編】<フォークロアの申し子>
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【5】「三味線弾いてますわ」

 初めの瞬間よろしくまた閃光が辺りを包み込む。二度目ともなれば白黒も眩しさに悲鳴を上げたりするようなこともなく、しっかと目を見開いて状況の推移を目撃する事が出来ていた。

 まず杖型機械の半ばほどに桜花が強く握力を込めていた。すると先端鉤部分から細かな稲光が絡み付いた蒼く揺らめく炎のような〝気体〟が弧状に噴出する。まさに伝承に語られる死神が手にする大鎌の如き威容。蒼い雷炎の(エッジ)が力任せに薙がれる八坂の石斧と真っ向から噛み合い――そして、その爆音と閃光が生じていたのだ。


 結果として。

 得物同士が鍔競り合うような光景はなく。

 死神の鎌が石斧をザックリと半ばほどから両断していた。


「一合打ち合って相手の得物をブチ割った、ですって…? フオオオオオオオオ! 剣豪小説みてえですわあー! テンション上がってキトゥァー!」

 テンションをレッドゾーンに突入させる白黒。その隣で三毛次はひたすら訝しげに「あの鎌はいったいどうしたカラクリなのでございやしょうか」と眉を顰めている。

『はーい出ましたぁー。イオン化現象で射線を誘導されたXe(キセノン)ガスによる高温高密度のプラズマ形成、超科学の牙城が誇る〝理論上はなんでも焼き切る〟死神の鎌。アスファルト材質なんて物ともしてない様子っすね』

「? ウェ? スミマセ、今なんて言ってましたよ? い…いお…硫黄(イオウ)、ガス?」

「若。てれびの彼奴はいま煙管(キセル)がなんだと言っていたようにあっしにゃァ聞こえたんですが、意味はお分かりになりやしたか…?」

 リポーター月上の解説が全然届いて居ないキョトンでポカンな任侠かぶれども約二名。そんな彼らを見かねた風に、稜牙は軽く肩を竦めた。

「…。……。………。あれは、そう――つまりビーム鎌だ」

 そして言った。

 満を持して言った。

 たっぷりの間を置いてから、ようやっと搾り出すように――言った。

「ッッッ! び、びびびびびビィィィィィ――ム!? ビームですってよ! ヘイ三毛次! ビームだそうですでよ、あのアレ! なるほどビームでしたかよ!」

「! さすがは若! ただの一言の説明で戌亥の誇るおおばぁてくのろじぃの全容を把握されますたァ…!」

「…。いや、まあいいけどよ」

 理解が行ったなら何よりだ、とばかりに稜牙は乾いた笑顔をしばらく引き摺っていた。もうこの二人は万事こんな感じらしい、と若干の諦めが入ったような顔だった。 

 武器を破壊された八坂は相手から視線を切らないまま素早く後退を開始した。矢継ぎ早に鎌を振り回しながら追い縋る桜花。速度は完全に小回りの利く桜花の方が勝っていた。次第に距離は詰められていく。

 と、八坂の方が出し抜けに低姿勢を取った。己の背後目掛けて右腕を伸ばし、地面へ五指をねじ込む。

 そして――地面をとっかかりにして、自らの巨体を右腕の膂力に任せてぶん投げた(・・・・・)

 超ショートレンジにまで詰まり掛けていた間合いがここで大きく仕切り直される。桜花が小さく舌打ちするような挙措が見て取れた。

<ほう、なんじゃあのデカブツは! 足で跳ぶより(はや)い動きではないか。とんだ馬鹿力じゃのう。普段いったいどんなものを食しておるのじゃ>

『いやどう見てもあの仰々しい肩鎧に組み込まれてる魔術の影響だろ常考…』

 シュゴッ! シュゴォッ! という気体が圧搾されるような音。桜花の携える杖型機械から伸びるプラズマのエッジが一段と伸長した。周囲の空気は陽炎のように不気味に揺らめいている。いや、それは真実陽炎なのだろう。高熱が生じている。温度差が生じている。それが故の、陽炎――

 プラズマの刃をたたえた大鎌を自らの身体の右後方に流すようにして構える桜花。対する八坂は再度武器を〝創出〟していた。片目を閉じつつ歩道沿いの手近なガードレールにどかりと右手を置いたが早いか、そのガードレールはたちまちグチャグチャに丸まり、振り上げられた右腕の中で粗い再構築を果たしたのだ。今度の形状は――柄の存在すらも怪しいくらいに、極端に巨大で長大で肉厚な刀身。純然たる大剣だった。

 怪力と、そして〝触れたものから粗雑なつくりで白兵武器を再現する〟という術理。この二つこそがどうやら八坂の持ち合わせる戦闘手段であると見て間違いないようだった。

 両者の打ち合いが再度始まった。桜花は一合で八坂の武装を粉砕出来るが、しかし八坂も八坂でそれを見越したような動きですぐさま地面から次の得物を〝取り出す〟。返す刀でまたプラズマエッジが迸った。だが今度の八坂はアスファルトから抉り出した棍棒二本を右手一つの中に柄を束ねて握り締めて振り回していた。桜花操るプラズマエッジ――超科学兵器・死神の鎌(デスサイズ)はまるで焼けたナイフをバターに通すかのように武器破壊を実現する、が、棍棒二本重ねにはさすがにほんの少し破断速度が鈍らされていたようだった。その隙に八坂が反撃に出る。武器を創るワンクッションを置かず、巨人の怪力を再現する右腕で直接殴り付けにいった。

 桜花の身のこなしはやはり軽い。

 ターンステップを舞うように踏みながら回避、間合いを計り直す。

 肩で息をしながら――と、杖型機械の側面スロットが出し抜けに開いた。はじめに装填していた黒い何かがボロッと吐き出される。桜花は同じそれを新たに取り出し、すぐさま再装填していた。

『暴れまくる一ツ目巨人(キュクロープス)。超科学の産物と言えど兵器の宿命というべきか、万物を刈り取るヘヴン状態もといヘル状態には持続時間限界が歴然と存在する死神の鎌(デスサイズ)。これは弥生・八坂が攻め切ってフィニッシュかぁー?』

<おい京平、一つ賭けぬか? ワシはあのデカブツに張るぞ>

『あーもう! 俺はいま仕事中なんだよ! あんまりうるせえと家帰ったら神棚ぶっ壊すぞ!』

<なぁっ! こ、こここ、この罰当たりめが! 貴様それでも憑神(ツキガミ)の家の者か! 信じられぬ口を利く!>

「なんでっしゃろ? あの鎌の方、何をジャッコンジャッコン填め込んだりしてるんでしょうかや」

「あの黒いブツ…。切り分ける前の羊羹のようにも見えやすが、さて、いったい…? まさか何かのまじない…?」

 まがりなりにも生中継なんだから放送事故扱いでもいいのではあるまいかと視聴者が思ってしまいそうなやり取りが聞こえて来るテレビを尻目、白黒と三毛次は相変わらず首を捻り合っていた。

「あれはガスとバッテリーを封入したカートリッジで――ああ。いや。…。……。………。いいか? あれはとどのつまり、ピストルに弾を込めてたんだ」

「? ピストル…? ―――――。…! な、ニャるほど! 三毛次、あれはつまりハジキですでよ! ハジキ! ハジキに実包(タマ)を込めてたワケですってよ!」

「さすが若! なんという慧眼!」

「…俺はなんでこいつらを店の中に入れちまったんだろうか」

 稜牙はもはやどっと疲れた顔になっていた。

 とにもかくにも桜花と八坂の攻防は互いに向き合ったまま並行に疾走しながら尚も継続されていた。そのまま『Wolf in forest』の前を通り過ぎていく。最中、桜花はカートリッジの再装填を時折こなしつつプラズマエッジの具現を常に維持し続けていた。

 次の瞬間、戦況が転調した。

 八坂の振り回した長柄の戦斧(らしき形状に再構築された歩道のタイルの塊)が桜花の身体の端を引っ掛けたのだ。

 暴風にさらわれる木の葉のように虚空へ飛ばされる桜花。

 受け身こそ取れたらしいものの、車道上へとしたたかに打ち付けられてから立ち上がった時には右腕を庇っている様子を見せていた。

 ――ダメージを負わされた。

 しかし桜花にとっての劣勢を示す要素はまだ存在していた。頼みの綱に違いあるまいカートリッジらが吹っ飛ばされた拍子に辺りにばらけてしまっていたのだ。

<む! これは如月がえらいことになっておるぞ!>

『実況っていうのはもうちょっと状況を説明しつつやるんだよ…。ラジオでこの放送を聞いてくれてる人はポカンだろうが、今のじゃ』

 八坂は決して拾い集める隙を与えるまい。

 今のエッジ維持時間が終われば、桜花に戦う手段は、恐らく、無い。

 辺りに散らばったカートリッジを踏み分けるように、時折足元近くにあったものを横手に蹴り滑らせつつ、八坂は桜花へと接近していく。歯噛みしながら杖型機械をまさしく杖代わりについて立ち上がる桜花――構える。そして鎌を握り締める素振り。

 だがプラズマの刃は現れなかった。

 時間切れ。

 再装填は出来ない。

 桜花の表情に明確に戦慄が走った。と、態勢がふらりと傾いだ。先端鉤部分を地面についてなんとか立位を保つ。だが力の虚脱は押さえ切れなかったようにがくりと顔が俯いた。頭からキャスケット帽が零れ落ちる。はらりと舞い落ちるそれは、ちょうど杖型機械を支えにしている右手の辺りに引っ掛かった。

 八坂は既に自らの得物のリーチ圏内にまで踏み込んできていた。にやりと笑む。

 そして悠々と、最後の一撃を振り上げる――!

『はい、絶対絶命の至近距離。弥生学院〝一ツ目巨人(キュクロープス)〟八坂櫓、如月学院〝死神の鎌(デスサイズ)〟目掛けて高く高く振り被りま――』

ンにゃ(・・・)

 と。届くわけが無いのに、リポーター月上に異論を唱える声が割って入った。白黒だった。

「ここまで黒いアレのとっかえ(・・・・)をやってきましたスパンは最長で五〇秒。でも今あすこにまで吹っ飛ばされます前は、まーだ四六秒しか(・・・・・)ビーム出してませんでしたでよ」

「あ?」

「…若?」

 アクセル全開のテンションはどこへやら。いま窓ガラスにへばりついている白黒は、ひたすら静かで静かだった。

 その瞳の色は、金色だった。

 その瞳の形は、縦長に割れた獣の虹彩だった。


「今さっきあのスイッチだかを握り込んで見せてましたのも、肩肘への力の入り具合からして〝フリ〟だったんでしょうし――あー。今。今ですでよ、今。今まさにナウ帽子の影で握り込んでやがらっしゃる。オウカアキラ? って名前ですっけ? ――三味線(ウソ)()いてますわ」


 ズバァ! と閃光が駆け抜けた。

 余裕めかして悠々と攻撃を振り被っていた八坂の、その板金肩鎧と手にしていたガラクタの戦斧とが――ガラガラと崩れ落ちた(・・・・・・・・・・)。至近距離からの一太刀で一息に焼き切られたのだ。

 刃状に噴出するプラズマが巻き起こす風に煽られてキャスケット帽がブワリと舞う。それは死神の鎌(デスサイズ)の名を持つ少年の顔の前を一瞬よぎり、そしていずこかへと流れていった。

 少年の口端は。

 にぃやりと細く、笑んでいた。

 少年の足元は。

 ざっくりと細く、裂けていた。

「〝理論上はなんでも焼き切る超科学の刃〟…。なるほどね」

 驚いた風に呟く稜牙。

「そんな刃がスイッチオンで出現するってんなら、出しながら地面に刺してそのまま隠しとく(・・・・・・・・)コトも出来るわな――」

 恐らくは全てが布石だったのだ。

 恐らくは全てが演技だったのだ。

 致命傷にならない程度に攻撃を敢えて喰らって吹っ飛んで。

 頼みの綱のカートリッジをばら撒いてしまったように見せて。

 鎌の維持時間が切れた振りをしておいて、よろめいた振りをして機械先端を地面側に移しておいて。

 油断して近付いて来た所を――既に出現させ地面を鞘代わりに隠しておいた死神の鎌(デスサイズ)で、一閃。

 正々堂々真正面から不意を衝いて騙し討つ。〝死神の鎌(デスサイズ)〟桜花晃は、紛れもない「試合巧者」だった。

「しかし案外目敏い奴だったんだな、お前。さすがはかぶりつきで観戦してただけのことは――」 

「ヒュー! スっゲーですわあー! これ、これが、この、なんて言うんでしょうかや、とにもかくにも、その、そう、コレ! このコレ! コレ!? コレが!? コレが――」

 稜牙がやや意外そうに銀髪小僧の後頭部を眺めていると、そのそいつは飽きもせずに天井知らずのテンションで騒ぎ始めていた。稜牙は軽く嘆息した。

 今度こそ本当にプラズマエッジは時間切れらしい。バトントワリングのようにクルリと取り回した杖型機械の柄頭を棒術のように鳩尾目掛けて打ち込み、桜花は八坂にとどめを刺した。巨人は轟沈する。接戦のエピローグを飾る光景がそこにはあった。

『絶体絶命――かと思いきや、まさかまさかの起死回生が飛び出しましたよ奥さん? 弥生学院・八坂櫓が倒れました。如月学院に戦功点が入ります』

<うーむ、良い勝負だった、褒めて遣わすぞ如月の>

『お前はいったい何目線だよ…。? おっと、ここで大規模な接近遭遇(エンゲージ)が出現しました。っていうかたちまち交戦開始(エンゲージ)に移行してます。〝裏武芸百般〟卯月学院と〝戌亥百鬼夜行〟皐月学院の総力戦が勃発してるとのことです。そんじゃあまあ次はそっちの様子をお届けしまーす』

<おい、運転手! さっさとへりこ(・・・)を回さぬか! 早ぅせんと一番愉快な所を見逃してしまうぞ!>

『もうただのギャラリーだよなお前!』

 たちまちテレビ画面の映像が差し換わった。桜花と八坂の戦闘が繰り広げられていたのとはまた別の場所、やはり信号が沈黙している車道の様子が上が映し出される。そこでは首に黒い首輪(チョーカー)を填めた高校生前後の風貌をした少年達が互いに紡錘陣形で真正面から徒手空拳での衝突を開始していた。火柱やら放電現象やらが辺りに飛び交い、ぶん殴られた誰かが歩道橋の中腹に背中から激突したりしている。

「…ははぁ。これが戌亥のどっぐふぁいと」

 桜花と八坂の一騎打ちのみならず、こういう光景だって繰り広げられたりするものなのか、と。三毛次は着流しの袂から伸ばした腕で顎を撫で擦りながらテレビ相手にしきりに感心した風の声を漏らしていた。

「いかがでございやすか、若? この島は東京湾、つまりは江戸前。火事と喧嘩はなんとやら…。なかなかに粋なもんとあっしは感じた次第で――」

「おい三毛次さんよ」

「へい、なんでやしょう?」

 三毛次は稜牙へと視線を転じる。彼は親指で『Wolf in forest』の戸口の方を指し示していた。


 そのガラス戸は半開きで。

 カウベルが虚しくガランガランと鳴っており。

 店の中に作務衣着の銀髪小僧の姿は、もちろん無かった。

「若ァァァ!?」

 三毛次は叫んだが、時既に遅し。白黒はもうとっくに表へと飛び出していってしまっていた。


「ヘイヘイヘイヘイヘヘイのヘェーイ! おたく! そこなおたく! ちょ、見てましたでよ!? 見させて貰ってましたでよー!? そこから! あとテレビから!」

「…は…!? はぁ、どうも」

 そして表通りに轟くハイテンション。

〝――如月学院・桜花晃、戦勝(WIN)。交戦時間二二三sec、戦功評価八〇点、委員長撃破ボーナス五〇点が加算されます〟

 そんな合成音を発する首輪を填めている少年は、ただただたじろぐばかりの応対を余儀なくされていた。


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