表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~  作者: じょぉん
<神無月学院入学案内・中編>
45/72

【17】「ネコニモイショウ」

 拒は校内放送(よびだし)に応じる格好で行ってしまった。

「ヌーヌヌヌ。こーゆー場合はどう動くのがベターなんでっしゃろ」

 購買部脇自販機前を動かずに彼女の背を見送っていた白黒はというと、しばらくの間キョドキョドしていた。

 生徒会長直々の学校案内はもうこれで終いということだろうか。それならそうと、これでもう終わりだからどこへなりとも好きに行きなさいとか、とにかく何か言い残して行って欲しかったのが正直な所だった。

 何をどれだけ精一杯考えて動いたところで、なんにせよ拒にぶたれるビジョンがすっかり染み付いてしまった白黒である。今ここで1-Aに向かって戻ってみた所で「なんで断りなく姿消してんのよ!」とばかりにぶっ飛ばされるような気もすれば、これから拒の後を追い掛けてみたらみたで「何着いて来てんのよ鬱陶しいわね!」とばかりにぶっ飛ばされるような気もする。

「コミュニケーションってなァホント難しいモンですわな…?」

 いやしかしこうした機微を読んで悟って立ち回るのも学生生活の醍醐味というやつなのだろう。

 これまでが基本的に何をしてみた所で「さすがでさァ、若…!」とか「やはり白黒一家を背負って立つに相応しい御方」とか三毛次にひたすら全肯定されっぱなしだった身である。こんな風にうまいこと行かないあれやこれやというのも、なんというか――

 面白いのだ。

 新鮮だった。

「まあそれでも何かに付けてボコにされるのだきゃァ勘弁ですけどもニャー」

「ホゥホゥ。時に白黒君」

 と。白黒が一人苦笑しながら頭をバリバリ掻いていると、バドー爺に声を掛けられた。

 彼の手には神無月学院校章デザインの上に『学連委員会購買部』の文字が入ったロゴがプリントされたビニール袋が提げられている。どうやら購買部で買う物買って出て来た所らしかった。オウムのチャッターボックスが『ハラヘッタ! ハラヘッタ!』と喚きながらバドー爺の周囲をバッサバッサ飛び回っている。

「会長に委員会を一通り紹介して貰っておったようじゃな。どうじゃ? どこに入りたいか、希望は定まったかの?」

「ンー。実はまーだ考え中なんですわ。やっぱしすぐに決めるべきなんでしょうかや、こーゆーアレは」

「ホゥ。遅くとも来週中には、といった所かのう」

 来週中。今週末に加えて、プラス六日。まあ考える時間としてはかなり余裕がある。

「とりあえず保健委員会だけはちょいと諸事情ありましてノーセンキューってカンジなんですけども…。そうですわな、早いうちに腹ァ決めるようにさせて貰いまさ! その暁にはサージェントに一声掛ければいいんスか?」

「そうじゃな。その後に希望先の委員長と面談などして貰う形じゃの」

「おお、そういやそん時には会長サンが間に立ってくれるって話なんスよ」

「ホーホゥ? なんだかんだで面倒見の良い娘じゃの」

 善哉(よきかな)、と満足そうに頷くバドー爺。

「それから白黒君。話は続くんじゃが、良いかの」

「カモォーン!」

「制服の採寸はもう済んでおるのか? こちらは来週中と言わず、出来れば早目早目に手配して貰いたいんじゃが」

「あ゛」

 忘れていた。

 完璧に忘れていた。

 途中何度か思い出してはいたのだが、今になるまでまた完全に忘れていた。

 購買部のカウンター側へと視線を遣ってみる白黒。弔吉とはまた別の意味で前が見えているんだかいないんだか割と不明な糸目ことヤマダ(仮)先輩が居る。目が合った。とにかく目が合った。先述の通り糸目のあんちゃんなのだが、それでも確かに目が合った。どうしたの? とばかりに首を傾げられる。

「ここ購買部でならすぐに採寸・販売が出来るからの。よろしく頼むぞい」

 白黒はバドー爺が購買部の片隅に流した視線を追ってみる。すると、成る程確かに男子用女子用それぞれのブレザー制服がハンガーに吊られて陳列されている一角が目に入った。

挿絵(By みてみん)

『ネコニモイショウ! ネコニモイショウ!』

 にっこにこ笑顔のバドー爺と相変わらず騒がしいチャッターボックスの両者を前に、白黒は乾いた笑顔で目を逸らすのが関の山だった。

 武士は食わねど高楊枝ということわざにある通り、食事を少し食べていない程度ならばまあ割と誤魔化せる範囲の話だ(昨日行き倒れを経験しているくせにこんなことを考えている白黒である)。しかし着ているものばかりはどうしようもない。どうしたって準備する必要がある。どうしたって購入する必要がある。

 しかし金が無いのだ。ガチで無いのだ。

「…。……。………。かーなーりパワーの消耗が厳しそうですけども、気合入れた〝変化〟で日中は持たせるようにしなきゃですかな、こいつァ――」

 拒に一度説明している通り、白黒が変化の上で具現化出来る服装は「寺っぽいもの」ならばいくらでも楽勝なのだ。しかしそれ以外の服飾ともなると、それはMPをガンガン削ってやっとどうにかなるレベルの話だ。致し方ないが、もうこれはその手で解決するしか無いだろう。とりあえず当座の問題はこれで解決させるとして――






「そうじゃそうじゃ。準備して貰うべきが、もう一つ。各授業の教科書類じゃな」


 否。

 速攻で詰んだ。






 白黒のこめかみにドバッと汗が伝った。

 もう変化の能力なんかじゃどうしようもねえ次元の話になってしまった。

 本の類をポンと出してみるなど、古今東西どんな化け猫のスキルをさらってみた所で出て来るはずがない。それはもう別の妖怪の領分だ。文車妖妃(ふぐるまようひ)とか。

「もう聞いたかとは思うが、この学院の履修分野は多岐に渡る。例えば君のような(・・・・・)存在でも――まあ実践は無理としても、じゃ――超能力開発に関する確立されたカリキュラムの概要や超科学に開拓された物理法則学、東西の魔術史などなど、授業の上では一通り触れていくことになるということじゃの。無論、本土のように通常に取り沙汰されている科目の上に含める形での」

「…ホアー」

「他の学院に比べて教科書の数もちと多い。こちらも早目に準備するんじゃぞ」

「…ヒアー」

「ホゥ? 白黒君?」

「ウェ? い、いっやぁーまるで問題ナッシングですでよ? オゥケィオゥケィここな購買部で一通り揃いはするんですよな? ンーじゃここいらで失礼しますでね! 必要なモンをサクッと揃えて授業に臨むのは学生としての心構えイの一ですもんな! ええ!」

 不思議そうな顔をしているバドー爺を置いて、腕の第二関節だけを基点とするカクカクした手振りと共、白黒は購買部の中へと入っていった。

 やべえ。

 パネェ。

 学生生活に臨むということはこんなにもカネが要ることだったのか。

 学生生活への期待はもちろんあるが、その手前、人間社会へ飛び込む上での障害(ハードル)にまず押し潰されてしまいそうな心境の猫又少年であった。

「あのー、スミマセ? ヤマダ(仮)せんぱーい…?」

 制服やら教科書やら――とりあえず、トータルでどの程度の金が要るのかだけは確認しておくべきだろう。その上で今日『Wolf in forest』に帰還次第、三毛次に金額を申し伝えてどうすべきか方策を練る。幸い明日は日曜。日雇いの仕事でも見付けて全力投球してみるというのも手と言えば手だろう。というかそれしか解決手段が無いような気がする。

 確かにバカでこそあるが別にものを考えないというわけではない白黒は、この通り色々と考えつつ、まずは購買部を預かる学連委員会トップのNINJAの姿を探してみた。

 カウンターの方に視線を遣ってみる。が、山田(仮)の姿は見受けられなかった。

「ヌヌ。サスガは忍者だってだけのことはあるみたいですわな。さっきは居ましたってに、もう姿が見えませんや」

 忍びの技恐るべし。白黒が一人戦慄しながら辺りをグルグル見回していると――

「うん? 瞬間接着剤のはがし液?」

 山田(仮)は文房具コーナーで男子生徒から何やら商品の扱いについて質問を受けているようだった。普通にそこに居た。別に忍法でもなんでもなかった。しかし白黒は「サスガは忍者! 神出鬼没ってヤツですわな!」と誰もツッコんでくれないというのに派手に驚いていた。

「はい。あれば、で構わないのですが。――ええ、本当に」

 棚の影からヒョコッと顔を出し、白黒はそのやり取りを見守ってみる。

 あっちはあっちで話をしている。ならば話が終わるまで待つべきか。それくらいの空気はもう白黒にも読めるようになっていた。もっとも――もしも相手が会長サンだったらここでアレをああしたら多分ぶっ飛ばされますよな、という思考方法を用いての結果なのではあるが。

「うーん。そういうのは基本的に当の瞬間接着剤に対応する規格で扱われる商品だからね。ここにある商品に対するはがし液しか置いてないかな。…ああ、必要なら取り寄せるけど? 品番とか商品名とか分かる?」

 懇切丁寧な対応の山田(仮)。うーむ人間が出来てますわな、と感じ入る白黒は、次に何やら商品をお求めの様子の男子生徒の方に視線を転じてみた。

 ブレザー制服姿をきっちりと着こなした少年である。線が細ければ肩幅も細い。パッと見の背丈はひょっとすると自分とどっこい(・・・・)といったくらい――小柄だ。高等部一年くらいだろうか。

 長く伸ばされた黒髪は一度束ねるように結わえられている。普通だったらある程度奇異に見えるのかもしれないが、もう既に今日だけで男子のロン毛は割と見慣れているのでさして白黒は気には留めなかった。

 気には留めなかった。

 そこは、気には留めなかった。

 もっと気に留めるべき場所が他にあったのだ。

 他にあった、というか、まず一番最初に目に付く場所にソレはあった。


 削り出した白磁をなめしたような、白くシャープなデザインの仮面。彼はそんなモノを顔に被っているのだ。


 覗き見る左右の目と左横顔の部分だけが切り欠かれた、そのまま異国の舞踏会に参席出来てしまいそうな仮面。

「…。……。………。いやまあ俺めのクラスにゃァ着ぐるみ男とか逆毛サングラスとか葬式さんとかが居たりしますからな!」

 アレが初めて見掛けた神無月の学生だったら色々と驚いたかもしれないが、今の白黒にはもう耐性が出来ている。やっべー高等部1-Aや委員長勢だけでナシにヘンな人はザラに居るモンなんですわな、と思ったくらいで、取り立てて騒ぎはしなかった。

「分かりました。それなら、いいです」

「? いいの? そういう品物って、必要な時って本当すぐに必要なものなんじゃない?」

「お気遣い有難う御座います」

 そういって山田(仮)へ慇懃に頭を下げるオペラ座君(白黒が内心で決定した彼への二人称)。冷静に見ると品の良いデザインのようにも見受けられる仮面と相俟って、なんだか所作の端々にいいとこのぼっちゃんのような気品が滲んでいた。

「こっちの手間のことなら心配しなくていいよ? 生徒のニーズにすぐ応えるのが購買部の務めなんだからさ」

「くっついたままでも別に不都合は無いような気がしてきましたので」

 首を傾げる山田(仮)の横を一礼ざますり抜けるようにして歩き出すオペラ座君。自然、こちらへとやって来る格好になる。

 生徒どころか教師まで含めて割とトンデモな方々に続けざまにお逢いしてきた白黒ではあるが、それでも仮面の男子生徒というのは充分に注目に値する。棚の影から顔を覗かせている姿勢の白黒は、なんとなく彼の挙措を目で追い続けた。

 ――と、目が合う。

 白黒は無意識に頭からぶち柄の猫耳をピョコッと跳ね起こさせざま、とりあえず片手を上げてみた。

 オペラ座君の動きが、瞬間、止まった。仮面から唯一覗く表情筋、左頬がビッシィ! と引き攣ったようにも見えた。

「ヌ?」

 そしてそのまま回れ右。

 もう一度山田(仮)の横をすり抜けながら、わざわざ商品棚の並びを大きく迂回するようにして、オペラ座君は購買部を後にしていった。

「…俺め、なんか避けられてました…?」

 まあ雲雀野三姉妹の長女にも似たような応対を喰らってきた所である。寂しくないと言えば嘘にはなるが、それでもこっちもこっちで耐性が出来ていた。なんとか涙までは零さずに済んだ。

「ああ白黒君か。ごめん、何か用だったかな?」

 と、山田(仮)がこちらに気付いてくれた。

「なな、ヤマダ(仮)せんぱーい。今の彼は何者ですよ? なかなかエキセントリックなフインキを醸されてましたけどもよ」

「あはは、君に風変わり(エキセントリック)なんて言われちゃったか。彼も大変だね。――ああ、それから。フインキじゃなくて〝フンイキ〟だよ。気を付けるといいよ」

 恐ろしく薄いスマートフォンを取り出すや、ほら見てごらん、と白黒の目の前で適当なメモ画面を起動。そして『ふいんき』『ふんいき』とそれぞれ文字を打ち込んで見せて『ふんいき』の方で『雰囲気』という正しい漢字変換が成立することを確認させてから、山田(仮)は去っていったオペラ座君の方を糸目で流し見た。

「彼はブレスト・N(ノーティス)・ケストラード君って言ってね」

「ふんふん」

「フランスから戌亥に留学してきた生徒だっていうことなんだけど」

「ホアー」

「神無月一謎の多い生徒だよ」

「なんスかそれ」

 ズビーシ、と逆毛サングラス見様見真似の裏拳を白黒は山田(仮)の胸元へ気持ち強めに叩き込んでみた。

「うーん。なんスかそれって言われても、そうだからとしか言いようが無いんだけど。――所属は高等部1-B。それから、とりあえず男子だってことだけは間違いない所かな」

「ちょ、そんなトコからしか入りようがないくらい謎なんですかよ?」

「謎だね。なんせ彼、自分のこととか誰にも全然話したりしないような性質(タチ)らしくてね」

「ヌーヌヌヌ。今の話だけ聞いてますと、ただのちょっとしたシャイボーイ的な印象しか…」

「寮監委員会もブレスト君がどこに住んでてどこから学校に通ってるのかすら普通に把握出来てないって専らの評判なんだよ」

「ギャー謎の深さが予想以上でしたわあー!」

 それは一体なんなのだろうか。

 あのオペラ座君もオペラ座君で忍者か何かだったりするのだろうか。

「あと――ああ、白黒君は知ってるかな? 十二学院の生徒は基本、委員会への所属が必須だっていう」

 と、山田(仮)がそんなことを訊いてくる。

 それは生徒会長から直々にイの一番に説明を受けたことだ。白黒は元気よく「イェーッス!」と手を挙げた。

「あんまりこういう噂を触れ回るのは下世話なようでちょっとアレだけど。ま、この学院には色々と不思議なことがあるっていうレクチャーの一環のつもりで少しだけ話しちゃおうかな」

「? なんですよ? なんだって今、あのオペラ座君から委員会所属の決め事の話に飛んだんスか?」

「彼はね。何故か委員会への所属を免除されてるって話なんだよ」

「…。……。………。ウェ?」

 首をグリンと捻る白黒。

 委員会活動を生徒各人が行うことの意義については拒が語って聞かせてくれた通りなのだろう。しかしそれを踏まえた上で考えると――それは、おかしい。まさに特例というものではなかろうか。

「大分以前の話だけど。会長が『あのブレストっていう生徒、一体なんなの?』ってバドー爺に詰問したことがあったらしいんだ」

「したらー? なんて答えが返って来たんですよ?」

「『ホーホーホゥ』って」

「…要するに、はぐらかされて答えて貰えなかったってェことですに…」

 今さっきまでバドー爺本人を目にしていただけに、白黒にはとても如実に想像出来たものだった。

「とにかく、そんなわけさ。ひょっとしたら何か特別な事情があったりするのかもね。ほら、身体が弱くてあんまり運動出来ない…とか」

「まあ確かに。どの委員会にしたって、ヘビーな仕事してますってことにゃァ間違いありませんしな」

 委員会に所属していない。

 ということは必然、合戦(ドッグファイト)への参加もしていないということだろう。

 ――DOGSでなくとも変人はゴマンと居る。

 白黒は戌亥ポートアイランドについての理解をまた一つ新たにしたのだった。

「この通り謎なブレスト君だけど、興味本位で後をつけてみたりしちゃ駄目だよ? 下校時にリムジンに乗り込んでたかと思いきや、曲がり角一つ抜けた所で車ごとガチで消えてたり、なんてこともあるそうだからね。リアルホラーだよ」

「オカルトを取り沙汰してますこの島でリアルホラー呼ばわりたァ、これまた相当なモンですわな…」

 オペラ座君改めブレスト・N・ケストラード――ブレスト君が去っていった方角へ白黒はなんとなく視線を流してみる。当然の如く、もうどこにも影も形も窺えたものではなかった。


 と、そこで白黒ははた(・・)と思い出す。

 そうだ。確認しておかなければならないことがあったのだった。


「うっし、会長サンにぶたれるまでもなく一人でちゃーんと本線に復帰してのけましたでよー、俺め! やれば出来るじゃニャーですか! こいつァ後で三毛次に自慢しときませんとな!」

「? 白黒君…?」

「とっとと、スミマセスミマセ。ってなワケでですねヤマダ(仮)先輩!」

「なんでござるか」

「ギャー唐突に忍者キャラ!?」

「ニンニン」

「ち、ちょ、止めて下さいわ! また脇道に逸れっちまうじゃニャーですかよ!」

「あっははは、ごめんごめん。――それで? 何かな? ああ、ひょっとして制服の採寸?」

 人間が出来ている上に察しもよろしい山田(仮)だった。白黒は一も二も無く頷いた。

「ちょっと見た所だと、SサイズかMサイズかって所だね、君は。これから身長伸びていくことを見込めばMサイズでいいかもしれないけど――って、そういえば白黒君。君、色々変身したり出来るみたいだけど、その今の〝人間の姿〟っていうのは身長の匙加減は自由に利くものなの?」

「ンにゃ。出来なくはないんですけども変化維持の消耗が半端ねえトコですわな、そーゆーのは。なんていうんですかねえ――俺めの〝人間としての姿〟がイメージ上でビッと固定されちまってますカンジ? みたいな?」

 もっと言えば、他人そっくりに化ける、というような細やかな〝変化〟もまた白黒の得手ではない。あくまで「猫と人の姿を行き来する」というのが白黒の変化スキルの本懐なのだ。

「…あー、それはそうとですねヤマダ(仮)先輩。制服をアレするのは勿論なんですけどもよ、その、アレですよアレ。そら」

「? 何かな?」

「制服と、教科書一式と…。ビッと揃えるとなると、トータルした費用的にはどんなモンでっしゃろ? いや買いますよ! 買いに来ますけどもな! ちゃーんと買ってちゃーんと学生始めてみせますでよ! 月曜日っから!」

「…? ええと、そうだね。高等部一年からの編入だと、科目が全部で――」

 顎に指を添えながらカウンターの方へと進んでいく山田(仮)。レジの脇から取り上げた冊子らしきをめくり返しながら、パコパコと手元で電卓を叩く。

「こんなものかな?」

「オゥケィ掛かって来なさいわァー!」

 山田(仮)がこちらに見えるように向きを引っ繰り返してくれた電卓目掛けて、異様なテンションで飛び付く白黒。






 そこには六桁に突入するくらいの数字が並んでいた。

 白黒は白くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ