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DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~  作者: じょぉん
<神無月学院入学案内・中編>
38/72

【10】「めでたい奴め」

(キドせんぱーい? ななな、キドせんぱーい?)

(シャァラップ! さっき名乗った通りだクレイジー・キャット! 俺の名前はビリー・ザ――)

城戸(キッド)せんぱーい♪)

(アァァァァウチ――!)

 とまあこんな感じで用具委員長ことビリー(自称)をガッツリ泣かせてから、すっかり復調した白黒は共有棟の地下を後にした。ちなみに拒は別にストップを掛けて来たりはしなかった。なので白黒的にも「あの先輩の扱いは基本あんなカンジでイイみたいですわな」と思っている次第である。

 そして次に拒が白黒を率いて向かう先は、

「委員会巡りもお次で六件目ー。フッフフー、さすがに察しの一つも付くようになりましたでよ? 次に行く委員会の所属生徒で言いますトコのザラな進路ってェと、差し詰め〝報道関係〟ってトコですわな! それっくらいで通用してのけそうなレベルの活動とかフツーにやってそうと見ましたわ!」

「ああ良かった。やっと稜牙さんに申し訳が立つくらいには躾の成果も出せたみたいね。――まあ大体その通りよ。放送メディア、アナウンサー関係、それから」

 二人の目の前にはずらりとドアが並んでいる。

 それぞれ上に掲げられているプレートは『放送委員会本部』とある。

「昼休みにはラジオ風の番組を流すし、特別番組を編成して学内でテレビ放送することだってあるからね。その辺りの経験を普通に活かして芸能界に行くような奴も珍しくないわ」






     ※     ※     ※     ※     ※






「文句がある奴は前に出なさい。武器有りでも構わないわよ」

 相変わらず「邪魔するわよ」の一言が言えないようだった。もし何も知らない者が傍から拒を見ていたなら殴り込み(カチコミ)か何かとしか取られないことだろう。

 理不尽なまでに威風堂々たるそんな拒の後ろを着いて歩くのもすっかり慣れた白黒は、開かれた扉を彼女に続いてヒョコッと潜る。

 ――ちなみにその扉はというと。

 ――そこらの教室のものとは明らかに違う、それこそテレビ局のスタジオのような防音性の高い分厚い素材で出来ていた。

「ってゆーかテレビ局そのものなんじゃニャーですか、ここ…?」

 珍しさあまりに目をビッカビカに輝かせ、あちこちをグルグル眺め回す白黒。

 そう。部屋の中はまさにテレビ局のスタジオと言わんばかりのつくりと設備で出来ていたのだ。

 見るからにプロっぽい仕様の照明機器と一桁台のナンバーがそれぞれ振られた複数台のカメラに囲まれた、いかにもニュースキャスターが陣取って原稿を読み上げなどしていそうなスタジオ。その周囲には、各種音声管理機器やカメラモニターに繋げられた様々なコンソールがびっちりひしめいている。更には、番組ディレクターだかプロデューサーだかが「三・二・一・キュー!」とか言い放っていたりしそうな裏方ゾーンもきちんと配置されていた。

 それだけではない。別室には填め殺しのガラスで囲まれたブースも用意されていた。中には対面状にマイクが配置されている席がある。こっちもこっちで専用に別個でミキシング機材やらが詰め込まれた一角が隣接しており、どうやらこれがどうやらラジオ風番組を流す設備ということか。

 白黒は好奇心に任せるがままに中に入ってみた。席に着いてマイクを自分の方へ傾けてみる。

「人数ン万人を数える神無月ステューデンツのレディス&ジェントルメェーン、コニャニャチワ! DJシラクロがノリノリでお送りさせて貰いますでよ! ってなワケでタイトルコォール! 〝猫も鳴かずば踏まれまい〟(エコー)! ニャー(挨拶)! 今日も沢山のお便りベリベリサァーンクス――ぶぐるォッ」

「勝手に中に入ってんじゃないわよ! あといい加減生徒総数覚えなさい!」

 生徒会長が暴力と共に乱入してきた。新番組は即時打ち切りとなってしまった。

「ゲブフゥ…! か、ッかかか会長サン、ってなワケで最近何かいいことありました?」

「面倒で煩わしくって苛々することばっかりよお陰様で! っていうかさりげなくオープニングトークのノリ続けようとしてんじゃねーわよ! …ったく、なんなのアンタ? なに今のどこかで練習してきてたかのようなこなれた入り(イン)は」

 銀髪頭にたんこぶをボコボコ作った白黒は、DJブースから引き摺り出されつつニャははと笑う。

「通り沿いでガラス越しに生放送の様子をそのまんま見せてますラジオ局ですとかよ、結構あるじゃニャーですか? よくそーゆートコにもン時間から張り付きっパのかぶりつきで――」

「ホント暇な妖怪ねアンタ…。いつ極道やってる暇があったの?」

 拒は白黒を床の上に蹴り飛ばすと、腕を組んで一度フンと鼻から息を抜いた。

「とりあえず、ここが放送委員会。活動内容は――さすがに察しが付くわよね?」

 基本は生徒や職員の呼び出しに始まる放送全般。同時、当然ながら放送室の機材管理。そして先にも触れた校内ラジオやテレビ番組の制作。

 拒が説明をしている間も、白黒は「まさかオープニングトークで打ち切りたァとんだ怪物番組を作っちまいましたねえ…」と口惜しそうに呟いていた。当然の如くぶたれた。

「まあ変に内気な生徒なんかじゃ裏方以外の仕事は出来ないから、アンタみたいな度胸一本勝負のバカにはひょっとするとお似合いかもしれないわね。いずれアンタもどこかしら所属を選ばなきゃいけないんだし、なんならここの委員長に口利いてやってもいいわよ?」

 と、部屋の片隅を親指で指し示す拒。その先には椅子にふんぞり返ってワラ半紙を綴じた安っぽいつくりの冊子(何かの台本っぽい)に目を通しているらしき男子生徒の後姿があった。

 あれが放送委員長か。白黒は目をしばたいた。

 髪型はどうも――長く伸ばした挙句に後ろに撫で付ける、俗に言う「総髪」というやつのようだったが、とりあえずその格好は普通だった。極めて普通だった。きちんとしたブレザー制服姿である。とりあえず変な人ではなさそうだった。

「ンー、そうですに。まあ委員会巡りも途中ですしよ! 所属についちゃァ全部全部ぜーんぶ見て回ってから考えさせて貰うとしまさ!」

「そう。まあとりあえず美化委員会なんかは脳と筋肉が揃ってさえいれば誰でも仕事が出来るセクションだから、おいおい判断するといいわ」

「…アルェ、ニャんだか遠回しにまたバカって言われましたような気が…」

 ちょっと傷付きつつも白黒はくだんの放送委員長殿を目指してヒョコヒョコ近付いていった。

「うっす! 俺めは白黒二色と申しますでよ! ちょいと会長サンと一緒にお邪魔させて貰ってま――」

「なんだ貴様は」

 椅子がくるりと回る。振り返られる。


 端正な造作の顔に、真っ黒なアイマスクを付けた男子生徒だった。

 ちなみにそのアイマスクには『禍転福為』という四文字の金刺繍が入っていた。


「ギャー変な人ですわあー!」

 この学校いい加減どうしようもねえ!

 腰を抜かして床にへたり込みながらズザザザと五メートル後退(バック)する白黒。

「なんだ貴様は、と訊いている」

 そんな銀髪小僧の様子には委細構わず(…というか見えているのか?)、謎の総髪アイマスク男は言葉を続ける。


「祝って欲しいのか? それとも呪って欲しいのか?」


「…。……。………」

 言葉の意味が分からない。会話が成立させられる気がしない。

 これが正真正銘の異世界人か。用具委員長のビリー・ザ・キッド(笑)などはまだまだ序の口だったということか。白黒は口元をひたすらアワワワワとわななかせていた。

「さっさと答えろ。(オレ)とて暇ではない」

「えー、っと――?」

「祝って欲しいのか。呪って欲しいのか。決めろ。さもなくば弔うぞ」

 意味不明だった。

 その上怖かった。

「…そいつはここの委員長。高等部二年、祝坂(イワイザカ)弔吉(チョウキチ)よ」

 と、拒が横から助け舟(?)を出してくれた。ガキじゃないんだから床ゴロゴロ転がってんじゃねーわよと蹴りを入れられつつ、白黒は(祝坂から距離を取りつつ)とりあえず立ち上がる。

「め、めでたいんだか辛気臭いんだか分からない名前っスね…?」

「アンタこそ白いんだか黒いんだか分からない名前のくせして何言ってんのよ」

 放送委員長――祝坂は、アイマスク越しでありながらも、ジーッと白黒の位置へ顔を向けている。見えている、のだろうか。というかそもそも手元の冊子を読んでいる様子だったのだ。見えてはいるのだろう。

「その、それじゃァ、えーっと――祝ってやって貰えます?」

 とりあえず呪われるだの弔われるだのよりかはマシな事態になってくれそうな選択肢である。白黒はコミュニケーションを試みた。

「そうか」

 祝坂は一度溜め息を吐くと、






「めでたい奴め」






 一言だけ。

 特に何も起きなかった。

「…。……。………」

 白黒は猫の身分も忘れ、子犬のような目で拒を見上げた。拒はただ「こういう奴なのよ」としか言わなかった。

「満足か?」

 アイマスクのお陰で表情は分かり辛いと言えば分かり辛いが、口元はピクリとも笑わない。ひとまずこの祝坂とやら、デフォルトで傲然としたキャラなのだという理解だけは得られた。

「…ンーじゃ、呪ってみて下さいわ?」

 勇気を振り絞って更なるコミュニケーションを敢行する白黒。

「呪って欲しいと来たか。それも自ら」

 祝坂は呆れたように鼻で笑うと、






「救えん奴め」






 やっぱり一言だけ。

 やっぱり特に何も起きなかった。

「会長サン…! 〝こういう奴なのよ〟の一言で終わらせるにゃァちっとアクが強過ぎる人材でしょうわこの人! 何!? なんなんスか!? 俺めはいったい何を求められてるんでっしゃろかや!?」

「ああもううるさいわね…! だから、こいつはこういう奴なのよ!」

「こんなことなら祝坂(仮)とか言われてました方がまだ相互理解の足掛かりになりそうでしたっつの!」

 ひとまず白黒を張り倒すと、拒は相変わらず椅子の上でジーッとしたままの祝坂(というか冊子の読書を再開している)を顎でしゃくって見せる。

「基本的に昼のラジオ番組はこの弔吉がしゃべくってるのよ。ちょっとした嬉しい出来事の投稿コーナー『祝坂弔吉の〝めでたい奴め〟』と、ちょっとした失敗談の投稿コーナー『祝坂弔吉の〝救えん奴め〟』――大体今みたいな感じでね」

「祝ってくれて構わんぞ」

「え、何!? なんスか!? 俺めもチョーキッつぁんに向かって〝めでたい奴め〟って言えっつーフラグですかコレ!?」

「っていうかアンタ、ミカヅッチーとかチョーキッつぁんとか、ふと冷静に思い返してみるとびっくりするくらい年長者を敬わないガキなのね…」

「ふん。呪わしいことだ」

「だァァァァァもう! 祝うだの呪うだの、そのフレーズだけでさりげにうまいこと会話にちょいちょい噛んで来ますしよ!」

 白黒は銀髪頭を抱え込んでウガァ! とひとしきり喚く。

「…ってゆーかニャんでチョーキッつぁんは名字が〝祝〟ですってに、祝うだけでナシに呪うなんつー言葉も持ち出してるんですかよ? 確かに漢字のつくりは似てるトコとは思いますけども」

「知りたいか」

「ンにゃ、別にどうしてもって程じゃァ――」

「教えてやろう。めでたい奴め」

「ニャんてこった! この人さりげに喋りたがりっスわ!」

「…とりあえず、白黒。アンタあんまり弔吉に突っ掛かって無駄に怒らせたりするんじゃないわよ? こいつは東寄りの魔術師――陰陽師(おんみょうじ)。アンタみたいな東洋原産の妖怪を縛る(・・)くらい、多分わけないと思うわよ」

 祝坂は読めているんだか読めていないんだか傍目にはまるで不明だった冊子を閉じると、拒の注釈に「マジですかよ!」とびびっている白黒にやおら前傾姿勢で向き直った。

「貴様。三年峠というものを知っているか」

「? 三年、峠…? ヌヌ。なんかそんな絵本だったかニャんだったかを三毛次に読んで貰ったことがありますような」

「朝鮮の民話だ。昔ある所に〝その山中で転んでしまうとあと三年しか生きられぬ〟とまことしやかに囁かれ忌避された、とどのつまり呪われた地相があった」

「ホアー」

「その峠を一人の爺様が通り掛かる。山の麓に住まい無論言い伝えを知る彼は、注意を払っていたにも関わらず、不覚にも転んでしまう」

「ニャんと!」

「ああこの身はあと三年しか生きられぬものか。嘆き悲しみ床に伏す爺様に、あるとき婆様はこう進言した」

「ヌヌヌ?」

「〝今からもう一度、いや一度と言わず何度でも、わざとあの峠で転んでくれば良いのです〟と」

「ウェ? どゆコトですよ? ンなことした日にゃァますます寿命の方がアレなことに――」

 怪訝そうに眉を顰める白黒に、祝坂はパンと膝頭を叩くと畳み掛けるように言った。

「まだ気付かんか。救えん奴め。婆様の言葉通りに峠へわざと転びに行った爺様は、その後長らく生き大往生したのだ」

「えええええー? まーっさかァー?」

禍転(わざわいてんじて)福為(ふくとなす)。三年の余命で人を縛る呪いと言うならば、その三年の呪いをいっそ積めばいい(・・・・・・・・)。要するにだ、その爺様は転んだ回数×三年ぶん、真実長生きしたのだよ」

「な、なんという頭脳プレイ! 婆様パネェ!」

「もっと祝え。血筋を遡ること朝鮮、吾の先祖に当たる」

「マジっスか!」

 民話伝承(オカルト)の体現者がいきなり目の前にいた格好。アンタもアンタで本物の招き猫とやらなんでしょうが、という拒の視線も無視して祝坂を尊敬の視線で見上げまくる白黒だった。

「――とどのつまり、往くも帰るも表裏一体。登るも降りるも表裏一体。祝うも呪うも表裏一体。故に吾は祝い呪う、故に吾は祝い弔う、故に吾は祝坂弔吉。それだけのこと」

「フオオオオ! そゆことだったんですわな! ンン、ヘンな突っ掛かり方してスミマセっしたチョーキッつぁん!」

「めでたい奴め。構わんが」

 今度は今度で改めて、御雷の時よろしくスルッと仲良くなったらしい二人。

「成る程ね…。どれだけワケ分からない手合いでも、オカルトで裏付けや説明が付けばすんなり受け入れるってわけね」

 普通ならば逆だろう。わけの分からないことをオカルトで、しかも真顔で説明されればこそ、忌避なり混乱なりして然り。


「――確かに。どうあっても戌亥以外じゃ学生やれないバカなタチだったってわけね、アンタは」


「ウェ?」

 ほら次さっさと行くわよ、と拒に首根っこを引っ掴まれた白黒は、ぶち猫の方の姿にモードチェンジしつつバイバーイと祝坂に手を振り続けていた。

 めでたい奴め。

 もはやお決まりのようにそう言いながら、そんな猫に向かって祝坂もまた手を振り返してくれていたりした。やっぱりちゃんと見えてはいるらしい。


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