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DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~  作者: じょぉん
<神無月学院入学案内・中編>
31/72

【3】「序盤チュートリアル」

 ホームルーム終了後。1-Aの有志生徒によってどつき回されたサージェントが軽くフラフラしながら教室を出ていった所で、白黒の席(真ん中らへんの列最後尾があてがわれた)は早速クラスメイト達に囲まれた。

 出身どこー、とか。

 趣味なにー、とか。

 兄弟居るー、とか。

 転校生(学校生活自体が初体験なので、正確には「編入生」だが)を囲んでのお決まり、質問攻め大会――ではなく。

「大丈夫? 怖かったよね?」

「ほら、このハンカチで涙拭けよ」

「サージェントもサージェントだよ。普段は発煙手榴弾(スモークグレネード)なのに、なんで今日に限って閃光音響手榴弾(スタングレネード)なんだよ」

「ウエエエエ…! ひぐ、ひっぐ! ――ううう、スミマセ各々方」

「大丈夫だよー? もう怖くないからねー?」

 すげえ必死に宥められていた。

 明らかに同年代同士のやり取りではなかったが、とりあえずツッコミを入れてくるような無粋な人種はこの場には居ないようだった。

「でも相変わらずだよなー、サージェント。マジな話、飛び込んで来る瞬間は誰も反応出来ないじゃん」

「やっぱしマジなのかね、あの噂」

「『元〝番犬(ケルベロス)〟の分隊長で研究区ラボラトリ・クォーターラウンドの強度機密エリアの哨戒も任されたりしてた』っつぅ、あの噂?」

「バドー爺といい居るんだか居ないんだか分からない理事長といい、神無月って変な人間多いよなあ…」

「っつーか最低限の小火器(しょうかき)と屋内地形さえあれば委員長DOGS複数人が相手でも一人で無力化してのけるスペックの持ち主だって電算委員長が試算を発表してた件」

 ぼちぼち泣き止んで来た白黒はあれこれと言い交わされるサージェント絡みの話の中から、ふと物思う。

(…ショーカキで、委員長クラスを瞬殺…?)






     ※     ※(~ここから白黒の妄想です~)※     ※






 消火器(しょうかき)振り回してるサージェント(口でクソ垂れる前にサーと言え! さぁ!)


 白い煙を吹き付けられてるでっかい右腕の人(ぎゃー!)






     ※     ※(~ここまで白黒の妄想です~)※     ※






「…。……。………。会長サンだけじゃねえですわ! あの人にも逆らっちゃいけないってェことですわな!」

 ゴクリと生唾を飲み込み、戦慄の形相になる白黒。

 こうして世間知らずの猫又少年は社会での立ち居振る舞いを覚えていく。






     ※     ※     ※     ※     ※






「しっかしホンマ妙なやっちゃなあ、自分(ジブン)? うっとこの会長さん相手にあんだけはしゃいどったくせに、目の前でピカッと一発拝まされたらそんだけで頭ん中わやくちゃァーのボロ泣きィーかいな」

 白黒がひとまず落ち着いた頃、エセくさい関西弁を操る少年がケラケラ笑いながらそう言った。ワックスでベタベタに固められて天を衝く逆毛に、どぎついオレンジ色の丸サングラス。かなりファンキーな容姿だった。

「おいおいそう言ってやるなよ、意地の悪い奴だなぁ。誰だって最初にサージェントに一発かまされた後はびびるって」

 逆毛サングラスを嗜める、涼風のような少年の声。背中をポンと叩かれて白黒は振り返り、そして見上げる。

 クマの着ぐるみが立っていた。

 全体的に丸っこいフォルムで、瞳はとってもつぶら、鼻から口元に掛けてのラインもとってもチャーミングなクマさんだった。

 あっちはファンキーだった。

 こっちはファンシーだった。

「…えええええええええ…?」

 先生どころではない。生徒も生徒で奇人変人ショー開催中だった。もう「個性的」とかいう言葉で済ませられるようなレベルを盛大に振り切ってしまっていた。

「おう、どうした? 何か訊きたいことでもあるのか、白黒?」

 口振りはとっても好青年ちっくなのだが、しかしいかんせんクマさんである。手振り一つを取っても寸胴鍋のような腕がモフモフ動いているようにしか見えない。パッと見は文学少女なのに中身は猛獣じみている生徒会長ほどではないが、こっちもこっちでかなりちぐはぐな手合いだった。

「いや、その、ニャんつーか…。おたくは、ええと? なんだって着ぐるみなんスか?」

「ああ、ちゃんと制服は着てるぜ。この下にな。だから風紀委員にも怒られないのさ。完璧だぜ」

 ずれた返答を素で返す着ぐるみ男。

 と、彼の背後に、スゥッ――と音もなく一つの気配の人影が立った。

「呪われているのよ。彼は呪われているの」

 黒い少女だった。髪も黒ければ瞳も黒い、そして何より気配が黒い。影も彼女の居る所だけ妙に濃い気がする。挙句の果てには遠い異国で葬列に並んでいる人が身に付けているような黒いヴェールを被っていた。白黒は頭の中で彼女を「葬式さん」と命名した。

「一度身に付けたが最後、暗く狭くモフモフした闇の中で、食事も取れず水分も摂れず呼吸も出来ず、そして――本当は死んでいることすら誰にも気付かれずに動き続ける。彼はね、呪いの着ぐるみを身に付けてしまったのよ」

 くすくす、と微笑む葬式さん。

 すると着ぐるみ男は手足をピコピコ振って憤慨の素振りを見せ始めた。

「おいおいおっかねえなあ! 違うって! 言いがかりはよせよ!」

「違うの…? 呪われていなかったの…? じゃあ何故貴方の影にはそんなにも深い闇がわだかまっているの…?」

「生地が厚いから濃い影が出来てるだけだよ。全く、いつもの調子であんまり変なこと言うなよなぁ。新入りに誤解されちまうだろうが」

 ハァやれやれ、とばかりにオーバーアクションで肩を竦める着ぐるみ男。あまり動作が細かいと身振りが伝わらないからこそのオーバーアクション。この着ぐるみ男が着ぐるみを着慣れていることだけはどうやら間違いないようだった。

「誤解だけは避けなきゃな。そう――着ぐるみの魅力(・・・・・・・)って奴を誤解されちまうことだけは頂けねえ! この全身を余さず包むフィット感、母なる海に還ったかのような安堵感。最高だぜ着ぐるみ…。最高だよな着ぐるみ…。ハァハァ、ハァハァ」

「ってそっちかぃぃぃぃぃ!」

 スパァン! とクマさんの胸板目掛けて裏拳(ツッコミ)を決める逆毛サングラス。

 余韻を持たせること約三秒。

 逆毛サングラスは「どやねん。どやねん」と白黒の方をしきりにチラチラ伺い見ていた。

 白黒はふと拒が自分の頭をボカスカ殴りたくなる気持ちが一瞬分かってしまったような気がした。

「…初対面同士なのに、どうしてあんな遠慮なくはしゃぎ合えるんだろう…。…凄いなぁ、皆のあのコミュ力…」

 と。離れた所からこちらの方を窺っている視線に白黒は気が付いた。

 教室の隅っこで膝を揃えてちょこんと席に着いている少女が一人――黒髪ロングに前髪パッツン、なんというか和人形のような佇まいを持つ少女だった。

 羨ましそうというか、妬ましそうというか、寂しそうというか。光か闇かで言えば闇寄りのオーラ(ただし葬式さんほどではない)の持ち主である。

「こぉーらぁー! 調子に乗ってあんまり飛ばし過ぎないの! その子、完全に目が点になっちゃってるじゃん」

 和人形さんと視線が合い掛けた、まさにその時。逆毛サングラスと着ぐるみ男と葬式さん――なんか色々と凄まじい三人衆をまとめて叱り飛ばす溌剌とした声が、白黒の隣席から上がった。

 小柄な背丈に活発そうな顔立ちをしたショートヘアーの少女である。頭のてっぺんからつま先まで見ても、先の三人に何かしら匹敵してしまうような珍妙なあれこれは特には見受けられない。際立って流れている前髪の一房には明るい黄緑色のメッシュ、スカート下は黒のスパッツ履き――かなり常識的な身なりと言えるだろう。

(ヌヌ? ところであの前髪のメッシュのカンジ、なーんか見たことがありますような――?)

 白黒が脳裏にそんな気付きを過ぎらせていると、当のスパッツ少女がにっこり笑いながらちり紙を差し出して来た。

「ほら、まだ(ハナ)出てるよ? かんでかんで。ちーん」

「ニャー」

「うん、もう大丈夫」

「うう、ありがとございまさァ」

「おおっとぉ? なんやなんや? 会長さんに続いて随分と手が早いやないかい、新入りぃ」

「違うって。アタシが勝手に面倒見てるだけだし」

 ひやかしの言葉を並べ立てる逆毛サングラス目掛けて丸めたティッシュを放り投げる少女。そして額に直撃させる。卓抜のコントロールだった。

 ヒットした瞬間、葬式さんが「呪われたわ! 今貴方は呪われたのよ!」と小学生レベルのイジメのようなことを喚き始めていた。便乗して着ぐるみ男が「えんがちょ! えーんがちょ!」とかなんとか騒ぎ始める。皆すげえ楽しそうだった。

「アタシの場合、上におねえちゃんが二人も居るからさ。弟でも妹でも下に面倒見なきゃいけない子が居るっていうシチュエーション、ちょっと憧れがあったりしてね。ま、実際には色々大変なんだろうけどさ」

「おいおい、下の兄弟姉妹なんか身内に居たってろくなこと無いぜ? 師走に通ってる俺の弟なんか何故か罠猟(トラップ)を研究しまくってて、毎朝俺の寮部屋の前に〝試運転です〟とかなんとか言って色々仕掛けていくんだ。救えないだろ。最近はエッチな本でブービートラップを打って来るようになったんだ。正直やばいぜ。駄目だと分かってても引っ掛かっちまう」

「エロスね。エロスに呪われているのね。救われない男。男は永劫救われないのよ」

自分(ジブン)がケダモノのコスプレばっかしとるから狩って鍋にでもしたろ思ぅとるんやないか? それ」

 なんだとぉー貴様クマさんをバカにする気か、と逆毛サングラスに殴り掛かっていく着ぐるみ男をさておき、白黒はスパッツ少女の方に向き直る。

「ンン、げふんげふん。いやあー、ニャんだかんだでみっともないトコばっかガッツリお見せしっちまいまして」

「大丈夫大丈夫! スタートラインが最底辺なら後は昇って行くだけだから、頑張って!」

「ギャーさりげなく酷!?」

「あはは。うん、昨日校庭のど真ん中で啖呵切ってた時のキミに戻って来たね。さーて、それじゃ自己紹介。アタシは雲雀野(ヒバリノ)在美(アルミ)。よろしくね、白黒君?」

 ――雲雀野在美。

 逆毛サングラスや着ぐるみ男や葬式さんはさておき、とにかく白黒はこの彼女の名前をきっちり覚えておくことにした(一番会話が成立し易そうだから)。

「オゥイェ、よしなに頼みまさァー。ええと、ヒバリノちゃん」

「さっきも言った通り、アタシ、上におねえちゃんが二人居るの。しかもどっちもこの学院の高等部三年にさ。ややこしいから下の名前でいーよ」

 そう言ってスパッツ少女――在美は手をヒラヒラ振って見せる。仕草の一つ一つを取っても、単に可愛らしいというよりかはサバサバした気持ち良さをこそ嫌味なく感じさせる。彼女はそんな雰囲気の持ち主だった。

 明るく快活でスポーティ。

 飾らず気さくでボーイッシュ。

 ついでに言えば、膨らみが全ッッッ然ッッッ見て取れない胸のラインなんかも含めてボーイッシュだった。

「了解ですでよ! それじゃァおたくはアルミちゃんっスね! ンー、薄くて硬くてしなやかで柔軟性に富んでそうなイイ名前ですわな」

「あははヤだなーもう白黒君ったら今ドコ見ながら薄くて硬いとか言いやがったぶん殴るぞ」

「ギャー殺気!?」

「ま、とにかく。こうして同じクラスの仲間同士になったんだし、これからよろしくね、白黒君。とりあえずアタシのコトは親切な同級生キャラだと思ってくれていいから」

 在美の口振りに白黒はヌ? と小首を傾げると、やがてピーンと頭上に電球を閃かせた。

「フオオオオ! 見付けましたでよ!」

 金の猫目をめいっぱい輝かせながら、ズズイと在美に詰め寄る白黒。

「わわわわわっ、何? 何故か精密な好感度グラフをどこからか仕入れて来るだけで、アタシ自身は攻略対象キャラじゃないよ? 二周目以降は分からないけど」

「おたくに頼みがあるんですわ!」

「? んん、何かな? やっぱり会長さんのことが気になるの? うーん、初回プレイじゃ難易度高いと思うよ、会長さん。隠れファンクラブとか結構多いし。それにそもそも本人がとある喫茶店のお兄さんにベタボレらしいし。そこを引っ繰り返すには〝実は昔逢ったことがある〟くらいの爆弾が必要だね!」

 在美がいったい何を言っているのか白黒には細かく理解出来なかったが、まずはとりあえず用件を告げることにした。

「ホームルームが終わったら生徒会室へ来いって言われてるんですけどもよー。俺めに場所、教えてやっちゃァくれません?」

 在美は一度目をしばたくと、にっこり笑って親指を立てて返す。


「序盤チュートリアル、学内マップ移動方法についてって所だね? まっかせといて!」


 彼女の言動はやっぱりいまいち分からなかった。

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