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DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~  作者: じょぉん
<神無月学院入学案内・中編>
29/72

【1】「いち学生として」

 ――昇降口。下駄箱へ上履きに履き替えに行く拒の後を白黒がひょこひょこ歩いていたら、ふと振り返られた。頭のてっぺんから下駄履きの足元までしげしげと眺め回される。

 なんでっしゃろ。

 白黒はとりあえず顎に指を添えてポーズを決めてみることにした。

 頭を一発ぶん殴られた。

 半泣きに突入した白黒をそのままに、何事も無かったかのように拒は言う。

「っていうか今更だけど壮絶なまでに手ぶらなのね…。制服の準備はまあ仕方無いにしても、せめて上履きくらいは持ってこられなかったわけ? アンタ一体この島に何しに来たの?」 

「…ううう、オオガミ兄貴にもなんか似たようなこと言われましたトコですでよ…」

 まさか下駄履きのまま校内に進入させるわけにも行かない。拒は「とりあえず裸足で過ごしてなさい」と言い付けておいた。

「エー。こーゆー建物ン中の床の上じゃニャんだか足の裏がひんやりしっちまいそうですわな」

「昨日は裸足で校庭じゅう駆けずり回って七転八倒してたバカが何バカなこと言ってんのよ! 肉球でもなんでも出してていいから、廊下を土足で歩き回ったりするんじゃないわよ」

 白黒はヌヌヌと口元をひん曲げると、突然下駄履きのまま廊下へと乗り込んだ。拒が銀髪頭を再度ひっぱたこうとして――しかし、その手は止められる。

 ドロンと小さな煙が上がったかと思いきや、白黒の履き物は室内で歩き回っても問題なさそうな足袋(たび)へと〝化けて〟いたのだ。

「? 何よ、今の」

「フッフフー。ま、化け猫は化けるのが仕事ってことですわ」

「…そう。まあ別にいいわ。それじゃあその調子で神無月の制服も出して着てなさい。見本はそこらじゅうにうろついてるでしょ?」

「あー、スミマセ! そーゆーのはちょっと難易度高いんスよ! こちとら〝寺ゆかり〟の妖怪ですからなー。服装を自在にいじることに関しちゃァ作務衣(このカッコ)はじめ〝寺っぽいの〟くらいしか融通が利かないと言いますかなんつーかニャんつーか。実物さえあればソレ取り込んで〝登録〟出来るんですけども。ゲームのセーブスロットみたいなカンジで」

「ふぅん。変な所で律儀なのね。アンタくらいキャラのぶれ加減が激しいバカならそれくらいの縛りサラッと無視出来そうなもんだけど」

「…アルェ、目から溢れるこの透明な雫はいったいなんなんでっしゃろ…」

 まるで自我に目覚めたロボットのようなことをのたまう白黒をさておき、拒は高等部校舎は職員室方面を目指してズカズカ歩み始めた。

 あんまり距離が離れ過ぎると「さっさと着いて来なさいっつってんでしょうがこの駄猫!」とばかりに気炎を上げてくるに決まっているのだ。ちゃんと制服を着ている周りの生徒さん達から「作務衣…?」「誰あれ…?」「あれだよ! 昨日合戦(ドッグファイト)中に乗り込んで来た〝ヌコの婿入り〟だよ!」「うっそ会長まさかの猫耳弟キャラ属性!?」だのなんだのと騒がれつつ、白黒は慌てて拒の後を追った。

「じゃあ制服は後で時間見て採寸でもなんでも済ませて勝手に準備しなさい。購買部に顔出せば全部済む話だから」

「…ヌヌ」

 白黒としては煮え切らない返事しか返せなかった。

 そういうあれこれを整えるにせよ、何あれ先立つものが必要になるはずなのだ。

 だがこちとら――完膚無きまでに、文無しなのである。











 DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~


<神無月学院入学案内・中編>











「…そういえばバドー爺がアンタのクラスは1-Aだって言ってたかしら。とすると担任は〝アレ〟ってことになるわね…」

「ヘイ、どしたんですよ会長サン? 何を考え込んでやがらっしゃるんスかー?」

 眉間に皺を寄せて俯き歩く眼鏡っ娘の顔を横合いから覗き込んでみる白黒。すると、顔近いのよぶっ飛ばすわよと言いながら吹っ飛ばされた。

「いい、白黒? アンタはこれから少し変わった人間に師事することになるけれど、とりあえず敵じゃないから噛み付いたりするんじゃないわよ」

「は、はヒ…?」

「少しそこで待ってなさい。そこの壁に赤いランプと並んで着いてるボタン、興味本位で押したりしたら東京湾までブッ飛ばすわよ」

 壁にしこたまぶつけてしまった頭を撫で擦りながら白黒が涙目でいると、拒は一人さっさと目の前の部屋へと入っていってしまった。

 高等部職員室。

 戸口の上のプレートにはそう文字が表記されていた。

 職員室、の頭に「高等部」と着いているということは、他の学部は他の学部でまた別個に職員室が設けてあるということなのだろうか。白黒はそんなことをぼんやりと考えていた。

「ヌーヌヌヌ。会長サンの傍から離れるといきなし静かになった気がしますわな」

 廊下の隅っこで地べたにあぐらを掻いて待つことしばらく。なんとなく辺りを見回しなどしてみる。

 ――学校。

 ――いうまでもなく、ここは学校なのである。

 電気屋が付けっぱなしにしている店頭のテレビをずっとガン見する。それはぶっちゃけ白黒の世田谷(じもと)での日課だった。三毛次が何かの用事で別行動を取ってきた後などは、そこを決まって待ち合わせ場所にしていた。とにかくテレビはよく見ていた。他にも、公営の図書館に時間いっぱい入り浸って、色々な本を三毛次に読み聞かせられだってしてきた(貸し出しカードを作れるような人間社会向けの身分証明なんぞ持っていなかったので読書は基本的に館内で常に行っていた)。

 後は、そう。

 顔を出す度に自分を孫だと勘違いし続けていつも食事まで出してくれた古本屋経営のおばあさんの所で新旧様々な漫画だって読破してきた。

 とにかく大体そのようにして白黒は〝今の世の中〟についての情報と理解を得て来た。


 そしてすぐに憧れた。

 自分が〝人間〟ではないことくらいは百も承知だが、自分くらいの年頃と背格好の〝人間〟が皆一様に通うという――「学校」というものに。


 そこでは沢山の相手と色んな話が出来るというのだ。時には喧嘩だってしながら、様々なことを学べるというのだ。同じ仲間として。

 白黒がふと自分の存在に気が付き理解した時から、ずっと傍には三毛次が居た。周りにいる沢山の野良猫とは普通に「会話」出来るし、一緒に遊びだってしてきた。

 別に不服ではなかった、が。

 足りないと感じなかったかと問われれば、それはさすがに嘘になる。

 まあとどのつまり、来てみたかったのだ。入ってみたかったのだ。通ってみたかったのだ。学校という枠組みの中に。

 そしてここ、戌亥ポートアイランドでは、戌亥ポートアイランドならば――なんとそれが適う。自分のような〝オカルトそのもの〟でも一人の生徒になれる。

「フオオオオオオオオ! テンション上がってキトゥァァァ! オケオケ、今まさにこの時から〝学校〟ってモンについて溜め込んで来ました知識をフル動員! 紛うことなきいち学生として恥ずかしくねえ立ち居振る舞いを以ってなんつーかそのまあとにかくファイトですでよ、俺め――!」

 ガバァ! とその場で立ち上がる。そして勢いそのままシュババババとシャドーボクシング(らしき動き)を始めた。客観的にはかなり恥ずかしい真似だった。

 とりあえず話の流れからして拒がこれから自分の担任となる先生を引っ張って来てくれるのだろう。ここは手始めに万全の挨拶でスタートを切らねばなるまい。既に下されてしまっている「仁義を切るの禁止令」が非常に残念ではあるが、そこは仕方無いとして、とにかく、極めてそつなく如才なく。むしろ拒の度肝をも抜く勢いで――決めて見せる!






     ※     ※(~ここから白黒の妄想です~)※     ※






 頬傷があって肩幅だって広くっていぶし銀な渋さ漂う白黒(お初にお目にかかりやす。あっしは白黒二色と申す者でさァ)


 なんか先生っぽい人(ヒイイなんという(おとこ)貫目(かんめ)! おみそれしました!)


 感涙する拒(やるじゃない白黒! アンタはやれば出来る奴だとずっと思ってたのよ! 決めたわ、この神無月学院組長の座は譲ってあげる! もう舎弟志願者もこんなに集まってるのよ!)


 たくさんの気骨ある猫(((((にゃーん)))))






     ※     ※(~ここまで白黒の妄想です~)※     ※






「…フッフフー…? いやいや会長サン、物事には順序ってモンがあるでしょうわ。まずはおたくを白黒一家直参(じきさん)として五分の盃で迎えさせて貰いましてよ、それからそれから――」

 口元を思いっ切り緩めた白黒が想像の翼を羽ばたかせていると、職員室の戸が目の前で開かれた。その拍子に白黒の頭からバビョンとぶち模様の猫耳が飛び出す。

(来ましたわな!)

 学校の先生というものは何かと個性的な人材が多いということくらい知っている。それは例えば湘南の海を相棒と纏め上げた伝説のヤンキーが教師をやっているケースであったり、やたら前髪の長いオッサンがしきりにデコを強調しながら漢字の成り立ちについて講釈垂れつつ『この腐ったトマトが!』と罵倒して来るケースであったり――とにかくパターンは既に幾つか想定済みだ。

 まるで問題は無い。

 白黒は金色の猫眼をクワと見開いた。

「お初に――」






「不審者を捕捉! これより制圧する!」


 子供の膝よりも低い態勢で飛び出して来た都市迷彩服を着込んだおにーさんに、見事な大外刈りで床へと叩き落とされた。






「ゲブファー!?」

 しかもそれだけでは終わらない。

 流れるような動作でマウントまで取られつつ、挙句ほっぺたに拳銃(グロック17)の危ない側をグイグイ押し付けられた。

「指定の制服を着用していない人間が何故高等部をうろついている…? 貴様、さては島外から戌亥の技術――〝戌亥式〟を目当てに潜り込んで来た密偵(スパイ)か? 速やかに所属と名を名乗れ! 今なら俺も手荒な真似に訴えずに済む。そちらにとっても悪い話ではないはずだ」

「…。……。………。お、オゥフ…?」

 個性的過ぎる先生だった。

 白黒の予測にないパターンだった。

 遅れて出て来た拒が額に手を当てて深く深く嘆息している様子が、ピヨり掛けの視界の片隅でギリギリ見えた。


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