【白黒一家について】
「DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~」は【じょぉん】を言いだしっぺ兼代表とする物書き仲間同士による共同執筆作品です。
本作品は【椎菜】による著作であり、当人の許可を得て投稿しています。
自己紹介? …あー、面倒だな。改まってってのも何か気恥ずかしいっつーか…。
…俺は大加美稜牙。此処戌亥ポートアイランドで喫茶店をやってる。
とは言っても、本当はある”事情”があってこの街に来たんだが…それはまた別の話として。
――…今日は、何が聞きたいんだ? …白黒一家について?
物好きなヤツだな、あんた。何だってあんなけったいなヤツらの話なんか…。
まあ、いいか。あの二人については…色々と複雑な思いがあるしな。
何だかんだ、人を振り回してくれてもいるし…。
まずは、とりあえず出会いの顛末を振り返ってみるとしようか。
あれは…4月の”合戦”の日だっけか?
よりにもよって店の前で行き倒れてやがったんだったな。
話を聞けば、どうやら「転入」して来たって事らしかった。
二人のうち、ガキの方――毎度おなじみ白黒二色が、だ。
しっかし、わざわざあの日に島に来たのが何かの段取りだとしたら…俺じゃなくても何か悪意が働いてると思うだろうぜ。
後で三毛の旦那に聞いてみたら、案の定神無月に入るって話だった。
――やっぱりな。そう思った。
あのふざけたペイントが一瞬脳裏に浮かんで消えたもんさ。
三毛の旦那…茶斑三毛次についての第一印象は、そうだな。
「面倒くさいヤツ」ってトコだった。
っつーか今でもそう思ってるわけだが…。
今時タダ飯を奢ったぐらいでああも感謝される事はそうない。
よくよく話を聞いてみれば、やれ任侠だ仁義だ――
なるほどな、と思ったもんだ。
だからこうも面倒くさいのか、ってな。
俺も事情があって、現代日本に馴染み出したのはここ最近なんだが、今時そういう古臭いヤクザもんの価値観なんざ骨董品もいいトコだってのはよく知ってる。
人の心理を巧妙に操り、利己のためならどんな手も惜しまない…現代ヤクザってのはそれだ。
仁義なんてねえ。少なくとも、この二人なんかよりはよっぽどえげつない存在だろうさ。
しかも面倒くさい上にこの旦那、妙に重苦しい雰囲気を纏ってやがると来てる。
これも招福観音が云々とか言ってたから、何となく察することが出来た。
――招福観音で猫の伝承って言えば世田谷豪徳寺だ。
俺だって話程度にしか知らないが…江戸に幕府が開かれた後の話だ、あれは。
井伊家の殿さんが出て来るんだっけな……だから、何だ。300…いや、400年?
何に恩義を感じたのかは知らんが――はっきり言ってやり過ぎだ。
分かってるのかね…その重さがあの白黒坊主を歪めかねないっての。
…まあ、その話はとりあえず置いておこうか。
基本的には善人だ。
片目だわ着流しだわ言葉遣いはおかしいわ、人が見ればビビる事請け合いではあるがな。
確実に言えるのは、明らかに世間一般からはみ出しちまってるって事だ。もう、いろんな意味で。
白黒の世話役のつもりらしいが、はっきり言って逆効果だな。今後どうなるかは分からんが…。
しかも一目で俺の力を測っていたらしい節がある。
これは俺も旦那の力を測ってたからお互い様だが…。
只者じゃあない、ってのも確かだな。
――けど、そうだな。俺はあの旦那の事、嫌いじゃない。
旦那の抱えた事情ってのを、今は知ってるからってのもあるけど…その古臭い考え方を骨身に沁み込ませて、どこまでも信義を貫こうってんだ。
あの人の動きは、きっちり見といて損はないぜ。
で、白黒の方だ。
その招福観音に纏わる民間伝承の申し子、だな。
まあ世話役があんな格好だ。作務衣で下駄履きなんて驚く気にもなれないね。
物言いについても妙ちくりんなアレンジがあるとは言え、基本は三毛の旦那のものを真似てんだろう。
或いは代々ああなのかも知れないけどな。あんなんがン百年も絶えず存在してたとは思いたくないが。
ともあれ、世間ズレした価値観の中で育ったんだ…。コイツ自身も相当ズレてる。
尤もらしい事を言うし核心も衝いてくるが、「それがどういう事か」って事に考えが至っていない。
殆ど反射的に思いついたことを口から吐き出してるだけだからな、最初はそりゃウザかったもんさ。
けどまあ、コイツの任侠は一応筋金入りだ。
三毛の旦那の受け売りとばかり思ってたが、なかなかどうして鋭いトコを突く…こともある。
ま、コイツの事情も相当だからな…物凄いバカだってのは確かだが、バカも極めりゃ何かに成るのさ。
普段の生活については支障ありまくりだが…三毛の旦那も「後学のため」にコイツを此処に放り込むと言った。
未熟で結構、これから一般常識だのはじっくり鍛えていけばいい。
だが、問題があるとすれば――コイツには実行力があり過ぎる、って事だろうな。
まずは桜花の試合を見てた時だ――あまりにも不用意に桜花の三味線を暴いてみせた。
そりゃあ桜花はああ見えて相当な試合巧者だ…劣勢を装って油断を誘うぐらいの戦術は当たり前に使うさ。巧妙に、慎重にな。
だがそれを、ああもあっさりと暴く。しかもそれを誇るでも得意がるでもない。
それはつまり恐らくアイツにとって「何も特別なことじゃない」って事だ。
――危ういよなぁ。アイツ、つーかアイツらは分かってないんだきっと。
自分達がどれほど人間の常識から遠い所に居るかって事が。
だが俺も迂闊だった。アイツが桜花の目の前に出て行くのをみすみす放っておいちまった。
「祭り」のあらましを聞いて、さらに一番強い学校を知らされてぶっ飛んで行ってもそのままにしてしまった。
まだどっかでこう思っていたんだな。「幾ら何でも”最強”相手なら痛い目を見るだろう」とかさ。
甘かった…逆だ。
幾ら島内最強と言っても、あの子らは――そして”あの子”は、どうしようもなく人間だって言うのにな。
店で皿を洗いつつテレビを見ていたら、白黒は案の定”本性”を顕して大暴れしていた。
三毛の旦那は落ち着いたモンだった…当代を立てる心構えがきちんと備わっているらしい。
まあ、そりゃあそうだ。喧嘩を”華”として嗜むのがこの手合いだし、一家の看板たる”若”のやる事に必要以上に口を挟むのはスジじゃない。
だけど、と言うか…だから、かな。
ヤクザもんが大事にする面子だの沽券だのっていうのは、時に毒になるんだっていう事だ。
自分の流儀を通すことが最優先。それがどういう結果を生むのか――。
そう思っていたら、
「おたくは! 右半身でしか能力を使えないッ!」
バカでっかい声でバカがバカげたことを喚くのが聞こえた。
やっちまいやがった…と額を押さえたもんだ。
この時にはもう旦那は富嶽がどうのと叫んで飛び出して行った後だったんで、気兼ねする必要はなかった。
…これを怖れていたんだ、俺は。
連中は自分の流儀を貫く事に夢中になるあまり――
他人の都合や事情ってものを往々にして無視してしまう手合いじゃないか。
そこに悪意はない、というのはよく分かっているが。
こういう事を、叱ってやれる誰かが必要なんだと思う。
巻き込まれた”彼女”はこれぐらいで折れる子ではないし、今回のことは必ずしもマイナスばかりを生むわけじゃない。
だが、そういう問題じゃないだろう。
「こうならなかった可能性」というものに対する責任がまるで無いんだから。
――まあ、とは言え。
俺も人の事をああだこうだ言っていられる身じゃないわけだが。
とりあえず同じ学校に通う同士だってなら、当人の問題だろうしな。
…多分、誇り高い”彼女”だってそう言う筈だ。
だから一先ずは、この面倒くさい二人組については経緯を見守ろうと思った。
此処は戌亥ポートアイランド…素晴らしくも最低な混沌の街だ。
こいつらにもまた、背負うべき宿命とかが待ってるんだろうから…な。
…やれやれ、長話が過ぎたな。
喉が渇いちまった、あんたも何か飲んでくかい?
ウチは何を出してもこだわりの味だ、ゆっくりしていってくれよな。




