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DOGS! ~戌亥ポートアイランド騒動記~  作者: じょぉん
<神無月学院入学案内・前編>
24/72

【5】「退屈だけはしないけど」

 今更ながら白黒的にも「果たして自分は車道(こんなところ)を走っていていいのだろうか」という疑問が湧いて来た。

 一応その旨を拒に戦々恐々としながら訊いてみたものの、返って来た返答は「構わないわ。行きなさい」である。傲然と腕を組みながらのたまうその様には威厳と貫禄が溢れまくっていた。ともあれ、追い越しを掛けた普通の車の運転手さん達は皆一様に目を剥いてびっくりしまくっている様子だったが、とりあえず白黒はもう気にしないでおくことにした。

 ふと空を見上げると、黒ローブを頭からすっぽりと着込んだ人影がホウキで空をスココココと飛んでいたりする。この島の交通事情は割とフリーダムらしい。

 と、その空飛ぶホウキが急に高度を下げて来た。たちまちアスファルトの上をドタドタ駆けるこちらと並走する形になった。

「おや拒。その猫は昨日の――てっきり生徒会で鍋にでもしたのかと思っていましたが、飼う事にしたとは挑戦的ですね」

 フードのお陰で目元は窺えない。色白く細い顎と、際立って一房流れている前髪――紫のメッシュが入っている――がせいぜい見える程度だった。口は微笑の形。歌でも歌えば金でも取れそうな、音域の高い美声。どうやら女らしい。

「かろうじて日本語は通じるみたいだから少し仕込んでみることにしたのよ」

 目線こそ合わせないが、応じる拒の声には別段トゲは無い。巨大ネコ白黒は、なんでっしゃろ誰ですかね、とばかりに黒ローブへ視線をスライドしようとするが――「余所見してんじゃねーわよ」と拒に頭を引っぱたかれた。泣く泣く前を向く。鳴く鳴く前を向く。ニャー。

「では、くれぐれも下の躾はしっかりと…ね」

「そのホウキ爆発しろ」

 会話はそれだけ。すると空飛ぶホウキはまた高度を上げてすぐに飛び去っていった。

(知り合いでしょうかや)

 思ったが、声には出さなかった。余所見でぶたれたのだ、余計な口を利いたら利いたでまたぶたれるに決まっている。なので白黒は本題(しつもん)に戻ることにした。

「ってゆーかそもそもニャんだってこの戌亥ポートアイランドじゃァ、月イチで、ええとあのなんでしたっけ? アレ! あのアレ! 昨日の!」

「…〝合戦(ドッグファイト)〟」

「イェーッス! それですわ! そうそう、合戦(ドッグファイト)とやら。なんでそんなことが催されてるんですよ」

「アンタねえ…。〝ヒャッハー喧嘩御輿ですわー〟とか手放しで騒いでた割には、真っ先に抱く疑問がそこなのね」

「いやあー。やっぱし理由なく喧嘩するのはメッですよな」

「どの口がんなことほざいてんのよ――!」

「ギャース!? ま、祭りならともかくってイミですっつの! ちょ、ちょちょちょ、運転中、運転中ですから! っつーか走行中ですからァー!」

 本土と同じデザインの、青地に白抜きの道路標識が歩道橋の中腹に吊られている。『神無月学院』と大きく書かれた文字に向かって真っ直ぐな矢印が伸びているそれの下を潜りながら、巨大ネコ白黒は拒に耳の中へ鞄を捻じ込まれたりしていた。

「――まあ端的に言うと、切磋琢磨してるわけよ」

「ニャるほど」

「もっと穿った言い方をすれば、そうね…。この島でそれぞれ専攻されてるオカルトの多寡(たか)を各々叩き伸ばし合ってる(・・・・・・・・・)って所かしら」

「? …ヌヌ?」

 巨大ネコ白黒が耳をバッサバッサさせていると、拒は「どう説明したもんかしらね…」としばし思案に沈む様子を見せた。

「アンタ。ノーベル賞くらいはまさか知ってるわよね」

「ノーベル賞! ええ、ええ。いろーんな分野での功労者を讃えるアレですよな」

「…へえ。すんなり正答するとはね。褒めてやるわ」

「ニャーはははァー。ノーベル賞について述べーる。ニャんちって」

「死ね」

「ギャー二文字!? 俺めが今まで聞いて来たおたくの口から出た言葉ン中で一番最短ですでよ!? けど一番響きが重いたァこれいかに!?」

「全く、迂闊に褒めてもバカを見るのはこっちってわけね…。アンタの扱い方も大体判って来たわ。――それで、そう、ノーベル賞。ノーベルの話よ。その男はいったい何をやって後世にまでガッツリ続くこの表彰を主宰出来るほどの財を築いたか知ってる?」

「確か…ダイナマイトっスよね? ドッカァーン! みたいな!」

「そう。爆薬よ。それで、そのダイナマイトはそもそもは何目的で(・・・・)開発されたものか――そこは知ってるかしら?」

 ドカンと爆発する爆薬。といえば爆弾だ。

「戦争っスよね」

 迷うまでもない、とばかりに白黒は即答したが、しかし拒は首を振った。

「正解は、工事現場での岩盤掘削。そうした〝作業効率〟の上昇の為。それが、最初よ」

「ウェ…?」

「ニトログリセリンを用いた爆薬機構(ダイナマイト)を戦争に投入しようっていう発想は実のところ二の次だったってことよ。ともあれダイナマイトを戦争で運用する為に、様々な技術産業方面ではノウハウの開発が加速した」

「ミサイルとかっスか」

「そうね。それを例にしただけでも、ミサイルの弾道を計算する為の学術然り射出する為の砲塔成型に応じた鉄鋼産業然り――〝戦争をする〟っていう発想はとにもかくにも(・・・・・・・)文明に急成長を促すのよ。そのミサイルだって宇宙開発ロケット技術に継承されていくわけだし。(オカルト)の世界に潜るまでもない、表の世界の歴史だけでそれは充分証明され尽くしてるわ」

「ホアー」

「総合文化研究機関なんていう銘の打たれ方もされてるこの島はね。合戦(ドッグファイト)という模擬戦争(カリキュラム)で〝その恩恵〟を得ようとしてるってわけ。どんなオカルトだってそれが文化であり文明である以上――他と拮抗しようとすれば、必然、進化して成長して発展する」

「つ、つまり…わかりやすーく言い換えますと?」

〝ミサイルの弾道を計算する〟の辺りで既に鼻から脂汗を垂らしまくっていた巨大ネコ白黒は意を決して訊いてみた。 

「―――――」

「…。……。………。えーっと」

 拒から極寒の視線が返されて来た。

「…各学院は月イチで積極的に切磋琢磨してるってことよ」

「! ニャるほど! 互いに競い合い互いに高め合う――とどのつまり、学生ライフにゃ欠かせねえライバルってことですわな!」

「よく理解出来たわねえらいえらい褒めてあげるわいい子いい子」

「ニャー」

 ゴシャゴシャと巨大ネコ白黒の額を撫でる拒。ただしセリフはめいっぱい棒読みだった。

「もちろん島内ランキングで上位に位置付けられればそれ相応の〝利〟が学院レベルで勘定されてるわけだけど。そこの所は別にアンタは考えなくていいわ。バカなんだから」

「…アルェ、いい子って言われた直後に罵られてるのはどゆワケでっしゃろ…。ン、まあイイですや。――それじゃあですねえー。ンじゃ次! 各学院について教えてやって下さいわ! 全部で十二あるんですよな?」

 白黒が続けた質問に、さすがにそこは最低限教え込んでおく必要があるわね、と拒は頷いた。











「〝超能力開発機関ちょうのうりょくかいはつきかん睦月学院(むつきがくいん)念動(サイコキネシス)読心(リーディング)透視(クレアボイヤンス)感応(テレパス)、ほか諸々――五感の拡大延長やら第六感の明確運用やら、要するに超能力の研究開発カリキュラムに特化してる学院よ。


超科学兵器(ちょうかがくへいき)牙城(がじょう)如月学院(きさらぎがくいん)。アンタはもう〝死神の鎌(デスサイズ)〟を見てるわね? あれはここの生徒よ。現代水準を突破してしまった、オーバーだったりブラックだったりするテクノロジーに準拠した物理法則を実採用した兵器がゴリゴリ研究されてるわ。


魔術師達(まじゅつしたち)穴蔵(あなぐら)弥生学院(やよいがくいん)西寄り(・・・)の魔術師がゴチャゴチャ集まってるわ。魔術っていうのがどういう理論で文化で術理で学問なのかは、むしろアンタみたいなのの方が詳しいんじゃない?


裏武芸百般(うらぶげいひゃっぱん)卯月学院(うづきがくいん)。拳一つで滝を割るとか、一太刀で五回斬るとか、よくも悪くもアホな脳筋武芸者どもがゴロゴロ居るわ。魔術師が扱う〝魔力〟とも人外が扱う〝妖力〟とも違う、いわゆる〝気〟だの〝気功〟だのっていう概念(モノ)に準拠した理屈でパンチから火とかを出したりしてくるわよ。


戌亥百鬼夜行(いぬいひゃっきやこう)皐月学院(さつきがくいん)。古今東西の人外の血脈の末裔やらが集まったサラダボウル。ちなみにアンタみたいな〝本物〟がいち生徒として在籍してるケースは一〇〇人居ないってくらいよ――この島の学生全部をひっくるめても、ね。


平成陰陽寮へいせいおんみょうりょう水無月学院(みなづきがくいん)。弥生の親戚みたいな所ね。こっちは東寄り(・・・)の魔術を大陸系中心で取り沙汰してるわ。


大魔砲艦隊(だいまほうかんたい)文月学院(ふづきがくいん)。魔術と兵器を掛け合わせた武装を運用するタイプの、鉄も火薬もガンガン振り回す魔術師――〝魔砲使い〟とでも言うべきかしら? とにかく、古式ゆかしい魔術から少し斜め上に行った魔術が研鑽されてる所よ。歴史上の特異な曰くやら神話伝承やらから元ネタを引っ張って来た代物の開発にも熱心ね。合戦(ドッグファイト)じゃ〝ゲイボルグ拡散弾〟とか〝フラガラッハ追尾砲〟とか、いろいろ仰々しいものを担ぎ出して来るからなかなか飽きさせないわよ。


呪文式電子演算室じゅもんしきでんしえんざんしつ葉月学院(はづきがくいん)。魔術という魔術を全部数式に置き換えて、PGM(プログラム)に仕立て上げた呪文をPC上で走らせる電脳魔術師(ニューロマンサー)の巣窟よ。本来過去へ過去へと逆行し続けるって触れ込みの魔術って分野にあって〝新しい魔術〟なんて代物の追求にも熱心だそうね。察しなさいって感じだけど、弥生・水無月とはデフォルトで犬猿の仲よ。


古今異形交渉班ここんいぎょうこうしょうはん長月学院(ながつきがくいん)。異形の存在を相手取った、対話・交渉・契約・拘束、そして使役――召喚師(サマナー)が集まってる学院よ。アンタここで飼われて来たら? たぶん喰うには困らないわよ? …まあとにかく、悪魔でも妖怪でも顎で使う前にまずナメられてたら終わりなわけだそうだし、下手な退魔師よりもよっぽどそういうの(・・・・・)の相手は上手かもしれないわね。


心刃隠忍軍(このはがくれにんぐん)霜月学院(しもつきがくいん)。ミスディレクションを基点にした超技巧と肉体改造のエキスパート集団――もう日本フリークの外国人が手放しで喜んでくれそうな忍者(NINJA)の里ね、とどのつまり。思想レベルだったり実践レベルだったり、程度ばらつきはあるにせよ東洋魔術も履修してるわ。その辺身に付けてたりする奴はガチで分身したり大ガマを呼び出したりしてるわね。鼻から飲んだ水を濃霧に変えて口から吐き出したりする変態なんかも居るんだけど、あれは魔術なんだか体術なんだか…。まあどうでもいいわね。


大十字隠秘信仰会だいじゅじいんぴしんこうかい師走学院(しわすがくいん)。〝神の子〟に由来する信仰を新約旧約問わず一緒くた(・・・・)にしたオカルトを扱うと同時、科学弾圧・魔術否定・人外排斥、それらを実践する独自の術式なり技術なり方法論なり――とどのつまり(アンチ)オカルトの使い手も在籍してる変わり種の学院よ」











 さっきの話ではないが、鉄鋼産業がどうの歴史がこうのと語られるよりかは今のような話の方がすんなりと頭に入って来る白黒である。拒が語った一通りの説明を「ふんふん」と頷きながら聞いていた、が、

「ひのふのみの――って、アルェ? 一通り拝聴させて貰いましたけどもよ、十一しかなくねっスか?」

 きょとんと首を傾げる巨大ネコ白黒に、拒は心底見下げ果てたような視線を返す。

 ――いや。「ような」ではない。それは本気で見下げている目だった。

 白黒としては罵詈雑言と同時にまたボコられやしないかとヒヤヒヤするばかりである。

「…本当、よく分かったわ。アンタには〝察する〟っていうスキルを期待する方がバカってことなのね」

「ウェ? な、なんですよ? 何がですよ?」


「〝オール・イン・ワン〟神無月学院(かんなづきがくいん)。今上げた十一の特色をあえて(・・・)一学院にまとめて放り込んだ、私達の学び舎よ」


「…? おおう! おうおう、そーゆーコトでしたかよ! オケオケ、これで全十二学院!」

「なに鬼の首でも獲ったようにはしゃいでんのよ…。スピード出過ぎてるわよこの駄猫」

 あわわスミマセ、とオロオロしながら巨大ネコ白黒は走行ペースを緩めた。道路脇に突っ立っている速度制限表示は六〇。ついつい時速七〇キロくらいは出してしまっていたかもしれない。

「しっかしホントいろーんな学院があるんですわな…? ってゆーかどうなんスか、最後の師走学院。アンチオカルトー、って。戌亥ポートアイランドは〝オカルトを全肯定する〟島なんでしゅうわ?」

「オカルトを否定するオカルトの存在も肯定してるってだけよ。とどのつまり〝裏の表は裏の裏〟ってことかしらね。なんにせよ、それもオカルト(・・・・・・・)。それだけの話よ。まあ師走の中には〝地球の構造は平面だ〟とか〝宇宙マジ天動説〟とか、本気で言ってる生徒も居るそうだけどね」

「ホアア…」

「十二学院は戌亥ポートアイランド成立以降〝学院としての体裁が完成した順番〟だっていう話もあるわ。もしそれを信じるなら、確かに序数が十二番目、ラストである以上――戌亥として取り沙汰するにも迷われてた(・・・・・)部分なのかもしれないわね」

「しかしそんな手合いが居たんじゃァ合戦(ドッグファイト)そいつらのワンサイドゲームになっちまうんでねっスか?」

「そうでもないわよ? 思想が〝神の子ありき〟って点は共通であるにせよ、カトリックやらプロテスタントやらが入り乱れてるわけだから、その辺の意見の食い違いでチームワークは普通にガタガタだし。それに身一つの徒手空拳で突っ込んで来る卯月や霜月には割と為す術なくボコられるし。実質、島内ランキングは十二位。最下位よ」

 とにかく、と拒はここで間を置き、

「とりあえず、これで十二学院。戌亥の実に四分の一を占めるここ学生区ステューデンツ・クォーターラウンド内に全部が全部敷地を構えてるってわけ」

「学生区、か…。他はこの島、どんなカンジで区画分けされてるんですよ?」

行政アドミニストレーション(・クォーターラウンド)研究区ラボラトリ・クォーターラウンド商業区ショッピング・クォーターラウンド――細かくはパンフにでも目を通しなさい。とりあえずアンタは学生区ステューデンツ・クォーターラウンド商業区ショッピング・クォーターラウンドだけ行き来してれば生活には事欠かないわよ」

「ヌヌヌ。そう言われっちまいますと、アドミニなんちゃらやらボラボラなんちゃらにも興味が湧いて来るじゃニャーですか!」

「ボラボラって何よ。ラボラトリってちゃんと言ったわよね、私。何? ひょっとしてナメてんの? ――まあいいわ、とりあえず説明だけはしといてやるわ。っていうかどれもこれも言葉通りよ。この島だけでこの島をきっちり管理し抜く為の行政機構が集中されてるから、名前はそのまま行政区。そして各学院の特色に応じた研究機関十二施設を基本に大小様々な研究所が集まってるから、研究区は研究区。以上」

「ストップ! ストォーップ! 俺め、ここで一ツ鋭い着眼点(クエスチョン)!」

 尻尾をビンビンに立ててニャーニャー騒ぎ始まった巨大ネコ白黒に、拒は心底面倒そうな顔になっていた。

「何よ。一応言うだけ言ってみなさい。ちなみに猫缶が売ってる場所とか訊いてきたら本気で潰すわよ」

「そ、そんなんじゃありませんっつの! ――ンにゃ、研究区についての話なんですけどもよ? 神無月は他の学院がそれぞれ扱ってます分野をあえて一まとめにしてみた学院(トコ)なんですよな? したら〝神無月直轄の研究機関〟なんつっても他のトコらにあらかたお株を持ってかれてます格好なんじゃニャーですか? ぶっちゃけやることないんじゃねえでしょうかや」

「ああ…。神無月直轄の研究機関はね、ある意味他の全てとかぶりながら他のどこともかぶらないジャンルを扱ってるのよ」

「? なんでっしゃろ、そいつは」


「やろうと思ったことをやる為に、創ろうと思ったものを創る為に、カテゴリという境界(ボーダー)を一切無視して複数種類からの異常識(オカルト)掛け合わせて(・・・・・・)運用する――〝戌亥式新約錬金術〟よ」


「戌亥式、新約錬金術ゥー?」

 巨大ネコ白黒は思わず胡散臭げな声を出した。

「錬金術っつったら、アレでしょうさ。分野って言いますよりかはむしろ〝考え方〟みたいなモンなんじゃァありませんでしたっけか? そら、確か〝鉛を金に換えよう〟なんつー考えからスタートして、ンな荒唐無稽な話をマジで実現する為に、さてどうにかしてそれが出来ねえかニャーかってことでまずはとにかく鉛って物質を徹底解剖し抜いて――」

「結局それはどうやったって為し得られないことだった。けれど、いち物質を突き詰める為に試行錯誤を繰り返し抜かれた学術だけは発展した」

 拒がまるでそらんじるように先回りする。巨大ネコ白黒は「それっスわ」と頷いた。

「本当、妙な所だけ知識はあるのね? 妖怪ってのは皆そうなの? 別にどうでもいいけど。…まあ要するに、戌亥式新約錬金術は戌亥ポートアイランドだからこそ出来る異常識(オカルト)の新解釈・新境地ってわけ。最新の科学と最古の魔術を共に最先端も最先端の域で掛け合わせるなんて、神無月直轄でもなきゃやらないし、出来ないわ。ちなみに『あまつみかぼし』もそこで製作されて――」

「? 『あまつみかぼし』…? 日本神話の大凶星がどうかしたんスか?」

「…。……。………。もうパンフ読んでなさいアンタは」

 さすがにこれ以上は面倒になってきたらしい。

「ンー。まあとにかく、スゲェ島なんだってことは改めて分かりましたわ!」

「人にあれこれ訊くだけ訊いておいて結構な感想ね…。大した奴だわ」

「でもアレですよな。どうも神無月ってなァちょいちょい際立ってる感がありますわな。これも会長サンの力ですかよ?」

「なんでそこで私が出て来るのよ。言っておくけど私には、戌亥式十二分類で言う所の〝睦月属性〟――超能力以外のオカルトの持ち合わせは無いわよ。――でも、そうね。今の質問、強いてなんでか(・・・・)と答えるなら――」

 と、拒はふと中空に視線を投げた。

「戌亥ポートアイランドには、島の一切を究極的に取り仕切る全十二議席からなる最高機関――〝統括理事会〟っていうのが存在しているわ」

「〝十二〟? アルェ、その数字ってまさか」

「そうよ。学院の総数と同じ。議席員一人につき、議席序数順に各学院を〝担当〟してるってわけ。神無月を担当してるのは〝第十議席〟ってことになるわね」

「逢ったことあるんスか? 会長サンは」

「無いわ」

 即答。

「というか――居ないかもしれない(・・・・・・・・・)のよ」

「…ハ? どゆコトですよ?」

「統括理事会に名前を連ねてる〝歴史上のどこかに存在していたなんらかの魔術師かもしれない(・・・・・・)ような奴〟ですら多かれ少なかれ人前へ露出しているっていうのに、唯一、公称プロフすら存在しない彼もしくは彼女。それが第十議席」

「…ウェ? ゆ、ユーレイってことっスか!?」

「ホントめでたい頭してるわねアンタは…。とにかく第十議席っていうのはそういう奴なのよ。徹底して、ね。ほとんど都市伝説に片足突っ込んでるような存在よ。単に公式の場に姿を現さないってだけなのかもしれないし、実はなんでもないような顔をしてそこら辺をほっつき歩いてるのかもしれないし、戌亥として行う世界各国相手の対外調整とかでうまく方便を使う為に他十一議席が総意で設けた〝都合良く居ることにしてある空席〟なのかもしれないし」

「要するに――統括理事会とやらの中で、一番変なヤツなんですわな?」

「今回ばかりはその認識に文句の付けようもないわ。…そう。話を戻すけど、つまりこういうことよ」

 特に何に対して苛立っているような様子もなく、拒はただ空気を眺めているような素振りのままに――こう続けた。


「そんなわけの分からない奴が発起した所なんだから、そりゃわけの分からなさも際立つ学院になりもするわよって話。いち生徒として退屈だけはしないけど」


 このと白黒は相槌を打っておくに留めておいた。

 確たる根拠もないのに妙な口を利けばまたひっぱたかれる。そのくらいの事象の前後はもう察しが付くようになっていた。

 だから別に、取り立てて口にはしなかった。






 ――世田谷でヌコヌコしていた自分と三毛次の下に、ふと気付くと届けられていた「案内」。

 ――その差出人の署名が『独立行政区戌亥ポートアイランド統括理事会〝第十議席〟』とあったのだということは。


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