【14】「日本最多の民間信仰」
神無月学院体育館、屋根上。
期せずして上空の高さへ当事者二人が登って来た格好である。『戌亥ケーブルテレビ』のロゴが踊る大型ステルスヘリ機内、基本ダルダルしたテンションのリポーターと実況なんだか解説なんだかそれともただのマスコットなんだかよく分からない立ち位置の着物幼女の二人は揃って目を見張った。
「…なんか喋ってる風味だな。まあさすがに何か喋りはするよな」
<どんな話をしておるのかのう。そうじゃな、差し詰め――『ここまで辿り着いた褒美に教えてやろう。そう…貴様の父親を殺したのはこの私だ!』『うおおおお! お前のことだけは絶対に許さない! 我が聖剣の白刃の前に露と散れ、魔王!』――ワシの予想としてはこんな所じゃが。くふふ、なかなか燃える展開じゃのう>
「なんでいきなり世界の命運を賭けた戦いが始まっちゃってるちっくなのよミコトさん。っていうかお前それ昨日観てたアニメだろ。ネタバレ止めろよあとでDVDでまとめて観るんだから――ああすんませんカメラさん、とりあえずアップで。あと集音マイクもがっつりオンにしときましょう。でもあの会長さんが何か一発ぶちかますだけで確実に放送事故クラスの音割れが起きちゃうんだよなあ…どうすっかなあ…」
と。そうこうしていると、ヘリの高度にまで届く大音響が突然鳴り響いた。
リポーター月上が危惧した通り〝戌亥ポートアイランド第一位〟が何かぶちかました――の、では、ない。
それは柏手だった。作務衣姿の銀髪小僧が、思い切りめいっぱい全身全霊で――両掌を打ち合わせたのだ。
…音、でかすぎじゃね?
リポーター月上とミコト様は至近距離で互いに顔を見合わせた。
※ ※ ※ ※ ※
何やら異常な大音響を以って響き渡った柏手の音に、拒は軽く片眉を寄せた。
――いったい何をする?
――いったい何をした?
思わず攻め時を逸する。右足を踏み出し掛けておいて、そのままそこで立ち止まった。
と、妙な〝気配〟が渦巻くのを感じた。したり顔(見ていて心底苛付く面構えだ)で合掌している白黒を中心として、目には見えないもののいやに大きく妙に濃い、しかし徹底して無色で無重の〝何か〟がとぐろを巻くように凝集している。そんな気がした。そんな感触を幻視した。
すると顕著で如実で明白な変化が起きた。白黒の背後へ瞬間的に白い稲妻らしきが生じ「形」を取る。それは斑模様の猫尻尾だった。
一、
二、
三、
四、
五、
六、
七、
八、
〆て九。
ほとんど扇のように九又生え揃った、尻尾だった。
拒が睨み付ける中、背に九尾を引き連れた白黒は、緩く握り締めた右手を己の顔目掛けてゆるゆると持ち上げていく。
――その格好は、まるで。
――とてもとても有名な、猫のとあるポーズまさにそのままだった。
※ ※ ※ ※ ※
「うーん」
結局補給に戻るでもなくなんでかここまで来てしまった。
キャスケット帽を被った矮躯――〝超科学兵器の牙城〟如月学院エース〝死神の鎌〟桜花晃は、合戦に於ける絶対不可侵の絶対鬼門・神無月学院の正門前に一人突っ立って難しい顔をしていた。
いや。
一人、ではない。
正確には、桜花一人と何十匹もの猫――だった。
下手をすればギリギリ三桁に届いてしまいそうな数の野良猫どもが、なんでか校門前でたむろしているのだ。
「やっぱり僕の責任、なんですかね…? なんだか本当にとんでもないことになってるみたいですし」
ニャーニャー騒ぎまくる作務衣姿の銀髪小僧が向かっていってしまったと思しい場所で、計ったようにこのフルヌッコ現象。さすがに無関係ではあるまい。これはもうあの彼にまつわるなんらかの異常識と見るべきだろう。
先刻から遠くで見ていても分かるくらいに校庭がドカンドカン大爆発を起こしていた。砂つぶてが上空数十メートルにまで舞い上がっていたりする。あれはもう確実に神無月の生徒会長が戦っているのだろう。巨人が半ギレしながら砂遊びでもしているかのような天変地異を個人単位で巻き起こせる人材、そうゴロゴロ存在されても逆に困る。こっちは超科学兵器の扱いに〝素養〟があるだけで、肉体的なスペックは全く以って尋常の人間なのだ。いやあの生徒会長も運動能力自体はあくまで常人の域にあるのだろうが。
ともあれ校庭の方からは、断続的にドップラー効果付きの猫の鳴き声が聴こえて来ている。
(うわっ。確実にあの子の悲鳴だ)
結果的に自分がけしかける格好になってしまったような気がしないでもない――どうやらマジもマジの大マジで、神無月学院生徒会長に謁見中のようだった。
「それにしても運営サイドが噛んで来る様子が無いですね…。例え間違いでも神無月の生徒会長が自陣で戦闘中だなんて、そんな情報、出回っただけで全体の趨勢が狂いまくるに決まってるのに」
桜花が呟いていると野良猫どもの群れの中から一匹がのそのそと目の前にやって来た。ずんぐりした体格のトラ猫で、目付きは、なんというか――もしも擬人化したら五・六人は確実にやっちゃってそうなヤクザといった塩梅の、とにかくあまりガラのよろしくない個体だった。たぷたぷした腹周りのお肉が無駄に貫禄を加速させている。
「…。……。………。ちちちちち」
猫はさほど嫌いではない。死神の鎌を担いだままその場にしゃがみ込み、お約束のアレをやってみる。だがトラ猫は可愛げのねえ一瞥を桜花にくれるとすぐさまプイと汚いケツを向けてしまった。
――ここから先は鉄火場だぜ。冷やかしならすっこんでおいた方が身の為だぜ、小僧。
トラ猫の目は口ほどにそうモノを語っていたかのようだった。そんな気がした。変に侠の気迫が漂っていた。
「いや小僧って…。僕、これでも一五年は生きてるんですけど」
桜花が自分の幻聴に自分で突っ込んでいると、拍子木でも打ち合わせたかのような、ぱん、という音が耳に届いた。野良猫どもがふと空中へ視線を向けた。そして一様に同じ行動を取り始める。
チャッチャッチャッ、と。
料理に於いて包丁を取り扱う心得にも顕されるその猫の手で、自分達の湿った鼻面を擦り始めたのだ。
――猫が、顔を、洗っていた。
「あれ?」
ふと桜花は鼻先にひやりとした感触を感じる。彼もまた猫達よろしく空中を見上げる。
澄んだ大気の直上に四月の太陽が眩しい。千切れた雲がちらほら見える程度の晴天。
晴天だった。
しかし、雨が降ってきた。
「…えええええ…?」
桜花は思わず裏返り気味の声を出した。
あらゆるオカルトを全肯定する為に東京湾に浮かべられた人工の異界、独立行政区戌亥ポートアイランド。最新の科学と最古の魔術を同時追及するこの島は、量子観測だったか占術だったか、とにかく科学と魔術の共同合作ともいうべき気象衛星、その名も『あまつみかぼし』を独自に運用しており、その天気予報の的中率たるや「未来の予報」ではなく「事実の宣伝」にも近いそれだなどと言われている。
戌亥ポートアイランド発のテクノロジーの中でも最々先端に位置する衛星軌道上のお星様は、確か今日の天気は晴れだと言っていた。
晴れだと予言していた。
しかし、雨が降ってきた。
「何かバグでも起こしたのかな」
信じられないような気持ちで、呆然と呟く。そして、誰でも知っているような迷信を自然と思い出し、口にしていた。
「まさか、猫が顔を洗ったら雨が降る、だなんて――」
呆然とする桜花を置き去りにするように野良猫どもの一部が唐突に移動し始めた。のたのたと神無月の校門を潜っていくのだ。
奇妙な光景だった。
顔をひとしきり洗うやまた地面に寝そべってヌコヌコし始めている輩も居る中、行動を起こしている野良猫達にはある一つの共通点があった。というか、それしか共通点がなかった。
――その共通点とは、そいつらの体毛の柄は、
※ ※ ※ ※ ※
そして白黒は自分の鼻先を右手でグイグイと擦りまくり始めた。
「〝猫っ面に雨〟!」
白黒が声高に叫んだのは、なんかまた間違っている感が漂いまくることわざ風味だった。
すると。
はじめはポツポツと、すぐにザアザアと。
もし登下校中に行き合ったならコンビニでビニール傘を買う決断を下すくらいのレベルの雨が――降り始めた。
狐の嫁入りのようにぱらつく程度の天気雨だったかと思いきや、まるで事実の帳尻を合わせるかのように、空では雲が次第に厚ぼったくなり始める。
事象の順序がまるで逆。
結果の後に過程が付いてきた。
自然現象をまるっきり無視した、掛け値なしの非常識にして異常識――
「…。今日の〝天気宣言〟は晴れのはずだったけど」
足場にしている体育館の屋根へ雨粒が冠の形を作るほどの勢いで叩き付けて来ていた。制服のブレザーにも水気がたちまち染み込んで来る。拒は指先で眼鏡のレンズを拭った。
「これ――アンタがやってるの?」
「うんにゃ。降らせてるのはむしろおたくらっスよ。なんせ、長い間そう信じてきたのは人間なんですからな」
びしょ濡れになりつつあるのは何も拒だけではない。白黒もまた、裾も袖もダルダルの作務衣をズブズブに濡らしていた。濡れ鼠だった。猫だが。それでも白黒はあくまで、あくまで不敵な表情で、鼻先をグイグイ擦りながら佇んでいる――
「瘴気に満ちた欧州の古城然り、踏み入ろうとしたら逆に立ち退かされてる深い森然り。異形はしばしば〝空間〟や〝地形〟を自分好みにカスタマイズすることで絶大なバックアップを得るとかなんとか、神無月の図書委員長が言ってたけど――」
それをやっているのだろうか。今まさに〝陣地〟を作成しているとでも言うのだろうか。この、雨によって。
拒は右手のブローニング銃器本体から――この程度の雨で動作不良を起こすような型式ではないが――水気を徹頭徹尾一滴に至るまで〝吹っ飛ばし〟ながら、白黒の方を睨み付けた。
「俺めの陣地はあくまであの寺こそが最高位っスよ。この雨は別にそんなんじゃニャーですわ」
「この雨を降らせてること自体は否定しないのね」
「だーから、違うって言ってるでしょうわ? この雨を降らせてますのは人間なんですってに」
相変わらず的を射ない返答だが、強いて言えば焦燥に近いのだろうか、拒は妙な気分の悪さを感じていた。
魔術による天候操作。それは一種の奥義の境地だと拒は聞いたことがある。
自然との対話に特化したドルイド教の達人位でも神殿クラスの陣地・祭壇設営を基点にしなければ、古代であるならまだしも、この現代に於いては雷雲一つ生み出せないだの、なんだの――今口にした「図書委員長」から伝え聞いた話だ。
とにかく。
天候操作などという代物は、アブラカタブラの呪文一つで起こせるような現象では、到底無いのだ。「猫が顔を洗ったら雨が降る」などという迷信がなぞられた程度で、まさかまさか――
「―――――、」
拒は息を詰めた。白黒はもう「顔を洗う」動作は止めて、空いた両手で濡れそぼった銀髪をオールバック気味に撫で付けている。
拒が今思い起こしているのは先刻までの白黒が作っていた手の形だった。
緩く握ったような形の拳を顔の高さに上げていた。
――あれは。
――あの形は。
――まさかとは思うが。
「寺、寺…。世田谷のなんとかって言ってたかしら」
敢えて濁して言った。実際ははっきりと記憶していた。
世田谷豪徳寺。
誰も聞いていないのに、見得切りと合わせてあの銀髪小僧は自分の出身をそう語っていた。
猫。世田谷豪徳寺。この二つのキーセンテンスからおよそ日本の誰もが誰に教えられるでもなく知っているだろう〝それ〟のことを想起するには多少の前提知識が必要だろうが、しかし、しかししかし、間違いなく〝それ〟のこと自体は誰もが知っている。
自分も知っている。そして気付いた。
雛人形に名付けられた全役職位を暗唱出来ない子供でも〝それ〟のことは知っているだろう。理解出来るだろう。名前だって分かるだろう。
そしてもしも――時も場所も歳も性別も問わない、それだけの認知度に支えられた伝承を原型にした異形が実在でもしていようものなら、それは一体世界に対する影響力をどれほどまでに持ち合わせるのか――!
「応ともっスよ! …っつかナントカなんて言ってるようじゃァまーだきっちりと覚えまではしてくれちゃいませんわな? オケ、もっかい言いますでよー。生まれは世田谷豪徳寺! 姓は白黒名は二色! 化猫任侠白黒一家四十六代目物九郎、人呼んで――」
それは、江戸時代のおはなし。
鷹狩りからの帰途に就いていた時の藩主は唐突な雨に降られていた。
雨宿りの場を探していると寂れた寺の門前に差し掛かる。そこには鎮座している猫が居た。
まるで藩主一行を招くように顔の高さへ上げた前足を動かしている――どうにも不思議な猫だった。
妙に思い一行が近寄ってみると、今まさに雨宿りの為に身を寄せようと思っていた大樹に手ひどい雷が落ちた。
命を救われた。
その猫は寺の和尚が拾い面倒を見て来た飼い猫だという。
これに感謝の意を示した時の藩主は和尚へ多額の寄進を行った他、盛り返したその寺に自らの墓所も置いた。
「――恐れ多くも招福猫児。〝マネギの二色〟と発しまさァ!」
(誰もが知る異形の猫――〝招き猫〟!)
取り分け魔術や人外の分野に於いては、その為し得る不可思議を決定付ける為に両極端な論拠が存在するという。それは即ち〝認知度〟だ。
知る者が多ければ多いほど信仰の基軸は強固たり。
知る者が多ければ多いほど神秘の構造は脆くなる。
この論法に当て嵌めて考えるだに、あの白黒二色という化け猫は一体どうなるのか。〝本物の招き猫〟の直系四十六代目だというあの銀髪小僧は、一体どうなのか。
「下等のくせに上等じゃない」
三つ編みを結わえるリボンが弾け飛び、吹っ飛んだ。解き放たれた黒髪が雨風になぶられていっぱいに靡く。
「まさか日本最多の民間信仰がこの私に喧嘩を売りに来てくれたなんてね――!」
ブローニングを構える拒の右手。腰溜めに低い姿勢を取る白黒。
雨音ばかりがザアザアとひしめく中、唐突な雨に上空のヘリも戸惑ったような旋回を見せている中――両者は今ここで真に真正面から向かい合った。
「今度こそガチで目にモノ見せてやりますでよ? コバミ嬢」
「嬢とか言ってんじゃないわよぶっ殺すわよ? ぶっ殺すけど。更にそのあと潰すけど。昔気質を勝手に気取るのは大いに結構、でも今の時世でそんなこと言ってると風俗関係の人間みたいにしか聞こえないのよ。職業に貴賎は無いそうだけれど、いくらなんでも不快だわ」
「…ヌヌ。そ、それじゃァなんて呼べばイイんでっしゃろかや」
「まださっきの女侠の方がマシよ。でも敢えて希望を言うなら、会長とでも呼んでおきなさい」
瓶底眼鏡に雨が跳ねる。しかし拒の瞳に宿る苛烈な光は微塵も曇らなかった。
「オケオケ。そいじゃァ、ええと、会長サン? あー! テステス! げふんげふん! オゥケィ、テイク二! 〝目にモノ見せてやりますでよ〟! しゃー決まったァー!」
「――具体的には、何をどう?」
「ウェ?」
「別にアンタの〝陣地〟ってわけじゃないんでしょ? この雨は。『あまつみかぼし』は今頃軽くバグってるでしょうね…。とにかく、なんなのよこの雨は。単に力を見せびらかしてるだけ? 誰もが〝アンタ〟を知っているっていう力の後ろ盾に任せて、迷信を無理矢理現実化させてまで遊んでるだけって話?」
「いやいや、んなこたねっースよ? この雨をば降らせてます目的は――」
ここで一拍を挟み、白黒は下弦の月よりも細い細い瞳を見開いた。その眼光は溌剌と金色に輝いている。
「最強を丸裸にする為ですわ! そして今まさに見えましたでよ!」
クワッッッ! と雷光を背負わんばかりの迫力で告げる白黒。
体育館の屋根上に戦場を移した両者を追って、神無月の学生達が渡り廊下にその姿を現し始めた。そして――彼ら全員や拒本人を含めて、誰も彼もが一瞬硬直する。
傘もなしに雨の下。
言うまでもなく拒はずぶ濡れである。
更に更に言えば、ブレザーの下のワイシャツが水気でガッツリ透けている。
もっと端的に言えば。
既に下着の輪郭は見えていた。
「…。……。………」
「…。……。………」
「…。……。………」
「…あー、いや、その、あのですね?」
「…。……。………」
「…その、誤解されると困るんで先に言っておきますけどもよ、その、そう、そう言う意味じゃァなくってですね…?」
「――この色ボケ猫」
ただの殺気だった。
だがそれはもはや明確な圧力を伴っていた。
今や拒は台風の目の如くあった。そんな彼女の今現在一番近くに居る白黒は、全身の水気が飛ぶほどに総毛立っている。
拒は引き金を押し込む指に力を込めて――そして、めいっぱいに引き込んだ。白黒は反応した。引き金が引き切られるよりも早く銃口の向きを見定め姿勢を既に横へ逃がし掛けており――
引っ掛かったわね。
呟いたか呟かなかったか、とにかく拒の脳裏に過ぎったのはその一言だった。
カチリ。
ブローニングが乾いた音を立てた。
弾は出ない。弾切れだった。ここに登って来る時に既に全弾撃ち尽くしていたのだ。
装弾数十二発。
ちゃんと教えてやっていたのに、やはりとんだバカ猫だ。
銃弾の飛来にばかり意識を割いていたのだろう白黒は完璧に虚を衝かれた表情で一瞬――まさに一瞬――目を丸く見開いた。
拒にはその一瞬があればもう充分だった。充分過ぎて余分なくらいだった。
――青信号、急発進。
右手からブローニングを無造作に放り捨てざま右足に全体重を掛ける。右足裏で踏む地面を支えに、自分の身体を真っ直ぐ前方へと吹っ飛ばした。肉体に掛かる負荷? そんなものは〝進入禁止〟で相殺だ。
どんなアスリートでも為し得まい、最初の一歩目で最高速度に乗せる超々々高速機動。
ほとんどラリアットをかますかのような態勢で拒は白黒の顔面をその右手でガシリと――鷲掴んだ。
獲った。
拒は確信した。
「いいわよ。許すわ。見たけりゃいくらでも見てなさい」
そして、囁く。
「その記憶が入ったアンタの脳クソ、即座にブッ散らしてやるだけだから! 〝青信号〟――」
「ニャるほど」
こんな至近距離でしかも顔面を鷲掴みにされている。いつどこへ吹っ飛ばされてもおかしくない絶対の致死距離。
それでも白黒は、この期に及んでまだもう一言、不敵な口を利いた。
「つくづくズブ濡れですわなー、おたく。なんでですよ? なんで――全身に掛かる雨は吹っ飛ばさないんスか?」
好き好んで雨に濡れたいってワケじゃありませんよな?
そう訊いて来た白黒に一瞬眉を揺らすも、しかし拒はすぐにこう応えた。
「――〝急発進〟!」
白黒を後頭部から叩き落とすように、顔面を掌握したまま〝吹っ飛ばす〟。
屋根をぶち抜いた。
鉄骨の建材が爆裂し飛散する。
まだ放さない。拒は諸共に落下していった。床へと叩き付けた瞬間にもう一度重ねてぶちかまして、今度こそ完璧に沈黙させる――!
無人の体育館内、北から南に向かって計五面構えられたバスケットボール用コートの内、両者はそのど真ん中のど真ん中へと墜落していった。
衝撃だけの大爆発がまた上がった。




