ひとつぶの雨
真っ青な空に、大きな雲が浮かんでおりました。
空の青いキャンパスを白で塗りつぶしたかのように、大きな大きな親雲でした。
あるとき風が吹いて、親雲から小さな雲がひとつ、ちぎれて飛ばされてゆきました。
それはもう親雲に比べてずいぶんとちっぽけな、小さな小さな雲の子です。
子雲は風の流れに乗り、見たこともない大地の空へとやってきました。
その大地は乾ききっていて、他の雲のいない場所でした。
そうしてぷかぷか浮かんでいると、地面にひとつの花を見つけました。
まだつぼみをつけたばかりの子どもの花、花の子です。
花の子はしおれて元気がなくて、今にも枯れてしまいそうでした。
そこで子雲は思いつきました。雨を降らせてあげよう、と。
この乾いた大地に雨が降ったならば、しおれた花の子もきっと元気になるはずです。
花の子のためにと張り切って、子雲は力を振り絞りました。
けれども、雨は降りません。
どれだけからだを絞っても、小さな小さな子雲には、雨を降らせることができないのでした。
そうこうしているうちに、地上の花の子は枯れてしまいました。
砂塵を風がさらい、砂に埋もれてしまいました。
それきり顔を出すことはありませんでした。
一生懸命だった子雲は悲しんで、泣いてしまいました。
すると、子雲の流した涙はぽろりと空からこぼれ落ち、ひとつぶの雨になりました。
その雨はぽたりと地面に染み込んで、砂粒をかきわけ、くぐり抜け、埋もれてしまった花の子のもとへ、とうとう辿り着きました。
花の子は元気を取り戻し、覆いかぶさる砂を払いのけ、すくすくと成長しました。
やがて大人の花になり、美しいその身を咲かせてみせたのです。
それから乾いた風が吹きました。
あとには地上にきれいな花が一輪、精一杯に咲いているばかりでした。