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俺達の野球

作者: 亜差覇蚊

これはある企画の為に書いたものですが、没になった為にデータとして残っていて


自分が好きだったのでアップしました。

野球小説ですが、作者は野球に関しての知識がないに等しいので、細かいルールに関してはツッコミ無しでお願いしますm(__)m

 今俺達がいるのは全国の野球男児の夢の舞台

−−甲子園だ

 甲子園で試合するのは初めてだ。

 しかも初めてで決勝まできちまって


「ヤッベ……緊張してきた」


 俺は小坂井 真哉。高校三年の夏でこの機会が巡ってきた。


「お前補欠だろうが」


 こんなこと言いやがるのは久米島 涼太だ。

 テンション下がること言うなよな。


「にしても、俺らが甲子園でしかも決勝に来てんだぞ」


「それは言えてるな」


 俺達は今対戦相手の学校と睨み合ってる真っ最中。

 相手は四国方面にある学校の〇〇高校で、ピッチャーの柿浦が有名だ。

 もちろん守備も強くて有名、どっちかってーと守って勝つタイプだな。


「両チーム、中央へ」


 審判達がボックスからピッチャーマウンドを見る形で立つ


「それではこれより〇〇高校対△△高校の試合を始めます。両チーム、礼」


「「「お願いします」」」


 先攻は相手側

 俺のとこのチームは

1番 ファースト 木山

2番 ライト 片岡

3番 レフト 清水

4番 キャッチャー 郷田

5番 サード 村田

6番 セカンド 久米島

7番 ショート 武蔵野

8番 センター 芝田

9番 ピッチャー 秋野

補欠は俺含めて4人

 てか元々ちっちぇ野球部だったから人がいないんだよ。


「久米島、応援してるからな」


「おう、ぜってぇ勝ってきてやる」


 俺は補欠だからなぁ。

よっぽどでなけりゃ出る場面はねぇ。

 俺の成績は良いのか悪いのかわからない

打てばホームラン必至のあたりだが、あくまで当たればの話だ。

命中率は低い……



「プレイボール」


 審判が手を挙げ開戦を宣言した。

 その瞬間、甲子園ならではのブザーが鳴り響き、続いてアナウンスが流れる


「1番 キャッチャー 木岡君」


 木岡と呼ばれた選手はバットを二、三回振ってからバッターボックスに入る。


「さぁ、うちのバッテリーはどうでるよ」


 俺はキャッチャーが出すサインを見る

様子見の内角低めのストレートか


 ピッチャーの秋野が振りかぶる。

合わせてバッターの木岡もバットを構える。


 ズバンッ

「ストライーク」


 キャッチャーの後ろに立つ審判が、ストライクのサインを出す。

 それと同時にスクリーンのSの欄に、一つ明かりが点灯する。


「よし、まずは一本目」


 マウンド上では秋野がボールを握りながらサインの交換をしていく。


 次は、フォークか。

 これは自慢じゃないがうちの秋野のフォークは怖い、かなり落ちる。


 ズバン

「ストライークトゥー」


 また審判がさっきのポーズをする。

 そしてまた一つ電気が点灯する


「手堅いね。次は、またストレートか」


 ズバンッ

「ストライークスリー バッターアウト」


 木岡が肩を落とす。


「2番 ライト 竹藤君」


 木岡より少しごついめの体格をした竹藤がバッターボックスに立つ。


「何か、当たったら一本いかれそうだな」


 サインはストレート


 秋野が確実にミットを狙って投げる。これは吸い込まれるようにミットにおさまった。


「ストライーク」


 野球の試合って毎回見てて緊張するよ。


「二本目は、またストレートか」


 そのストレートは見送り、次辺りはストレートから変えるべきだろう。


「え? おい、ストレートは危ないって」


 キーーン

 音がなった瞬間、竹藤が一塁に向け走り出す。


「センターフライ、取って! 」


 秋野が振り返り指示を出す。

 芝田は従い数歩下がりミットを構えて、飛んできたボールを受ける。


 副審が手を振り上げ、アウトのサインを送る。


「後一人か……」


 サインはストレート

 秋野が振りかぶって投げる。


キーーン

「ファースト」


 秋野の声はファーストの木山に伝わる。

 木山は直接飛んできたライナーをしっかり受け止める。


 これもまたアウト。


「チェンジ」


 さて、俺らの番だな。


「1番 ファースト 木山君」


 木山はこの野球部で打率が高い。多分売ってくれる。


 相手ピッチャーが振りかぶって、投げる。

 それは絶好球だった。


「もらった」


 カーン

 当たった爽快感がなかった。


 バットに当たったボールは、コロコロとピッチャーの足元に転がる。

 木山は一塁に向け走っていたが、アウトなのを悟っていた。


「2番 ライト 片岡君」


 片岡が木山と入れかわりに打席に立つ。片岡も打てるのだが、あまり遠くへ打てないのが悩みだ。


 カキーン

 うまく当たった。だがそれもセンターフライに終わる。


「3番 レフト 清水君」


 清水は足が早い上に当たればなかなか飛ばすやつだ。


「行ってくるわ」


「一発花火あげてこいよ」


 まぁ、応援だと思ってくれ。言葉使いが下手なんだよ。


 カキーン

 また当たった。だがその打球は運悪くピッチャーへのライナーだった。


「皆すまない……」


 清水がバットを片手にトボトボと帰ってくる。もちろん責め立てるような事はしない。

 仲間だしな


「ドンマイドンマイ」


 次があるさ


 次の回の相手チームの攻撃もしっかり抑えた。

 だが押さえた分、抑えかえされたのが現状。

 それが続き既に6回裏。俺達の攻撃の番だ

 だがメンバーの表情には段々と疲労が現れて来ていた


「久米島大丈夫か?」


「心配すんな」


 この回、始めの打席は久米島からだ。

 久米島から武蔵野そして芝田となる


 久米島がバットを数回振りバッターボックスに立つ


「打ってくれよ、久米島」


 俺は必死に願った。誰かが打たねば始まらない。


 カキーン

 1番いい音に目を開く。すると久米島が打ち返し、一塁に向けて走っていた。

 久米島が打った球はセンターとライトの間に落ちた。

 そのボールをライトが取り、一塁に投げようとした時には久米島はついていた。


「ナイスだ!久米島」


 俺はベンチから手を振ってやる。

 ただ久米島の様子がおかしかった。どこか辛そうな顔をしている。


 そんなときだった。

 監督が試合を止め、審判の所へ行く。

 何かを話し合ってから久米島の所にむかう。


「久米島…足をくじいたんだろ?」


 その言葉に久米島は歯を噛み締めた。

 久米島は一塁に着く直前に、右足首を捻っていたようだ。


「代わりに林を入れる。だから、おまえは休め」


 久米島の目から涙がこぼれ落ちているのがわかった。

 悔しいんだろう。せっかくここまで来たのに……


「監督…俺に行かせてください」


 俺は自然と立ち上がっていた。

 監督は少し唸った。打率のことだろうな。俺は打率低いけど、林は並程度だしな。


「監督……真哉に行かせてやってください」


 久米島が監督にそう言った。


「俺はコイツとずっと一緒なんすよ……だから、コイツが自分から言い出した時は何かやらかしてくれるんですよ」


 久米島が笑いながら話す。


「んな意味わかんねぇこと言うなって」


 俺もつられて笑う。


「そうか。わかった。なら小坂井、お前が行け」


「うすっ」


 俺は帽子を被ると一塁に立つ。


「俺は…久米島の思いも背負ってやるよ」


「7番 ショート 武蔵野君」


 武蔵野はそんなに打つ奴じゃねぇ。だけどバントは半端なくうめぇ。


 俺は目線を武蔵野に向ける。

 すると武蔵野も目線をこちらに向けていたため目があった。

 それと共に頷きあう。

 それは二人だけのメッセージだ。


 俺はピッチャーが振りかぶるのを見た瞬間にスタートする。もちろんピッチャーは気づいたみたいだが足を地面につけてしまったので投げる方向を変えるのは難しいだろう。

 ピッチャーは半ば仕方無しにボールを投げきる。

 武蔵野はバットを振らずに見送る。

 ボールはキャッチャーミットにおさまったが、それと同時くらいに俺は二塁についていた。


「スティール成功」


 武蔵野もよくやったみたいな顔で見てくる。


 ピッチャーの二投目を武蔵野が打ったが、それはファーストにしっかり抑さえられた。


「武蔵野」


 武蔵野の後ろ姿が妙に暗く感じた。


 それからはまた酷かった。8番 芝田と9番 秋野が打てず仕舞いで終わった。


 それから7回は、両チームとも0点で終わった。

 8回表、相手チームの攻撃


 秋野の顔には疲労が浮かぶ。汗を多量にかき、肩で呼吸をしている。

 8回に入って既に二人に打たれた状況。ランナー1、3塁 1アウト

 その中で4番が出てきた。


 秋野はしんどいのを押し切って構える。

 サインはフォーク。だが、フォークも見切られ始めている。


 秋野が投げたフォークは、完全に落ちきらずに完全なウィークポイントに入ってしまった。

 相手の4番は見逃さずにバットを振り抜く。

 その音は今日の試合で初めて聞く音だった。その打球は円弧を描きながら遠くへと飛んでいく。


そして、観客席に入って消えた。


ここにきてのホームラン


 7回まで両チーム無得点で並んできた数字に[3]の文字が点灯する。

 それを見た瞬間に俺の周りの奴らが落ち込むのがわかった。

 次の瞬間、俺はそいつの胸倉を掴んでいた


「何すんだよ、久米島」


「何、諦めてんだよ! まだ返せんだろうがよ。なぁ、まだ諦めんじゃねぇよ! こっちが諦めたら、誰があいつら応援すんだよ」


 思わず涙が出てた。

 俺は、悔しいんだ。しんどい中、皆が闘ってるのに。俺達が諦めちまってるのが……悔しいんだ。


「ドンマイドンマイ!」


 俺はベンチのフェンスから体を乗り出して叫んだ。

 その声は皆に届いたかわからない。だけど言わずにいれなかった。少しでも皆と一緒に闘いたかったから。

 その思いが通じたのかベンチにいた周りの奴らも身を乗り出して口々に叫ぶ。

 そして観客席も

 観客達の中には、俺達の学校の奴らもいただろう。だけどそれだけじゃない。もっと大人数でだ。

 明らかに俺達のチームの奴らが動揺していた。だけどそれは、声援に応えるための起爆材だった。

 秋野はまた気力を取り戻し投げる。さっきまでのフォークと違いまたキレが戻る。

 8回表の点は3点だけでとどめられた。

 次は俺達の番だ。


「よくやったよ秋野…ほら水」


「サンキュー、久米島…おまえの声聞こえたぞ」


 ベンチから叫んだ俺の声は、秋野に届いていた。


「勝ってやるよ」


 秋野が握りこぶしを俺に突き付ける。

 また目頭が熱くなってくる。


「勝ってくれ……」


 ついに涙が溢れ出してきた。とめどなく流れる涙。


「っしゃぁ気合いいれんぞ!」


 秋野が立ち上がる。それにともない皆が円陣を組む。


「泣いても笑ってもこの攻撃と後一回がチャンスだ! 絶対落とせない! いいな! 」


「「「おすっ」」」


「しゃぁ! 行くぞぉ! 」


「「「しゃぁぁぁ」」」



「おまえら」


 木山がバットを持ち、言い放つ。


「俺に続けよ」


 木山が堂々とバッターボックスに立つ。

 相手ピッチャーは前回に交替したので余裕の表情でマウンドに立つ。

 そのピッチャーが振りかぶる。

 それと同時に木山もバットを握る。

 ピッチャーが投げた。早いストレートだ。

 だがストレートなら木山は打てる。


 カキーン

 打った。

 打球はライトの頭上を通り越し、落ちた。

 木山は全速力で走る。

 だが、木山がファーストに着く前に、ライトが球を投げていた。

 木山が頭から一塁目掛けて飛び込む。

 ファーストも球を受け取り、タッチしようと屈む。

 木山が巻き起こした砂埃が、ゆっくりと立ち退く。その時間が長く感じられた。

 そして塁審が手を真横に広げて宣言した。


「セーーフ」


 木山が手を振り上げて喜ぶ。


「次は俺だな」


 片岡がバットを取り、バッターボックスに向かう。


「片岡…頼むぞ」


「当たり前だろ」


 ピッチャーは打たれたことで、焦ったのだろうか。少し慌てた様子を見せる。

 そして絶好のストレート。

 片岡はサードとレフトの間に落とした。

 木山は二塁にたどり着き、片岡も一塁にたどり着く。


「よっしゃ…行ってくるぜ」


 清水もバッターボックスに向かう。清水はバッターボックスに入ると2、3回バットを振る。


 ピッチャーは焦りすぎているのだろう。ストレート以外投げることが出来なくなっていた。

 そのストレートもまた絶好球で打ち返す。

 だがその打球は、木山がスタートした二塁にライナーとして返ってしまった。

 木山は明らかにまずいと言う表情で戻った。だが、戻ると同時にセカンドはボールを受け止め二塁を踏んでいた。

 片岡はライナーが返った瞬間に引きかえしていたために一塁に戻っていた。


「これで2アウト…」


 秋野の顔にも焦りが浮かぶ。


「まだまだだ…まだまだ勝てるさ」


 小坂井はやっぱりポジティブだった。いつも小坂井には助けられる。


「ドンマイ二人とも、ナイスファイト」


 小坂井が戻ってきた二人に言葉をかける。

 だが、二人とも責任を感じてか、しゃべろうとしなかった。


「ほら、木山も清水もまだ諦めんなって」


 小坂井がそう言った時だった。


「皆が皆、お前じゃねぇんだぞ」


 清水が、言い放った。


「お前はいつも馬鹿正直に前向いてるかもしれねぇけど……そういうのが重い時だってあるんだぞ! 」


 清水が顔を背ける。

 次の瞬間、小坂井は清水の胸倉を掴み、殴り飛ばしていた。


「ふざけんなや……俺が馬鹿正直なんは認めてやる。やけどな、お前が違うってんなら、それはテメェが逃げてるだけだろうがよ! 何が重い時もあるだよ! テメェはんなくだらねぇもんだけで重いのかよ。ここにいる皆の気持ち背負うくらいの意気込み見せてみろよ! 」


 小坂井の言葉は皆の胸を打った。

 皆が自覚を持ち出したのだ。

 俺達は皆で一つなんだ。一人一人がバラバラで一つなんじゃない。


「小坂井……俺やってくるわ」


 郷田がバットを手にする。握りしめて感触を確かめてからバッターボックスに立つ。


 ピッチャーはまたストレートを投げてきた。

 郷田はためらいなく振り抜く。


 それはライナーとなりピッチャーに返った。

 だが焦ったピッチャーはグローブで飛んでくる所をカバーしてしまう。

そのグローブにボールが弾かれ、地面に落ちる。


 郷田は一塁に向け、片岡は二塁にむけて走る。

 ピッチャーがボールを取ったのは郷田が一塁についてからだった。


「ナイスだ!郷田ぁ」


 ベンチから小坂井が叫ぶ。その隣で俺も叫ぶ。


 次は村田の番

 村田はすでに、バッターボックスに入っていた。

 ピッチャーは落ち着きを取り戻してきていた。

 だがストレートからかえようとはしなかった。


 村田はしっかりと球を見て、ジャストミートで打ち返す。

 その打球はセンターの頭上を軽々と越える。


 そして木山と片岡と村田が、すべての塁を埋め尽くした。


 そして待っていた奴の番がきた。


「決めくれよ、小坂井」


「あぁ」


 小坂井は俺にガッツポーズを見せるとバットを手に、バッターボックスに立った。


 ピッチャーはまたもストレートを投げる。にもかかわらず小坂井は空振りした。ここにきて命中精度の悪さが出てしまう。


「打たなきゃならねんだよ」


 小坂井はまたバットを構える。

 会場内が見守る中、ピッチャーがまたストレートを投げる。


「ここだぁぁ」


 小坂井が振るったバットは、狂いなくボールを捕らえていた。

 そして小坂井の豪快なアッパースイングでスタンドへと運ばれる。


「っしゃぁぁ!」


 小坂井がバットをその場に置き、手を振り上げながらダイヤモンドを一周する。


「小坂井〜」


 俺は帰ってきた小坂井に、1番に抱き着いた。


「言ったろ?やってやるって」


 小坂井はかなり満足げに言う。見事な満塁ホームランだった。


 その後の武蔵野がアウトになったためにチェンジになった。

 泣いても笑っても最後の回。この回の相手を抑えれば逆転勝利。抑え切れなければまた俺達の攻撃


 切迫するシーンだ。


 秋野はまだやれるようでしっかりマウンドに立っている。だがやはり疲れは目立っていた。


 相手は7番から始まっていた。

 そしてすでに7、8番をアウトで取っているが、9・1・2番を塁に出してしまっていた。


 そして3番

 こいつを沈めれば、勝ちが確定する。


 秋野が静まり返った中で振りかぶる。

 第一投はストライク。

 第二投はストライク。


 そして後一本になった時、秋野の手元が狂った。投げたボールは3番の肩に当たった。


「デッドボールで押し出し」


 これにより同点になる。さらに回ってきたのは前回ホームランを打たれた4番だ。


 追い詰められた4番は、外すわけにはいなかないという顔をしていた。


 秋野も抑えれば勝ちというプレッシャーの中で投げた。だが、秋野の願い虚しく打ち返される。

 しかも、またスタンドに運ばれる


「またホームランかよ」


 これには落ち着いていられなかった。一人を除いて

 小坂井はこの絶望的な中で笑いながら励ましの言葉を贈っていた。

 その励ましでまた息を吹き返す。

 秋野は5番をしっかり抑え切る。

 後は俺達の番だ。


 この攻撃、落とせば負ける。点差は4点。

 打順は8番から回る。


 芝田はまだ希望を持った顔で、バッターボックスに立った。その意思はしっかりと届き、ボールを打ち返した。

 芝田は一塁にたどり着き手を振り上げる。


 秋野もしんどいのを抑えながらも、バッターボックスに立つ。

 秋野は疲労がピークに達していた。だから反応が鈍ってしまって三振。

 だが、もちろん責め立てたりしない。


 次は木山。木山はもう準備して、バッターボックスに立っていた。


 ここに来て、相手チームはピッチャーを柿浦に交替してきた。

 交替して出てきた柿浦はすでに息が落ち着き、充分に体力を回復したのだろう。


 木山は柿浦が出たことに怖じけづいた。だがそれも刹那の事で、すぐにバットをしっかり握り直す。


 ピッチャーが振りかぶる。

 投げられたストレートは、木山のバットのすれすれ下を通りキャッチャーミットにおさまった。


「ストライーク」


 木山の顔に焦りが浮かぶ。

 ピッチャーがまた振りかぶる。

 次もストレート。

 木山はまた振り抜く。


 カキーン

 そのバットは、投げられたボールを捕らえていた。

 木山と芝田は全力で走る。

 そして一塁にボールが届いた時には、木山は一塁についていた。


「よし…ナイスだ。木山」


 俺達はまだまだ諦めていなかった。

 小坂井がバラバラになりかけた心を一つにしたのだ。


「頑張って打ってこいよ…片岡」


「あぁ」


 片岡はバットを持った。そしてバッターボックスに立った。


 ピッチャーは一塁の方をちらちらと見ながら構える。

 そしてピッチャーが振りかぶり投げる。


 ストレートだ。

 片岡はしっかりと打ち返す。打球はライトの近くに落ちたがバウンドし、更に奥に転がっていく。

 ライトが追い掛けている間に、片岡は一塁にたどり着く。

 木山も二塁につき、とまっていた。

 そんななか芝田だけが三塁からホームベースに向けて走っていた。

 ライトがそれに気づきキャッチャー目掛けてボールを投げる。


 芝田が飛び込むとほぼ同時にキャッチャーミットにボールはおさまった。


 判定は……

「セーーフ」


 9回裏、得点板に1の数字が点灯する。


「よっしゃぁぁぁ」


 芝田がおおはしゃぎで帰ってくる。ベンチ陣は帰ってくる芝田を全力で出迎えた。


「芝田〜お前さすがだぁ」


 芝田は恥ずかしそうにしながらも笑う。


「俺も芝田に続けるように頑張るぜ」


 清水が歩いていく。


「清水〜」


 小坂井が呼び止める


「お前ならやれるぜ!」


 小坂井の言葉に鼻で笑いながら手をあげる。

 清水はバッターボックスに立つと、しっかりとピッチャーを見据えた。

 そしてピッチャーがまた振りかぶる。

 それに合わせてバットを構え直す。


投げられた、ストレートだ。

 清水はそれをしっかりと捕らえる。打球はライトとセンターの間に落ち、三人が一気に走り出す。そして木山、片岡、清水は三人とも塁に出ることが出来た。


 次は郷田だ。

 ただ郷田は体力が底を尽きかけていた。

 郷田はバッターボックスに立つとバットを構えるが、肩で息をしていた。

 ピッチャーはまたストレートを投げる。

 郷田はそれを打ち返すが、思い切り打ち上げてしまった。その打球を相手のキャッチャーがしっかりと受け止める。


「郷田」


 郷田は泣きながら、ベンチに帰ってきた。


「ドンマイだ…郷田。さぁ応援しようぜ」


 小坂井が明るく出迎える。郷田は小さく頷き返してベンチに戻る。


 郷田の次は村田だ。

 村田もだいぶ疲れが来ている。振る力すらないのではないかと思うくらいに……

 だが、彼は皆の思いを背負っている。だから彼は諦めないでいた。


 ピッチャーが振りかぶる。

 村田もバットを構える。

 だが、ピッチャーが投げたのは予想もしなかった場所。手が滑ったのだろう、村田の頭目掛けて飛んでいく。


 ピッチャーの顔が唖然とする。もちろん俺達も。

 投げられたボールが、頭なんかに当たれば最悪死ぬ。だが、村田は避けることが出来たのに避けなかった


 村田は身をていしてまで皆の願いを選んだ。

 村田はゆっくりと一塁に向かう。


 木山は押し出しでホームに帰る。その木山も芝田の時と同じように出迎えてやる。


「木山」


 そんな中いきなり小坂井がしゃべりだす。


「片岡、清水、村田」


 次は一塁の村田、二塁の清水、三塁の片岡を見て。


「郷田、芝田、武蔵野、秋野」


 順番に見つめていく。


「平井、秋葉、柊」


 補欠の三人にも目を向ける。


「久米島、監督」


 俺と隣にいる監督にも目を向ける。

 そして右手を左胸にあてて目をつぶる。


「お前らの思い…確かに受け取ったぞ」


 小坂井はバットを引き抜き、振る。

 そしてゆっくりとバッターボックスに向いながら、手を挙げて親指を立ててにぎりしめる。

 そして途中で振り向くと一言だけ言った


「俺が…見せてやるよ」


 そう言った小坂井の顔は、笑っていた。

だけど、とても頼もしく思えた。


 小坂井がバッターボックスに立つ。

 点差は1点。押し出しでも勝てる。だけど、そんな勝ち方はしたくない。正々堂々と勝ち取りたい


 ピッチャーが振りかぶる。

 小坂井もバットを握り直す。


 ピッチャーが投げたのはストレート。だが、今まで見た中で1番早い。

 小坂井もバットを振る。だが、空振りに終わる


 後2本だ。

 ピッチャーがまた振りかぶる。

 小坂井も構え直す。


 ストライクだ。


 後1本。

 俺達のベンチは静まり返っていた。だがそれは、諦めた静まりではない。むしろ願を託した静まりだ。

 この願いはあいつに届くかな? でもあいつ馬鹿だからな……


 ピッチャーが振りかぶる。これが最後になるだろう。


 投げられた。最後までストレート。


 小坂井がバットを振り始める。だが、ピッチャーが投げたのは外角低め。そのままバットを振れば、まず外す。


「皆の思いがあるんだぁぁぁぁ! 」


 小坂井は両手で構えていたバットから左手を離し、目一杯手を延ばして掬い上げるように打った。


 カキーン

 その音と同時に小坂井の右手から嫌な音が響く。一瞬顔を歪ませるが、すぐに走り出す。


 ボールの行方を見ながら……


 ボールはゆっくりと円弧を描き風に乗り外へと流れていく。

 そして……


 ガァァン

 スタンドに入った。

 その瞬間、会場が静まり返ったが、すぐに歓声で耳が痛くなる。小坂井は歓声の雨の中を片岡、清水、村田の後を追い、帰ってくる。ベンチから俺達は流れだし、小坂井の周りを取り囲んだ。


「小坂井、お前」


「言ったろ。見せてやるってな」


 小坂井が笑う。

 それを見た瞬間に、皆が小坂井の体を持ち上げる。


「わぁっちょっ待て、待て、待て待て待て! いてぇいてぇって! 」


 小坂井は腕が折れている。だが、それをチームメイトは知らない。

だからこうやってはしゃげるんだろう。

 数回小坂井を投げ挙げて受け止め、下ろしてから知った。

 皆、口々に悪かったと言っていく。皆悪気があった訳じゃないから小坂井も怒ったりしない。


「それでは…勝利者インタビューを…小坂井さん」


 リポーターの方が小坂井に歩み寄る。


「はい? 」


「最後のホームランすごかったですねぇ」


「あっいや。そんなことは」


「あの片手打ちは腕に負担があったと思われますが、何故あそこまでやろうと思われたのですか?」


「そんなの、決まってんじゃないすか……」


小坂井は俺達の方を見る


「こいつらの思いがあったからですよ! 」


「そうですか。インタビューありがとうございました」


リポーターは戻って行った



「俺、真哉の事忘れねぇよ」


「何言ってんの? 全員だろ? 」


「そうだな……全員忘れねぇ。ついでに甲子園で優勝したこともな! 」


「ったりめぇだろ」


 俺達の思いは小坂井という一人の男に成し遂げられた。

 だけどそれは結果論だ。それに至るまでに、俺や皆の力が合わさってこうなったんだ。


 この大会で学んだことは数え切れないほど大量にある。だけど1番大切なのは

一つの目標に向かって、一つになることだよな



〜Fin〜

この小説はフィクションです

いかがだったでしょうか?



まぁ最終的には野球がよかったねじゃなくて野球を通して皆が纏まるのがよかったねみたいになってますね


正直なとこ、協力してくれた友人に「ストレートしか投げてないやん」とツッコミいれられたんですがね〜


名前はわかるんですが変化がよくわからないんで書きにくいんですよね〜


いや、これはほんとに

知らないものを書くということほど難しいものはなかったですね


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― 新着の感想 ―
[一言] スゴイ! 臨場感たっぷりによく書けておりました~。目の前に光景が浮かぶようでしたよ。 スポーツものの小説は、本当に書くのが難しいですよね。 今は削除して作品はありませんが、自分も前にちょっ…
[良い点]  打ったり打たれたりで、本当にドキドキしました>< 最後までわからない所が凄く良かったです!! [気になる点]  悪い点というか、題名の「俺達の勝利」というのが、「勝つのかな?」という予想…
[一言] 実は僕も別サイトで高校野球の小説書いていました。 野球って投げて判定、打って判定で単調な展開になりやすいんですよね。 でも細かく心理などを入れていくと、一試合どころか一イニングだってものすご…
2011/07/14 00:51 退会済み
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