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第8話





「はぁ……痛えな……」


 俺は鞄から回復ポーションを取り出し、一本を穴が開いた手にかけて、もう一本は口に流し込んだ。


 すると、次第に傷口は塞がっていき……穴は無事に完全に塞がってくれた。


 俺は手を開いたり閉じたりして、動きを確認する。


「大丈夫そうだな……。ポーションで完全に治ってよかった……」


 手に後遺症が残れば、銃作りにも支障が出るからな……。


「えっと、こいつらは……どうしよう」


 殺すというのも手だが……急にBランク冒険者が死ねば事件になるだろうしな……。

 とりあえず、衛兵でも呼んでおこう。


 俺は帰り際に衛兵を呼び、宿へ戻った。




 ――◇――◇――◇――




 宿に戻ると――宿の前でラディアが物憂げな顔をして立っていた。


 彼女は俺の姿を見ると、一瞬だけ安堵したような柔らかな表情になる。


 ――が、すぐに驚愕で目を大きく見開いた。


「く、クライン!? その服についた大量の血はどうしたの!?」


「え……?」


 俺は自分の体に視線を落とすと……服に大量の血がついていた。


 そうか、手を貫かれた時に……。


「ねえ……何があったの……?」


「え、ええっと……これは……」


 俺は衝動的に左手を隠してしまった。


「……左手を怪我したの?」


 ラディアは何もかもを見透かすような青く透明な瞳を俺に向けてくる。

 瞬きもせず、じっと。


「……はい」


 俺は正直に全てを話すしかなかった。


 酒場で会った男が魔法使い数人を連れて俺を襲ってきたこと。

 結果として左手を怪我して大量に出血したことなど。


 俺は事細かに話した。


「……ごめんなさい」


 ラディアから最初に返ってきた言葉は謝罪だった。


「私……クラインを守るって約束したのに……。クラインを危険な目に遭わせて……」


 ラディアは下唇を噛み、


「怪我は……? もう全部、治ったんだよね?」


「あ、ああ。中級ポーションを二つも使ったから大丈夫だと思うけど……」


「……ちょっと待ってね」


 ラディアは自身のポーチに手を伸ばし……一本のポーションを取り出した。


「そ、それって……上級ポーションか……!?」


「うん。上級ポーションなら血も回復するから」


「でも……それ、結構高いんじゃ……」


「大丈夫。口、あけて?」


 ラディアは有無を言わさぬ勢いだった。

 俺は大人しく口を開けると……ラディアがゆっくりとポーションを流し込んでくる。


 ポーションは雑草を煮詰めたような苦さがした。


「んっ……ありがとう。けど、心配しすぎじゃないか?」


「もしも後遺症とか残ったら私が困るの」


「あ、はい」


 ラディアは苦い顔を浮かべ――


「……まさか、こんなに早く襲撃してくるなんて……」


 やるせなさそうに呟いた。


「これに関してはラディアは関係ないよ。実は別の人が俺の銃について言いふらしてたみたいで……」


「関係ないよ。私はクラインのことを守るって約束したんだよ? だから、元とはいえ騎士として――約束は絶対に守らなきゃいけない」


「そ、そこまでか……?」


 少し……重くないか?

 俺としては助けて欲しい時に助けてくれる……くらいの感覚だったんだが……。


「流石に考えすぎだよ。そしたら、ラディアは俺のことを四六時中、見ていなきゃいけなくなるじゃないか」


 そんなの無理だから気張らなくていい。

 そういう意味合いで言った言葉だった。


 しかし――


「……そうだね。これからは四六時中……いや、せめて夜は絶対に守らなきゃ」


「え? ま、待って? そういう意味で言ったんじゃじゃなくて――」


「よし決めた。クライン、これからは夜、外出する時、私もついていっていい?」


「え? で、でも……そしたらリリスはどうするんだ?」


「リリスは……。うーん、私が二人いれば楽だったんだけど……」


 ラディアが少し悩んでいると――丁度、宿の方からリリスが出てきた。

 リリスは俺の姿を見て一瞬、安堵し……そして、すぐに驚く。


「……お兄さん? 大丈夫ですか!?」


「心配しなくて大丈夫だよ。ちょっと怪我しちゃっただけだから気にしなくて大丈夫だから」


「でも……凄い量の血ですよ……!?」


「大丈夫。中級ポーションを2本も使ったし、今さっき上級ポーションも使ったから」


 俺は心配させないように、ヘラっと笑った。


「……決めた。これから外出する時は三人で外出することにしない?」


 リディアは突然、そんなことを言い出した。


「別に俺は自衛くらい出来るぞ?」


「ううん、ダメだよ。きっと相手は今度はAランク冒険者やBランク冒険者二人を寄越してくる。それでもクラインは自衛し切れる自信がある?」


「……無いな」


 よく考えてみれば……今回だって運が良かっただけじゃないか?


 相手が油断してくれたから、閃光弾を当てて視界を潰せた。


 けど、もしも不意打ちだったら……。


 想像するだけで寒気がした。


「じゃあ、三人ともこれから夜に外出する時は私と一緒だからね?」


「わかったよ……」


「私もそれで大丈夫です……!」


 リリスも心配そうな表情で頷いた。


「君は魔法が使えない人々にとっての唯一の希望なんだから……絶対に死なせない」


 ラディアは強い意志のこもった瞳で、呟くように言葉を溢した。









「……でも、これはちょっと違くないか?」


 夜。

 結局、俺は同じ部屋で寝ることを強制された。


 いや、俺も必死に抵抗したんだよ?

 でも、ラディアとリリスに両腕を掴まれ、無理矢理、同じ部屋に押し込まれてしまった。


 結果――


「すぅ……すぅ……」


 俺の右腕を抱きしめ、静かな寝息を立てるラディア。

 そして――


「ん〜……お姉ちゃん……」


 左腕を抱きしめ、同じく静かな寝息を立てるリリス。


 ……おかしいだろ!?


 流石にベッドは別々かと思ったら、まさかの同じベッドで寝ることになってしまった。


 お陰で暑苦しくって仕方がないし……くっついているせいで二人のシャンプーの匂いや柔らかな肢体の感触がして、全然寝れない。


「明日は寝不足確定だな……」


 心地良さそうに眠っている二人を見て、俺は苦笑いを浮かべた。


 けれど……久しぶりの人肌の温もりを感じて、悪くない気分だった。









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