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第5話



「……? その銃は何……?」


 ラディアは俺の取り出した銃を見て、首を傾げる。


「これは俺の最高傑作の銃だよ。俺はこいつは精霊魔法に勝る銃だと思ってる」


「精霊魔法に……勝る?」


「元々、この銃を売る気は無かったけど……そんなに熱い想いをぶつけられたら、俺も出し惜しみするべきじゃないと思ってさ」


 俺は遠くにある豆粒くらいに見える岩を指差す。


「あそこ……300mくらい先に岩があるよね」


「うん、確かにあるけど……まさか、あそこに――?」


「そのまさかだよ」


 俺は照準器を覗き、慎重に岩に照準を合わせる。


 そのまま引き金を引くと、三つの魔法陣が展開された。

 魔法陣が収束した瞬間――『シュパン』という音と共に、軽い衝撃が腕を揺らした。


 弾は……一目で岩に命中したとわかった。


 なにせ――


「岩が……砕けた……!?」


 ラディアが、驚愕で目を見開いた。


 岩はバラバラに砕け散っていた。


「あんな遠くの物体をここまでの威力で攻撃するなんて……」


「どうだ? これを見ても魔銃は精霊魔法より劣っていると言うか?」


 ラディアは、しばらく沈黙した後に首を横に振った。


「……これと同じことが出来る精霊魔法なんて……中々無いよ。あったとしても詠唱にはかなりの時間がかかると思う」


 ラディアはブツブツと独り言のような言葉を続ける。


「攻撃までの時間、射程距離、威力……全てを考慮したら……精霊魔法と同格と言っても過言じゃない……ッ!」


 ラディアの肩は震えていた。

 多分、彼女自身も無意識だったのだろう。


 震える自身の体を見て、少し驚いていた。


「時代遅れと言われた魔銃が精霊魔法と同格だなんて……一体、この銃はどういう仕組みなの……?」


「まあ……そこが気になるよな」


 俺はまず、銃弾を取り出す。


「まず、使っている銃弾は空間魔法の〈断裂〉を付与(エンチャント)した銃弾だ」


「……ん? く、空間魔法?」


「そんで銃に組み込まれた三重の雷魔法で銃弾の中に入れた水を一瞬で熱することによって蒸気を発生させて、その力で銃弾を発射……って、ラディア?」


 ラディアは呆然とした表情で固まっていた。


「い、意味わかんない……。空間魔法の付与!? 三重の雷魔法!? どれも聞いたことがないんだけど!?」


「そうか……?」


 確かに両方とも習得には時間がかかったが……両方とも普通の職人なら出来るもんだと思ってた……。


「あまりにも規格外すぎるよ……。そもそも普通の銃は風魔法で銃弾を発射するものじゃないの……?」


「あー、従来はそうだったらしいね。でも……それだと風を溜めるまでに一分以上かかるし、精度も速度も悪いじゃん? だから改良したんだよ」


「簡単に言ってのけるけどさ、普通、そんなことは……」


 ラディアは途中で言葉を止めて、ため息を漏らした。


「クラインの技術が規格外であることはよく分かったよ……。でも、いいの? 私にこの銃を売っちゃって……」


「……? どういうことだ?」


「私がこの銃を使って活躍すれば、きっと銃の出所を探す者が現れる。そうすれば、いずれ……クラインの実力が明るみになるでしょ?」


「なんだ、良いこと尽くしじゃん」


 魔銃の名誉挽回にもなるだろうし、銃職人としては嬉しい限りだ。


 しかし、ラディアは複雑そうな顔をする。


「クラインの仕事は増えるだろうし、魔銃の名誉挽回にもなるけど……クラインのことをよく思わない連中だって沢山現れると思うの」


「よく思わない……?」


「例えば魔法使いたちだよ。一部の過激な魔法使いは自分たちの地位が危ぶまれると知れば、きっとクラインを殺そうとするだろうね」


「っ……!?」


 確かに……優れた魔銃を作れるのは俺だけなのだから、俺を殺してさえしまえば精霊魔法の立場が揺らぐ心配はなくなるな……。


「でも、別に襲撃されても俺だって魔銃で撃退できるし……」


「……私の膝蹴りを反応できずに食らったのは誰だっけ?」


「うっ」


 その話を持ち出されると、耳が痛い……。


「だからさ……。クラインのことを第一に考えるなら、私にその銃は売らないほうがいいよ。私は敵が多いし、きっとクラインは……誘拐されたり、殺されたり酷い結末を辿ることになると思う」


 ラディアは俯きながら……ギュッと拳を固く握り締めた。


 でも……俺は一瞬だけ見てしまった。


 ――ラディアが死ぬほど悔しそうな顔で血が出るじゃないかってくらい強く下唇を噛んでいたのを。


「……あーあ、この銃があれば、もしも魔法使いが飛行魔法を使っても簡単に撃ち落とすことが出来るだろうなぁ」


「ッ!?」


「地上戦となればラディアに負ける要素はないだろうし、どんな魔法使いにも勝てるだろうな〜」


「……私だって」


 ラディアは顔を上げると――少し苛立った様子で口を開く。


「私だって同じことを考えたよっ! でも……妹の恩人を危険な目に遭わせるわけにはいかないじゃん……!」


「ラディア、本心を言ってくれ」


 ラディアの顔は……何かを言うのをずっと我慢しているようだった。


 彼女は少し逡巡した後、真っ直ぐな瞳で俺を捉えた。


「――私は……絶対に君を守ると約束する。だから……お願い」


 ラディアは勢いよく頭を下げた。


「私に銃と銃弾を提供して……ッ! お願いッ!」


「うん、いいよ」


「……い、いいの?」


 俺が即答したことに驚いたのか、呆気に取られた様子でラディアは頭を上げる。


「ここまで熱い気持ちをぶつけられて断る職人はいないよ。魔法に勝ちたいってのは俺も同じだからね」


 今度は俺がラディアの瞳を真っ直ぐ見つめて――


「ラディア。これから、よろしく」


 俺は手を差し出した。


 ラディアは一瞬、感極まったように目に涙を溜めると……勢いよく俺の手を取った。


「ありがとう……これで、どんな魔法使いに襲われても妹を守れるよ」


 ラディアは胸に手を添えて、騎士らしく感謝を告げる。


「そりゃあ良かった。えっと……ラディアは魔銃の使い方、わかるか?」


「昔、何回か触ったことはあるかな」


「なら、一応、教えておくか」


 俺は魔銃をラディアに手渡す。


「まずは銃弾の入れ方だな。昔ながらの魔銃と違って銃口から弾は入れないんだ」


「そうなの?」


「効率が悪いからね。この銃は銃の上部を開いて、そこから弾を入れるんだよ」


 俺は銃の上部の部品を指差す。


「これが銃の上部を開けるための扉の取手みたいなやつ。これを捻って引いてくれ」


「……こう?」


「そうそう。そこから弾を入れてくれ」


 ラディアは指示通りに銃の上部から弾を一発、押し込みながら入れる。


「じゃあ、それを後、四回繰り返してくれ」


「四回……? この銃、複数の弾を装填できるの?」


「うん、その銃は最大で五発まで入るからさ」


「五発も……!? そんな銃、初めて聞いたよ……」


 ラディアは驚きながらも同じ作業を四回続ける。


「それで、銃の上部を閉じれば装填完了だな。構え方は……」


「見てたからわかるよ? 銃の後部を右肩に付けたまま、右手で引き金に手を添え、左手で銃身に手を添えればいいんでしょ?」


「そうそう。試しに撃ってみて」


 ラディアは頷くと、銃を構え、真剣な表情で照準器を覗く。


 そして――引き金を引いた。


 刹那、300mほど先にあった岩は砕け散る。


「やっぱり凄い威力……」


 ラディアは銃を見て、しみじみと言う。


 俺はふと、空を見上げた。

 いつの間にかに、もう夕暮れ時になっていた。


「じゃあ、もう暗くなってきたし、帰ろうか。代金に関しては明日、話そう」


「そうだね」


 俺は銃を返してもらい、街へ歩みを進めた。


「……そういえばクライン。今日の宿はあるの?」


「これから探す予定だけど……?」


 どうして、そんな質問を?

 俺が疑問に思っていると――


「――なら、私の部屋に泊まったらどう?」


 突然、爆弾発言をしてきた。



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