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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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5/7

#5

「売られる、ですって?」

「孤児院の、院長が、奴隷商と、つながってて。ハア、ホントは、俺が、売られる予定だったのに、リリが、俺の妹分が、俺を隠して、でも、俺がいないと、代わりにリリが売られるんです!」


 断片的な情報を息も絶え絶えに伝えてくる少年。

 彼の話が想像よりも悪いものだったので顔が険しくなる。

 この国で奴隷制度は犯罪奴隷以外禁じられている。

 ましてや、孤児院の者が子どもを売りさばくなど。

 我が領で随分となめた真似をしてくれる。


「孤児院の名前は?」

「リヒテン、孤児、院……」

「分かった。すぐに向かおう。詳しい話を馬車の中で説明できる?」


 傷だらけの少年を抱き上げ、馬車に向かう。


「閣下、そのような者を抱き上げるなど!」


 私の行動に耐えかねた騎士の一人が我に返ったように叫ぶ。


「うるさい。お前たちがこの子をここまで傷つけたのに任せておけるか」


 それに、と付け加えながら馬車に少年を乗せ、私自身も乗り込む。


「今から向かうはずの目的地で不正があるなら、誰であれ話を聞かねばならないだろうが」


 馬車が走り出し、慣れない感触に一通り驚き終わった彼にいきさつを聞く。


「少しは落ち着いたかしら? 何があったのか、焦らなくていいから教えてちょうだい」


 先ほどのやり取りから少し落ち着いたのか、少年はゆっくりと、しかし、詳細にこれまでの経緯を私に語った_。


_______

(side ビリー)

「次は、ビリーが売られるの。取引は、二日後よ」


 リリの宣告は端的で、そして残酷なものだった。

 確かにリリの話が本当なら、六歳を超えた俺に残された時間はそうないし、隣国の商人は毎月の七日に来るから、連れて行くには都合が良い。

 リリが焦るのも無理はない。俺たちを巻き込んでいるのも、売られるのが自分ではなく、俺だからだろう。

 リリ自身が対象なら俺たちを巻き込むような真似は絶対にしない。俺の妹分はそういうやつだ。


 彼女の言葉を理解していくと共に、末梢神経から感覚がなくなっていく。

 ……俺は奴隷にされるのか?

 奴隷がどれだけ悲惨な末路をたどるのか、孤児院に来る三歳までスラムにいた事もある俺はよく知っている。

 心臓の鼓動が早くなり、ガクガクと脚が震え、恐怖で顔が真っ青になっているのが自分でも情けないとどこか他人事のように感じる。


 そんな俺をつなぎとめるように、リリがその蒼い瞳でじっと顔を見つめながら、俺の手をぎゅっと握る。


「大丈夫。ビリーは私が守る。酷いことは絶対にさせないわ」


 それから、少しだけ不安そうに皆に向き合うと、付け足して言う。


「皆が、助けてくれると、嬉しいんだけど」


 ダンっ。机を叩いてメルが立ち上がる。

 こちらへきて、俺とリリの手の上に自分の手を置くと、いつになく大きな声で言った。


「だいじょうぶ! わたしも、ビリーをまもる!」


 双子もそれに続いて同じように手を乗せて言う。

「おれたちも、もちろんてつだう!」

「あくとうのすきにさせてたまるか!」


「ぼくも。もちろんネラも、だよ」

「ううゆー!」


 アノンは膝にネラが乗っているからと、みんなで手をそちらの方へ連れて行く。

 アノンはネラの手も取って一緒に一番上に重ねた。

 ピンチなのは俺のはずなのに、俺以上に嬉しそうに笑ったリリはほっと胸を撫で下ろしている。


「良かった。皆が信じてくれて」


 どこか苦しそうにも、切なそうにも見えるその表情は、ずっと一緒にいる女の子なのに、どこか知らない大人の女性のようにも見える。

 それが、少しだけ嫌だった。


「……それで、俺たちはどう動くんだ?」

「まずは、ビリー。あなたには、孤児院から一回逃げ出してもらわなきゃいけないわ」


 真顔で言ったリリの言葉に思わず反論する。


「逃げるって、お前たちを置いていけってのか? 俺はリーダーだぞ⁉」


 院長は不正なんかしてなくとも信用ならない大人で、俺たちの生活はほとんど自力で回しているようなものだ。

 力仕事ができるような子どもは俺を除いていない。

 しかも、あの院長なら俺がいなくなったら当たり散らすように、年長になるリリの仕事を増やすに違いない。


「落ち着いてビリー。本当に私たちを置いてけなんて言うわけないでしょ」

「……どういうことだ?」

「要は、商人がくるタイミングで商品がいなきゃいいのよ」


 リリの説明に俺はピンときた。


「つまり、その日だけ隠れてれば良いってことか?」

「そうそう! ほかの商売だってあるのに、出てくるか分からない子どもに、そんなに時間はかけられないと思うの」

「確かに、あの商人、毎回すぐに帰るもんなあ」


 毎回来る商人はすごく気忙し気で、院長との商談の間でさえ、ずっと貧乏ゆすりをしているくらいだ。

 それに長居することは悪人にはリスクが高い行為だから、都合がつかなきゃ一旦帰って仕切り直そうとする可能性が高い。

 そう納得していた俺は、リリが横で小声で小さくぼやいていたのを気付かなかった。


「……まあ、公爵家の人が来るまで引き延ばせたら勝ちよね」


「リリ、ひとつきいてもいい?」


 黙って話を聞いていたアノンが声を上げる。

 ネラを除いて一番ちびのアノンだけど、双子やメルと比べても、時間はかかるが物事を理解する力はしっかりあるのだ。


「それって、なんかいもできることじゃないよね? いんちょうせんせいも、すごく怒るんじゃない?」


 アノンの問いにリリはこくりと頷く。


「たしかにアノンの言うとおりだけど、一回しのげば次までに具体的な作戦が考えられるもの」

「なあなあ、それでビリー以外はどーすんの?」

「そうそう! おれたちにもできることくらいあるだろー?」


 唇を尖らせて、双子がリリに詰め寄る。

 後ろでは口にこそ出さないが、同じことをメルも考えていることが伝わってくる。


「もちろん、皆にも協力してもらうから安心して。あのね……」


 そして翌日。

 俺は、そうと悟られないくらいの旅装で孤児院を出る。

 院長には院長室の扉の外から、ちょっと森にキノコを取りに行ってくるとだけ告げた。

 普段から子供が近隣の森に日帰りで赴くのはよくある事だから、院長は疑いもしないだろう。


 俺はいったん正門を出てから、敷地の裏に回ると、塀に素早くよじ登った。

 塀の上から、裏庭に待機していたリュットが頷くのを確認して、音を立てないように気を付けて飛び降りる。


「……ビリー、こっちだ! リリが作戦通り倉庫を開けといてくれてる」


 リュットが移動しながら小声で教えてくれる。

 そう、俺が身を隠すことになったのは孤児院の裏にある倉庫だ。

 裏倉庫には、使われなくなった備品や食料が保存してあるが、院長が鍵を管理していて基本的には潜り込めないのだ。

 リリは先日院長がいない隙に鍵を別のものとすり替えておいたのだ。

 そっと、倉庫の扉を開くと、中は薄暗く、女の子であれば泣いてしまうような静けさがある。

 俺だってこんな状況じゃなかったら、進んで入りたいとは思わない。

 ここまでついてきてくれたリュットだって既に涙目だ。


「リュット、俺は大丈夫だから、見つからないうちに皆の所へ戻れ」


 そう言って頭をなでてやると、誤魔化すように目線をずらしてから頷く。


「……分かった。何かあったら、連絡しに来る。リリが良いって言ったらまたこっそり来るから」


 それだけ告げると、リュットは風のように駆けて行ってしまった。

 あの分なら院長には見つからずに戻れるだろう。


 倉庫の扉を閉じてしまったので、中は暗く、物を倒さないように気を付けながら箱と箱の隙間に潜り込む。

 ここからの俺の仕事は、商人が帰るまで大人たちに見つからない事。

 食べ物も三食分はくすねてあるので十分持つはずだ。

 することもないので、ただひたすら目をつむり、じっと耐えて待つ。


 自分の守るべき兄弟分たちに助けられているという悔しさが、俺が眠りにつくことを何度も邪魔する。

 それでも俺が勝手に動くよりはましだろうとじっと耐えていると、だんだんと睡魔が近くなる。


 どれくらい時間がたっただろうか。

 日が暮れ落ちて、そろそろ人々も寝静まるという頃。

 すっかり寝入っていた俺を揺さぶり起こしたのは、ちびのアノンだった。

 アノンは小声で叫ぶ。


「ビリー、ビリー起きてよ、大変なんだ!」

「あ、アノン? お前どうしてここに……」

「かぎをぬすんだことが、いんちょうせんせいにばれたんだ!」

「何だって!」


 思わず、大きな声を出しかけて、慌てて口を押さえる。

 そんな状況なら余計に大声はまずい。

 俺はすぐさまアノンを問い詰める。


「皆は? 今どうなってる? リリたちは無事か?」

「いんちょうせんせいが、かぎがないのにきづいて、さがしはじめたんだ。それでリュットが、うっかりかぎをおとしちゃったのが見られて……」


 アノンは怖さを振り切るように声を絞り出す。


「リリが、じぶんがなんとかするから、アノンがビリーに伝えてって」

「伝える? 何をだ?」

「『今すぐ街道を領都の方へ真っ直ぐ走って』って。偉い人の馬車が来るはずから、助けを求めてくれって」


 街道? 偉い人の馬車が通る?

 正直なところ、指示の意味は分からなかったが、アノンを通してリリがどれだけ必死に考えたかも伝わってくる。

 俺は伝言を聞き、静かに覚悟を決めて立つ。


「分かった。アノン、必ず戻ってくるから、待っててくれるか?」

「うん!」


 再び裏の塀を飛び越えて、街道の方へ向かう。

 アノンの表情から察するに相当猶予がなさそうだ。

 俺を助けるために、だ。

 息が切れるのも、足がもつれるのも構わずに全力で走る。

 途中何度も、石や草に足を取られて転んだが、そんなことはもう気にする余裕もなかった。

 やがて、日が昇り、すっかり高くなるころには、俺の体はもう、満身創痍だった。


 本当に、「偉い人の馬車」が来るのか?

 体力も尽きかけ、リリの発言を疑問に思いかけたところに、馬のいななく声がかすかに聞こえる。

 遠くを見やれば、騎士たちに護衛された馬車の一団がこちらに向かってくるのが見えるではないか。

 あれだ! あれが、リリの言う偉い人に違いない!

 いい加減、限界が近かった俺は、無我夢中で一行の前に飛び出した。


「どうか、俺の大事な家族を、救ってください!」

お読みいただきありがとうございます!


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次回更新予定 2/6 12:00


以下感謝のメッセージ

本作一話に誤字報告がありました。なかなか気を付けてはいるものの、見逃してしまう場合も多いので本当に感謝です!


また、メッセージを送っていただいた方、この後返信させていただきたいと思っております!

こんなにしっかり読んでいただけていたなんて感涙です……!

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