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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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21/25

#21

ずっと遅れててすみません……

「アノン、待たせちゃってごめんね?」


 ビリーの話を聞いて、私はアノンにどう接するべきなのか判断がつかないままにアノンの待つ台所に向かった。

 台所は調理台だけでなく、簡素なテーブルも置いてあって、二、三人で休憩できるような形になっている。

 子どもたちだけで暮らすことを配慮したのか、踏み台が置いてあったり、調理用具が低めの位置に設置してある。


 アノンはテーブルの方で豆をさやから剝いていたが、私に気づくとパッと顔を上げ、テーブルの上を片付けると私を招き入れた。


「大丈夫だよ。お話の間、ビリーがリリを独り占めしてるのは羨ましいけど、僕とも一緒に過ごしてくれるならそれでいいや」


 私がテーブル横の椅子に座ると、アノンは私のすぐ横に椅子をもってきて座り、ぴったりとくっつく。

 確かに彼の言動は、ビリーの指摘通り私の記憶よりもずっとしっかりしていた。


「アノン、新しい家はどう? 何か困っていることだったり、不安だったりすることは無い?」


 ひとまずは何か話題を振ろうと困ったことは無いかと問いかける。

 けれどアノンはその問いに答えず、その翡翠のように透き通った緑色の瞳で私にこう聞き返した。


「……リリは、お姉さんとの生活はどう? 楽しい?」

「私? ……うん、とっても楽しいよ。お姉さまも気にかけてくれるし、今日一緒に来た侍女のミディも素敵な人だもの」


 到着時のひと悶着を思い出して即答は出来なかったけれど、これもまぎれもない本心だ。

 前回とは比べようもないほど、周りの人々は私を気遣ってくれるし、身の危険も感じない。

 この先に待ち受ける悲劇を知らなければ、このままずっとこの生活を続けたいくらいには。


 私の返答を聞くと、アノンは頷き、笑顔になる。


「ふうん、そっか、なら良かった。僕も大丈夫。ビリーが全部やってくれようとするのが心配だけどね」

「アノン、なんだか大人びたね」


 年長であるビリーを心配するアノンの言葉が三歳の言葉というより、もっとずっと大人の言葉みたいでつい笑ってしまう。

 だからそのあとにさらりと続いた返答の違和感に一瞬、気付くのが遅れてしまった。


「大人びたというよりは、中身がそのまま昔の体に入ったって感じなんだけど、リリは違うの?」

「私もそうだけど、心が体に引っ張られる感じ……って⁉」


 さも、自分の変化と同じことが私のそれと同質だと話す彼に、遅ればせながら気付く。

 反射的に椅子から立ち上がり、距離を取る。


「それじゃ、もしかしてアノンも?……」


 過去に記憶を持って戻ってきたの?

 口に出すには衝撃的すぎて、私が続けられなかった言葉を察したのであろうアノンが頷いた。

 私の反応に傷つくそぶりも見せず淡々としているその姿も、巻き戻りの結果だと言われれば納得がいった。


「そ、僕も十数年先の未来から回帰してきたんだ。やっぱりリリも戻ってきちゃったんだね。おかしいな、対象は僕だけのはずなんだけど」


 私に向かってそう答えながら首を傾げるアノンに私も疑問を覚える。

 対象? 僕だけ?

 ……私の知らない何かを知っているの?


 私の疑問をよそにアノンは話を続ける。


「リリはどの時点から巻き戻ってきたの?」

「私、は……」


 アノンの問いに最後の光景がフラッシュバックする。


 慟哭するお姉さま。

 口々に私を罵る観衆。

 徐々に感覚を失っていく血塗れの体。


 記憶に呼応するかのように息苦しくなり呼吸が出来なくなる。


「リリ! ごめん、そうだよね、言わなくて良い! 聞いた僕が悪かった! 言わなくて良いから……」


 顔を青くして崩れかけた私を見たアノンは慌てて駆け寄り、謝りながら背中をさすってくれる。

 その手のひらの暖かさに、現実に引き戻された私が少し落ち着いたのを確認すると、アノンは心から安堵の笑みを浮かべた。


「……アノンは私にこの先何が起きるかも、知ってるの?」


 さっきの反応を見るに、彼は私が処刑されたことを知っているに違いない。


 前回の私は孤児院を離れて以降、皆と会うことは二度となかったけれど、私を引き取った後の調査で、孤児院の院長は罪が暴かれ処刑されたと聞いた。

 もし無事にあの孤児院から解放されたなら、私の名前を聞く機会も多かっただろう。

 ほとんどは、私を嫌う人たちからの悪評なんだろうけど。


 アノンはついと目線をそらして言った。 

 翡翠のようにきらめいているはずのその瞳に昏い影が落ちているのを私は見た。


「まあ全部じゃないけど、断片的にね。僕はリリより六年長く生きてたから」


 どこか自分自身を嘲笑するような言い方をした彼を見て、そちらの人生も碌なものではなかったらしいことを確信する。

 それと同時に先ほどの発言で気になっていたことを口にしてみる。


「ねえ、さっき対象がどうとか言ってたよね? アノンはこの巻き戻りの原因を知ってるの?」


 答えによっては敵対することになるかもしれないその問いに、アノンはあっさりと答えた。

 私は、その予想外の回答に固まることになる。


「知ってるよ。だってこの回帰は僕が仕組んだものだから」



 ______世界の破滅をもたらす、魔王の誕生を回避するために、ね。

お読みいただきありがとうございます!


次回更新予定 3/16 (今度こそは)12:00

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