#19
またしても、間に合わず……
「とりあえず中に入れよ。あ、お付きの人もどうぞ」
「良いの?」
「まあ、俺たちだけじゃ何かあった時に不安だし、な」
ビリーに先導されてリビングルームに入ると、ドア前に待機していたのか、真っ先に勢いよく抱き着いてきたのは薄紫のワンピースを着たメルだった。
「リリ! 会いたかった……」
「メル」
続いて椅子から勢いよく立ち上がった双子も数秒遅れで私の所まで駆けてくる。
こちらは若草色のズボンにワイシャツとシンプルだが、二人によく似合っている。
皆の服もきっとお姉さまが手配してくれたのだろう。
後ろではアノンがネラにご飯を食べさせているところだった。
彼も、私に気づくと、ネラの口元を拭き、椅子から降りてこちらにやってくる。
「「リリ!」」
「あ、ずるいや。三人とも真っ先に行っちゃってさ。ネラの面倒見るのもずっと僕がやってるし」
ビリーは、アノンと交代して、テーブルに向かうとネラを抱き上げてこちらに連れて来た。
ビリーが片手でアノンの頭を軽くなでる。
「それに関しては双子に任せるよりお前の方が安心できるんだよなあ」
「やーの?」
「別にネラが嫌いなわけじゃないから良いんだけど。僕、まだ三歳なんだよ?」
取り敢えずは、皆顔色は良さそうで一安心だ。
ご飯も今までより食べることが出来ているからか、元気も増しているけれど。
「リュット、テッドいきなりだとびっくりしちゃうよ……。アノン、ネラも、元気そうでよかった」
「久しぶり、リリ。体調崩してない? 意地悪とかもされてない?」
私の顔をぐっと覗き込んでアノンが真剣な顔をする。
流石に、自分よりも小さい彼らに、ここ数日で起こったことを素直に告げてしまうのは気が引けるので笑顔で誤魔化すことにしてみる。
「う、うん、まあ、大丈夫!」
アノンは一瞬だけ疑うような目つきになったけれど、思いのほかあっさり引き下がり、話を私の服装へとスライドさせる。
元々、こういった話題が好きなメルだけでなく、物珍しかったのか、双子まで食いついてきたので、私はアノンが質問した理由を考えることもなくその話題に乗った。
「そう? ……気のせいか。リリ、似合ってるよ、そのドレス」
「アノン、わたしのせりふ。先に言わないで。……今日のリリ、お姫様みたい」
「たしかに! すっげえかわいい!」
「うん、リリに似合ってる!」
「本当? うれしいわ。今日の格好はミディが勧めてくれたの」
今日の私の服装は、青と白のフリルがついた比較的シンプルなドレスだ。
本当は、皆に会いに行くときにドレスは気が進まないのだけど、私用の服は到着前に用意してくれていたドレスしかまだないので、出来るだけ華美にならないようにお願いしたのだ。
それでも、ミディの腕にかかるといかにもお嬢様風の見た目に整えられてしまい、少しだけ心配だったけれど杞憂だったみたいだ。
メルも双子も、私の格好を純粋に褒めてくれる。
「ミディ? それってこのお姉さんのこと?」
初めて聞く名前にアノンが首を傾げ、私の後ろに控えている彼女に目をやった。
ミディは恭しくお辞儀をして名乗ろうとする。
けれど、四歳組は初めて見る「侍女」という存在に興味津々でぐいぐいと迫っていく。
私の大事な存在であることを知っているミディは距離感が分からず、たじたじになってしまう。
「初めまして、お嬢様付きの侍女ミディと申しま、す?」
「ほ、本物の「じじょ」さんだあ! お姫様の、くるくる巻き!」
「なあなあ、「じじょ」ってナイフ投げられるってホント⁉」
「あんさつしゃとかさんぞくとか、ばったばった投げ捨てるんだろ? やって見せてよ!」
双子の物騒な侍女のイメージは何処から仕入れて来たのか気になるけれど。
ナイフ投げとか暗殺者側の技術だし、敵の撃退ってそれはもう、侍女じゃなくて護衛じゃない?
「ええ、えと、お、お嬢様、私はどうすれば?……」
「ごめんなさい、ミディ。もし良ければ相手をしてもらえたら嬉しいかも。下の兄弟に接する感じで良いから。私はビリーと話をしているから」
こちらに伺いを立ててくるミディだが、嫌がる様子はなく、むしろ構いたくて仕方のない様子なので、相手をしてやってほしいと下の子たちを託す。
どのみち、ビリーだけにはこれまでのことを話そうと思っていたから。
「ありがとうございます、お嬢様!」
「やった! さすがリリ! ねぇちゃん、ちょっとこっち来てよ」
「ふとっぱらってやつだ!」
「みつあみ! みつあみとくるくる!」
「もう、みんな勝手でやんなっちゃうなぁ。ネラ、こっちだよ」
「あい」
ミディたちが少し離れたところで遊びだしたので、私はビリーが出してくれたお茶を飲みながらこの数日の出来事を語って聞かせた。
私の受けた扱いを知るとビリーは烈火のごとく怒り、下の子たちには気取られないよう、器用に小声で叫んだ。
「はあ⁉ お前そんな扱い受けたのか⁉ 怪我は? 体調は?」
「大丈夫だってば。ビリーは本当に心配性ね」
私の手を取ったり、おでこに手を当てたり、ひとしきり確認すると気の抜けたように再度椅子に座りこむ。
その様子に私は思わず笑ってしまう。
本当に心配症のお兄ちゃんなのだ、この人は。
「心配性って、お前、俺たちがこっち来て、まだ一週間と経ってないんだぞ? それがお前、初日からそんな扱い受けてしばらく寝込んだとか、俺たちのこととか気にしてる場合じゃないだろ! あの、ミディって人も、医者が許可出したからって、昨日の今日で外に出すのは」
怒りの矛先はミディにまで向かいそうだったので、それは否定する。
実は昨日の時点でベッドから出たかったのを我慢する代わりに、今日の自由を私は勝ち取ったのだ。
ミディが責められる理由はない。
「ビリー! ミディは悪くない! 私が無理を言ったの! 今日しか時間が取れそうになかったから……」
「そうだ。お前が悪い!」
ビリーは、私がミディを庇うと、待ってましたとばかりに、私の両頬を引っ張りつねってくる。
甘んじてそれを受けると、すぐに手は止まり、少しだけビリーの瞳が潤んでいるのが分かる。
これは、本気で心配させてしまったようだ。
「時間が取れないなら、俺たちを呼び寄せるとかで良いんだ。お前と違ってこっちはまだ公爵様のおかげでしばらく休みがもらえてるからな」
「……ごめんね、ビリー」
「いや、ちょっと俺が言いすぎた。今のお前には公爵様もいるんだもんな。あんまり兄貴面するのも良くないし、忘れてくれ。皆も心配するから、内緒にしてやれよ」
少しだけ冷静になったのか、誤魔化すようにビリーがそう言うので、私も反省しようと思う。
移動をさせるのは申し訳ないと思ったけれど、そちらからしても同じことだ。
むしろ、それで熱が再び出るようなことが私だけの責任ではなくなる。
家族会いたさに行動したのは危険だった。
そう考えてビリーにうなずく。
「分かった、これからは気を付ける。ねえ、折角だから他の部屋も見て回っても良い? どんな感じになっているのか気になってて」
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次回更新予定 3/11 (今度こそ)12:00




