#18
間に……合わなかった……
(side リリアーネ)
「孤児院の仲間に会いたい? 確かに彼らに与えた宿舎も敷地内にあるし、それは構わないけれど……体調は大丈夫なの? もう一日くらい部屋で大人しくしていた方が良いんじゃないかしら?」
「大丈夫ですよ、お姉さま! 私、体は丈夫な方なんです」
念のためお姉さまの許可をもらった方が良いだろうというミディの助言に従って、お姉さまの執務室を訪ねると、許可は下りたものの、あまり無理をしないようにと釘を刺されてしまった。
前回の私は五年間食事が一日一食とかでも倒れたりせずに生き抜けたので、あまり心配しなくとも良いと思うけれど、そんなことはお姉さまに説明できない。
お姉さまは尚も心配そうな目で私を見たけれど、それ以上は何も言わず部屋を送り出してくれた。
「お嬢様、せっかくお友達に会いに行かれるのでしたら、食べ物を持って行って差し上げるのはどうですか? お嬢様と同年代の子であれば食べ盛りですし」
「それじゃあ、お肉の入ったサンドイッチを用意してくれる? 孤児院にいた頃は、お肉は取り合いだったけれど、今ならみんなで食べられるでしょう?」
孤児院の院長は、私たち孤児にお金をかけるつもりはほとんどなかったから、お肉が食べられるのは年末の施しで近くの牧場から現物でお肉をもらうときくらいだった。
そうは言っても、やはり大半は院長が食べるので、あまった肉は一人分くらいしかもらえない。
ビリーや私みたいな年長は、自然と下の子たちに譲る決まりだったのだ。
「分かりました、お嬢様。たくさん作ってもらえるように厨房に言っておきますね」
孤児院の皆がお姉さまに与えられた住居は使用人たちの宿舎の並ぶ、公爵邸でも奥の方で、母屋からは大分距離がある。
それでも三十分くらい歩けば着く距離ではあるのだけれど、私の今の身分だと、馬車を使っていかなければならないらしい。
というか、今更だけれど、この公爵邸はかなり広い。
私が今住んでいる公爵邸の本邸は、一般的には城と呼ばれるほどの大きさがあるし、実際建てられたころには公爵城と呼ばれていたらしい。
中庭だって三つあるし、両脇には騎士団の本部と文官たちの仕事場である役所が存在する。
屋敷の裏側には温室と裏庭、使用人や騎士、文官たちの宿舎となっている区画があり、その奥にある森を抜ければ本邸の三分の一くらいの広さの別邸もある。
別邸は別邸で広さは一般的な貴族屋敷ほどはあるし、調度品はむしろ本邸よりも価値がある者も多いという噂だ。
使用人もその規模に合わせて大勢かというと、実はそうでもない。
全員を足しても五十人を超さないくらいだ。
人手が十分なわけではないのだが、信用できる者を雇うことは中々難しく、かといって幼い子どもを引き取って育てることも古株の臣下が反発することもあり、条件が厳しいそうだ。
お姉さまは今回私がビリーたちと離れたくないと言った時に引き取ることの提案をしてくれたのも、上手くいけば孤児院から使用人候補として引き取ることを検討する為でもあると教えてくれた。
彼らが使用人として立派に働けるようになれば、能力に応じた職を与えてくれるとも。
私としても、ビリーたちのことを除いても、孤児の就職先が増えるなら嬉しいことだと思っている。
巻き戻る前からずっと気にかかっていたことだったから。
当時の私には、何かしてあげられるような力はなかったけれど、お姉さまも気にしてくれていると分かったので、私にも出来ることがあれば協力するつもりだ。
本来、使用人は家族で働いている場合を除いて独身寮に入る必要があるのだけど、今回は特例として子どもたちで家族用の宿舎を与えてもらえることになった。
その方が私もあまり気にせず遊びに行けるだろうというお姉さまの配慮である。
馬車とお土産の用意ができて、私はミディと馬車に乗り使用人たちの居住区に向かう。
「ミディは爺やと一緒に住んでいるの?」
「そうですね。今は祖父と母、兄が一人と双子の弟と妹の六人で家族用宿舎をお借りしています」
「兄弟がいるのね!」
ミディは私に接するときの態度がとても手馴れているようだったので、下にいるのは予想通りだったけれど、お兄さんもいるのは少し意外だった。
「はい。とはいっても、兄とは血が繋がっていないのです。元は父の友人の息子なのですが、両親が病気で亡くなっていまして。私が二歳の頃に養子として引き取ることになったんです。今は閣下の文官として働いているので、いずれお嬢様のお目にかかる機会があるかもしれませんね。下の双子はお嬢様の二つ上なのでとってもやんちゃで……お嬢様を見習っていただきたいです」
兄弟のことを楽しそうに話すミディを見ていると、私も早く皆に会いたくてうずうずしてくる。
「そろそろ着きますね」
「ほんとう⁉」
外を見たミディにつられて窓の向こうに顔を乗り出すと、馬車は同じ形の家々が連なった区画に入って行く。
通りには、簡易的な販売所や礼拝用の教会もあって、まるで小さな村のようである。
馬車は速度を緩やかに落とし、区画の一番奥の家の前でゆっくり止まる。
家の階段の前には私のよく知る少年が少し緊張した面持ちで立っていた。
私は馬車の扉を開けてもらうと一目散に彼の元へ走っていき抱き着く。
一瞬驚いた彼も私の笑顔につられて、満面の笑みへと変わる。
「会いたかったわ、ビリー!」
「俺もだ、リリ!」
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