#15
「そうですか、アデラ夫人が……。お嬢様であれば男の私が関わるのもいかがなものかと準備を一任しておりましたが、夫人の事情も考えねばなりませんでした。私の責任です。使用人にも今回の件はきつく言い渡しておきましょう。……リリアーネお嬢様、怖い思いをさせてしまいました。本当に申し訳ありません」
「いえ、爺やが謝ることじゃないですよ! どんな事情があっても、手を出したのは夫人で、爺やは知らなかっただけですから」
お姉さまから少し遅れて合流した爺やは、悲しそうに顔を歪めた後、私に向かって深く頭を下げた。
「たとえそうであっても、この屋敷で起きていたことを執事長の職を預かる私が把握できていなかったことは事実ですから」
「それを言うなら私もだ、ゼルス。私が決めたことに従わない人間がこうも多いとはな。しかもこの異常な環境を用意することに反論をしなかった他の侍女たちは解雇をするべきだろうな。……一先ず、リリアーネの侍女を考えねば。だが、目ぼしい者は夫人と共に行動していたからな……」
お姉さまも一緒になってへこみ始めたので、多少無理やりにでも話題を変えることにする。
ただでさえ陰気なこの屋根裏部屋が更に暗いオーラを纏うのは嫌だ。
「あの、お姉さま? 取り敢えず、私の本当のお部屋がどんなところなのか気になるのですが、私一人じゃ場所が分からないので連れて行ってくれないかな、なんて……」
「! そうね、ごめんなさい! こんな場所にいつまでもいさせる訳には行かないわね」
私の言葉にお姉さまは慌てて私を抱き上げると、屋根裏部屋を出て部屋まで連れてきてくれた。
「ここがあなたの部屋よ。隣が私の部屋になっているから夜に何かあればすぐ来なさい」
前回は表向きの部屋ももっと奥まった目立たないような位置にあったので、当主であるお姉さまの隣の部屋であることに私は驚いた。
屋根裏部屋を使わせるつもりなら、ばれないように当主の隣の部屋なんて有り得ないと思ったのだ。
お姉さまが部屋の扉を開けてくれて中に入った私は納得することになる。
「ごめんなさいね、急遽部屋を変えたものだから、まだ室内が整っていないの。夫人がリリの部屋だと用意した部屋は私の部屋からあまりに遠かったから。必要そうな最低限のものはこちらに移動させたわ。サイズが合っていなさそうなものは申し訳ないけれどおいおい足していくしかないわね。……こうならないために使用人に任せたのが、裏目に出るなんて」
白が基調の室内は応接間と寝室、衣装部屋に分かれているよくある貴族の部屋といった間取りだ。
ただとんでもなく広い。
前の時の部屋はなんだったのかと言いたくなるくらい広い。
お姉さまの発言通り、急な部屋変更が大変らしく、使用人たちがまだ応接間内を慌ただしく駆け回っている。
ただ、その使用人の中には侍女服の人は一人もいない。
「寝室は入ってももう大丈夫?」
「はい、閣下! お見苦しいところをお見せしまして申し訳ありません、リリアーネお嬢様!」
お姉さまが一人を呼び止めて尋ねると、きびきびと答えた使用人は私にも一礼するとすぐに仕事に戻る。
お姉さまは寝室まで私を運ぶと、そっとベッドの上に私を下ろす。
年季の入ったベッドは白百合をモチーフにした銀の装飾がなされた天蓋がついている。
シーツなどの寝具は替えてくれていたようで、どれも真っ白だった。
「どう? この部屋が気に入らなければ場所を変えてもいいし、家具はいずれあなた好みに入れ替えてもらおうと思うのだけど……」
「このままでも充分素敵ですよ! それにお姉さまのお隣だと思うと嬉しいです」
後ろに着いてきていた爺やがお姉さまに進言する。
「マーガレット様。もしよろしければ、リリアーネお嬢様の侍女に関して、私から推薦しても良いでしょうか。私の孫の一人がリリアーネお嬢様付きを希望しておりまして。まだ見習いの身ではありますが、実力は私が鍛えましたので保証できます」
「腕が良くても、あの子を見下すような者では駄目よ?」
「そこは心配ございませんかと。」
「何故?」
「孫は……、可愛いものに目がないので。リリアーネお嬢様を先ほどお見かけした際に、惚れ込んでしまったようでして、直ぐに私のところへ直談判に来まして……その時は私ではなく夫人の仕切りだからと引き下がらせたのですが、この人員不足ですから」
「そうね……リリはどう思う? あなたが嫌なら当分人を付けずに私がお世話してあげるけれど」
確かに使用人はまだ怖いけれど、流石に公爵家の当主を妹の使用人に使うわけには行くまい。
お姉さまにはたくさん仕事があるのだから、邪魔はしたくないし。
それに爺やが大丈夫というなら信用できそうだ。
見習いなら、年齢も少し近いのかもしれない。
「……お姉さまが許してくださるなら、その人に、お願いしてみたいです。爺やのお孫さんなら信用出来ると思うので!」
「そう、なら決まりね。その子を連れてきてちょうだい」
「ありがとうございます、マーガレット様、リリアーネお嬢様」
爺やが連れてきたのはお姉さまと同じくらいの歳の少女だった。
クラシカルなメイド服に、彼女の長いオレンジ色の髪がよく映える。
愛嬌のある顔と、きらきらと光るレモン色の瞳は人懐っこさを感じさせる。
「ゼルス執事長の孫、ミディと申します! リリアーネお嬢様に侍女としてお仕えできて光栄です!!」
「リリアーネです。これからよろしくお願いします、ミディ!」
明るい声で名乗る彼女には純粋な好意が滲んでいる。
私はひと目で彼女のことが気に入ったが、嬉しいことに向こうもそう感じてくれたようで、私の返答にミディは満面の笑みになると芝居がかった口調でお姉さまに跪く。
「ああ、なんて最高に可愛らしいお嬢様なのでしょう! 神と公爵閣下に感謝を! 誠心誠意お仕えさせていただきます!」
「ええ、期待しているわ」
お姉さまが動じずに返答すると、ぱっと切り替えたミディは直ぐに立ち上がる。
「頑張りますね、閣下! さあお嬢様、晩餐用のドレスをご用意していますから湯浴みわをして、着替えましょう! うーんと可愛くして差し上げます!」
ミディは腕まくりをして、私にウインクしてみせた。
少しだけ遅れました、ごめんなさい!
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