冤罪で婚約破棄された令嬢が、冷静に浮気男のチン切りを要求する話
王都の社交界で「氷の令嬢」と密かに呼ばれるエレノアは、かつての婚約者レオンからの招待状を静かに机に置いた。
冤罪を着せられ、社交界から追放されかけ、さらに「こちら有責」という名目で婚約破棄された――あの日のことは、すでに過去の帳にしまっている。
代わりに残ったのは、穏やかな諦念と、もう誰も信じないという静かな決意だけだった。
レオンは今、彼女に復縁を求めている。
大切にしていた公爵家令嬢を捨てたのち、周囲の信用を失い、さらに冤罪が彼の策略だったと露見し、社交界で孤立したのだ。
エレノアは邸内の応接間でレオンと対面した。
彼の声は以前より弱々しく、必死だった。
「エレノア……お願いだ。あれは間違いだった。私を許してほしい。もう一度、やり直したい」
「――許しを請う相手を、お間違えではなくて?」
エレノアは微笑んだ。表情は柔らかいのに、空気は刺すように冷たい。
「私は、あなたに冤罪を着せられ、家の名誉を傷つけられ、婚約破棄を押しつけられた女ですわ。
その“傷物”になった私を、今さら取り戻したいと?」
レオンは震え、膝をつきかけた。
「俺が悪かった。本当に後悔している。償う。だから――もう一度だけ、チャンスを……!」
エレノアは首を振った。
「いいえ。私はもう結婚など望みません。心はとうに死んでおりますから」
一拍置き、彼女は淡々と本題を告げた。
「ただ、あなたがまた誰かを傷つける未来だけは、容認できませんの」
レオンは目を見開いた。
エレノアは銀のペンを取り、静かに一枚の書類を机に置いた。
それは“再婚能力の永久放棄”を誓う公的な誓約書だった。
「……あなたが次の相手を不幸にする可能性を、完全に断っていただきます。これは物理的な意味での“去勢”ですわ――二度と伴侶を娶らない、という形で」
レオンの顔色が変わる。
「そ、そんな……それでは私は……」
「ええ。あなたはずっと独り。私が“社交界で二度と誰も傷つけない存在”として封じるためです」
エレノアは優しい声で続けた。
「これが復縁の代わりに、私が求める唯一の償いです」
レオンは崩れ落ちた。
彼の未来は閉ざされた。
だが、かつて自分が彼女に与えた絶望を思えば、それは過酷ではあっても理不尽とは言えなかった。
エレノアは席を立ち、扉に向かう。
「あなたに残された選択は、その誓約書に署名をすることだけ。私は、あなたが他の女性に“牙”を向けぬよう、最期まで見届けますわ」
振り返らずに告げた言葉は、冷たく、静かで、しかし真実だった。
執事がすでに医者を呼んでいる。
その手には、医療用の魔道ナッツクラッカーが握られていた。これは、市販のナッツクラッカーよりも、抉り取るような形で【全て】を破壊するのに特化している。
「……いかがされますか? 私はもう幸せな結婚は用意されていないのです。だから、あなたが他の女性と幸せにやることは絶対に許しません」
にっこりと微笑むエレノア。
屋敷の扉はすでに固く閉ざされている。
彼女は復讐の炎ではなく、凍てつく理性で男を裁いた。
それは、かつて壊された自分の人生を、ようやく取り戻すための――最後の一手だった。
女性を傷物にしておいて、自分だけの幸せや再婚を企むようなゴミはいらないのです。




