第3話 種を蒔くスキル
「ちち、はは」と言葉を発するまではそんなに時間がかからなかった。
とりあえず喋る!ということに幼いながらに(中身は32歳だが)例の言葉が言えなくてはまず始まらない!と思ったからだ。
6歳になったが0歳からバッチリ記憶持ちな俺は、甘やかされている自覚があったので甘やかされながらもちゃんとしようと必死になった。相手の期待に応えたいというサラリーマンの時の癖が抜けない。
お抱えの執事がついたのもあって、めきめきとこれぞ王子!みたいな顔つきになってきたと思う!
何よりも顔がいい。自分で言うのもなんだが顔がいい。
銀髪のサラサラな髪。瞳は大きくグレーでやや切れ長なところは父に似たのではないだろうか?
父のような角はまだ生えてはいないが、そのうち生えるのだろうか。あれがあると魔族っぽいけど帽子被ると思ったら邪魔そうだよなあ。
まだ成長途中なので、周りからは女の子と間違えられるがこんなにも過保護にされるのは、中身が32歳なのでなんだか申し訳ない気持ちもする。
執事はバルドと言う。
身長が高く、黒髪の長髪で頭の後ろで長い髪を低く一束に結わえられていた。
年齢は30代中頃?なのではないだろうか。長く仕えてくれていると耳にしたので実際はいくつなのかは不明
瞳は金色でなんとも妖艶な感じだ。これが転生前だったら同年代?かもしれないと思うと転生前の自分の平凡さが悲しい。
もう一人いて、名前を”メイ”という。
専属のメイドをしてくれているのだが、どうやら戦闘種族といわれているところ出身で、クレメンスの強さに惚れてそこの一族を出て城に仕えたというのだ。
薄いピンクの髪の毛を三つ編みにしていて、大きな瞳はそれよりも濃いピンクだ。身長は155cm。特技は愛用の斧で相手を屠ること。好きな食べ物は無いが小柄な割にとても良く食べるらしい。
見た目に反して物騒な特技だが、何かあったときは心強い。初対面での自己PRが激しくてハァハァ言いながら0歳の時から俺にとにかく良く尽くしてくれた。
考えたくもなかったが、多分、いやかなりの確率で俺は 非戦闘員寄りだと思う。
転生したら最強魔術かなんかしらで無双をする!というお約束展開は訪れそうもない。
なにより周りの奴らが好戦的すぎる
執事のバルドも気がついたら後ろにいるし、メイは1度もバルドに勝ったことは無いというし、そのメイドは戦闘種族らしいし、魔王軍とやらは常に殺気だってるし、更に戦闘部門なるものもある。その上に君臨する父!!
俺が戦う意味! 無し!
なんだか悲しいが、神からの啓司も種まきだったし どう考えたってこんな武力でガッチガチの国に貢献できそうな戦うスキルでは無い。
とりあえずこのスキルがどんなものなのか試す必要があるな。
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部屋に1人になったのを見計らって小声で
「ステータス オープン」
毎晩これを欠かさずに最後口パクで練習していた甲斐あってでようやく噛まなく言えるようになった。
この時をどれだけ待ったか!転生直後から言いたくて言いたくて仕方がなかった!
やっときたこの瞬間、緊張してきた。
そんな単語言ったところで何も出なかったら。〈世界を統べる者〉とかいうのに「どうぞ」なんて軽く言われた時を思い出す。あの時はほんと落胆したなあ。遠い目をして感傷にひたっていると
ヴンッと目の前に広がる半透明の四角い液晶
とたんに胸の高鳴りが最高潮になるのを抑えられない。
これだよコレ!待ち焦がれたステータスの文字。
自分の目の前に広がるモノに、飛び跳ねたい気持ちと空中で浮いてるのを確認したくて、何度もまるでマジックの種明かしを探すように手で液晶の上と下をブンブン振り回してみたが、ちゃんと浮いていた。
「これが、、俺のステータス」
〈ステータス〉
転生者
拝島 秀明
32歳
サラリーマン営業課(部長)
転生後
ルシアン・アッシュ・フォン・ヴァルデンシュタイン
6歳
レベルMAX
固有スキル 種まき
種族 魔族
獲得スキル ?????
魔力 MAX
防御力 加護 神
え?レベル…MAX?
相変わらず自分の転生後の名前がかっこいいなと改めて眺めていたら、その下の文字に驚く。
この時代でレベルがどのような役割を持つのか全く分からない。
6歳でレベルがMAXなのは一見凄そうだが、上限がどうなっているのか、だとしたら周りは?
スキルのレベルなのか、自分のレベルなのか。
空欄も目あるし、何かしらをやらないと出ないのか。だがしかしすごい!ワクワクする!
ゲームはどちらかというと回り道してコツコツレベル上げてから挑む派だから、試すの楽しい!
その下に続く 加護、神…神かぁ
とりあえずここはキャパオーバーだな。
まだまだ情報不足だが…やっと言えた言葉と、転生したんだと再確認して目がバキバキに覚めてきた。
固有スキル以外は追追として
まずは自分のスキルがどうやって発現するかだな。
魔王である父クレメンスがプツっと血を垂らした時に床から生えたんだったか。
アレ、あの後どうなったんだろうか?大きくなってから行った母エリアーデの部屋の床は抉られた跡があったが、なんか埋めてならされていたから何処かに持って行ったんだと思う
血を出すのかー。痛いのはなー。ちょっと気が引ける。
考えられるのは
①血によって発動
②触媒が別にある
③念じる
④何か特別な時にしか発動しない
あの時、血が地面に落ちた。だが俺の皮膚からは傷が消えただけで芽は出てこなかった。
とりあえず血が何か関係していることと、種を撒くということだから 多分地面に落ちたのも功を奏した可能性あるな。
とりあえず針を探すが見当たらないので、少しいやかなり勇気がいるが何かで…何かないか。
とんがってそうなものを見つけようと辺りを見回す
そこでふと壁にかかっていた短剣を見つけた。
レプリカに見えるがどうなのだろう?
身体が小さいので、勉強机の椅子を引きずりながら短剣がかかっているところまで運んで うんしょ。とやや高めの椅子に片足をかける。正しくは片膝をギリギリひっかける感じだ。
座る時はいつもバルドが乗せてくれていた為、実際に自分で乗ることがなかったので気がつかなかったが、この椅子高すぎないか?と疑問に思った。まあ、この高さのおかげで短剣に届くのだからいいか。とすぐ考えを変えた。
「とっ、とどかな、いぃ」
ようやく登れてあと少し…のところで届かない。
横掛けでなくて縦だったら、、とか思ったがもう危ないけどジャンプしかないので勢いよくジャンプした。
その瞬間 指が短剣の柄の部分の装飾に当たって、落ちてきたのをキャッチすべく落ちる短剣に手を伸ばした
「痛っ」
スパンッと人差し指を掠めて床に音もなく柄の部分まで突きささった短剣。
顔からサーッと血の気が引いて、床に刺さった短剣を見ながレプリカなんて優しいものぢゃなくてガチなやつ!!怖っ!
本物を息子の部屋に……考えるのはやめておこう。
「あっ!血!」
指を見たら傷は癒えてて、痕も残らなかった。
が、指が切れた拍子に飛び散ったであろう床と壁からは芽が出ていた。
「ふむふむ」
芽が出た場所は前と同じ床。と 壁はきっと材質的にも似ているからか?
小さい手を顎に添えて考えた。
他にも飛んだ所は無いかと、探してみると
「……あ。」
自分の衣服に飛んでいた。
だがそこからは何も生えてはおらず、小さな血痕だけだった。
どうやら法則がちゃんとあるらしかったので色々と試していきたいが、そろそろ証拠隠滅も考えないと明日の朝バルドに怒られそうだ。
うーん、どうしたものか。
これ絶対突っ込まれるよな、壁からは芽が出てるし床からも生えちゃってるし。……短剣刺さっちゃってるし。
床と壁に芽が出ると思ってなかったので、とりあえず引っこ抜こうと力を込めた。
床から生えてるのを見て思うことがある
自分の血がたくさん必要になるとしたらその度に切るのか。
うん。嫌だな。
血が沢山必要にならないようにどうにか量産できないかなあ。
掴んでた草がファサッといきなり発芽して稲みたいな形に進化した
「え?なんだ?!」
ぷちっと1粒もぎとって床にポイッと投げてみたら、また芽が出た。
「すげー!!」
俺が願ったから?血がたくさん必要になるのは嫌だと思ったからこれ1粒が種ってこと??
なるほど。さっきの稲みたいなやつからは種を量産できるのか、、ならこの芽にも何か願えばそれが出来る種になる?
稲見ちゃったから米食べたいよなー
という訳で引っこ抜こうと掴んで米イメージすると、立派な収穫目前の稲が現れた
これは……!
1本でどれだけ採れるんだったか、、
思いだせ、思いだせ、営業で米農家さんに伺ったことを思いだせ俺!
あー確か品種にも寄るんだったか?
これ…なんていう米なんだろうか。日本米しかイメージしてないからどこかの日本米であることは確かだ!
それでもって多分お茶碗一杯とかにしかならないんぢゃないか…?
おかわり厳禁…それは困る!
とりあえず残りの稲モドキの種を全部採ってこれを……
いや待てよ。
一粒ずつイメージ込めるのはめんどくさいな。もうこの種に米のイメージつけたらいけるんぢゃないか?
小さい手に包めるだけ持ってイメージする。
米米米米コメー!
少し光ったが見た目は籾のまま。
とりあえずポイッと撒いてみた
多分20粒くらいはあったのではないだろうか
モッサーと思ってたよりも大きい稲が視界を埋めつくした
「おぉ!」
思った通りだ!これで米が食べれる!
米を収穫してからの工程は営業時代、契約取るために農家さんにお願いして一緒にやったことがあるから分かる!
それができるような設備を整えるのとー、炊飯器…は無理だから飯盒みたいなのか、、鍋か、、
いつも食事は質素でパンと謎の果物と野菜みたいなやつと肉ばっかりなんだよなー
うーん。どうしようか…
「坊ちゃん、これはなんです?」
「これは稲と言ってー………あ。」
振り返ったら執筆とメイドが興味深そうにこちらを眺めていた。
自分の目の前のことで頭がいっぱいでドアが開いたことに全く気がつかなかった
血の気が引くってこういうこと言うんだ
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