第21話 これだから戦闘狂ってやつは
どうしてこうなったんだろうか
何故かいきなり模擬戦なるものが開かれるらしい。
先日の第2部隊のことがあったからか
どうやら俺のことが気に食わない戦闘狂たちが、今まで黙っていたが父クレメンス王の命令で俺に仕えなくてはいけないことに納得できない!!と今更抗議してきたらしい。
俺、だいぶ嫌われてるんだな
そこで父クレメンスは、「なら自分で見極めたらどうだ?私の愛らしくも可愛いだけでは収まらない息子と手合わせの場を設ける。」
と、言い放ったらしい。
父上??!
ちょっと待ってほしい。
全く戦闘向きではないし、むしろこの間の討伐で本当に自分には無理だと確信したばかりなのだ。
レクスが言っていたようにもう王女でヒロイン枠でしかないとさえ思う!
まだ種蒔いてから日も経ってないので早く米の為にがんばりたいのだ。
「オイ、畑はどうするのだ?」
「そ、そうだ!むしろこれ何処に向かってるの!?」
バルドに抱き抱えられながら、経緯を聞かされて全く頭が追いつかない!
「坊ちゃん、これは腹をくくるしかありません」
「ルシアン様!大丈夫です!」
「なにが?!」
「良くは分からないが、妹がそう言っているのだ。間違いなく大丈夫だろう」
「だからなにが?!」
この兄妹はダメだ。話が全く読めない上に兄は妹が出てくると脳で考えることをやめて妹の言葉に連動するので余計ややこしくなる
そんなこんなで森にいたところを城に呼び戻されて今に至る。
場所は小さな闘技場のようなところで、普段は訓練に使われているそうだ。
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赤い髪、狼の耳。魔獣族の長ザハル・グレイブ
父クレメンスに挑むが魔王の前に歯が立たず惨敗。その圧倒的な強さに惚れこみ魔獣族の数名と共にこの魔王城に仕えることにしたのだ。
正確には父クレメンスに付き従うことが彼等の願いでもあるのだ。
という感じのことをバルドからここに来る途中で教えてもらった。
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私は第1部隊所属隊長ザハル
先日の第2部隊の失態を聞いてレクスの言い分は少し共感できるところがあった。
自分がこの主ルシアン様に仕えるのが相応しいとは思わない。いくら魔王様の命令であっても
後にも先にも命をかけて従うのは魔王クレメンス様のみ!たとえご子息だろうと容赦はしない。
ここで見極めてみせる!
巷では無能王子と揶揄されていたことも知っている。
正直、私もそうだと思ってしまった。
私自身、自分の強さには自信がある。民を導くために研鑽を積み 王が望むのであれば必ずや勝利を献上するのが当たり前だ。
最初は期待した。
敬愛する王の子なのだ。さぞかし強く勇ましく、優しい心の持ち主に違いないと。
だが実際の彼はどうだ?私が言うのもなんだがとても弱い。線は細いし軟弱そうだ。王妃様の面影がある容姿は正にあの方がたの子なのだと分かる。分かるがどうしても納得できないのだ。
強いものにこそ従うに値すると育ってきてしまったが為に、頭で理解したいがどうにも顔が引きつってしまい 王子がいそうな所を避けるようになってしまった。
加えて、周りから聞く王子への評価がさらに気持ちに拍車をかけてしまうのだ。
土いじりや、どこかの森の中。戦いの為の修行かと思ったがそうではなかったし、種まきなるものをしているらしかった。
種を蒔くのは強いのか?敵が襲ってきたら荒らされる対象にはならないのか?
王子付きメイドの兄だと名乗るピンクの頭にも聞かれたことがあったがありのままを伝えた。
無能王子だと。
ここでそれを証明させる。
はっきりと気持ちに区切りをつけ、この1戦をもって魔王様には申し訳ないが我が主は貴方様ただ一人とさせてもらう。
1呼吸ついて目の前にいるルシアンに殺気をぶつける
「魔王軍第一部隊ザハル・グレイブ!押して参る!!」
猛々しい声とともにダンッと片足を前に出し、槍を構える
あからさまにに敵意むき出しだなー
こっちは6歳ですよ?
いきなり連れてこられて、戦うってなんだよほんとに!
「…ちゃんと、お話したことありませんでしたよね?」
今すぐにでもかかってきそうだったので、ワンチャン話で解決できないかと思ったが
「・・・・・・」
「………………」
そんな空気が微塵も無くてとりあえず、今持ってる種を周囲にばら蒔いた。
「フン。話には聞いていたが、本当に種を撒くのだな」
槍を少し下げ、構えた姿勢は崩さないがルシアンの行動ななやや落胆したようだった。
「そうですね…、私自身がこの力がどうあるべきか考えている最中なので、とりあえず出来ることをやっている次第です。」
ニコリと営業スマイルをすればザハルの顔には、期待はずれだと書いてあるようだ。
分かってる。俺が1番この力が非戦闘向きだと知っている。
だがこの国を良くする為に使えることも知っているんだ。
だが唯一、サイさんに言われて少し考えたものがある。目くらましくらいには使えるかな?程度で考えた技が1つ!
散らばった種は勝手に根付いて芽を出した。
ザハルはまだ悩んでいたが、種を撒く姿や子供に似つかわしくない笑顔を見て腹をきめた。
「早く終わらせよう。やはり私が仕えるべきは…」
彼の周りが赤く光り始める。小さな赤い光が少しずつ大きくなり彼の槍に集まり始めた。
一撃必殺で勝負を決めにいくつもりらしい。たとえそれが王子自身に重症を負わせてしまうであろうことも分かっていたが、それでも。
自分がどれほど本気なのかを改めて知らしめたかった。
槍の先端が赤く染まると同時に旋回する槍に魔力が纏い、蒼い渦が生まれる。
渦は唸りを上げて膨れ上がり、槍を振り抜く瞬間、圧縮された力を一気に爆発させる勢いでルシアンに向かって1歩力強く踏み出す
「先に謝っておく。すまないが全力でいかせてもらう!はぁあああっ!」
彼の技が炸裂する本の数秒の間
「デトネイト」
ルシアンの放った一言が、静寂を切り裂く合図となった。
瞬間、地面に散らばる無数の芽が ポポポポッ と脈打ち──
次の心臓の鼓動の間に、一斉に花開く。
咲き誇った花々は、わずか一瞬の儚い命だった
花弁が舞い上がったかと思えば、その全てが閃光へと反転する。
――花が散ったのではない。散った“瞬間”に、起爆したのだ。
ザハルの足元に撒かれた種は例外なく開花し、
その直後、連鎖するように爆ぜ、眩い連続爆発が地を揺らす。
濃密な硝煙が渦を巻き、視界を奪いながら辺りを覆い尽くした。
「や、やりすぎたーーーーー!」
こんなすごいことになるとは思ってなかった!
ただ少し爆竹程度にパンパンッて足元で鳴るくらいで少し怯ませられればと思っただけなのに!
どどどどうしたらいい?!
もしこの煙が晴れた瞬間に彼の身体が爆散していたらどうしよう?!
「あわわわわわ」
顎が外れるかと思うくらいにガタガタと震えが止まらないが煙の中のザハルが心配で、彼がいるであろう方向に向かって硝煙の中に走っていく。
「うぅ…」
「こっちか!」
微かに聞こえた声の方向に行くと足に何か当たった。
彼が先程まで握っていた槍だ。
それを拾う為に下を見たら足が見えた。
「ザハルさんっ!!!」
彼の足に触れて、まだ名前も決めていないが治癒効果のある種を開花させその花の蜜を持って彼にかけた。
途端に光始めて彼を包み傷を全て癒したのを見て盛大に安堵した
「っはぁ」
助かった…6歳で人殺しとか勘弁してくれ。
ほんと、冗談抜きで。
「う、ん?」
「ザハルさん!大丈夫ですか?!」
「………負けたの、か?」
「え゛。あ、どうでしょう…か。はは」
爆竹程度だと思ったので、あくまで勝とうとしたわけではなく怯ませたかったものが、花弁とはいえ全て爆発したのだ。
不可抗力…では済まされない、よな?
「あ、あのえっとザハルさん…今回は、引きわ『お見逸れしましたっ!!!!』」
引き分け。そう言おうとしたらガシッと力強く両手を捕まれた。
折れるーっ!ここの戦闘自慢は力加減バグってる!
「能ある鷹は爪を隠す!この言葉はこういうことを言うのですね!ザハル、痛く感銘を受けました」
声がデカイっ!
「ザハルさん!落ち着いて!まず手を離すところから始めましょうか!」
「はっ!興奮のあまり大変申し訳ありません!いやいやしかし本当、こちらは〇すつもりで行ったのにまさか返り討ちにあうとは…」
「え?」
ちょっと待って。〇すって言った?こっちは脅かすくらいで済ませようと思ったのに?!
「相手との力量も分からずお恥ずかい限り」
最初の何があっても認めないオーラが打って変わって和やかだ。
むしろ魔獣族だからか耳は垂れて、先程は無かった尻尾をブンブン振っているように見える。
やっと硝煙が晴れてきて、ざわつく観客席からは何があったのか分からないようだった。
全て見えていたクレメンスは手を叩き満足そうだったので、父上の顔を潰さずに済んだようでこちらは先ず一安心。といったところだ。
チラリと観客席をみたらお抱えの執事とメイドが変な旗を両手に持っていたのが見えた。
気になって少し目を凝らしたら(こっちむいてウインクして)(指さして)(最推し)(ルシアンLove)などと見えたがふざけるのも大概にしてほしい。
何かあれば加勢するつもりはあったのだろう。
メイドの横には大きな斧が立てかけてあったのも見えた。
その横でいつもはうるさい馬鹿兄の方は足を組んでふんぞり返っていたが、当然の結果だという感じだ。
クレメンスがその場で立つと、ざわついていた空気がピタっと止まった。
さっきまで尻尾をブンブン振っていたはずのザハルでさえも片膝をつき頭を垂れていた。
「皆の者、見た通りだ。我が息子ルシアンは今ここに己の力を示した。これで無能、などとは言わせんぞ。」
ドスの効いた声でかなりの圧をかけた言葉だった。
自分を立ててくれているはずなのに、こちらまで震える。
さすが魔王。そして父の耳まで無能呼ばわりされていたことは届いていたらしい。
俺としては無能に関してはどちらでも。という感じだった
転生前では鬼上司に何度言われたことか。
1年目はビクビクしていたが いちいちその言葉を鵜呑みにしては心が持たない、さらりと流して笑って聞き流す。これが出来るようになったら何も怖くなかった。
民になんと思われようと、父と母、バルドとメイ、まあ百歩譲ってリーインが信じてさえくれれば何と言われようとも、少しは傷つくが寝たらこの気持ちは終わりにすることが出来る。
だが、俺は大丈夫でも父は気に食わなかったのだろう。息子だから尚更か
でもなんだかそれがとても嬉しくて、公に認めてもらえたのはとても気持ちが良かった。
少し胸を張れそうな感じがしたのは、久しぶりだな
「父上!」
でもこの空気のままだと 皆、圧死してしまう気がした。
チラリとみるとザハルも冷や汗かいてて青ざめているし
「ぉお!我が愛しき息子!」
途端に父の顔になり、目尻も眉も全てが垂れて顔がゆるゆるだった。
「血が垂れて発芽したときのことを思いだす。こんなにも使いこなしていたとは!さすが我が息子ルシアンだ」
父の元へ駆け寄り、なんとかこの空気を変えねばと必死になる。
「いえ、まだまだです。威力も何も安定していませんし…」
本当、ちょっとした爆竹のイメージがこんな爆発するとは驚きだ。
「ははは!!謙遜をするな!十分だ!これからも期待しているぞ」
「っわ!」
転生前でいうところの大人が子供持ち上げる動作、高い高ーいをされる。
さっきまでは気づかなかった、父のおデコにもハチマキに似たものが巻かれていて息子ラブと書いてあった。
は、恥ずかしい…!
この世界にもそんな文化が?
参観日にきたお父さんをみる息子の心情はこんなだったのかと顔をあげられなかった。
模擬戦なるものはお開きになり、やっと終わったかと思ったらドドドドッと周囲を囲まれた。
「すごいですぜ坊ちゃん!うちの大将のしちまうなんて!」
「もともと勝負は決まっていたようなものだったな」
「いやほんとすごいですー!」
なんだなんだ、誰だ!
「あのっ、えっと……」と勢いに圧されて言葉がでてこない
集団はやめてくれ!取引先もだいたい一対一か電話のやりとりなのでこう集団で来られるとたじろいでしまう。
「お疲れ様でした、坊ちゃん」
「バルドォおおお」
「まだお顔を崩してはいけませんよ、と言いたいところですがよく頑張りましたね。」
イケメンに微笑まれたら誰だって嬉しい。執事だろうと!たとえそれがオトコだろうと!
すっと片腕で抱き上げてくれる有能執事兼上司!
「「「バルドさん!」」」
「おや、第1部隊の方々ですね。」
どうやらバルドは知り合いらしい。異世界で定番のケモ耳は憧れではあるが狼×男(戦闘狂)は怖すぎる
リスとか!なんか小動物系×女性(癒し)でお願いしたかった!
あっという間に囲まれて、他の部族の方々もいたらしく何故かその場で盛り上がり俺以外は宴を初めてしまった。
何がなんだか分からず、なんだか営業先で話がまとまって意気投合したライバル会社とノリで飲みに行く感じだ。
うん。確実に後々めんどくさいやつだからバルドに部屋に連れて行ってもらおう。
「バルド、気付かれずに部屋に戻れる?」
「いいんです?主役が消えてしまって」
「この後めんどくさいことに巻き込まれる予感しかない」
「左様であれば」
辺りを見渡すとメイとリーインを発見したが、戦闘狂達と意気投合しているそうなので放っておこう。
そういえば
「僕が頼んだものはできそうだった?」
「飯盒なるものは用意できそうなのですが、あの籾?というものを外すは作れそうにありませんでした。」
そうか、なかなか米までの道は遠いな
「坊ちゃん、方法が無いわけではないのですが…」
「???」
なんだか神妙な顔をするバルドがいた。
******
第21話 読んでくださりありがとうございます!
米つくれませんね!
次回もよろしくお願いします!
評価、暖かいコメントいただけましたら幸いです!




