第19話 思い出せ②
僕達が撒いた謎の液体があの後どうなったかを知らない。
すぐに撤退命令が出て、僕たちは転送装置でバルゼルムの街の外れの森に帰ってきた。
そこからは勇者扱い。バルゼルムの英雄だとかなんだか持て囃されたがそう言っていたのはあの酒屋の客だった。
酒屋のマスターたちは特に何か良いことあったんですね。くらいだったのだろう。
どうやって帰ってきたのか聞かれたが転送装置の話は僕が皆には黙っておくように伝えた
実はいつでも魔王国に行けるということはパーティ以外知らないのだ。
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イライラする。
騙されているのかも分からないこの状況に、誰かに嵌められようとされているのかと思うと腸が煮えくり返る。
バゼルに会えたとしてどうする?
実際なにもされていないのだ。追手もない。
訴えるとしてなにを?むしろあれだけの食事と宿を提供してもらい、何時まででもいていいとさえ言われた。
ただ魔王国に…あの後バゼルはなんて言おうとしていたんだ?
あの時言葉を遮った自分に後悔が止まらない。
俺たちは魔王国の情報を集めた。
その際にあまり仲良くならないようにするのが大変だった。
俺が思う魔王国と180度違ったからだ。
野菜らしきものを売る女性はどこからどうみても俺たちと変わらない人間みたいで、売っているものは名前は違うが以前居た国とほぼ同じだった。
武装国家だと聞いていたから、さぞや殺気立っていて常に戦いを求められると思っていたが、全くだった。
バルゼルムに帰ってバゼルに会うと魔王がどれだけこの国を陥れようと画策しているか。
そんなことばかり聞かされていたから
戦う準備を万全にしていたのに、いざ敵地についてみれば液体撒いてこいってなんだ!
畑には特に育っている野菜は見当たらなかったから収穫し終えたのかと思ったほど何もなかった。
液体を撒きながら女性が売っていた野菜を思い出して胸が痛くなった。
唯一まだ植えてあった野菜の収穫が終わってない場所は何もせずに城に近い所を集中的に撒いた。
魔王を討伐にきたのだ、城にいるなら俺が倒すと決めていた。
この埋まらない穴はなんだ?
勇者になったのになぜ満たされない?
魔王は結局現れず、何処かでは戦う声が聞こえたが俺は液体を撒いて撤退命令に従っただけ。
なんだか良くない感情が湧いてくる
これは自己嫌悪だ。
「ユーリス?どうしました?」
セドリックが心配そうにしている。
瓶底眼鏡と長い前髪で全く前が見えないが、多分心配してくれている。
俺がしっかりしなくては。暗くなってる場合ではない。
無意識に下を向いていた上体を起こして、椅子に座り直す。
「いや、なんでもない。バゼルに会ったとして、何を聞く?」
きっとコイツらも同じ思いだろう。この訳の分からない何かに怯えているに違いない
「そのことですか。そんなの何がしたいのか。これ一択です」
「ほんとよねえ、こっちは訳も分からず巻き込まれてるんだからちゃんと理由が知りたいわあ」
「酒をくれるところは良かったんだがな!!なんだか気持ち悪いしな!」
「それはまだ二日酔いが残っているのでは?」
拍子抜けだった。
イライラはしているが多分相手が違うだろう
「……何気にお前たちは時々メンタルが強いよな」
俺も同じだから落ち込んではいけないと思ったが、なんだかそれもどうでも良くなってきたな。
「何言ってるんです?1番のメンタル強者はユーリスですよ」
「右に同じ~」
「全くだな。」
気がついたらガルドは復活していて、テーブルを囲んでいた
俺が逃げるのではないかと思っていたリュシアはもう横ではなくテーブルに酒とつまみを用意して席に着き肘をつきながら飲んでいる
セドリックは俺の目の前にいたのに、ちゃっかり自分の飲み物を持ってリュシアのつまみをシェアしてた。
「いやいや、お前達だろ」
なんだお前たち。その目ヤメロ
「いやいや、訳分からないこの異世界に来た途端に知らんおっさんに会って、いきなり我々を救ってくれとか言われて二言返事で『よし、任せろ!』ですよ?何言っちゃってくれてんの?この人。って思いましたからね」
え?
「それ思った~、あの時ユーリスが先陣きってたわよねぇ。私達に確認もせずに安請け合い。私達なんて異世界に飛んできただけで不安しかないのに」
え?そうだったの?
「うむ。あれには流石に肝を冷したな。ガハハ!まあそれがユーリスの良いところだがな!」
え?そうなの?
…どうやら、考えすぎていたようだ。
というより俺、そんなこと思われてんの?
「勝手に落ち込むタイムはもういいですか?これから行くのはあの魔王国です。」
「たまにセドリックは厳しいよな」
自分もリュシアの酒を奪って目の前のグラスに注ぐ
「あの日以来ねぇ」
「ううむ、何も思い出せん。討伐の話を聞いてからがなあ…気がついたら酒を飲んでいたんだ」
「「「……なんで?」」」
ゴホンッ
「とにかく、あの後何があったかを知る必要がある。それが分かればバゼルの目論見も分かるだろう」
「同感ですね。バゼルの話と魔王国は違いすぎてる。明日の朝に出発しますが、潜伏するよりはここと行き来するのがいいでしょう。」
「宿も酒屋もそのままってことお?」
「ええ。野宿は嫌ですし、バゼルの正体もバレて尚、あの宿にいるバイトさん方も僕達がいる間は仕事するっぽいですしね。ムカつくので使い潰してやりますよ」
やることも決まったし、明日に備えて準備をしようとしたがとりあえず何も持たずに行くのが良いだろうということになった。
「疑問なんだけどお」
「どうしたリュシア」
「あの日ってえ、私たちは除草剤を撒くことが仕事だったぢゃない?」
「そうだな」
「でもお、おかしいでしょ?」
何が言いたいんだ?
「なんで誰にも襲われなかったのお?」
「あ。たしかに」
「あの時襲われずに畑に行くことができてえ、尚且つ液体を撒いてえ、普通に帰ってこれたわよお?」
それもそうだ
その騒動に乗じて撒いていたが、こっちは魔族?に会うことは会っても妨害も無ければ戦うことも一切無かった。
武装国家ではなかったのか?
俺たちに出された指示は手当り次第畑に青い色の除草剤ををまくこと。
ぢゃぁ魔王国の民達は誰と戦っていたんだ?
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結局思い出せない!
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