あとがき
この作品は「30分読破シリーズ」の本編を呼んでくださった方への感謝の気持ちとして執筆したものです。
物語の性質上、この『あとがき』にて作品内の裏話やネタバレを含んだテーマの核心に触れるため、本編の最終話までが未読の方は先に小説本編をお読みいただくことをおすすめします。
ネタバレを含む解説や僕自身の考察は、本文読了後にじっくり味わってもらえたら嬉しいです。
この作品は、実を言うと僕自身の「図書館って本当に素晴らしい場所だ」という気づきから生まれました。
僕がこの作品の他に書いた短編のエッセイで「図書館の素晴らしさを伝えたいだけ」の中でも語っていますが、皆さんの住んでいる町に必ずといっていいほどあるはずの図書館の素晴らしさに最近気づきまして、それをベースに書いた作品がこの作品です。
僕が暮らす町の図書館にも、作中で描いた「学習スペース」が実際に存在します。四つの席が並び、無料Wi-Fiと電源、冷暖房まで揃っていて、受付を通れば一日中使える。これは小説の設定ではなく、事実なのです。
投稿したのが夏休み中だったこともあり、実際に僕が利用しているときには、隣の席で中学生くらいの女の子が二人並んで課題を解いていたりもしました。作中のように「私語厳禁」の張り紙はないので、彼氏の話がひそひそ聞こえてきたりするのがご愛敬ですが(笑)
さて、本作では主人公・一ノ瀬とヒロイン・四宮が「声を出さずに、筆談で会話する」という形式を選びました。
これは図書館という空間の制約を逆手に取った仕掛けであり、僕自身が単純に「筆談って面白いな」と思ったのがきっかけです。学生時代、授業中に隣の友達とメモでやり取りした記憶がある方もいるでしょう。今ならスマホのアプリで済んでしまうのかもしれませんが、紙とペンだけで交わされるやり取りには、不自由さゆえの「臨場感」と「温度」がある気がします。
彼らの筆談も最初は丁寧な漢字交じりの文章でしたが、中盤以降、緊迫する状況の中でひらがなばかりに変化していきます。そこには「焦り」や「必死さ」がにじみ出ていて、僕自身も想像しながら書きました。最後の最後まで二人はまともに声で会話を交わさず、筆談のまま物語は幕を閉じましたが、それでいいと思っています。むしろ図書館を出たあとの彼らには、言葉を声に出してたくさん会話をしてほしい。そう願っています。
小さな遊び心として、①番に座る一ノ瀬と④番に座る四宮――苗字の数字を席番号に対応させたりもしました。読んでいる方が気づいてくださったなら、ちょっとしたおまけのような楽しみです。
実際に存在する場所を舞台に、現実ではなかなか起こりえない展開を描く。そんなギャップが今回の物語を最後まで走らせてくれました。
図書館の静けさの中に潜んだ小さなSOSが、誰かに届く物語として、読んでくださった皆さんの心に残れば幸いです。
他にもさまざまなテーマで30分読破シリーズを更新していますので、ぜひ、あわせて読んでみてください。きっとまた別の会話に出会えるはずです。