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第20話 「ブロックされてるんだよ……エビちゃん」

「――それで、伊勢の考えた方法ってのを聞こうか」


 伊勢がイチオシだと言うパスタの店で各々皿を綺麗にした後、俺は切り出した。


「それって、同級生捜しの?」と、オレンジジュースをちびちび飲むけいちゃんが聞く。


「そう。何でも俺がびっくりする画期的な方法を思いついたんだと」


「ほう」


「何さ。ハードル上げちゃって。……でも良いよ。教えてあげる」伊勢は紙ナプキンで唇を拭うと、少し改まった態度で話し始めた。「簡単だよ。委員長に聞くの」


「あ? 委員長って……」


 頭の中に卒業アルバムのページが思い浮かんだ。


 ――委員長、今田倫。


 長い髪をセンターで分けて、分厚い眼鏡を掛けていた地味な顔立ちの少女。


 俺たちのクラスの中では才媛で通っていて、ここらでは珍しいことに札幌の塾に通っていたんだったか。勿論成績は一年生の頃からトップであり続け、彼女がいればどんな行事もグループワークも丸く収めてくれていた。


 毎日勉強で忙しい彼女には遊ぶ友人はあまりいなかったみたいだけど、呼び名の通り委員長。勿論学級委員長である時期が殆どだったし、その他にも小四から小六まで図書委員長に保健委員長、美化委員長、放送委員長を……って、今考えたら八面六臂の働きだな。


 で。


「何で委員長が今の話に出てくる?」


「実はね。私たちが二十になった頃に、委員長から同窓会しようって連絡来たことがあるの」


「え!?」


 二十になった頃というと……俺が上京したばかりの頃か。当時は東京の生活(主にアルバイト)が忙しいのと、東京から札幌までの旅費が厳しくて成人式は参加しなかったんだっけ。


 今となっては、少し寂しい選択だったかなと思い返すこともあるけど。


「それじゃあ、俺たちのクラスで同窓会開くのってこれが初めてじゃない……? いや、この間はそういうのしてないって言ってたよな」


 伊勢は、こくりと頷いた。


「一回北海道に残っているクラスメイトでグループLINE作るまではしたんだけどね。なんか、成人式前後の予定が合わないってなっている内に――あれ? 最後どうなったんだっけ。いつの間にかグループ解散しちゃってるんだけどさ」


「なあエビちゃん。俺初耳だよ」


「そりゃ、けいちゃんは私たちの中で行方不明になってたし。誰ともLINE繋がってなかったし」


「……俺も、初耳なんですけど」


「上京した人間なんて一々フォローしてらんないし。大体、私たちがスマホ持ったのって中学入った辺りでしょ? あのグループLINEはある程度進学した中学高校が纏まってたから集められたってだけで、今回みたいに訪ね歩くみたいなことしてないから」


 ――なるほど。話が分かってきた。


「要するに、委員長ならクラスメイトのLINEアカウントを友達登録している可能性が高いってわけか。……俺が情弱とか、関係なくね?」


「あるでしょ。松尾がLINEやってるわけないもん」


「…………」


 そういう問題か? そういう問題か……。


「それで、委員長には今連絡取れるんだよな?」


「勿論。ほら、このアカウント」


 伊勢がテーブルの上にLINEのチャット画面が写ったスマホを置いた。直近のメッセージは丁度昨日、伊勢から「ちいかわ」のうさぎがはしゃいでいるスタンプと「久しぶり! ちょっと相談したいことがあるんだけど良いかな?」というメッセージ。続いて、一日置いて繋がらなかった通話の記録。見たところ委員長からのリアクションはないようだ。


 ……えっと、これは――


「これって、未読ってこと……だっけ? 普通メッセージ読まれたら既読、って付くよな?」


「うん。そうなんだよね」伊勢はスマホをバッグに戻して溜息を吐いた。「通話も、なんかコール音は鳴るんだけど急に切れちゃったし。金曜だったから忙しかったんじゃないかと思うんだけど」


「そうか。じゃあ、今日にでも返信が来るんじゃないか?」


 そう言うと、伊勢は勝ち誇ったようなムカつく顔でテーブルに頬杖をついた。


「だと思う。……ふふん。どう? これで一気にクラスメイトの連絡先が分かれば、私が大きくリードってわけ」


「だから、俺たちは競争しているわけじゃないんだって。でも、なるほどな。LINEなら最近も連絡先として使っている奴は多いだろうし、かなり調査が進むかも。やるじゃん、エビ」


「あー。……うーん……」


 何故か、けいちゃんが腕を組んで深刻そうに唸った。そういえば、中学受験に墜ちたってことで委員長に引け目を感じているんだったな。


「なんだよ、けいちゃん。まだ委員長に合わせる顔がないってのか」


「あ。うーんとね。そういうわけじゃないんだけど」何故か、自分が後ろめたいというよりは俺たちに気を遣っているように頭を掻く。「……はあ~。俺が言わなきゃ駄目か、これ」


「ん?」


「エビちゃんさ。委員長にスタンプを贈ってみてくれない?」


 伊勢と困惑した目を合わせた。


 そもそも俺はスタンプを贈る機能があることすら知らなかったし、けいちゃんが一体何を意図して伊勢にそうさせるのかなんて見当も付かない。彼女にしてもその点は同じらしい。


「スタンプを――委員長に? 何で?」


「良いから試しにやってみてよ。代わりに俺がお金払うからさ」


「別に良いけど」


 伊勢は不思議そうな顔をしながらも再びテーブルにスマホを置いて操作を始めた、


「ねえ、贈るスタンプって何でもいい?」


「うん。エビちゃんが贈りたいやつで良いよ」


「じゃあちいかわのやつ贈ろっと」


「お前好きだよな、それ。キーホルダーもストラップも……スマホの壁紙まで……」


「まあね。児童にも人気で話のネタになるし。じゃあ贈るよ――はい」


 と、「OK」のボタンをタップした伊勢の指先に「すでにこのスタンプを持っているためプレゼントできません」というメッセージが表示された。


「……それ、人気あるスタンプなんだろ。別の贈ってみれば」


「あ。なるほど」と、同じ操作を繰り返しても同様のメッセージが突き返される。


「あれっ。通信悪いのかな」


「じゃなくて、ね」けいちゃんは空咳をしてから言った。「ブロックされてるんだよ……エビちゃん」


「――えっ!?」


 驚愕した伊勢が、今度は変なおじさんが土下座しているスタンプを贈ろうとする。到底委員長が買わなそうな趣味だが、それでも出てくるメッセージは同様。


 ブロック。


 俺でもけいちゃんの言っている意味くらい分かる。つまり、伊勢は委員長のアカウントから着信拒否みたいな設定にされているということだろう。


「えっと、いや、ありえないし。私が誰かにブロックされるなんて……それも委員長に」と、青ざめた伊勢はなおも色んなスタンプを贈り付けようとして失敗している。こいつは今までの人生で着信拒否とかブロックされたことが無いのだろうか。この性格じゃ関わり合いになった人間の殆どが検討しそうなもんだが。


 わなわなと指を震わせる伊勢を前に俺は呆れて溜息を吐いた。


「お前……お前なあ……。何が俺の鼻を明かす、だよ。一歩目で躓いてるじゃねえか」


「いやっ、これはきっと――そう! 委員長が間違って私をブロックして、そのまま気付いていないんじゃないかな!?」


 けいちゃんが黙って首を振った。それは考えにくいということか。


「エビちゃんって委員長と仲悪かったっけ?」


「別に悪くないし!……何でえ!? ちょっと、松尾からメッセージ送ってみてよ!」


「俺は委員長のLINEアカウント登録してないからな……。けいちゃんは?」


「登録してるわけないじゃん。けど、エビちゃんからまっちゃんに委員長のID送ることは出来るんじゃないかな。ブロックされているとどうなるかは分かんないけど」


 ふと、なんでけいちゃんは引き籠もりの癖に俺よりLINEに詳しいのだろうという思いが湧いた。テック系に詳しいからなのか?


「……いや、委員長に断りなく松尾に紹介するのっていうのも……」


「仕方ないだろ。お前ブロックされてるんだもん。どうせ何か失礼なこと言って怒らせたままなんだろ」


「そんなこと――!」と、憤りかけた伊勢が、目の前でしなしなと落ち込んでしまう。「……したのかなあ、私。そんな憶えないんだけど……はああ、なんか凄いショック」


 俺は不思議でたまらない。なんでこいつは俺に嫌われることは厭わないような態度なのに委員長にブロックされたことにへこんでいるんだ。

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