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第6話 深夜のバレリーナ

「よく耐えたわねSAKU、あなたはそのまま回復カプセルで待機してなさいっ」


パチリパチリと電子ノイズが響くなか軍司令部の上官である姉御から通信が入る。なんとか一方通行での通信が確立したのだ。


「ただいまを持って今回のミッションを敵の捕縛から殲滅に変更する。航空隊が到着する前に衛星からの光学砲台を使用するわよ。そのあたり一帯が焼け野原になるから、回復カプセルの電磁シールドも最強硬度まであげるからね。気密性も100%まで上昇させるから、こちらからもあなたからも音声通話ができなくなるわ。必要な情報は文字にしてモニターに映し出すから確認するのよ」


電子音が鳴り響き、壁の後ろで見えないハッチが次々と閉じられていく。


「えっ?ちょっと待って、オッサンはどうなるんだ?」


クリスタルの障壁をガンガン叩いて主張するが声は相手に届かない。

モニターには様々な計器を必死に操作する姉御と「20分は持つけど無駄に酸素を消費しないで」注意テロップが画面を流れていく。

完全なる密閉空間とするために、空気すら出入りできない環境。

もちろん非常事態には内部からロックを解除することはできるが、もうそれがゆるされない緊迫した状況だ。


映像には先程からドローン映像で敵機しか映し出されていない。

自機のモノアイからの視点の映像が映らないのはつまりおっさんがモニターには映らないということだ。

先ほどまでいろいろと説明してくれたAIの音声も沈黙しており、SAKUの指示に無反応となっている。


姉御だ。

姉御の仕業だ。


自分を助けるためには、現状でとれる手段はこれしかない。

オッサンがこのまま時間を稼げたとしても、ただ航空隊が間に合うだけではダメなのだ。


相手は最新のマルチ空間対応型ロボット、つまり飛行挺相手でも空中戦が可能。

空中での急カーブ、急ストップ、ホバリング、なんでも可能なクセに飛行速度はマッハを超える。

装甲も厚く飛行部隊の火力くらいは電磁シールドで防いでしまう。勝てない相手だ。


航空部隊が到着する前に敵のこの最新機体を挙動不可能まで追い込まなければ。助けにきてくれた飛行艇が撃墜されてしまう。

そして敵の分厚い装甲を一瞬で貫通させることができるのは、宇宙空間で集めた太陽光を超集約して打ち出す光学砲台しかない。


コロニーの天井をぶち抜いて敵を貫く破壊光線。

外部宇宙空間に展開されるシールドと天井がレーダーを邪魔して光線を感知することができないため回避は不可能。


おっさんがケツ振りダンスで時間を稼いでくれている間に姉御は凄まじい勢いで指示を出す。


標準とコロニー内の大気によるズレ補正、光線の邪魔にもなるシールドを着弾の一瞬だけ切断。

穴の開いたコロニーの箇所にすぐさま防壁を張り大気の流出を防ぐ。

そして敵機の殲滅とSAKUの救出のセットアップを航空隊に指示する。

口頭で指示を出しながら腕はキーを叩き続けマザーコンピューターにコマンドを打ち込み続ける。


そんな姉御の頭にちらりと裸ダンスを続けるオッサンが脳裏をよぎった。


今回の作戦の重要性と機密性を考えれば、おっさんのことには構っていられない。

ここに存在すること自体がイレギュラーなのであり、それを見捨てることは司令官として小事でしかない。

もちろん善良な1市民の命だ胸が痛む。しかしここで敵を見過ごせばこの先に億単位の人間の命がかかってくるのだ。

きれいごとをいえば一人の命は地球テラより重いのだが彼女は軍人である。

そして彼女は自分の中でカルマを背負う覚悟をきめている。


「おじさま?わたしがあなたを必ず憶えておくから。恨むならアタシを恨むのよ?」

怨霊となって夜ごと自分の枕元に出て来ればいい。ベッドの周囲をバレリーナのようにクルクルまわりながら裸で踊ればいい。

SAKUを救ってくれたお礼に一緒に踊ってあげる。

それくらいの覚悟はできている。


そして最後に出した指示は。


ポチリ。


光学砲台のセッティングを終えた後、最後に裏コードを陸戦型ロボットに送信する。

回復カプセルを内部からこじあけるための暗号キーを一時的に変更するためだ。

内部タイマーにより、光線が着弾する直前に元に戻るようにセットされたスペシャルコード。

機体が溶解した場合にロボットから脱出できるように、それでいておっさんを救おうとして回復カプセルから出ることができないように。


お互いの声が聞こえなくてよかった。



ロボットの内部カメラでは、クリスタルウォールの内部でSAKUが狂ったように握りこぶしを壁にぶつけ続けているがそんなもので開くはずがない。

あたり一面を溶解させる光学砲台の熱波すら耐える特殊合金だ。

人間の拳どころか最新型ロボットでも傷一つつけられない代物。


彼女は愛しい部下から光線の発射カウントへと目を移す。

計器を確認しなければならない自分に少しだけ安堵するのは、涙を滲ませながら拳を振るい続ける彼女を見ないでいられるから。


3・・・2・・・1・・・


一瞬の静寂のあと。


"Fire(ファイヤー)!"


無情な光線が宇宙空間から放たれた。


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