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第5話 感謝と感動を変態に向けて叫ぶ

「「おんぎゃあああああっ!!」」


二人の少女の叫び声が重なった。


兼用型ロボット、ファントムZX3。

コロニー内はもとより、宇宙空間、有酸素環境での空中とあらゆる環境で自在に動ける翼をもつマルチタイプのロボット最新型である。


現在の最新鋭量産型ロボット機ファントムZXのパイロット版機体であり、一点ものであり、車でいうなら最高性能最高級のオプション全のっけの「最高グレード」を更にパイロットにあわせてバナー出力等拡張してある機体。

最速のスポーツカーの最高級グレードをレース仕様にカスタマイズしたようなものである。


そんなデタラメな反則機体を操っているのは、銀色の長い髪を後ろで束ねた美少女である。偶然だが今追い詰めている機体、おっさんを助けた赤髪の少女と同い年の女の子だった。

それはつまりおっさん山田の娘と同い年でもあるということ。

敵同士の二人の少女の共通点はともに父親がさえないおっさんであり、偶然ではあるが二人の両親も山田と同じ年ごろなのであった。


そんな少女が目の前にいる素っ裸でシーツをふりふりダンスしているおっさんを見たとたん、大きな叫び声をあげてフリーズしてしまった。

年頃の少女としてあたりまえの反応ではあるが、彼女をよく知る敵本部のオペレーターはその反応に驚きの声をあげる。


宇宙連邦に虐げられてきた移民の娘。

世の中の全てを敵と睨みつけるこのやせっぽちで貧弱な少女は、幼いころから反政府集団の様々な訓練に加わり鍛錬を続けた。そして限界を超えて挑み続けた訓練の末に発芽したのは、ロボットパイロットの適性だった。

可憐な少女へと成長していくかたわら、もっとも優秀なパイロットとして反逆集団のエースに君臨したのだ。


「氷のエミール」

一切の躊躇なく敵を殲滅し命を刈り取る姿に誰からか呼ばれるようになった二つ名だ。


そんな彼女が動けずに固まった。

全ての意識を持っていかれたのだ、ただごとではない。


最新型の、より精細に精密に映像を映すカメラとモニター。

操縦者の瞳孔の動きに合わせて即座にパイロットが望む視点へと照準を取り、フォーカスを行う全自動(フルオートマティック)カメラ。

正面にあるモニターは旧型と違いただの予備映像であり、すっぽりとヘッドセットを被って操作を行う。

パイロットが映像を確認するのはモニターではない。

まるで実際の3次元空間で敵と対峙しているがごとく映像をヘッドセット内に展開する。


・・・だからこそ。

この可憐で冷ややかで落ち着いた少女は愕然としたのだ。


目の前のモニターに映し出されているもの、それは・・・激しく左右に揺れるオッサンのナニなのだ。

もちろんその映像は、敵側の司令塔へとリアルタイムで送られていることを知ってはいる。だが今この瞬間そんなことになど構っていられない。


冷たい美少女の頬は真っ赤に染まり「はわわわわ・・・」と普段口にしない意味不明の言葉が口からもれ、半開きの口に手が当てられる。

成人男性のアレというだけで復讐一筋のうぶな少女には刺激が強すぎる。だがそれに加えて。


ピタン!ピタン!


何故全裸?

何故腰を振るの?

何故ダンスなの?

変態さんなのっ!?

な、ナニは痛くないの!?


無理やり冷静な判断をすれば理由をこじつけられる。

この変態男が全身で表現しているのは(多分)全面降伏の意思であり、こちらが気付ずかずに攻撃してこないよう、せいいっぱい目立つ格好と動作を繰り返しているのだと。


しかししかし。

ロボット同士の戦いにおける全面降伏とは、こういうのじゃないっ!

通常の機械戦闘における降伏とは、ロボットの機能を全てOFFにしたうえで降伏信号を相手に送り、操縦するための権限を相手に送信譲渡して成立する。

それは戦時協定で決まっており、パイロット常識のイロハのイなのである。


こんな遥か昔の本星テラの”中世”と言われる数百年も昔の白旗をふるやり方を。しかもその時代ですらしなかったであろう裸踊りをしながら行う必要はないのであるっ!


同じ時。


倒された内陸用の旧型ロボットの回復カプセルで意識を取り戻した赤毛の少女も、同じく目を丸くしてフリーズしていた。

こちらの視界はロボットのモノ・アイが撮影する映像が全てであり、映し出す対象は操縦者の判断とAIの自動判断により決定される。

映像を補足するヘルメットは吹っ飛んだ際に破損しており、正面のひび割れたモニターがかろうじて状況を映し出していた。


倒れた機体の頭部に設置されているモノアイと敵機の間に映るもの。

壊れかけたモニターに途切れ途切れ映るその背中、その薄くなっている後頭部、そしてその尻っ!

白旗を振るためだろう、全身で左右に振れるたびにクイックなダンスを見せるオッサンのたるんだ尻のお肉、そして踏ん張った股の間から画面のノイズのようにチラチラと振り子のように見える黒い影っ!!


「な、な、な、なにやってんだよあのオッサンッ!!!!!」


勝気な瞳、太い唇、そして筋肉質でガタイのいい肉体。

少女でありながらも鍛え抜かれたその肉体は、エリートパイロットの証であり歴戦の戦士の証である。

性別関係なく筋肉が全ての世界で生きてきた彼女は、男の肌を見た程度でたじろぐほどウブな少女ではない。

なんならトレーニング室で筋トレにはげむ同僚パイロットたちは、黒いブーメランパンツ一丁でカッチカチの筋肉を見せつけるようにポージングしている。

黒くテカる肉体、白い歯、爽やかな笑顔。

同じパイロットの同僚であり仲間である彼らの股間をあえて凝視することはない。それでもお尻の筋肉も太ももも背中も彼女にとっては日常的に目に入るモノであった。


しかし。


目の前でダンスしているお尻の肉は、彼女の知っている大殿筋ではなかった。

不格好に垂れ下がり、形も崩れ、年寄り特有の肌シミがところどころ皮膚を変色している。

彼女の知っている「キュッと引き締まって上がっている股関節を操る筋肉」なんかでは決してない、もう別の何か、エグくてグロいスライムかアメーバーにしか見えなかった。


「ぐ、グロい、エグい、汚いっ!!おっさんなんであんなものフリフリダンスしてノリノリなんだっ!あれ趣味かっ!?この戦場で目覚めたっつーのか!?」


汚くて目を背けたいような、しかし妙にグロい虫に気付いてしまうと目が離せくなってしまうような。すでに目が座っている。


『アレは降伏のための白旗を振っている動作かと推測されます。目立つように大仰な動作で意思を誇張して伝えようとしています。彼の服は大きく破損してすでに処分しており、体を隠すための布を提供しましたがそれを降伏の意思として振っています。全裸であることは本人の意思ではないと推測されます』


AIの分析音声が流れる。


『確認のためにドローンで撮影している正面映像に切り替えますか?』


「い、いらんいらんいらんっ!しょ、正面からっていうと、あ、アレが映ってんだろ!!男のナニがっ!!」


さすがに想像するとその髪色のようにほほが赤くなるが、もっと想像してみると逆にゲンナリした顔になるのだった。

もちろん想像したのは「ナニ」なのだが。


『ワタシの方で映像を確認しましたが、確かに男性の陰部は包み隠さず開示してあります。腰を勢いよく左右にふっていることにより、振った布と反対側の太ももに陰部が打ち付けられてリズミカルな打撃音が・・・』


「だっーーー!!!!そんな解説いらんわーーー!せっかく助けたおっさんがただの変態だったーーーっ!!これだからおっさんに情けは不要だったんだあーーー!!」


激しく後悔する。

14歳の少女にとっては当然である。


『山田太郎53歳、中堅商社〇〇勤務。犯罪歴無し、性格は温厚実直。まじめを絵にしたような性格で社内もご近所の評判もよし。全方位に気を使いすぎるきらいがありそれが家族内では不評。娘14歳からはかなり蔑まれている模様。』


AIが滔々と山田に関するレポートを読み上げた。


「え?14歳ってアタシと同い年?ってか53歳ってうちのオヤジと年同じ?・・・いやいや、その前に何でAIがいきなりおっさんの個人情報開示してんの?」


少女の言葉を無視するかのように、AIの説明は続いていく。


『言い換えればマジメだけが取り柄の周りの目を気にしすぎる小心者。どこにでもいる冴えない中年男性ということです』


AIは無駄なことはしない。


必要な情報を取捨選択して教えてくれる、ロボット操縦士にとってはもう相棒といっていいパートナーだ。

もちろん眼前の敵ロボットのAIと比べれば、情報量も反応速度も対応の滑らかさも段違いではあるが、逆にそれがなんとなく人情味があるように感じられるのは最新型を使えない自分へのなぐさみだろうか。


『もちろん彼の心の奥底の性癖は判断できませんが、死ぬか生きるかの瀬戸際であらたな性癖を開花させたとは考えずらいと推測します。また正面映像の彼は勃起しておりません』


「ぼっ・・き。それアタシに対してセクハラじゃねーのかよっ!」


『何をいまさら。彼に話を戻しますとこの不明な行動の謎さが効果的に作用して、時間をかせぐことに成功しています。』


不思議な顔をして、赤髪の少女は疑問を口に出した。


「なんで時間かせぎを?あのおっさんがしてるんだ?」


『彼はあなたと本部との通信「援軍がくるまで時間をかせいでくれ」を認識していました。またあなたが倒れた直後にあなたを自分と入れ替えて回復ポッドに収容するように依頼をしたことを考えると、あなたを助けたいと考えているものと推測します。自分の身を危険にさらして命をかけて』


「なっ・・・!」


彼女は絶句した。

かなり面倒だと思いながらも何となく助けたおっさんが、体ひとつで敵の最新鋭ロボットから自分を助けようとしてくれている(らしい)。


「なんで・・・?」


薄っすらと少女の瞳に涙が浮かぶ。


自分はオッサンを助ける時には命をかける気なんて毛頭なかった。


そんな自分に対して、オッサンは身の危険も、自分自身の社会性すら顧みずに自分を救おうとしてくれているのだ。

見ず知らずの、まだ直接会話したこともない自分のためにっ!


『あなたが自分を救ってくれたことに対する恩義、自分の娘があなたと同い年であり存在が重なることへの愛情、が大きく理由として挙げられます。他の可能性は大きく下がりますが、あの世代特有の正義感、やさしさ、ダンディズムなどの信条的な理由があげられます。さらに下がりますが、死を覚悟して自分の性癖を解放した可能性もゼロではありません』


「い、いや、そこまではいいよ。美談なのか変態のかわかんなくなるから・・・・」


最近のAIはいろいろと相手を気遣うような挙動をみせてくれるけど所詮は機械。

言いづらいことを膜で包むような忖度はしないのだ。

一瞬しらけかけた感情も、でもあの姿を見るとやはり感動で胸がキュンと・・・


汚いお尻を思いっきりふってぇ~~♪

さあ、激しくレッツダンスッ!

右、左、右、左っ!

上に掲げた両手も腰の動きにあわせて右、左、右、左っ!

クネッ

クネッ

クネッ

クネッ

腰から生えた柔らかいムニュもリズムに合わせてダンスダンスッ!

パチンッ

パチンッ

パチンッ

パチンッ


彼女にはフィットネスクラブのダンス講師のようなリズミカル・ハイテンションな掛け声が聞こえた気がした。


AIの言うとおり感動的な話なのであれば、なぜあんなに激しく「ノリノリで」ダンスしなければならないんだ。

いや、敵の目を引くため、なんだろうけど!

わかんなくない、わかんなくない、でもな!?


赤髪の少女の中で盛り上がっていた「感動」はあっという間にしぼみ切ったのだった。


「珍道中」連続UPがひとくぎり。いかがでしたでしょうか?


こういうのあんまりな方、連続アップおつきあいくださってとってもありがとうございました。

週末金曜の夜に大魔王様アップしますのでそちらでお口直し(?)なるといいのですが。

嫌いじゃないよこういうのな方、いらしたらぜひ反応をいただけますと嬉しいです。

珍道中は次回火曜の夜アップですぜひご覧になってくださいませお待ちしてます!



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― 新着の感想 ―
アメーバみたいな尻、笑 続きも読んでいきます。執筆頑張ってください!
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