第28話 ルールは破るためにある
「もう魔法は打ち止めだ。アレは何なんだ」
空中に浮かぶ大魔導士ユーリ・エストラントはひとりごちた。
フラリフラリと高度が落ちて、やがて森の木々の中に埋もれてしまう。
ギンギラギン
空中に浮かぶミラー・ボールのような球体がチカチカと光ると、レーザー光線がユーリの落ちた辺りに放たれた。
ギンギンギラリン ギンギラリン
ミラー・ボールが輝くたびに何通りものレーザー光線が打ち込まれていく。
実際にはユーリ・エストラントが倒れたすぐそばの地面に何個も穴をあけているのだが命中していない。
ピンポイントで張る結界が直撃する光線だけを吸収しているのだ。
さも命中しているかのように。
『あれはゴーレムの核と呼べる魔導回路でおそらく異界の神格を混ぜて構成しているのでしょう。ワレワレが放った魔法は神格をもったものには効きませんからね。いずれゴーレムとして復活するかもしれません』
ユーリ・エストラントを幼いころから導いてきた御使いの言葉は彼の耳を右から左へと通り抜けるだけだった。
今日耳日曜。
5文字の熟語ではない。そして知らなくてもストーリーに問題はない。
まだ神に至っていない彼が、世界中からの力を借りて神の御使いの叡智と助けを借りて神域魔法を放ったのだ。
『やるだけやったからあとは頼むーーー』とほっぽり出したい気分。しばらく会っていない妻と娘の元にかけつけたい。
『相手は神格の力を借りた攻撃マシーンでしょう。あちらに残ったのは最後にして最強の手札。こちらに残っているのはハテ?こちらの創造神が用意した戦力に違いありませんがワタシにも理解できそうにありませんね』
ゼェーハァー
ゼェーハァー
空を見上げてぶっ倒れているおっさんは荒い息。
両手は股間を守りまくっている。
一度『ヤラれて』しまうとしばらくは恐怖による反射でどうしてもかばってしまうのだ。痛いものは痛いのだから2度はゴメン。
どうやら前世で臨死を体験することで得た『悟り』は股間の痛みに勝てなかったようだ。
なんともシマらないおっさんの姿。
ある意味で『玉を隠している』のだから隠し玉には違いない。
遠くの空に輝く球体はミラー・ボールにしかみえない。
日の光でキラキラと輝くたびに光線を発射。
さきほどまで戦っていたユーリ・エストラントを掃討しているのだろうか。
いずれこちらにも向かってくるかもしれない。
負けたのか。
俺たちは負けたのか。
3対3の団体戦のハズだったのに。中から4体目が出てくるなんてズルい。
先ほどユーリ・エストラントが放ったのは神様の魔法に違いない。そんな神様の魔法に耐えられるのはやっぱり神様しかいないんじゃないの?
導き出される結論は簡単だ。
あのミラー・ボールにしか見えないギンギラギンって、あれも神様なんじゃないの?
いや、いや、いや。
胸先にピンと手のひらを立て左右に振るおっさん。
その仕草は『あなたナニヲイッテルのですか?』言わんばかり。
暗黒竜。名前聞いてましたハイ。
灼熱魔人。説明にありましたハイ。
隠し玉があるかも?ソンナハナシモアリマシタでもそれってあの巨人のことですよね?
まさか本当に『球』じゃないですよね?
しかも神様的な球だったりしませんよね?
相手は神様の玉。
カミタマ。
ちょっぴり舌足らずな幼児の発音ならつまりはカミサマ。
うちの上司連れてこおおーーーーい話が違うぞ!!
なぜ俺は神様と闘っているんだよ!
異界からの侵略者が神様って、それ相手するのってコッチの神様の役目じゃないの!?
メジャーリーガーと試合するのは週末草野球のおっさんじゃないでしょうが!
「何か文句でもあるのですか?このワタシに?」
響いたのは久々でちょっぴり懐かしい声。
姿は見えなくてもその存在がすぐそばに感じられる。
「あの球体は異界の神そのものじゃないよ?たかが神の意思と力が込められた神具と言うべきものさ。違う次元の存在が争う際はそれぞれの世界を統括する神は直接手を下さないのがルールだからね。でもルールはルールだかなりギリギリの解釈したもんだ」
楽しそうに笑う創造神。
「キミたち人間の世界でもよくあることじゃない?法律の解釈なんてナントでもできるよね?歴史だって政治だってなんだって勝てば官軍だ」
ギリリ。
前世の記憶がよみがえるおっさん歯を噛みしめる。
神様のルールなんてしらないおっさんだが、敵がそのルールの解釈をネジまげて反則すれすれで攻めてきていることは理解できた。
そうじゃなければ先ほどの大魔導士の魔法でカタがついているハズだ。
甘いと言われようとドンくさいと言われようとおっさんの生きざまは決まっている。
誠実であること。
これがおっさんの生きるみち。
出世していった同期の営業マンたちは同情するものもいた。蔑むものもいた。
もっとうまくやれよと本気で語ってくれる友もいた。
だけれども。
それでもおっさん山田は自分を貫き通してきたのだ!
「まあこっちも同じですけどね?」
「へっ?」
フフフフフと嘲笑が聞こえた気がした。
「むしろあちらがグレーゾーンだとするならこっちは真っ黒ですけどね?」
「へっ?へっ?」
「あんな機械仕掛けの神もどきなんてせいぜいが上級神1体の力のほんの一部。それにひきかえあなたはこの世界の最高神が5体も力を貸しているのですから!それもワタシの指示よりもガッツリと!神具という名で!!」
「なんじゃそりゃああああッ!!!」
おっさんの頭の中で懐かしの名ゼリフが響くのだった。




