第21話 戦場にて
「次が来ちまった!」
メリメリメリッ!
突然地中に巨大な魔力が現れ、広範囲の大地が木々を巻き込みながら大きくひび割れてくぼんでいく。
中心にアリジゴクでもあるかのように、ぐるぐると沈み周囲の土辺を巻き込んでいく様は、まるで巨大なミキサーか撹拌機が大地を無理やりにかき混ぜたようだ。ドロドロに渦を巻き、濾され、濃厚となり、高密度の収束されていき行きつく先に。
「ショワアアアアッッッチ!!!!!」
大きな叫び声が響く。
そして地の底から巨大な人型のゴーレムが飛び出してきた!
灼熱魔人は3メートルほどの大型魔人。暗黒竜はさらに大きく10メートル級の巨竜だ。だがその巨人は比にならず30メートルはあろうか、もう巨大な建造物ほどもあろう。
薄くレンガの継ぎ目が見える。全身は人型であるが人肌の感触や色ではなく異世界か地球外の星人に見える。
銀色でツルンと輝く皮膚に覆われ、体のパーツにわかれて濃い赤色が大地深くで滾るマグマのように燃え盛る。顔は仮面をつけたように目も口も輪郭だけであり、頭は額から後頭部まで細いモヒカンのように突きあがっている。
盛り上がる胸筋が、腹筋が、上腕二頭筋が、大殿筋が。まるで筋肉隆々の銀の膜でコーティングされた筋肉人間であるがごとくであり、巨大な重量による破壊力と筋肉らしきものは俊敏性をも感じさせる。
赤く滾る魔力はマグマから得た力が宿り熱線や光線の魔法適性まで予想された。
巨人は空中に浮かぶ羽虫のような小さな存在を見つけるとその目をピカンと光らせた。
一瞬膝を曲げて勢いをつけたかと思うと、巨大な筋肉は地面を深く窪ませ破壊しながら蹴り上がり見つけた対象へと飛び上がる。
「シュワッ!!!」
拳を握りまっすぐ真上にあげて突き進む、その様は一筋の光線でありまさに光の戦士。
光速で拳が向かうその先には小さな羽虫のような存在が浮遊する。この世界では神へ至ろうとする存在ユーリ・エストラント。
パアンッ!
巨人の一撃で強力な防壁が打ち砕かれ、魔力の残滓が割れたガラスのように周囲に飛び散った。
本来なら皆の力を集結して戦うべき相手であろう、敵は追加を重ねてついに3体もいる。
しかしこの場所に立つことができるのがユーリひとりしかいない。
神にいたるほどの力を持たねば。または神でなければ。空間がねじ曲がり異空間が近いこの場所に入り込むことは不可能であった。
それはつまり相手も異界の神の使いであることを示しており、この世界でいうオーバー・スペックと同格の相手なのだ。
地の有利があっても2体を相手にすれば互角、そこに3体目が現れた。
ご丁寧に新しい属性だ。
「光と土属性ときた。わざわざ違う属性違う種族だ。追加に時間はかかるけど戦闘の状況を確認しながら手を打たれてるぞ?」
加速した思考で瞬時に結界を再構築しているが体は巨人のパンチで吹っ飛んでいる。
灼熱魔人や暗黒竜に保っていたスピードの優位性がこの巨人に上回られた。
しかも巨人が打ち込むパンチは光の速さと巨大な重量でバフがかかりユーリの結界を軽々と打ち破るのだ。
勢いよく"パリン"
この世界でユーリの結界を破れるはいない。だが異界神の遣いはあっさりと破壊してくれる。
「それでどうすればいいんだ?なんだよあのウル〇〇マンみたいなヤツ。人類の味方じゃねーのかよ」
『相手の世界では民衆の味方かもしれませんよ?魔人と凶悪な竜種も』
神の御使い"ナビゲーター"が面白くもない冗談を言う。
言っていることは正しいかもしれないが今はそれどころではない。
このままだと"詰み"はすぐそこだ。
「弱点は?時間が経てば土に還るとかないのかよ?」
『土属性の効果で体表を常時変化させて硬度と魔法への耐性に身体能力の強化まで実現しています。神域の闇魔法でゴーレムの体を取巻く物質を変化させれば胸部の魂コアを撃ち抜ける可能性があります。1対1であれば勝算はありますが魔人と竜の攻撃が予測されますので魔法の準備が整いません』
「ヘィヤアアァッ!」
巨人が叫び声と同時に腕を縦十時にクロスさせる。
ビビビビビッ!!
光の光線がユーリの防壁をあっさりと破る。横っ飛びで白い光の筋をよけるのに精いっぱいだ。
「ああなるほど。光と土ってのも意外だけどアリなんだなあ」
その間にも灼熱の炎が降り注ぎ、暗黒竜の嵐が彼を巻き上げようと突き上げてくる。
相手は有利に立っても容赦なしだ。
巨人のパンチをよけ、岩石交じりの嵐を潜り抜け、灼熱の結界を絶対零度の結界で崩す。
あちちち
炎の熱波を完全に中和できずにユーリはホホが焦げ戦闘服は小石たちにボロクズにされる。防戦一方で攻撃する隙がない。
攻撃の起点はあのウル〇〇マンだ。
巨体なのに光の速さ。物理攻撃にレーザー光線。
防御する必要もないほど肉体は性質を変化させてこちらの攻撃を受け流す。
「泣きそうな気分なんだけど?こいつらオレを仕留めにきてるぞ?」
『そうですね。あなたの大嫌いな集団でのつるし上げです。ひとつ抵抗してやるとよいのでは?自動障壁を展開しますよ』
これは世界の命運かけた闘いだ。つるし上げも卑怯も何もない。
そんなことはわかっていても、からかうように俺が嫌いなワードを突き出すことで闘志に火をつける。
「ヘヤアアアァァァッ!」
何もなかった空間に突如として現れた巨人の高速フックが俺に直撃する。
バンバンバンッと硬質な壁が力業でぶっ壊される衝撃が走り、かろうじて吹っ飛ばされるだけで済んだ俺が即座に魔法を展開する。
その隙を逃さずに光の速さで巨大な腕が俺を捕まえようとせまったところで。
「亜空間転移っ!」
ブチリッ!!!!
すぐ後ろに展開した亜空間への扉へ吸い込まれる瞬間、光の巨腕が俺の体を握りしめた、しかしここはもう亜空間だっ!
瞬間に空間ゲートが閉鎖して巨大な腕を引きちぎり、亜空間で塵となって消える。
昔に俺が「やられた」ヤツだ。
これは相手が速いからこそできた光の速さだからできたことだ、なにせ亜空間のゲートに入った俺に追いつけるのだから。次の瞬間には別のゲートから世界へと舞い戻る。
「ヴォオオオオオオォォォォオッッ!!!」
片腕がスッパリと無くなった巨人が大声で叫び空気が震える。バランスをくずした巨体はもんどりうって倒れて転がった。
『久しぶりのチャンスですね。時間はかかるでしょうが回復しますよ所詮は土くれですから』
ゴロゴロと地面を転がりながらもちぎれた腕のあたりに発光がはじまり、大地から吸い上げる鉱物が小さなブロックとなって腕を形作り始めた。
上空から見ると腕のあった箇所に小さな砂粒が集まっているように見えるが、きっと近づいたら岩石レベルのブロックだ。
「そんな時間をやるわけないだろうが!反転術式"解体"!!」
『左から暗黒竜が接近しています。灼熱魔人は巨人の修復に力を貸すようですね』
雷光とどろく暴風が迫る。
巨人の腕あたりの地面が真っ赤に溶けぐつぐつと常軌を発している。
超高温でマグマ化した地面に巨人が肩を突っ込み腕を再生する。
『灼熱魔人が大地を融解させた溶岩を一気に取り込んでしまうつもりでしょう。数分もあれば元通りになると予想します。液状化したマグマは解体する概念があてはまりませんから反転術式は作用しませんよ』
ゴウウウウウウッ
暴風と雷鳴が結界をバチンバチンと破壊する。
対処をしていると雲の闇魔から竜のブレスが渦を巻いてせまる。
眼下の灼熱魔人を攻撃するために放つ魔法詠唱は止められない。風の流れを何とかいなそうとしたその瞬間。
グバアアァッ!
暗黒竜の二つの赤い目が闇間から突然現れ鋭い爪を振りかぶる。
バリンッ!!
この至近距離で直接攻撃されれば俺の結界は簡単に破られる。
振り降ろされる腕の爪が輝き眼前に迫ってきた。
『巨人が再生すると苦しくなりますよ。灼熱魔人へ魔法を放つスキを作りなさい。あなたの魔力は8割ほどこちらの魔法に充填しますのでそのつもりで』
言い放つとそれきり詠唱に入る。神の使徒であるコイツの本気詠唱だ。
たしかにココでケリをつけなければジリ貧な展開しかない、そして巨人は2度と亜空間に巻き込まれてくれない。
相手も自分の世界では「神の使徒」だ。同じ手に引っかかることはない。
「神機-聖剣エクスカリバアアァァァッ!!!」
俺の手に現れる確かな存在。
使を握りしめると神聖な妖精力がみなぎる巨剣が顕現して輝きが俺にウィンクする。
今世代の妖精女王が宿る聖剣は神界につながる神力とこの世界に広がる大地の力を吸い上げ、最強の剣として俺の意思を振るう。
眼前に口を開き俺を飲み込もうとする牙たちとガチリと金属音を響かせ互いに大きくハジかれた。
竜はそのままグルリと振り向きざまに巨大な尻尾をふりまわし俺をはたき落そうとする。
ガイィンッ!
せまる尻尾に大剣を振りかぶると固い鱗で覆われた尾と聖剣エクスカリバアが衝突しあたり中に火花が飛び散る。
「相手も本気だなっ!ここまで肉弾戦しかけてきたのは初めてだぞ」
『それだけ相手も必死ということです。詠唱は終了しましたが邪魔な竜ですね。残念ながらワタシは魔法発動のスタンバイ・モードですのであなたが魔法を打ち切るまで手助けできません』
「わかってるそんなこと!だがもう1手たりない!!」
なりふり構わず全身で襲い来る暗黒竜。
マグマを生み出し続ける灼熱魔人。
そして生み出されたマグマが繋がっていき回復していく巨人。
もう一手もう一瞬。魔法を撃ち出すスキを作り出さなければ負けるっ!




