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第20話 その少女には裏がある

「フフフッ。フフフフフッ」


モビルアーマーFT-ZX操縦席。


氷の少女エミイの冷たい笑いが響く。

切れ長の目には薄暗い光悦の炎がやどり、薄い唇は下弦の三日月のように口角をあげている。

オーラを通してみればその口元には鋭い犬歯が並んだ肉食動物のように見えたかもしれない、そんな微笑み。


ヤムダとサクへの嫉妬か。

ゆがんだ愛情か。

あらわになったフェチか。


「そうじゃない、本当のあなたはそうじゃないでしょう?」


怪しい微笑みに光悦とした表情で独りごちるそのさまは、誰が見てもまったくもって危ない女である。


そんな危険な口元からは。

「私、ヤムダのこと信じてるから大丈夫だよ?」


顔を見ていれば「ヘヘヘヘ・・・」と幽霊の恨み声がエコーで聞こえてきそうなガンギマリの表情だが、外部スピーカーをオンにして発するその声だけはしおらしく可憐。


声を聴いたヤムダがしみじみと感動しながら決意を固めるその様をバックモニターで確認するエミイ、その上弦の月のように細く曲げられた目はただひとこと「ニマリ」見事にかかりやがったわね、と言わんばかりである。


「しっかりつかまっててね!」

さらに健気な声がヤムダに注意を促す。

胸に躍る期待にヨダレが口のハジから滴り落ちていることにも気づかない。


「トォウッ!」

未来世紀においてロボット型の飛行体が離陸する際には、トォウッ!という合図音を発することになっているのは世界共通の仕様なのだがここでは余談である。


助走を経て空へと飛び出したその瞬間、エミイにしては慣れ親しんだ操作で計器類をさばき、モビルアーマーFT-ZXを大気中での飛行形態へと変形する指示をだしたのだ。


一瞬のモーター音のあと、ガシャンッ!シャキィーン!!


今はきっとロボットの背に搭載されている厚み「ランドセル」と呼ばれるブロックから二体のブースターが飛び出し、両端から飛行翼が飛び出したはずっ。


バックモニターを確認すると予想通り。おっさんが掴まっていた手を振りほどかれてもんどりうって転がり、必死にロボットにしがみつこうともがいているところ。


「ひゃああぁぁぁいいぃぃぃん」

哀しい叫びがコダマする。


ゾクゾクゾクゾクッ!!


エミィの背中に戦慄が走り、彼女は歓喜の表情で自分の小さな胸を抱きしめた。


「そう、そうよ、そうでなくちゃあ!!恰好つけた仮面なんてアタシがはぎ取ってあげるわ!!私の前で本性をさらしなさい、私の前で裸のあなたをみせなさいっ!!」


首筋まで真っ赤になった美少女が、光悦の表情で見開いた目を天井に向ける。

その視点は操縦席の空間を右に左に意味もなくさまよい、光悦でゆがんだ顔面からは涙と涎がダラダラと滴り落ちる。

そして涎でベトベトの口からは「ケケケケケッ」と密林のジャングルで聞こえる怪鳥の鳴き声のような笑いが響いた。


それは胸に秘めた少女の恋が踏みにじられ、目の前で親友に奪われ、その熱い逢瀬をまじまじと見せつけられて砕けて生まれた真っ黒な愛の結晶かけらなのであった。


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