第18話 出発のとき
ウイイィィィン・・・・
電子音が鳴り響き回路に電子パルスが走る。
計器類が一斉に光りだし、いつでもOKと言わんばかりに操縦桿もスイッチ類も点滅を繰り返す。
FT-ZX。
おっさんが前世で生きていた時代の最新型モビルアーマーである。
大地を、空を、そして宇宙までを超光速で駆け抜ける機動力を持ち単騎で街を制圧する武力を宿す。
拳をふるえば山を砕きレーザーはミリもズレずに相手を光熱線で貫く。
レーダーは10Km四方の敵位置を正確にキャッチし、戦艦級の艦砲射撃が直撃してもオコゲ色の汚れが付くだけの強固な装甲をもつ。
ぶっちゃけるならこの世界では完全なオーバーキルだ。
その力を存分にふるう姿を見たならば全員が思う。
鬼神が降臨した、と。
まさに神機と呼ぶべき機体なのだ。
ヒュイイン、と静かな音がして鋼鉄の作業台から足が地面におろされる。
同じくもう片方。
人間でいう背中沿いに腰、胸、頭と力が満ちていき、台についた腕を伸ばしついには立ち上がる。
高さ10メートルほどの巨体は様々な機構と頑丈な装甲でズングリとした印象だ。
それでもブンブンと準備運動のように振り回す腕はなめらかに動く。ジェット噴射による補助機構であり得ない方向へ曲がる動き。このロボットはただのでくの坊ではなく、むしろこの星のあらゆる生命体よりも俊敏に力強く動くことを示していた。
メインパイロットのエミイは、デモンストレーションでの機体の動作に満足する。
機体の調子は絶好調。
誰にも何にも負ける気がしない。
これなら必ずヤムダの力になれる一緒に戦える。
ヤムダと一緒に戦えるのは私しかいないのだから。
ムギュリ
「え?」
「あああっ!」
サクと見つめ合うヤムダ、FT-ZXの搭乗席でモニターをチェックしていたエミイ。
二人が同時に声をあげた。
サクがヤムダの手を取り自分の胸にあてたのだ。
ヤムダの手の平にスッポリと。大胸筋の固さではなく乳房のやわらかさが伝わる。
サクは真っ赤にうつむきながらもヤムダの手を自分の胸にギュウギュウと押し当てた。
「きっ気合、入んだろっ!男はこういうの好きだろ!」
ビックリしたヤムダとおっさん。
サクの気持ちを受け取ったヤムダは照れながら一度だけムニュとやさしくおっぱいを握って離すのだった。
「気合入ったよ。ありがとう」
「そ、そうか、だったらいいんだけどよっ!それでな・・」
最後には声がツブやくように小さくなって、ヤムダのお耳に顔をよせて。
「帰ってきたら続きだから。だからちゃんと帰ってきて」
耳元で一生懸命なお願いをつぶやいた。
「すぐに帰ってくるよ。愛してる」
ヤムダも彼女の耳元でつぶやき、お耳に軽くチュッとキスして返した。
赤くなって離れる二人はまだウブな少女と少年。
「ぜ、ぜったいだからな!あと最後のやつはアタシもそうだから!」
あっという間に口調も声の大きさも元に戻ったのは、かわいい乙女の自分を見られるのが恥ずかしかったから。手の平で真っ赤な顔を見られないように隠す。
彼女はヤムダにありのままの自分をあげたのだ。
わかってしまったヤムダはサクと離れがたくなる。
一晩中でも抱きしめていたくなる。
現実はそれを許さない。
「さあお仕事の時間ですよ?」
頭の中ではおっさん山田へと雇用主の声が響いたのだった。