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第17話 愛を語るより口づけを交わそう

ヤムダの中に熱い愛情がほとばしる。

やっと青年と呼べる齢になろうとしている美少年、この世界に生を受けた純粋な魂であるヤムダはあふれる激情をとどめるために必死だった。


これまでサクとは親友にも近いほど通じ合っている。彼女が首都で工房をひらくために一緒に汗を流した仲間だ、誇らしいほどの強さも儚いほどの弱さもすぐ傍で見てきた。

さらにフラッシュバックしたおっさんの想いからサクへの感謝と愛情が若干ひんまがって伝わっている。若いヤムダの魂には純愛に変換されて彼の心を支配する。


サバサバとした性格が心の距離を感じさせないくせに、その心の奥には照れくさそうな少女が微笑むサク。

男っぽいくせに、ヤムダの前では必死に隠そうとしている照れ隠しの気持ち。

ツンとデレではなく、男っぽさとデレ。

男にも乙女心はあるし女にも漢気がある。


もしサクが男であっても。

もしヤムダが女であっても。


互いが異性であろうと、同性であろうとこうなっていた気がする。

性別なんて関係なく心と心が互いにピッタリはまってしまったのだから。

魂のありように全身を撃ち抜かれてしまい、尊敬し、信頼し、愛情が熱く胸を打っているのだから。


万感の思いでその唇に愛を注ぐ若いヤムダの魂であった。



片や。


おっさんの中では激しい申し訳なさが巨大な闇の渦を巻いている。

後悔ではなく申し訳なさだ。


異世界から雇用主につかわされたおっさん。


ヤムダはおっさんでおっさんはヤムダなのだが、二人の魂は別なのだ。

おっさんの思いはヤムダに通じ、ヤムダの情熱はおっさんをかけめぐる、という良くも悪くも運命共同体。

ヤムダはサクを愛することに戸惑いを感じ、おっさんはサクへ向かう情熱に感情を揺さぶられる。


男爵夫妻の愛の結晶であるヤムダ、おっさんからするとこの体の本来の持ち主だ。そして自分が役目を果たした後もこの世界にこの体で生きていく魂。

この子の人生を邪魔してはならない。

山田はそんな思いで彼を成長させ世界を救う準備をすすめてきた。


ヤムダもまた愛情深い山田を尊敬している。

年寄り臭いのがたまに傷だけども一本気に他人を思いやれる熱い魂。しかもそれがモテ要素になっている。懐いているヤムダとしても嬉しい。


愛情と信頼で結ばれ一つの体に同居する二つの魂がはじめて思いを掛け違った。

サクに向ける感情が「愛」なのか「感謝」なのか。

ほのかな恋慕を胸に秘めて親友として付き合うのであればどちらでも問題はない。だが今は違う。


いくらお互いの激情が体と心を揺り動かしたとしても。

いやむしろ感謝と感動が大きいからこそ。


恩人の、うらわかい少女の唇を奪ってしまった・・・。


サクは命の恩人との口づけに真っ赤になって光悦としており、トロントロンで熱いまなざしがヤムダから離れない。愛する男性を見つめるしぐさがまた、普段の男っぽい彼女とのギャップで惹きつける。


そんなおっさんの気持ちはくれぐれも後悔ではない。

おっさんの心の奥でつながるヤムダから流れ込んでくる感情は、惹かれて愛した女性との口づけに心と体が通じ合った喜びだ。

ヤムダが愛する女性と愛し合えることを祝福したい。

だがこんなおっさんが間に挟まっていることがくれぐれも申し訳ない。

こういうことは若く情熱的な魂の交わりとして生まれることなのだ。


サクと熱い口づけを交わす情熱は確かにヤムダだけど、それに突き動かされてしまったのはおっさん山田なのだから。サクの性格ならファーストキスであろうし決して年寄りがうばっていいものではない。


どうにも「こんなおっさんで申し訳ない」「お邪魔して申し訳ない」「老体で申し訳ない」「大人かぜふかして申し訳ない」お詫びの言葉が次々と湧いて頭を埋めていく。


だけれど。

おっさん山田の想いはヤムダとは少し違うとしても。


この男勝りで漢気があり、そしてまっすぐで迷いがない照れ屋のかわいらしい女性のことを。

愛しく大切にしたいという思いが胸を締め付けるのだった。


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