第14話 聖剣、そして戦神
聖剣エクスカリバーは意思を持った聖なる剣。
創造神が準備した「神具」の一つ。だが他の神具とは搭載されているパワーが違う。
長い年月が経ってツクモ神のように剣が意思を持った?
それとも剣聖とよばれた過去の剣豪が乗り移った?
ノンノン。
この聖剣に搭載される意思「戦神」。
人間の世界には「脳筋」と呼ばれる人種がいるが、さらにグレード・アップした存在が神にもいるのだ。
戦闘力・戦力だけなら創造神をも凌駕する漢。
忠義に熱く神の摂理を乱す存在を憎む神界の最高戦力。
残念ながら本人・・いや本神のご登場とはいかなかったが、この剣には戦神の3割ものリソースが降臨しているのだった。
創造神にコキ使われて今もどこかで闘いにあけくれながら。
おっさんは昨夜、夢の中に現れた戦神と会話をする機会に恵まれた。
それは戦神の神託がおっさんに降りてきたという大それたことなのだが。もちろんおっさん気づいていない。
「おめえも大変だな。うちの創造神は人使いが荒いからなあ」
シミジミと語る戦神。神としての使命とはいえ自分も「使われている」という認識はあるらしい。
「やっぱりそう思われますか?何にもわからないうちにこの世界に飛ばされて。先ほどの連絡で明日いよいよ決戦だって」
精神年齢60歳を超えるおっさんだが戦神からすればヒヨッコであり若造。同じ雇い主の元で働く後輩のおっさん、頼りになる先輩に素直に懐くのだった。
「まあ頑張れや。おまえには俺がついてるからよ。この剣だけで俺がいられなくてスマナイんだが」
ビックリ顔のおっさん山田、すなまそうな戦神。
「戦神様が一緒に戦っていただけるのではないのですか?専門性の高い営業はその道のプロ同伴が鉄則ですよ?」
「そういわれてもなあ。今は創造神からの依頼で50か所ほど同時に戦闘してんだよ。一応3割はこの聖剣に力を託すから破格の扱いなんだぜ?他の戦闘なんて1か所に2%も力を使っていないし」
笑う戦神のホホにピシッと線が入った。
今もどこかの戦闘で相手から軽く被弾した模様。人間なら血がタラリと垂れるところだが戦神の頬はすぐにピッタリひっつき元に戻る。
「やっぱ0.1%は力を落としすぎたか?オーバースペック3体相手でも手こずっちまう。戦神の名がすたっちまうな」
どうやら随分と自分を優遇してくれているらしい、そのせいで他の戦闘がピンチなのかもと気づいたおっさん。目をかけて安心させようとしてくれている先輩、思いは返すのがおっさん流だ。
「え?だ、大丈夫ですか?死んじゃダメですよ、俺達同じ仲間じゃないですか!苦境は一緒にあたれば怖くない、みんなで渡れば赤信号だって!!」
同じ雇用主に使われる身。
普段は別々の仕事についても本質は同じ。無茶ぶりからの逆境突破だ。
ぶっちゃけブラックは同じ仲間がいるからこそ耐えられる。
「そう言ってくれるのか?俺たちは、そうか。俺たちは仲間なのか」
「そうですよ、無茶ぶり上司に翻弄されるブラック社員仲間じゃないですか!!」
脳筋である戦神に人間社会の細かいことはわからない。
「ブラック」も「社員」も気にしないし考える気なんてない。理解したのは一言だけ。
そうか、俺たちは仲間だったのか。
「ありがとうよ、そういってくれるヤツがいるなら。俺達頑張れるな?」
今この瞬間もめちゃくちゃ過酷な状況の戦神。なんでもないことのように口元はニヤリと笑う。
自分の首を狩ろうと襲ってくる強敵たち多数に現在進行形で対峙中。先ほどは齢1000年の魔導竜の罠に嵌められてしまい、大規模魔導術式「アダマンタイト・ストーム」の渦に突き落とされた。
しかも同等レベルの戦闘が様々な世界や時で同時に絶賛開催中その数なんと50か所!
「ええ!死なないように聖剣はパワー落としていただいて結構です!できるだけ力を貸してもらえたらいいですから!あとはいるものだけで何とかしますから!!」
NANTOKASURU。
これこそがおっさん最大のスキルである。
結果なんて見えていない、恰好よくなんて終われない。
あがく、もがく、恥をかく。それでもやり切る、これこそがおっさん流。
な・か・ま
戦神の目に薄っすらと涙がやどる。
そんなこと言われたのは初めてだ。
この戦う力を持たない魂は戦神である自分を気遣ってくれる。
戦う力なんて持たないくせに。
肩を並べまかせておけと胸を張る漢。
「やまだ-FT-おっさん。神でもなく、オーバー・スペックでもなく、ただ創造神が拾い上げた熱い魂だけを持つ漢、そして俺の仲間よ!」
戦神は汗が目に入ったフリをしてソッと涙をぬぐう。キッとした表情は何かを決めた清々しい顔だ。
「言葉に甘えてちょっとハズすからな?明日の大戦までには戻るから安心しろ!なに俺が本気になれば明日までに受け持ちの戦場は半分にもしてみせるさ。今晩はゆっくり休むんだぞ・・・」
バシュンッと音を立て戦神の気配は消えたのだった。
さっきまで戦神が座っていた場所にコロリンと転がるワン・カップ「YOKOZUNA」
おっさんは仲間からの気持ちを拾い上げ、自分の方こそ大変なくせにと切なく笑う。
だがこれ以上心配するのは失礼だろう。
漢と漢が逆境に挑むと決めた心意気だ。
パキュン、といい音を立ててフタを開けると、波止場の堤防に片足をかけて遠くの海をみつめタバコをふかすハードボイルドタイム。
仲間の無事を空に願いグビリとニホンシュを飲み干すところで声がかかった。
「あなたが、やまだ-FT-おっさんね?明日は頼むわよ?」
ヤムダの魔法ロットが点滅する。
「あなたが魔法神様ですね?ボスから聞いてますよ、今回はすみません」
「別にいいわよ、アイツからの無理難題は今に始まったことじゃなし」
「やっぱり、やっぱりそうなんですねっ!いえ実は・・・」
魔法神去り際におっさんの背中をバチンとハタいてサムズアップ。
「先輩にまかせて大船にのったつもりでいなさいな。なにせワタシたちはNA・KA・MAなんでしょっ!」
「あ、姉御ぉ~!」
次はヤムダの鎧と盾が輝く。
「お主がやまだ-FT-おっさんであるな?」
「あるななのー」
「武闘神にこちらの小さなお方は守護神様ですね?」
「いかにも!」
「かにもなんだぞー!」
去り際
「何事も経験だ俺達が必ずお前を勝たせてみせるっ!なにせ俺たちは・・」
「なのなの守っちゃうんだもんねー!なにせボクたちは・・」
2神と一魂、熱い信頼で結ばれて肩を組んで円陣。
「「NA・KA・MAっ!!」」
「だろっ!」「だもんねー!」
そして最後の1神が現れる。ヤムダの周りでその存在を主張する輝きは見られない。
メンテナンス中の神機FT-ZXが突然輝きだしてサクが驚いたがおっさんは気づくことはない。
現れたのは無骨な職人タイプの筋肉男だ。
「やまだ-FT-おっさんじゃな?ワシは・・・」
「機械神様ですよね?まだお会いできていませんが話は聞いておりますので。これからよろしくお願いします」
「こちらこそじゃな。ワシはあの何とかアーマーといかいうのでお主を支援する役割じゃ。期待しておるぞ?」
「全力を尽くしますので。それより私がマルチアーマーをお願いしてしまったばかりに、機械神様を巻き込んでしまったようで・・・」
「いやいや詫びには及ばんよ。無理を言ってきたのはあの方じゃお主ではないしの」
「そう言っていただけますか!や、やっぱりそうですよね?うちのボスのゴリ押しと無理強いってば本当にあきれるしか・・・」
去り際
機械神とおっさん、ガシリと握手。
「明日はまかせるがよい、存分に支援してみせるぞNA・KA・MAよっ!!」
しかしどうにも引っかかることがあるおっさん。
最後の機械神が行ってしまう前に、仲良くなった先輩にどうしても気になることを聞くのだった。
「ところでみなさんがおっしゃる『やまだ-FT-おっさん』のFTって?」
「ボスが言い始めたのじゃよ、お主のことはこう呼ぶようにと。Fはフ・・」
そこまで言いかけて慌てて口に手を当てる機械神。
誰かに口止めされたようでお口チャック。もちろんその誰かが創造神なのはおっさんもわかっている。
「ええ~?そこまで言ったらもう言っちゃってくださいよぉ~俺達NA・KA・MAじゃないですか」
ねだるおっさん山田、あせる機械神。
「す、すまぬ。神として言えぬこともあるのじゃよ」
「どうせあの上司のことだし、マルチアーマーのFT絡みでしょうけど。わかりました無理言ってすみません」
本当に適当なんですよねあの上司、と納得したようなおっさん。機械神はスマヌスマヌと手を立てて謝るのだった。
「うむ、うむ。あながち間違い、でもないような・・おっとっと。それではよろしく頼むぞっ!」
機械神はアッと言う間にいなくなってしまったのでした。
ご無体な創造神の無茶ブリに四苦八苦してきた機械神。
NA・KA・MAができてご満悦。
しかしせっかくできた仲間の今後を思うと切ないやら哀しいやら。
「創造神様がたわむれに「Furu-Tin」を略して名付けたなぞと言えるわけがなかろうが!!」
「大魔王様」っぽい落としのお話になってしまいました。。