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第14話

◇ 深淵の灯火 地下施設への潜入 ◇

森を抜けたカイたちの前に現れたのは、朽ち果てた地上の建造物群だった。その一角に、瘴気に侵されながらも辛うじて形を保つ鉄扉がある。そこは地上で生き延びた人々の間で「瘴気の源」に繋がる手がかりが隠されていると言われる地下施設だった。

「ここが目的地か?」

カイが短剣を握りしめながらイサムに尋ねる。

「そうだ。ただし、ここに入るのは賭けだ。」

イサムは鉄扉をじっと見つめながら続けた。

「この先には、瘴気の源に繋がる重要な情報がある可能性が高いが、罠も多い。何が待ち構えているかはわからない。」

「……罠か。それでも、進むしかないんだよな。」

カイは深呼吸をし、リリィに振り返った。

「お前の体調は大丈夫か?」

「うん、平気。」

リリィは少し微笑みながら答えたが、その顔色はどこか不安げだった。

「進まなきゃ、このまま終わっちゃう気がする。」

イサムはため息をつき、鉄扉に手をかけた。

「覚悟があるなら行こう。ここから先は、迷えば死ぬだけだ。」

鉄扉が鈍い音を立てて開く。中から吹き出す瘴気に、三人は一瞬身をすくめるが、互いに頷き合い、薄暗い地下施設へと足を踏み入れた。

◇ 忍び寄る影 ◇

施設の内部は、無数の配管が張り巡らされた廃墟のような空間だった。壁は黒く変色し、天井からは液体が滴り落ちている。廊下の奥には赤い非常灯が点滅しており、不気味な雰囲気が漂っている。

「やけに静かだな……」

カイは周囲を警戒しながら進む。

「むしろ、それが不自然だ。」

イサムは銃を構え、背後にも目を配りながら慎重に歩を進めた。

「喰らい花がいないなんてあり得ない。この静けさは罠の予兆だ。」

リリィは二人の間に立ち、緊張した表情を浮かべていた。彼女の体からわずかに瘴気が漏れ出しているのが見えたが、それに反応する気配は今のところない。

「ここに何があるんだろう……」

リリィが呟いたその瞬間、突如として施設全体が震え始めた。

「何だ!?」

カイが叫びながら壁に手をついて体勢を整える。

「奴らだ……!」

イサムが前方を指差すと、暗闇の中から複数の喰らい花が現れた。その姿は通常のものとは異なり、明らかに進化した異形を示していた。体の各部から鋭い棘が伸び、目は瘴気の赤い輝きで満ちている。

「強化型の喰らい花か……!」

イサムが銃を放つが、一発では怯む様子もない。

「リリィ、後ろに!」

カイが短剣を抜いて喰らい花に飛び掛かる。だが、相手の動きは素早く、鋭い棘がカイの肩を掠めた。

「カイ!」

リリィが叫び、反射的に歌を口ずさむ。

その歌声に反応し、喰らい花の動きが一瞬だけ止まる。しかし、それはリリィの瘴気をさらに引き寄せる危険も孕んでいた。

「歌い続けるな!」

イサムが鋭く叫んだ。

「瘴気を集めすぎると、あいつらだけじゃなく、施設全体が反応する!」

「でも……!」

リリィは逡巡しながらも、歌を止める代わりに近くに落ちていた鉄パイプを手に取った。「私だって、何かできるはず!」

彼女は喰らい花に向かって走り出し、必死でそれを殴りつける。その動きは決して洗練されていなかったが、必死の抵抗がカイとイサムの隙を作り出す。

「やるじゃないか……!」

イサムが銃口を喰らい花の頭部に向け、一気に引き金を引いた。その一体が倒れると同時に、残りの喰らい花たちが退却し始めた。

「追ってくるぞ。ここを早く抜ける!」

イサムが叫び、三人は再び廊下の奥へと駆け出した。

◇ 封印された真実 ◇

施設の奥へ進むにつれ、空気がさらに重く、瘴気が濃密になっていく。やがて三人は一枚の巨大な金属扉の前に立ち止まった。その扉には複雑な模様が刻まれており、中央には瘴気を発する装置のようなものが埋め込まれていた。

「ここだ……この扉の向こうに、瘴気の源に関する情報があるはずだ。」

イサムが言い、扉に手をかけた。

だが、扉はびくともしない。

「鍵が必要か?」

カイが尋ねる。

「いや……これは瘴気で動く仕掛けだ。」

イサムが冷静に分析した。

「瘴気を装置に流し込めば、開く仕組みだろう。ただし、それをやれば俺たちの狂花病の進行も加速する。」

「そんな……どうすれば……」

リリィが不安そうに呟く。

「俺がやる。」

カイが一歩前に出た。

「俺はもう十分、瘴気に侵されている。ここで進行が早まったところで、今さらだ。」

「待って!」

リリィが彼を止めようとする。

「私だって同じくらい侵されてる。カイだけにそんなこと……」

「俺がやるんだ!」

カイが振り返り、強い声で言った。

「お前にはまだ希望がある。お前の歌が、未来を切り開ける力を持ってる。俺が犠牲になるほうが理にかなってるだろ?」

リリィは何も言えず、ただ涙を浮かべてカイを見つめた。

「時間がない。」

イサムが短く言い放つ。

「誰がやるか決めろ。それとも、全員死ぬか?」

リリィは震えながらもカイの手を掴んだ。

「一緒にやろう。二人なら、耐えられるかもしれない。」

「……お前って奴は。」

カイは苦笑しながら頷き、リリィと共に装置に手をかざした。

二人の体から漏れ出る瘴気が装置に吸い込まれ、扉がゆっくりと開き始める。その瞬間、二人の体に激しい痛みが走る。

「くっ……!」

カイが苦しみながらも踏みとどまる。

「まだ……まだいける!」

リリィも歯を食いしばり、倒れそうになる体を支えた。

やがて扉が完全に開いた。

◇ 目撃した光景 ◇

その先には、無数の管が絡み合うようにして形成された異様な空間が広がっていた。中心には巨大な瘴気の結晶が浮かび、そこから瘴気が溢れ出している。

「これが……瘴気の源?」

カイが息を切らしながら呟いた。

イサムは銃を構えながら慎重に結晶へ近づく。

「いや、これはただの端末だ。本当の源へ繋がる鍵に過ぎない。」

その時、結晶が光を放ち、三人を包み込むように動き始めた。

「何だ……?」

リリィが立ち尽くす。

結晶の光の中から現れたのは、一体の人影だった。その姿は、かつて人間だった痕跡を残しながらも、完全に喰らい花へと変異した異形だった。

「歓迎されてるわけじゃなさそうだな。」

イサムが冷たく笑った。

「これが……瘴気を守る番人なのか?」

カイは短剣を構え直した。

三人は互いの顔を確認する。そして、それぞれが覚悟を胸に、再び進むべく構えを取った。

廃墟の地下で、深淵の闇がいよいよ牙を剥き始める。

◇ 絶望の番人 瘴気の結晶が示す真実 ◇

巨大な瘴気の結晶が輝きを放つ空間は、不気味な静寂に包まれていた。その中心に浮かび上がった人影は、かつて人間だった痕跡を残しながらも異形へと変貌している。

「これが……瘴気の番人なのか。」

カイは短剣を構え直しながら低く呟いた。

異形の番人は、喰らい花を遥かに凌駕する威圧感を放っていた。両腕には長く鋭い刃が形成されており、その表面は瘴気の結晶で覆われている。頭部は花弁のように裂け、その中心には赤い光が脈動していた。

「ただの番人じゃない……瘴気そのものが意思を持った存在だ。」

イサムが冷静に観察しながら銃を構えた。

「簡単には倒せないぞ。」

リリィは不安そうに後ずさりながらも、喰らい花に反応してしまう自身の力を思い出していた。

「私の歌が、何か役に立つかも……」

「だめだ!」

イサムが即座に制止する。

「お前の歌は確かに強力だが、ここでは逆効果だ。この場所全体が瘴気に満ちている。歌えば、その瘴気が暴走して俺たちを殺しにくるぞ!」

「でも……!」

リリィの瞳に迷いが浮かぶ。その瞬間、番人の目が彼女に向けられた。

「リリィ、下がれ!」

カイが叫び、彼女の前に飛び出した。その直後、番人の刃が高速で振り下ろされ、カイは辛うじて短剣で受け止める。だが、その衝撃は凄まじく、彼の体が後方に吹き飛ばされる。

「くっ……!」

カイは痛みに耐えながら立ち上がり、再び構えを取る。

「カイ!」

リリィが駆け寄ろうとするが、イサムが腕を掴んで止めた。

「奴の攻撃に巻き込まれたいのか?」

「でも、カイが……!」

「俺たち全員がやられるぞ。冷静になれ!」

◇ 激闘の幕開け ◇

番人は再び巨大な刃を振り上げ、三人を狙い始めた。イサムは冷静に銃を連射し、僅かながら相手の動きを牽制する。

「効いてない……だが、奴の動きを止める隙くらいは作れる!」

その間にカイは素早く番人の背後に回り込み、短剣を深々と突き立てる。しかし、結晶化した体表は想像以上に硬く、刃が十分に通らない。

「くそっ……!」

番人は振り向きざまにカイを振り払う。吹き飛ばされたカイは壁に叩きつけられ、息が詰まるほどの衝撃を受けた。それでも、彼の目には諦めの色はなかった。

「リリィ!」

カイは息を切らしながら叫ぶ。

「俺が引きつける! その間に何か方法を探してくれ!」

リリィは一瞬躊躇したが、カイの必死の表情を見て強く頷いた。

「わかった! でも、無茶しないで!」

カイは番人の注意を引くため、わざと挑発するように近づき、短剣で何度も攻撃を仕掛ける。番人はその動きに反応し、巨大な刃で彼を追い詰めようとするが、カイの動きは俊敏で捕らえきれない。

「ほら、こっちだ!」

カイは声を張り上げながら攻撃をかわし続ける。

一方で、リリィは空間を見渡し、結晶を取り巻く構造物に目を向けていた。

「この装置……瘴気を制御するためのもの?」

彼女は考えを巡らせながら、中央の結晶の近くに足を運ぶ。

◇ 決断の歌 ◇

その時、リリィは結晶から漏れ出す瘴気が、自身の体内の狂花病の力に共鳴していることに気づいた。

「この力を使えば……でも、私はどうなる?」

リリィの体から瘴気が微かに立ち上る。それに気づいたイサムが警告する。

「やめろ! そんなことをしたら、お前は――」

「わかってる……でも、何もしなければみんなが死ぬ!」

リリィの声には、決意が滲んでいた。

彼女はゆっくりと歌い始めた。その旋律は美しくも儚く、空間全体に響き渡る。番人の動きが一瞬止まり、瘴気の結晶も微かに振動を始める。

「リリィ、やめろ!」

カイが叫ぶが、リリィは歌を止めない。その瞳には涙が溢れていた。

「これしかないの……カイ。あなたを守るために。」

歌の力は確実に結晶に影響を与えている。結晶の輝きが弱まり、番人の動きも鈍化していく。しかし、それと同時にリリィの体からは激しい瘴気が噴き出し、彼女の肌が徐々に花弁状に裂け始めていた。

「リリィ!」

カイが必死で駆け寄る。

彼女の体は明らかに狂花病の進行が加速している。それでも彼女は微笑み、震える手でカイの頬に触れる。

「カイ……私の歌を信じて。」

「お前を失いたくない……!」

カイの声は苦しみで掠れた。

◇ 番人の終焉 ◇

リリィの歌が最高潮に達した瞬間、結晶は砕け散り、番人もその場に崩れ落ちた。だが、それと同時にリリィの体は瘴気に侵され、地面に崩れ落ちた。

「リリィ……!」

カイは彼女を抱き上げ、絶望的な表情を浮かべる。

彼女は薄く微笑みながらカイを見つめ、弱々しい声で言った。

「……まだ、終わってない……源を……止めて……」

「リリィ、喋るな!」

イサムが近づき、リリィの状態を見て冷静に判断を下した。

「彼女の力で結晶は破壊されたが、本当の瘴気の源はまだ別の場所にある。この先だ。」

「そんなことはどうでもいい……リリィを助ける方法を教えろ!」

カイは怒りに満ちた声を上げた。

「方法なんてない。」

イサムは無情にもそう告げた。

「狂花病は止められない。だが、彼女の犠牲を無駄にしないためにも、俺たちは進むしかない。」

カイは震える手でリリィを抱きしめながら、彼女の頬に触れる。

「俺が守るって言ったのに……」

リリィは微笑み、最後の力を振り絞って呟いた。

「……カイが……いるから……大丈夫……」

その言葉を最後に、彼女の瞳は閉じられた。

◇ 決意の先へ ◇

カイは静かにリリィを地面に横たえ、彼女の冷たくなった手をそっと握った。そして立ち上がり、短剣を強く握りしめる。

「リリィのためにも、俺は必ず瘴気の源を破壊する。」

イサムは無言で頷き、二人は暗闇の奥へと足を進めた。

深い絶望の中、それでも小さな光を求めて歩き続ける。リリィの犠牲が、彼らの道を照らしているように思えた――。


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