古蜀文明のオーパーツ騒動から学んだ女王陛下と王女殿下
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
四川省成都平原の遺跡を発端とする一大センセーションは、我が中華王朝で考古学や美術に携わる者にとって忘れ難い一件と言えるでしょう。
私こと愛新覚羅白蘭も、その例外では御座いません。
翰林図画院の官僚として宮廷芸術に携わるようになって久しい今となっても、一介の第二王女だった少女時代に起きた例の出来事は昨日のように感じられるのです。
件の遺跡で発掘された青銅縦目仮面は、それだけならば三星堆遺跡の出土品と同じ古蜀文明の語り部として扱われたでしょう。
話を複雑にしたのは、縦目仮面の最大の特徴である両眼の突起部にアルミニウムが付着していたという報告でした。
この第一報が伝わるや、「古蜀にアルミ鍍金の技術がオーパーツ的に存在したのではないか。」という仮説が官民問わずに囁かれるようになったのです。
結局このオーパーツ騒動は、調査結果を伝える第二報で瞬く間に鎮静化したのでした。
突起部のアルミは過去の盗掘者の過失で付着した物で、盗掘の来歴が分からなかったのは中華王朝建国以前の旧体制が文化事業を軽視した為。
白日の下に晒された真実は、何とも平凡な物でした。
とはいえ件の騒動が全くの徒労だったかと申しますと、そうとも限らなかったのです。
少なくとも、我々王族にとっては。
「墳墓の盗掘者が現れたのも、全ては当時の為政者が民達を幸福に出来なかった為。私の治世では同じ轍を踏まぬよう、天子として善政を敷きたい所です。」
私達の実母にして中華王朝初代女王でもある愛新覚羅紅蘭陛下は、自身の執政を顧みられる契機となさったのでした。
「歴史や文化を軽んじ、記録を怠る。斯様な有様では祖霊達に申し訳が立つまいて…」
二歳年上の姉上である翠蘭第一王女殿下も、概ね同様の御意見の御様子。
しかし、私の場合は…
「母上、姉上…もしも青銅縦目仮面が本当にアルミ鍍金されたなら…それは果たして、如何な芸術となったのでしょう?」
「まぁ、この子ったら。」
「ほう…面白い事を申すのう、白蘭!幻と消えたオーパーツ、いっそ貴殿の手で芸術品として再現させるのも一興よのう。陛下も妾も、貴殿の美的センスを高く買っておるでな。」
こうして私は、本格的に芸術の道に踏み出したのです。
芸術を体系的に学んだのも、翰林図画院の官僚に就任出来たのも。
そもそもの第一歩は、母上と姉上が笑って後押しして下さったからこそ。
件のオーパーツ騒動は私にとって、己の歩む道を定める契機となったのでした。