第25章 戦いのあと
黒い沼の戦いが終わった数日後、ある人物が黒い沼を訪れていた。
その人物は、古めかしい黒いローブに身をまとっていた。そのローブはぼろ布のようでもあったが、永久凍土の氷の割れ目の底にある深い穴の、陽の光の存在さえ数百年も忘れ去ったかのような暗黒を引きずっていた。
黒いフードを深くかぶり、その顔は影に覆われている。わずかにのぞいた顎さきの色艶からは、かなりの高齢であるように見える。
暗黒の人物は、湿った地面に残る亀裂の痕跡と、わずかな腐臭から、緑竜が大地の底に葬られたことを知ったが、その事実にあまり興味を示すことはなかった。
瞑想するように目を閉じ、この場で起きた戦いの記憶を辿る。
ヴァンパイア・ロードは失敗した。死骸も持ち去られ、不死の者たちの軍勢も壊滅させられた。
それを確信すると、その人物は失望を短い吐息で示した。
「・・・しょせんは、“器”にも“駒”にもなれなかったか」
深い井戸の奥底から響いてくるかのようなしわがれた声で、ひっそりとささやいた。
――――だが、たいした問題ではない、失望には慣れている。
彼はそう思いなおすと、もうこの場所に興味を失っていた。
光が地平の果てに駆逐され、暗黒が世界を覆いつくす時代。そのはじまりは、まだもう少し先のようだ。時間はまだまだある、とはいえ有限である。次なる場所へ、向かわなければならない。
凍えるような孤独に彩られた長く日の差さぬ暗黒の道は、まださきへと続いているのだから・・・




