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第22章① 白き光と黒き影、そして緑竜(前編)

「・・・生き血を吸われずにすんだと思ったら、今度はドラゴンに食べられるとはな」


 ポーリンの影の魔法によって、緑竜の毒のブレスを回避したフィラーゲンは、地に膝をつきながら恨めしそうに言った。


 さすがの彼も、強力な不死の者との戦いによってかなり力を消耗しょうもうし、使える呪文は残り少なくなっていた。少し遅れて戦いに参加したポーリンの方が、若干まだ力を余していると思われるが、いずれにせよ五十歩百歩だ。


 仮に二人が万全の状態であったとしても、神に最も近い偉大な生物を正面から打ち負かすためには、奇跡が必要だろう。


 ポーリンはピンを背筋を伸ばして立ち、夜空に舞い上がったドラゴンを油断なく見据えていた。セピア色の髪の毛を美しく結われたままに保っている黄金色の髪止めが、夜闇の中でも輝いていた。


「“つらいときほど気品を保て”、か」


 大きく息を吐きながらフィラーゲンは言った。


「・・・きみの母上の言葉を、ひとつ私も見習うとしようか」


 そうして埃を払いながら立ち上がり、恐怖を振り払ってドラゴンに向き直る。


「あら」


 ポーリンがいぶかしげに振り返った。


「あなたに言ったことがあったっけ」

「・・・四回くらい聞いたよ。うち三回は、酒を飲んでいるときだ」

「そうだったかな」


 ポーリンは笑ったが、恐怖心をひた隠しにしようという試みは失敗し、口元は引きつったままだった。


 フィラーゲンは、そのひきつった笑顔に勇気を与えられた。


「魔法陣を使おう。あと一度ぐらいは、使用に耐えるはずだ」

「せっかくの申し出に水を差すようだけれど、ドラゴン族に魔法陣の罠が通用するとはとても思えないわね。せいぜい、数呼吸のあいだ足止めできるかどうか―――」

「それで充分だ」


 フィラーゲンは決意を込めて言った。


 ドラゴンが森の上を旋回して、こちらへ向かって降下してきた。大きく口を開け、再び毒のブレスを浴びせようとする。


 二人は影の魔法を使って、再び魔法陣の手前へと移動した。


「面白い術を使うな、魔法使い」


 さっきまで二人がいた場所を少し通り過ぎたあたりに着地したドラゴンは、少し感心したように言った。


「だが、逃げているだけでは死を先送りにしているだけだぞ」


 ドラゴンはそう言って再び咆哮ほうこうをあげる。空気がびりびりと振動し、黒い沼の湖面が、そして周囲にわずかに残っている木々の葉がざわめいた。


 胃袋を揺さぶられ、吹き付ける暴風に耐えるかのような思いをしながら、フィラーゲンはポーリンに耳打ちした。


「ポーリン、やつを魔法陣におびき寄せることはできるか?」

「・・・やってみましょう」


 ポーリンは大きくため息をつきながら答えた。


 影の魔法の深淵しんえんを研究し、新たに創生そうせいした魔法であれば、一瞬であればドラゴンと渡り合えるかもしれない。しかし、彼女も力を使い果たしてしまうだろう。


 危険は大きい。けれども、飽くなき魔法への探求心と、彼女特有の負けん気の強さで、やってみたいという思いの方が強かった。


 白いローブの”白髪の美丈竜”、ロスロナスが評したとおり、サントエルマの森における次世代の光のような存在。かたや、黒いローブの”サントエルマの影の使い手”、失われた古代の魔法を意のままに操る。サントエルマの森の二人の異才、真の意味での白き光と黒き影が、その力の限りを尽くして、神に最も近い存在に立ち向かおうとしていた。


◆◆◆

<サントエルマの影の使い手>ラザラ・ポーリンの挿絵

挿絵(By みてみん)


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