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第2話 死は突然やって来る、そのほとんどは予期せぬ形で

 ドタドタと音がして、窓と反対側の扉が開け放たれる。


「大丈夫か、コノル?」


 中年の男性が、ほうきを武器かわりに構えながら、飛び込んできた。


「おじさん・・・姉ちゃんが、さらわれた・・・」


 コノルは泣きそうな声で言いながら、黒い影が飛び去った窓へ駆け寄った。コノルの叔父おじも窓に駆け寄る。


 そして二人は息をのんだ。


 月明りに照らされた村の街路には、動く骸骨(スケルトン)たちがあふれていた


―――それは、悪夢のような光景だった。


 方々の家から、悲鳴が上がる。


 骸骨たちは家に押し入り、村人たちを襲っているようだった。


「そんな・・・」


 絶望に満ちた声で、コノルはつぶやいた。まだ、これが現実だとは思えなかった。


 彼らの家にも数体の骸骨が迫り、玄関を破ろうと扉をたたき始めた。


「いかん。ヤーナ、出るな!」


 叔父は妻の名を叫びながら、あわてて階下へと降りて行った。


「叔父さん!」


 育ての親たちを気遣う思いと、この異常な状況に一人取り残される恐怖とに頭がくらくらする思いだった。


「なんなの・・・これはいったい、なんなの?」


 コノルは暗闇の中、頭を抱えた。


 ここ数か月で、<黒い森>の近隣の三つの村が襲撃しゅうげきにあったという噂を思い出した。


 墓を荒らされ、十四歳の少女が連れ去られる。噂では、襲撃の規模は徐々に大きくなっているとのことだった。


―――死は突然やってくる、そのほとんどは、予期せぬ形で。


 ドルイドの祖父がそう言っていた。 けれども、いくらなんでもこれは突然すぎだ。


 涙が止まらず、月明りに照らされた室内の景色が強くにじんだ。


 階下かいかの扉が破られる強い音と、衝撃を、彼は身体で感じた。叔父と叔母おばの身が案じられたが、それよりも自らの身を案じるべきときかもしれない。その運命は、もはや早いか遅いかだけの問題だ。


 もう生きての光を見ることもないだろう。生への絶望、死への恐怖は、十二歳の少年には重すぎた。なぜだか分からないが、目には涙があふれていた。


 方々から聞こえる悲鳴に、階下からの悲鳴が混じる。


 もう終わりだ。


 コノルは涙をふくと、せめてもの抵抗を試みようと、武器になりそうなものを探した。

 

・・・とそのとき、一陣の風が彼のほほでた――――きよらかな風の匂いだ。


 まるで、死の腐臭ふしゅうを秘めた夜の闇が、神聖な輝きを持つ月の光に駆逐くちくされてしまったかのように。ついさっきまで感じていた絶望と恐怖が、うっすらと和らいでいく。


 コノルは窓にかけより、外の様子を観察した。


 まるで時が止まったかのように、骸骨たちは石化していた。


 街はずれからゆっくりと歩を進めてくる人物がひとり。


 黒いマントを羽織はおり、右手には夜闇でもはっきりと見える銀色の杖を持つ。


 男が骸骨たちのわきを通り、銀色の杖を地面につくと、石化した骸骨たちはさらさらとした砂に変わり、夜の風にたなびいて消えていった。


 コノルは目を見張った。


 死者たちは、文字通り、土にかえりゆく。それは、奇跡のような所業だった。


 あわれなむくろを土にかえしながら、ただの森の中を行くがごとく堂々と歩む。


 男が家の前まで来ると、コノルは大きな声をかけた。


「ねえ」


 男はコノルを見上げた。


 面長おもながほりの深い、人間離れした顔立ちだった。まだ20歳代だろうが、髪は白髪はくはつで、まるで豪奢ごうしゃなたてがみのように後ろにたなびいている。


「・・・あなたは、ドラゴンの化身なの?」


 この村では決して見ないような眉目秀麗びもくしゅうれいな顔立ちと、その圧倒的な強さを見て、コノルは素朴な思いで問うた。


 男は破顔はがんした。


「・・・久しぶりに聞いた言葉だ」


 肩を小さく震わせながら、月明りに照らされた自らの影を振り返った。


 その素振り一つ一つが、少年の目にはまぶしく映った。


 男が再びコノルを見上げ、不敵な笑みを浮かべる。


「私の名はクレイ・フィラーゲン。サントエルマの森の魔法使いさ」


◆◆◆

死者の進軍の挿絵:

挿絵(By みてみん)

イザヴェル歴459年、サントエルマの森の魔法使い・白髪の美丈竜、幕開け

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