007 総員離艦
モニターに艦内情報を表示し、続けざまAIに指示を
「コンピューター、船内精密探知を実施しろ。」
「了解。」
と、更なるアラームが・・・
「今度は何だ!」
「複数の監視カメラ、隔壁扉が作動していません。 制御不能です。 現在、当該区画にプローブドローンを向かわせています。」
「他の機器は? 環境維持や各兵装、スラスター等どうなっている。」
「・・・該当区画、全機器制御不能。 監視カメラなどの映像信号は流れて来ていますが、画角や方位を変えようとしても端末が反応しません。 他機器にしても制御信号は流れていますが作動しません。」
「制御不能範囲をモニターへ」
「了解。」
モニターを見ていた全員が言葉を失った。 船体の前方部分、全体の約3分の1が真っ赤に表示されていた。 (屯田2号は、元は軍の輸送艦である。 船体の前半分が格納庫、中央の後ろ寄りに艦橋や指揮制御室、後部は推進器等の機械室。 そして、後部上甲板にシャトルデッキがある。)
そして三浦はある可能性に気付く、
「ステルス艦から電子戦を仕掛けられている可能性がある。 UAV、UCAV全機緊急発進、索敵捜索を実施せよ。」
「了解。」
だが、UAVの半数とUCAV全機は地上基地に降ろしてしまっていた為、飛び立ったのは3機だけであった。
更に三浦は、
「制御不能エリアに何かを仕掛けられた可能性もある。 プローブドローンだけでなく戦闘ボットも向かわせろ!」
「了解。 あ、船長・・・ 戦闘ボットはほぼ全機地上基地です。 船内には小型機が5機しか残っていません。」
「・・・2機を現場に投入、3機は当該区画と正常区画の境界線上に警戒配備させろ。」
「了解。 戦闘ボット移動を開始しました。」
だが、時が過ぎても状況に好転の兆しは見られなかった。 それどころか、
「制御不能範囲の拡大を確認しました。 制御回復の見込みが立ちません。 当船の統括AIとして総員離艦を提言します。」
「コンピューター、戦闘ボットを使用して物理的に制御不能エリアを切り離す事は可能か?」
「可能ですが、誘爆等の予期せぬ事態が起こりうる可能性が高いです。 又、切り離しても制御不能エリアの拡大が止まると言う保証はありません。」
「かと言って他に手も無し・・・
総員離艦部署発動、プロトコルに従いシャトルへ乗船せよ。 コンピューターはシャトル全機発艦後、船体を中央から前後に切り離す作業を実施せよ。 緊急事態につき安全確認手順は省略、作業効率最優先だ!」
「了解。」 船内に3度目のアラームと共に『総員離艦せよ。』のアナウンスが繰り返しながれた。
その後、調査班と支援班が乗り込んだ有人型シャトル1機は地上基地へと降下、残りの人員はもう1機の有人型シャトルで『屯田2号』から距離を置き遠隔指揮を続けていた。
UAVによる索敵捜索は途中から無人型シャトル2機も追加されたが、何の発見もなかった。 実際問題として、過去の通信記録、電波及びレーザー通信などの信号データーを解析したが不審な記録は無く、最終的にステルス艦の可能性は否定された。
三浦はルーナに、
「通信士、救難信号の発信は確認できているか?」 (総員離艦が発動されると、遭難したと見なされ、自動で救難信号が発信される。)
「はい船長、シャトルでも受信出来ているので信号は出ています。 内容の確認もしました。 位置情報等に誤りはありません。」
「そうか・・・ 問題は救難信号が『テラ19』まで届くかだな。 何せこの船が改造される前、母星周辺で運用されていた時に設置されたシステムだからな・・・ そして例え届いても、電波が届くのに400年以上かかる計算だ・・・」
「えぇ~ ダメじゃないですか。 どうするんですか?」
「・・・今回の行動計画では、後3年程で『テラ19』に戻る事になっている。 『屯田2号』の帰還予定日が過ぎても我々が戻らなければ、宇宙開拓局が捜索隊を出すだろう。
我々の提出してある航宙計画に沿って捜索するなら、この星にたどり着くのに約2年・・・ 全部併せて、5~6年後には救助隊が来てくれるはずだ。」
「・・・本当に来てくれるのですか?」
「ああ、大々的に人員募集をしている手前、宇宙開拓局は捜索隊を出さない訳にはいかないはずだ。」
「頑張ってそこまで生き残らないとですね。」
「ああ、大丈夫だ。 必ずテラに連れて帰る。」
「船長・・・」
「「「ん、ん」」」周りで一斉に咳払いが・・・