#記念日にショートショートをNo.12『悪魔の宿命:前編』(Fate of Devil:First Part)
2019/5/3(金)憲法記念日 公開
【URL】
▶︎(https://ncode.syosetu.com/n8571ic/)
▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/n591006c833a2)
【関連作品】
「悪魔の宿命」シリーズ
覚悟を決めて、上部が丸く切り取られた白い箱の中に右手を入れる。目を閉じて、暗闇を探る。指先に触れる紙の感触はどれも硬く感じられ、どれを引いても最悪の結果になってしまうんじゃないかと、そんな悪い考えが脳裏をよぎる。
「five…four…」
監督者のカウントが始まる。視界を覆うどんよりとした暗雲を振り払うかのように、指先に神経を集中させる。
「…three…two…」
僕を死へ先導するかのように、鋼鉄のように頑強な声が、容赦なく響く。死に連れ去られるものかと、祈りを込める。
「…one!」
勢いよく手を引き抜く。と同時に閉じていた目を開ける。不安そうに胸の前で手を握りしめている由希子と目が合う。今にも泣き出しそうな彼女の両の瞳は、とても綺麗だった。その瞳の意味を受け止めるように、しっかりと頷く。監督者に引いたくじを渡す。再び目を閉じ、天に祈るように上を向く。
「Your result is……」
由希子の顔が思い浮かぶ。僕を横で見上げるやわらかな表情の由希子。僕を見つけて嬉しそうに笑う由希子。不安げに僕の腕をつかむ由希子。…そして恥ずかしそうに、僕に「好きです…」と小さな声で呟く由希子。
…ああ、神様。どうか、どうか、僕に「生」を与えてください!他には何もいらないから、あいつの涙はもう見たくないから、まだ一緒にいたいから、ずっと一緒にいなきゃだめだから、愛してるから!!!
お願いです、僕に「生」を与えてください!!
でないと、あいつは……。
監督者が息を吸う。
あいつの顔が見える。
「is…」
「dead」
何もかもが、消えた。
世界は、白かった。
「嫌だよ…嫌だよ…!!!」
泣き叫ぶ声で、世界が動いた。
由希子が、泣いていた。
流れ落ちる涙をそのままに、僕を見ていた。
ふらふらと、由希子の前までなんとか辿り着く。
「…由希子……」
名前を、呼ぶ。君を呼ぶ僕の声は、もう何十年も時が経ってしまったかのように、気力を失ってかすれていた。
「祥くん…祥くん…」
小さな肩が、震えていた。
「ごめんな…」
彼女を強く抱き締める。きつく、硬く、痛いほどに抱き締める。
「ごめんな……ごめんな……」
頬を、涙が伝う。
僕の胸に顔をうずめて、由希子が大声を上げて泣いた。
無機質な部屋に、僕らの泣き声が響いた。
[中編に続く]
【登場人物】
○由希子(ゆきこ/Yukiko)
●祥一(しょういち/Shouichi)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
【原案誕生時期】
公開時