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第六話(ミゲル視点)

 うへへ、マリアが聖女になって二ヶ月。

 父上にも認めてもらうんだ。マリアをこの僕の妻にするって。

 婚約なんてまどろっこしい。すぐに結婚式を挙げるように手配しとかなきゃ、な。

 

 ちょっと強引な手を使ってリルアを追い出したから、今は可愛くない態度を取っているが、そのうち僕のことを好きになるだろう。

 なんせ、僕はお金持ちだからね。何でも好きなものを買ってあげるのさ。


「ミゲル、今からアストリア王宮へと向かうぞ」


「お、王宮!? それは、また急ですね。王家の方々も聖地の管理人である我らを呼びつけるなど滅多にしないのに」


 そう、この国……アストリア王国を守護しているのはこの聖地であり、聖地は代々我らゼルリング公爵家がある程度の自治が許されている管轄。

 だから、王家の連中も滅多なことで僕らに口出ししないし、自由にやらせてくれているのだ。


「我らの不始末で神具を失ったからだろう。王宮も騎士団を各地に派遣して、かなりの損害を被っているらしい」


「へぇ~。でも、あれはリルアが悪いですし、僕らのせいではありませんよ」


「だとしても、だ。管理者たる我らの責任が問われるのは当然であろう。お前もそれ相応の処分を覚悟しておくように」


 ちっ、なんだそりゃあ?

 僕が悪くないのに、管理者責任問われるって、どういう理屈だよ。

 そんなのイチャモンだよ。イチャモン。


 僕みたいに真面目に生きている人間を処分するのか? 甚だ遺憾である。


「まさか、マリアと結婚できないとかないよな……」


「マリア? そういえば、聖女マリア殿も呼ばれているらしいぞ」


「マリアもいるのですか? おのれ、アストリア王家……、よもやマリアにまで責任を――」


 不満を感じながらも、僕らには抗う権限はないので、アストリア王宮へと向かった。

 まったく、王家の人間でも僕の幸せを壊すことは許さんぞ……。


 ◆


「ゼルリング公! よく来てくれた!」


「陛下の命とあらば、このゼルリング……どこへでも馳せ参じます」


「ミゲル、お前もよく来たな」


「……神具を壊したのはリルアですよ。公爵家は関係ありません」


「こ、これ! ミゲル!」


 王をも恐れぬ、僕の態度。恐れ入ったか!

 こういうのは強気で行かなきゃ駄目なんだよ。

 父上は下手くそだ。国王陛下だからって、媚びる態度なのだから。


「おおー、そうだった、そうだった。神具は聖女リルアによって壊されたのだと報告は聞いとる。……しかし、リルアが壊したというがどうやって壊したのか詳しい状況が記載されてなかったのでな。お前から直接聞きたかったのだよ」


 なんだ、そういうことか。驚かせやがって。

 確かにリルアを追放することに必死で雑に状況とか記していたかもな。


「いやー、酷いものでしたよ。リルアは神具に恨みがあるのか魔法を乱発して壊していました。氷の刃で切り裂き、炎魔法で焼き払い、やりたい放題」


「ふむ。ここでの話は裁判と同じ。言い間違いも許されぬが、それは真の話なのか?」


「真実に決まっていますよ。僕はこの目ではっきりと見たのですから。リルアが魔法を放って壊しているのを」


 うざったいな。

 リルアのことを信じたいのか知らんが、そうはいかんぞ。

 だって、リルアは追放されているし、目撃者は僕しかいない。

 何言ったって嘘ついたってバレるはずがないのだから――。


「神具には魔法を吸収する金属が使われておる! よって魔法での破壊は無理なのだがな……!」


「ゔぇっ!?」


「マリア殿! 神具の残骸を持ってきなさい!」

 

「畏まりましたわ!」


 えっ? えっ? えっ? これって、どういう展開?

 ま、マリア、そんな蔑むような目で未来の旦那を睨まないでくれよ。


 ◆


 夢を見た。

 可愛い妻に、可愛い子供が三人。

 僕はソファに腰掛けて本を読んでいる。

 子供たちは「パパー」なんて言って僕の方に寄り添ってきて、妻のマリアは幸せそうな顔をして僕の方を――。


「ミゲル・ゼルリングは嘘をついて、姉のリルアを追放しました! 今からそれを証明します!」


「――っ!?」


 あ、あれ? なんでマリアが僕を睨んでいるんだ? あ、ああ、そうか、ショックで一瞬気を失っていたが、国王陛下に呼ばれているんだったな。

 で、リルアが魔法で神具を壊したと言ったら、嘘つき扱いされたんだった。


「この神具は壊れてもなお、金属自体の特性は失われておりません。証拠をお見せしましょう」


「ま、まて、マリア。しょ、証拠って――」


氷の刃(アイスニードル)ッ!」


 マリアは手のひらから氷の刃を神具の残骸に放つ。

 鉄をも穿つと言われているマリアのアイスニードルは残骸に当たった瞬間、銀色の光になったかと思うと消えてしまった。


 う、嘘だぁ~~。あの神具、僕がサーベルでちょっと切り裂いただけで簡単に壊れたんだぞ……。


炎の玉(ファイアボール)ッ!」


 今度は火の玉を残骸に向けるマリア。

 しかし結果は同じで残骸は焦げることなく火の玉は消失した。

 えっ? えっ? えっ? 油かけて、火をつけたら簡単に焦げてボロボロになったのに? 

 ボロボロにして、鬱陶しいリルアをやっと追放できると万歳までしたのに……。


「ミゲルよ、ご覧のとおりだが。お前は確かにリルアが魔法で神具を壊したシーンを見たというのだな?」


「あばっ、あばばばば、ええーっと、み、見間違いだったかなぁ? えへへへへ」


「嘘偽りは許さんと前置きしたのを忘れたか!」


「う、嘘じゃありません! み、見間違いしただけですから~~~!」


 そ、そ、そうだよ。み、見間違いだ。  

 嘘はついていないことにしなきゃ。じゃないと僕の公爵家でのハッピーライフは終わってしまう。

 マリアとの結婚も出来ないし、これじゃ僕がバカみたいじゃないか。


「見間違いじゃと!? 貴様の権限で追放処分しておいて、間違っていたで済まされるか! ゼルリング公! お主の息子の不始末どうしてくれる!?」


「は、はい! 勘当します! バカ息子とは縁を切ります! も、もちろん、私も責任を負います!」


「は、はぁ~~! か、勘当!?」


 か、勘当って、あの勘当!?

 いわゆる、他人になるってやつ?

 そ、そんな~~、ぼ、僕のハッピーライフは!? 可愛い三人の子供たちはどうやって暮らしていけば良いんだよっ!


「うむ。お主とは長い付き合いだが、爵位の剥奪は避けられんと思ってくれ」


「しょ、承知しました」


「ち、父上! なんか言い返せよ! 勘当とか取り消せよ! おい、聞いて――へぶっ!!」


 言いたい放題されている父上に食い下がるも、父上は僕の顔を思いきりぶん殴る。

 い、痛い……。痛いよ、なんで、こんな目に遭うんだ……。


「ま、マリア! 僕は君を愛して……! 君のために――」


「汚らわしい手を今すぐに引っ込めなさい。わたくし、あなたを殺したいほど憎いんでいますの……! 抑制が利かなくなります……!」


 熱い、熱い、熱い……! マリアの頭上に渦を巻いているのは紅蓮の炎。

 あ、あんなのを僕にぶつけるつもりなのか……!?

 う、うう、もう駄目だ……。何もかも終わった……。



「へ、陛下! 大変です! 大型の魔物の群がこの国に押し寄せて来ています! そ、その数……! 約五千体!!」


「ご、五千じゃと!?」


 なんだ、なんだ?

 この国がピンチってかぁ?


 くっくっくっくっ、こりゃあいいや! 僕はもう破滅なんだからみんな終わってしまえばいい――!

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