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第五話

 私が追放処分を受けた日、エムルエスタ王国の王太子であるサイラス殿下と出会ったのですが、彼の膂力もまた規格外でした。

 ドラゴンを両断した剣捌きは常人では考えられない、まさに神業と言っても過言ではないでしょう。


「エムルエスタ王国は、武人の国なんだ。俺の曾祖父が自ら先陣を切って、戦国の世で名だたる武人を倒し、国をデカくしたからな。各国で不可侵の条約を結んだ今でも王族たる者は強くなくてはならんと俺もガキの頃から親父殿に鍛え上げられたのさ。谷に落とされたりしてな」


 明るく話していましたが、サイラス殿下の幼少期は過酷としか言えません。

 谷に突き落とされたり、魔物のいる雪山で一ヶ月生き延びることを強要されたり、逞しくなるためとはいえ、異常な修行メニューを実践させられていたみたいです。


「大変ですね。国のトップに立つというのは。並大抵の努力で許されないなんて……」


 あの時、私を制止して剣を振り下ろしたサイラス殿下の後ろ姿を忘れることはないでしょう。

 月光が銀髪に反射され、幻想的な雰囲気も相まって、私には神々しくも見えたのです。


「いや、リルア殿の魔法の修練もとんでもないって。正確に言えば聖女としての務めだったのかもしれんが、ギブアップしなかったのは凄い」


「私のあれは、聖女とはそういうものだと思い込んでいましたので。修行という認識などなかったものですから」


「だから凄いんだよ。まぁ、初めて会ったときはコントロールがおぼつかないように見えたから、追撃を止めておいて良かったけどな。今は完全に力を掌握できている。リルア殿は最も神に近い力を持っているんだ」


 熱く私の力について語るサイラス殿下。

 神に最も近い力――この国では神子と呼ばれる存在らしいですが……。


「この前も聞いたよ。宮廷魔道士として北の山に現れたヒドラとかいう首が何個もあるような竜を仕留めたとか」


 宮廷魔道士としての仕事は結界を張らないだけで魔物を相手にするという点では同じです。

 私は修行が一段落すると、宮廷魔道士として積極的に働きました。

 助けてくれたサイラス殿下への恩返しと言いましょうか……。


「で、ここからが本題なんだけど……」


「は、はい。本題があったのですね」


「明日、親父殿に会ってくれないか? リルア殿に挨拶がしたいって聞かないんだ」


 エムルエスタの国王陛下が私などに挨拶を? そ、それは光栄なことですが、なぜサイラス殿下は気まずそうなカオをしているのでしょう。

 何度か止めたような口ぶりですが……。


「いや、そのう。言いにくいんだが、親父殿は神子としての力を持つリルア殿をすごく気に入っているみたいなんだ」


「……はい? それはとても名誉なことです。どうして言いにくいことになるのでしょう?」


「だから、な。どうやら親父殿、リルア殿を俺の婚約者にしたいんだってさ。も、もちろん、断ってくれて良いからな。今まで結婚の話とか後回しにしていたクセにいきなりだから驚いたよ」


「…………」


 いえ、私の方がもっと驚いています。

 ど、どういうことですか? わ、私がサイラス殿下の婚約者に――?


 ◆


 サイラス殿下に連れられて私は陛下との謁見へと向かいます。

 エムルエスタ王国の国王陛下はサイラス殿下を幼少の頃より厳しく鍛えた御方。

 とても怖い方というイメージなので緊張していたのですが――。


「おー! ユーが、リルアちゃんですカー! 噂どおりプリティな方デスねー!」


「…………」


「すまないな。親父殿は海を超えた遠い国の戦場で生まれ育っていて言葉遣いがかなり変なのだ。これでも矯正したらしいのだが」


 色黒で涼しそうな格好をした体格の良い男性がニコニコと聞き慣れない口調で話しかけて来られたので、びっくりしていますと、サイラス殿下は彼のことを国王陛下だと言われます。

 か、かなりイメージと違う方ですね……。


「リルアちゃん、今日はミーに会いに来てくれてサンキューデス! 君のミステリアスパワーのことをヒアリングして、是非ともウチのサイラスちゃんのワイフにと迎えたい! オッケーの返事頂けるとハッピーなのデスが!」


「え、えっと、私がサイラス殿下と……」


「君がその気ならプレゼントしてあげマス。“光輪の槍”とペアを成す、もう一つの神具(アイテム)――“天臨の盾”を」


「――っ!?」


 て、“天臨の盾”ですって。

 光輪の槍と同じく神によって創られた神具が他にもあることは知っていましたが、まさかこの国にあったなんて。

 で、でも、それって軽々しくあげていいものではないような……。


「親父殿、それはずるいぞ。リルア殿が王族の妻になったら、その所有物である“天臨の盾”もまたエムルエスタ王族の元にあるのと同じじゃないか」


「ハーハッハッハッハ! サイラスちゃん、それはシークレットにしてくださーい!」


「…………」


 どこまでが本気で、どこまでがお遊びなのか分かりません。

 たとえ、サイラス殿下の言うとおりだとしても、普通ならどんな金銀財宝と引き換えにしても軽々しく渡すなんてこと出来ないと思います。


 ――それほど神具の持つ力は強大なのです。


「リルアちゃん、“天臨の盾”は“光輪の槍”よりも防御面に優れた神具デース! この意味、アンダースタンドできマスか?」


「……“光輪の槍”よりも強い結界が張れる、ということですか?」


「イエース! ナイスなアンサーデス! ミーの計算だと“光輪の槍”の約五倍、スーパービッグな結界をメイキングすることが可能デス! “光輪の槍”は神話の時代に兵器として利用したモノだったからネ~。結界作りには本来、ノーグッドな代物なんだよ」


 約五倍……?

 約五倍って、もしかして……。

 エムルエスタを中心にしてアストニアにも届く範囲の結界が張れるってことですよね……。


「ご、五倍だと!? 親父殿、無茶を言うな! そんな規模の結界を張ってリルア殿が無事なはずがない!」


「普通なら、無理かもネ。でも、リルアちゃんにはミステリアスパワーがある。ミーはメシアになってくれると信じてるヨ。なんせ壊れかけの“光輪の槍”を一年も使っていたんだからネ」


 突然、真剣な顔つきになった国王陛下。

 私が以前の結界の五倍以上の規模のモノを張れるかどうか……。 

 サイラス殿下の口ぶりですと、危険が伴いそうですが……。

 故郷も今は窮地のはずです。ならばこそ、私の選択は一つしかありませんでした――。

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