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第四話(マリア視点)

 この国全体を覆っていた光の魔力の結界――。

 わたくしの姉であるリルアが神具を用いて、祈りを捧げることで発動していた全ての魔物を弱体化させる最強の結界なのですが、突然それが消失しました。


「お父様! 大変です。け、結界が、結界が無くなってしまいました。まさか、リルアお姉様の身に何か……!?」


 不穏な気配しかしない中、わたくしは父にこの事態を伝えます。

 リルアお姉様の話では結界には多大な魔力と体力を使用するとのことでしたので、何かしらの事故に巻き込まれた可能性が高いのです。


「うむ。ワシもそれには気付いておる。マリア、至急……大聖堂に向かうぞ。準備しなさい」


「分かりました。……お姉様、無事でいてください」


 父に促されて、わたくしは大聖堂に行くための準備をしました。

 わたくしも元々はお姉様と同じく聖女を目指した身でして、魔法の心得はあります。

 もっとも、お姉様には到底及ばないのですが、魔術師としてはハイクラスだと聖女候補時代に教会の方や公爵様に褒めていただきました。

 

 お姉様にも自分に何かあったら頼むと言われているのですが、そんなことあって良いはずがありません。


「準備が終わりましたわ」


「よし、出発するぞ」


 そして、わたくしとお姉様の師匠でもあった父は、この国で一番の魔法の使い手でもあります。

 魔術師に人一倍憧れていた父は独学で魔法を学び、わたくしたち二人を一流の魔術師にすべく厳しく指導しました。

 今のわたくしたちが魔法を自在に操れるのは父のおかげです。



 とにかく、わたくしたちは急いでお姉様が神具を使って祈りを捧げているはずの大聖堂へと向かいました――。




「お姉様が神具を破壊したですって!?」

「そ、そんなバカな! そんなことあり得ません! ミゲル殿、それは何かの間違いではないでしょうか!?」


 大聖堂で待っておられたのは、聖地を領地として収めている公爵家の嫡男でリルアお姉様の婚約者でもあるミゲル様でした。

 ミゲル様はお姉様が祈ることが嫌になって神具を壊してしまわれたと仰せになり、リルアお姉様を追放処分の刑に処したと言うのです。

 追放処分は彼の権限で下せる最も重い刑罰ですが、それにしてもいきなりではありませんか。


「僕は残念でならないよ。いくら、疲れていたとはいえ、聖女であることを嫌がったとはいえ、祈らなくて済むように神具を壊してしまうなんて……!」


「ミゲル殿、我が娘であるリルアはそのような無責任なことをする人間ではありませぬ。何かの間違いでは?」


「ほう、サウシール伯爵は僕が嘘をついていると思っているのか?」


「……恐れながら、嘘とは言わぬまでも、勘違いをされたのかと」


 父はリルアお姉様が神具を壊すなど馬鹿げたことをするはずがないと、お姉様を弁護しました。

 わたくしも同感ですわ。あの責任感が誰よりも強かったお姉様がそんなことをするはずがありません。


「はぁ、娘を信じたいのは分かるが、これは事実なのだよ。サウシール伯爵、伯爵家はこの件について、どう責任を取るつもりだ?」


 ミゲル様は高圧的な態度でわたくしたちに凄みます。

 せ、責任って。お姉様が罪を犯したことは、もう確定ですか。 

 誤解を何とか解きたいのですが……。


「責任? 我々も追放処分に処せられるのでしょうか?」


「あひゃひゃひゃ! それも良いけど、勘弁しといてあげるよ。悪いのはリルアだけなんだ。君らには罪はない。そうさな、マリア、麗しい君が新たな聖女として頑張るなら伯爵家の罪を全て許そう!」


 いやらしく、わたくしの背中に手を回しながらミゲル様はわたくしに聖女になるように命じます。

 罪を犯したというお姉様の代わりに妹のわたくしが聖女? どう考えても変です。


「ミゲル殿……、まさか」

「お父様……? ――ミゲル様、わたくしはお姉様の代わりなどには」

「マリア! 聖女になりなさい!」

「――っ!?」


 わたくしは聖女になることを固辞しようとしました。

 しかしながら、お父様はそれを止めます。何故でしょう。


「さすがは伯爵殿は話が早い。そうだ! 君らは僕に従っていればいい!」


「……リルアの無罪を証明するには時間が必要だ。辛いだろうが、今はミゲル殿の言うことを聞くのだ」

「……わかりました」


 父は苦渋の選択をしました。

 お姉様の無罪を証明するために……。

 しかし、追放処分を受けたというお姉様は無事なのでしょうか?

 仮にお姉様にもしものことがあれば、このマリアはミゲル様のことを決して許しませんわ――。


 ◆


 リルアお姉様が神具を壊したとして追放処分を受けてから一ヶ月が経過しました。

 お姉様は隣国の山中に捨てられたらしいですが、結界解除後は山中には魔物が大量に巣食うように非常に危険な場所になっていると聞きます。

 リルアお姉様の魔道士としても一流なので、簡単にやられるとは思えませんが心配でなりません。

 

 そして、現在の状態ですが――。


「マリアー、ケーキを買ってきたんだ。一緒に食べよう」


「いえ、結構ですわ。それどころではないので」


「んだよ、つれないな。僕と君は夫婦になるのだぞ。ほらほら、ここには誰もいないし、スキンシップを――。熱っ! 熱っぢぃぃぃぃぃ!!」


「魔物避けの結界防壁を張るための魔力を溜めていましたの。触れるとちょっと熱いですわよ」


 公爵家のボンクラ息子もといミゲルはわたくしに数え切れないほどのちょっかいを出してきます。

 迷惑この上ないことなのですが、どうやらこの男はわたくしに気があるらしく、恐らくお姉様を嵌めて追放処分にした理由はこれです。

 この男、「将来の公爵夫人になれて、本音を言えば嬉しいだろ?」などと宣ったことから、その疑いは確信へと変わりました。


「くっ、君はニコニコ笑っているだけの聖女で良いのだ。祈るための神具はもうないのだから」


「そうですわね。神具が無くなったせいで、国は荒れていますわ。だからこそ、少しでも被害を減らさなくては。……なぜ、神具は壊されてしまったんでしょうねぇ? ミゲル様……!」


「ひいっ――! こ、こ、怖い顔をするな。し、神具は、リルアがこ、壊したのだ! ぼ、ぼ、僕はこの目で見た! り、り、リルアが魔法で神具を壊すところを!」


 この男はぬけぬけとそんなことを。

 リルアお姉様は神具破壊など下らないことをなさる人じゃない。

 許されるのなら、ミゲルをこの場でバラバラにして差し上げたい。

 でも、今ここでこの方を感情のまま倒すような真似をしてもお姉様の名誉を回復することは出来ません。

 

 耐えなくてはなりませんね……。口惜しいですが……。


「ミゲル様、笑っているだけの聖女って必要ですの? わたくし、お姉様の代わりとして全ての魔力を以てしてこの国を守ることしか考えておりませんわ」


 こうして、わたくしはせめて山から聖地への魔物の侵入を伏せごうと、大聖堂の外へと向かいました。


「そ、そ、外へ行くのだな。お、おい! 今日はお前らしかいないのか。マリアを警護しろ!」


 憲兵をわたくしの護衛に?

 いつもは公爵家の私設兵を使うのに……。そういえば、お姉様の追放処分を実行したのもこの方たちだったみたいですわね。


 わたくしは彼らの用意した馬車に乗りました。



「……マリア殿、心配召されるな。リルア殿は無事である」


「――っ!? お、お姉様は無事ですの!? どこで何をしていますの!? どういうことですの!?」


「う、うぐぅ~~。く、苦しい……!」


「はっ――!? す、すみません。つい……」


 憲兵の方々は先月の出来事を語ってくれました。

 憲兵たちは何故かお姉様が急に神具を壊した犯人にでっち上げられて、山中に捨ててこいと命令されたそうです。

 しかし、そこで隣国のエムルエスタ王国の王太子であるサイラス殿下と出会い――お姉様は殿下に保護してもらったのだとか。


「ちょうど隣国から秘密裏に手紙が届いていましてな。リルア殿は元気だと伝えてほしいと書かれていました」


「ぐすっ……、お姉様、よくぞご無事で」


 よかった。

 お姉様がお元気ならマリアはそれだけで幸せです。

 本当にホッとしました。


「しかしながら神具を直す方法も探ってもらっているのですが、こちらは全然駄目みたいです。そもそも、神具は魔法を吸収する特殊な金属で出来ており――」


「――っ!? ちょっと待ってください! 今、なんと言いましたか?」


「ええーっと、神具を直す方法に関しては全然駄目みたいです、と」


「違います。そのあと、ですわ」


「神具は魔法を吸収する特殊な金属で出来ているのですが――」


 ……もしかして、これはミゲルの嘘を証明することが出来るのでは?

 わたくしの頭の中に一つの手段が浮かびました――。

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