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第一話

 アストニア王国は生まれつき特に魔力が高い女性が代々聖女として、聖地にて神具を用いて祈りを天に捧げることで結界を作り、国中の魔物たちを弱体化させて安寧を保っていました。

 私こと、リルア・サウシールも高い魔力が買われて新たな聖女となり、毎月、聖地の中心にある大聖堂の地下で神具“光輪の槍”に自らの血を一滴付着させ、天に祈りを捧げることで結界を維持し続けています。


 最初のうちは大変でした。

 なんせ、神の力を祈りによって借り受けたとはいえ、国中を丸々包むほどの大きさの結界ともなると体中の力が持っていかれるような感覚になり、しばらくまともに動けなくなっていましたから。


 その後も結界を維持するために寝ているときも含めて常に魔力を消費するので、微熱のような気だるさが一日中消えなくて、まともな生活を送ることすら辛かったです。


 しかし一年も経てばそれにも慣れてきて、何とか普通に生活を送ることが出来るようになりました。


 聖女としてのお務めにも慣れてきた頃、私に縁談が舞い込んできます。

 相手はこの聖地を代々領地として守っているという公爵家の嫡男、ミゲル・ゼルリング様です。

 ゼルリング家の人間は聖女と婚姻することで聖地の守りをより強固にしなければならないというしきたりがあるので、私が聖女になったことは、公爵家に嫁入りすることと同義でした。


 一年という期間は私が聖女としてきちんとお務めを果たしているのか、お試し期間みたいなものでして、その期間中に問題を起こさなかったということで、晴れて縁談がまとまったのです。


「おめでとう。リルア、お前は我が家の誇りだよ。聖女になるべく、厳しい修行に耐えて、その務めを果たしているのだからな」


 この縁談の成立に、まずは父が喜んでくれました。

 父は伯爵家を継いでからというもの、私と妹のマリアに魔法の英才教育を施しました。

 私たちが幼い頃に有名な鑑定士が二人とも魔術師としての素養があると鑑定したからです。

 父もそれなりに魔法の心得がありましたから、その日から彼が師匠となり、私たちに魔法を教え込みました。

 

 その結果、私とマリアは魔法においては同年代で並ぶ者はいないという評価を受け、先代聖女が引退する前に行われる次期聖女を決める試験で結果を残します。

 私が成績トップで合格。マリアは二番手だったらしく、それも素晴らしいと父は彼女も褒めていました。


「ミゲル殿にはくれぐれも粗相のないように注意するのだぞ」


 ミゲル様と婚約してからというもの、父は彼に失礼がないようにと口を酸っぱくして注意を促していました。

 私もそれは承知していて、マナーだけはきちんと守っていたと自負していたのですが……。




「“光輪の槍”を破壊するなど、何たる罰当たりだ! リルア、お前は聖女としてやってはならぬことをした!」


 ある日、いつものように祈りを捧げるために大聖堂に行くと、神具“光輪の槍”が破壊されていました。

 それはもう、無惨な状態で放置されており、私は驚きのあまり声を発することも出来ないでいると、後ろからミゲル様が現れて、騒ぎ始めたのです。

 神具を壊したのは私であると――。


「そ、そんな! じ、事実無根です!」

 

「言い訳するな! だから、父上に誠実で可憐なマリアの方を聖女として選出すべきだと進言したのだ! きっと聖女としての務めが面倒になったのであろう!」


 大声であたかも私が聖女として不誠実な態度から神具を破壊したと追及するミゲル様。

 そ、そんな。いきなりそんな言いがかりをつけるなんて酷いです。


「リルア! 聖女失格のお前との婚約は破棄だ! 僕はマリアを聖女にして彼女と婚約する! お前など、隣国の大魔の森へと追放だ! のたれ死ぬと良い!」


 まるで準備をしていたかのように憲兵たちが私を取り囲み、拘束します。

 えっ? ま、まさか、ミゲル様が私に罪を着せようとして、こんな茶番を……?

 でも、一体、何故このようなことを――?   


 私は混乱のあまり、頭の中が真っ白になりました――。

 

 ◆


 アストニア王国の司法は諸侯の権限に任せられている側面が大きいです。

 特に聖地については、公爵家が一任しており、嫡男であるミゲル様にはこの地における裁判長相当の権限が与えられていました。

 死刑は裁判を通して行うという法律が王家から出ていますので、ミゲル様の一存では決められないのですが、その次に重い刑である追放刑は彼の一声でどうとでもなります。

 もちろん、その後のチェックで不当ではなかったか検証されることはありますが、彼が本気を出せば、この地で起きたことなら如何様にでも偽造捏造することが出来るでしょう。

 

「何故、このようなことをされるのですか? ミゲル様……!」


 私は手足を縛られた状態で檻付きの馬車に乗せられました。

 こんな扱いを受けるなんて不本意ですし、彼の恨みを買った覚えもありません。


「黙れ、無能な聖女! そもそもだなぁ! なんでお前が聖女なんだよ!? どう考えたってマリアのほうが華やかな見た目だし、聖女っぽいだろ!」


「ま、マリアの方が……? いや、ですがそれはミゲル様のお父様が決められた――」


「黙れ! やっぱり神具を壊す不届き者ではないか! ああ、麗しきマリアが可哀想だ。こんな姉のせいで次点に甘んじるなんて。マリア、すぐに僕が迎えに行くからね……!」


 ま、まさか。

 ミゲル様が私に言いがかりをつけた理由は、マリアのことを好きになったからでは――。

 それで聖女としか結婚できない彼は私を貶めようと……。


「ミゲル様! あなたは横暴です! こんなこと許されませんよ!」


「ビービーうるさい女だな。そもそも、一年もの間、ろくに動けぬと怠けて、その上結界の能力も魔物の弱体化……? 先代聖女の母上は魔物を寄せ付けない強力な結界を張っていたんだよ! この無能が! お前ごとき居なくなっても誰も困らん! さっさとこの無能女を捨ててこい!」


 ミゲル様の指示によって憲兵たちが私を無理やり馬車に乗せます。

 追放処分なんて、ほとんど死刑と同じです。

 ミゲル様が本気で証拠の隠滅を考えているのなら、魔物が多い隣国との国境沿いの山中にでも私を捨てるでしょう。


 そんな絶望感の中、馬車は出発しました。


 ◆ 

  

「聖女様、このような無礼を働いてしまい申し訳ありません。今、拘束を解きます」


「えっ?」


 馬車に乗せられてから六時間くらい経ったでしょうか。国境沿いの山中に入った頃です。

 私を縛っている縄はナイフで切られて、手足が自由になりました。

 これはどういうことでしょう。

 私はこれから追放されるのではなかったのでしょうか。


「ミゲル様はあなたを追放せよと言いますが、私たちにとって、聖女様はリルア様のみです」

「リルア様が祈りによって、魔物を弱らせてくれたおかげで私たちは助けられています」

「懸命に神に祈りを捧げられていたリルア様を誰が責めましょうか」


 なんとミゲル様の指示に従っていると思われた憲兵たちは、私に聖女として頑張っていたと感謝の言葉を述べてくれました。

 良かった。ちゃんと見ていてくれた人たちは居たのですね。

 私は少しだけ緊張感から解放されてホッとしました。


「しかしながら、リルア様が今、ご実家に戻られると逆に危険です。ミゲル様は持てる権力の全てを使ってマリア様を自分のモノにしようと企んでいます」


「隣国エルムエスタ王国に宿を何泊か取っております。そして、お金も僅かですがこのとおり。リルア様、お辛いでしょうが、しばらくの間はエルムエスタで暮らして機をお待ちください」


「私たちが必ずミゲル様の横暴を止めてみせますから」


 憲兵たちの言葉に私はホッとしました。

 とりあえず、当面は生きる保証もある。エルムエスタで生きていれば、戻れるかもしれない。

 その希望を信じて――。

 ――ズドンッ!


「「――っ!?」」


 気付いたとき、馬車は横転していました。

 憲兵たちは私を庇うようにして、急いで外へと連れ出します。

 な、何ということでしょう。


 結界は魔物を弱体化、特に大型の魔物を動けなくする効果がありました。


 馬車を横転させたのはお城よりも大きなサイズの漆黒の飛龍。

 ダークドラゴンと呼ばれる凶暴な魔物でした――。

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