鏡の前で告白の練習をしていたら、その告白の相手に聴かれてしまいました。
「鏡野先輩のことが…好きです」
もじもじしながら、私は鏡に映る自身に告白する。
──というのは冗談で。
放課後。通りすがりに家庭科の先生にお願いされて、被服室に荷物を持っていくと、被服室の端っこにあった年代物の姿見を見つけ、私はなんとなくその姿見の前で、告白の練習を始めた。
「わたしぃ~…鏡野先輩のことがぁ~前からすごく好きでぇ~…」
唇を人差し指でふにっとさせながら、ぶりっ子っぽく言ってみる。
「…いや、気持ち悪るっ!」
自分でやっといて、鏡に映る自身に気持ち悪さを覚える。
「じゃあこれは」
ぎゅうっと目を瞑り、ぱっと目を開く。ほろりと涙が零れる。
「鏡野先輩…私、ずっと前からあなたのことが好きです…」
瞳と頬を涙で濡らしながら、言ってみる。
「お~…これは結構良いんじゃないかな。あ~でも、泣き落としっぽくて嫌かな」
う~ん…と鏡の前で悩むポーズをする。
「鏡野先輩!私ずっと前からあなたのことが好きでs…」
元気っ子ぽく言おうとして思わず声をあげてしまい、慌てて口を押さえた。
「ヤバイヤバイ…こんなの誰かに聴かれたりでもしたら…」
廊下に出て、きょろきょろと辺りを見回す。とりあえず誰もいないみたいでよかった。
「はぁ~…誰もいなくて良かった」
ほっと胸をなで下ろし、また鏡の前に戻り、そして。
「鏡野先輩…私、先輩のことが好きです」
先輩のことをまっすぐに見つめるようにして、鏡の中の自身を見つめ、言ってみる。
「う~ん、やっぱり普通に告白した方が無難だよね。…まあでも、告白する勇気がまずないし…」
「『鏡野先輩』って、もしかして僕のこと?」
ふいに、隣から声がした。一瞬間を置き、バッ!とその方に振り向くとそこには…
「ギャアアアッ!かっ!鏡野先輩っ!!?」
鏡野先輩がきょとんとしながら、私の隣で立っていた。
「いっ、いつからそこに!?」
「隣の被服準備室にいたら『鏡野先輩のことが好きです』って言う声が何回も聴こえてきて、気になってこっちにきたんだ」
と、先輩は淡々と話す。
嗚呼…聴かれてた。しかも、よりにもよって、本人に聴かれるなんて…死にたい。
「僕のこと、好きなの?」
こうなったらもう…と、私は決意する。
「鏡野先輩…私、先輩のことがずっと前からす、すすす好きなんでしゅっ!」
結局、噛むし練習通りに行かないし。
でもまあ、そのおかげで、その鏡野先輩と毎日のようにこうして手を繋いで下校できるようになったし。
めでたし、めでたし、カナ。