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HERO/ヒーロー  作者: 牙/キバ
第一章 【ヒーロー】
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第一話『痛いクラい』

 カーテンの下から漏れる眩しい太陽の光が漏れ出している。そんな中、今にも壊れそうなベッドの上にトオルは布団を弾き飛ばして、この上なくグッスリと眠っていた。


 ピロロ、ピロロ……


 ピロロ、ピロロ……


 ピ……バン!


 あぁ。これはやってしまった。今、アラームを止めるために、ほんの少し動いただけで自分の体の不都合が分かったのだ。だから言ったのに。


 それは昨日のことだった。俺はどうなるかハッキリ分かってたから拒否したんだけど、幼馴染のユウキが「学校の周り、何周できるか競争(ユウキが適当に決めた競争名)」を俺に仕向けてきたんだ。もちろん、そんな競争が終わった後の代償がハッキリと分かっている俺は嫌でたまらなかったが、なんだかんだその時のノリで勝負に乗ってしまった。そして……。


 「んぁあ……昨日の予想通り、ふくらはぎにくるタイプの筋肉痛だぁ……」


 「ああ、もうこんなことなら全力で断っとけば良かったわ!! まぁ乗った俺も悪いけどさぁあ!?」


 「くっそ。あいつも筋肉痛になってたら良いのに」  


 まぁグダグダしてても仕方がないよなと、痛みを我慢して、ベッドから出て2階から下りた。


 〜〜〜


 「いっぃい!? 痛……いな」


 1階にはカーテンの下に漏れていたあの眩しい太陽の光が部屋の隅々まで差していた。リビングの真ん中にはカーペットの下に大きな白いテーブルがあって、その上には、朝食と朝やる予定の高校の課題におまけ程度の観葉植物。そして若干だけど、石けんの香りがするルームフレグランスが匂っている。


 「椅子までが遠いんだよ。こっちこい……」


 椅子に座るまでにこんな一苦労するとは。ふくらはぎを抑えながら必死に椅子まで歩いた。


 「あぁ! よっこいしょっと!」


 そうしてトオルにとってはやっとの思いで椅子に座った。そして椅子に座り次第、いつも通りスマホでニュースを確認しようとした。


 「さ〜て。今日のニュースはどんなもんかねぇ」


 〜〜〜



 『……昨日時点での全国新規感染者数…912人』


 「はぁ……そろそろ収まってくんねぇかなぁ。緊急事態宣言とかもう意味ないだろ」



 〜〜〜



 『【電撃】まさかの不倫! 有名俳優の〜』


 「えー! この人不倫したのかよ。好きな俳優さんだったから残念だわ」



 〜〜〜



 『【興行収入330億円突破】波に乗りまくる〜……』


 「日本の映画の歴代興行収入の首位までいったんだ。すっげ……」



 〜〜〜

 

 「……あぁ! ニュース見てばっかじゃ駄目じゃん。早く起きた意味を考えろ!」


 つい、のめり込んでしまった。急いで朝食用にコンビニで売っていたロールパンを頬ばり、さっそくテーブルに置いておいた課題に手を出す。


 「さぁぁてと。じゃあもう課題やるか!」


 元々、トオルは勉強が得意な方とは言えず、逆に言えば殆ど勉強をしてこなかった中学生だった。なのにも関わらず、ユウキと同じ高校に入りたいというだけで、中3の成績表はオール1からオール4まで上がるほど、勉強に熱心となり、無事ユウキと共に合格することが出来たのだ。


 しかしその後、トオルは勉強へのやる気が一気にダウン。このままの勉強量だと確実に留年行きだ。


 「こうやってぇ〜? こうすれば解けるな!」


 だからせめてもの勉強ということで、朝の勉強は欠かさず行うように鳴った。但し、勉強は朝だけに限る。


 「ふむふむ……!」


 「うん。困ったな」


 予測どおりだった。朝の集中しやすい時間帯とはいえ、いかんせんこの家は殺風景なもんだから、集中しようにも集中出来ないのだ。


 というのも、例えば、普通の高校生なら朝から親と少しぐらいは話すのだろうが、トオルの両親は仕事での都合上、朝5時には出勤してしまう。しかし今は6時。つまり会話する人もいないので本当に全てが憂鬱でたまらない。


 何の取り柄もない風景だわ、音も環境音しかしないわ。いくらボソボソと独り言を垂らしても、こんな家では朝活と言えど集中出来なかった。


 「……はぁぁ、どうせ集中できないなら高校でユウキに教えてもらうか」


 そんなため息を出した時には、机の上に出しておいたロールパン6個は全て食べ終わり、課題は1割しか終わっていなかった。


 「でも聞くとか恥ずかしいしなぁ…… 思春期真っ只中の高校生は辛いもんですわ」


 そんな時、ちょうどスマホにユウキからLINEの通知が入った。


 「ん?」


 〜〜〜


 ユウキ『おは!』


 〜〜〜


 「あいつの朝のおはよう報告、もうウンザリだわ〜。好きな女の子とかなら別だけど……」


 無論、コミュ障のトオルに好きな女の子とのLINEは繋がるはずもない。


 〜〜〜


 『おはよ』トオル


 ユウキ『あのさぁ俺、朝から筋肉痛になってマジで痛いんだって助けてw』

 

 ポチポチカタカタ……


 『俺も筋肉痛なったわw てか意外と願いって叶うもんなんだなw』トオル


 ユウキ『え?w どゆこと?』

  

 『えーっとね、お前が筋肉痛になりますようにって祈ってた』トオル


 ユウキ『(怒ったときに使うスタンプ)』


 〜〜〜


 「アハハ、あいつの反応ウケる」


 小悪魔のような笑みを浮かびながら、トオルは返信を返し、結局課題には手を出すことなくニュースを見て、そして朝食を食べるだけで、終わった。


 ※※※※※※


 「よしよし、寝癖直しOK。歯磨きと顔洗いOK。カバンの中身もOK。替えの下着もOK!」


 「えーっと。鎮痛剤も飲んだな」


 流石に筋肉痛を我慢できるほどの男ではない。出来るだけ楽を選択し、「苦難」からは死にものぐるいで逃げる。なのにも関わらず自らの欲望は聞いてほしい。それもトオルのやり方だ。


 「さて行ってくるか。いってきまーす」


 そうして誰もいない家に「いってきます」と声をかけ、鍵をかけ、トオルは家を出発した。

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