33
「え、この本って結構貴重な物やなかったか……? うわ、この本もや。と思ったらよくわからん本もあるし、これってどないしたん?」
青藍の家にたどり着いたみどりは雑に積み重ねられた本を手に取り、驚いた顔で置いた後次の本を手に取り首を傾げたりしていた。
「全部拾ったもの。ここの森と繋がってる森に捨ててあった」
「あー、せやからこんなにバラバラなんやね」
「みどり。さっきから貴重と言ってる本は分けたほうがいいのだ?」
「あ、せやね。大事に扱ってや。正直ここまできれいな状態のこの本はなかなか見んさかい。この本売るだけでしばらくの間は遊んで暮らせるで?」
「遊ぶと言われても人里に降りたくない。あ、でも、正直あっても邪魔なだけだから渡すのは賛成。どうせならそれでいろいろここを便利にしてほしい」
「さすがに電気とかガスは無理やしな。下水道は整備してもな感じやし。ここで手に入りにくい海産物でも持ってきて静人さんらに料理してもらうのもええんやけど」
「むむ、おいしいの食べたいけど。あまり頼りすぎるのもよくない気がする」
「そうなのだ。わしらだけでも扱えるもののほうがいいのだ」
「それなら下水道の整備をすすめようかな」
「さっき下水道の整備は乗り気じゃなかったのだ。なんでいきなり薦めてきたのだ?」
「正直それ以外だと無いんよ。あとは料理の本とかそういう本を渡すぐらいしか思いつかへんし。それやったらお金と時間がかかるけど将来的に必要になりそうなことをした方がええやろ?」
「それが下水道の整備なのだ?」
「そういうことや。まぁ、難しい説明は省くけど水道から捨てた水を処理する場所につなげる。それの誤魔化しに金かかるさかい。誤魔化しゆうてもうちの物件に水の通り道繋げるだけやけどな。生活排水はそこまで多くないやろうしなんとかなると思うわ。ちょっと水回りの工事は必要になるやろうけど」
「よくわからないけど任せるのだ。本のことなのだがどうせなら料理の本だけじゃなくて、わしらに関係しそうなことをすべて持ってきてほしいのだ」
「これから先ここを村にするとしてもしないにしても、どちらにせよ必要な知識はあると思うからそういうのを欲しい。食事の際に気を付けることとか文字の読み書きとか」
「あー、確かにマナーは覚えてもらったほうがええか」
「マナー?」
「そうやな、例えば食事の際に口を開けて物を噛むとかやな。みんなも口を閉じてはだけ動かして食べとるやろ?」
「言われてみればそうかも。おにいさん達の食べ方を見てたら自然とそうなった気がする」
「たとえばそれで口を大きく開けてくちゃくちゃ音を立てながらご飯を食べとる人が横におったらどんな気持ちになる?」
みどりの言葉に青藍は想像したのか顔をしかめる。
「うーん、正直ものを美味しく食べれる気はしないかな」
「そやろな。うちだってそうや。そういう周りの人を不快にさせないように気を付けるのがマナーや。食事には正直もっと細かい取り決めがあるんやけど。まぁ、そういうのが分かる本を持ってくるわ。家族同士やったら気にせんでもいいようなこともあったりするから何とも言えんけど」
「とりあえず覚えるだけ覚えてみる。必要ない時は使わなければいいだけだし。読み書きはどの程度覚えればいいと思う?」
「うーん、正直ここで生きていくだけやったらそこまで難しいものを覚えんでもええと思うけどな。読み書き言うても日本語以外にも外国の言葉もあるさかい。日本語のことわざとかも覚えてええけど正直生きて行くだけなら必要無いやろし」
「それじゃあ必要最低限でいいや。他の本を読むときに困らなければ別にいいし。正直一回読めば覚えるしそこまで気にしなくてもいいかな」
「それやったら、広く浅く覚えればええんやない? 覚えとくと便利なことってあったりするし」
「例えば?」
「そやね。例えばひもの結び方とか、結び方だけでも結構な種類があるんやで? 用途に適した結び方を覚えれば役立つのは間違いないやろ。他にも農業の知識とかもあるで。今よりも美味しいものになるかはここの世界に適した作り方を見つけないといかんやろうけど、見つけることが出来たら皿においしいものが食べれるようになるで?」
「むむ、おいしいものを食べれる……。もみじ、私も畑作ってみてもいい?」
青藍はおいしいものを食べたいという食欲に抗えなかったのかもみじの顔をうかがう。そんな青藍の顔を見ながらもみじが元気に頷く。
「もちろん! 朝一緒にお世話しようね!」
「うぐ、朝起きれるかな……」
「ここからもみじの所に場所を移すんやさかい。朝起きれんでももみじに起こしてもらえるやん」
「むむ、それなら大丈夫かもよろしくもみじちゃん」
「分かった! あ、農業の本は私も見たい!」
「ええよ。本自体は最新版を置いていくさかい。それを見たってな」
「あ、どうせならここで手に入らない野菜の苗とか欲しい」
「そうやね。ここやったら虫一匹いないんやし薬剤使わなくてもええのは助かるわ。米とかは作らへんの?」
「米ってどうやって作るの?」
もみじは米の作り方を知らないのか首を傾げてみどりを見つめる、
「さすがに作り方はうちも知らないんよ。その本も持ってくるわ。他に欲しい本とかある?」
「パッと思いつくのはそれくらいかな……?」
「わしも思いつかないのだ」
「あ、包丁とかの道具がほしい!」
「調理道具やね。そういえば米づくりには鎌とか必要って聞いてことあるしそういうのも持ってくるわ。いつまでも焚火で調理するのもあれやし、静人さんは大丈夫って言っとったけどそこらへんも用意するわ。キッチン……、あー、調理する場所ってある?」
「この前掃除した場所って調理場だったよね?」
「うむ、あそこを改装するのだ」
「調理する場所ってキッチンって言うの?」
「そうやね。さっき外国の言葉もあるって話をしたけどキッチンもそういう言葉やね。純粋に日本の言葉だけを使って生活してる人もおらんと思う。他にもレシピとかレパートリーとかいろいろあるんやけど、日常会話で使っていくうちになんとなくで理解できるようになるやろうから必死に覚えようとはしなくてええと思うで」
「分かった。いろいろ教えてね!」
「ええよ。さてと、整理は終わったみたいやし少しだけ離れてもええ? 貴重な奴だけうちの会社に持って行っときたい。すぐに戻ってくるさかい」
「それじゃあ、他のは先に持って行ってもいいの?」
「大丈夫やよ。すぐに終わらせてくるわ」
みどりは空間をゆがませると選別した本を大事そうに抱えて空間の先に消えていく。そんなみどりを見届けた後残った本を抱えると青藍がもみじのほうを見て無表情で首を傾げる。
「もみじちゃん競争する?」
「む、競争ならわしもするのだ」
「だれが一位になるか勝負だね! でも、本汚したりしそうで怖い」
「そう言われると……。うーん、今回はやめとく?」
「まぁ、二人がしないならやめとくのだ。どうせならゆっくりお話ししながら運ぶのだ。あ、明日から少しの間また出かけるのだ」
「そういえば桔梗ってたまに帰ってきてすぐに出かけてたけどどこに出かけてるの?」
「うむ、これでもわしは結構長生きしているのだ。もみじ達ともそんなときに出会ったのだ。もしかしたら他の場所にももみじ達のように苦しんでいるものがおるかもしれないのだ。そういう者達を探しているのだ。今となっては村づくりするみたいな話になっておるし、そのための人材も探してくるのだ」
「なるほど。頑張って。出来れば女の子がいい」
「でも、力仕事も増えるんだし男の子もいたほうがいいんじゃない?」
「まぁ、わしらのような人物がそんなにたくさんいるとは思えんし、正直巫女という条件があるし男は無理なんじゃないかと思うのだ。それにこの前みどりが紹介すると言っておった人物は力持ちの女らしいしの。その人物次第なのだ」
「そう。あ、連れてくるときは私たちに連絡しなくてもいい。桔梗の目を信じる」
「うむ? そうなのだ? とはいえよほどのことがない限りはすぐに連れてくることは無いのだ。でも、信じてもらえるのは嬉しいのだ。ありがとうなのだ」
「そうなの? まぁいいけど」
「優しい子だったらいいかな。あ、ゆっくりでも辿り着いたね」
もみじの家に帰り着いた三人はゆっくりとした時間を過ごしながら、もみじと青藍の家を往復して本を書斎に運んでいく。途中からはみどりも加わって次々と本を運んでいった。




