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みどりと出会ってから少し経ったある日遊び道具を買って持っていってみた。トランプやリバーシ、将棋やチェスなども持っていきいつものようにご飯を食べてから並べてみる。もみじ達は初めて見るものに興味津々ではあるようだが壊してしまうのが怖いのか遠目で見るだけで触れようとはしない。
「お兄さんこれなぁに?」
「これはみんなで遊べるように持ってきたんだ。トランプでの遊び方としてはババ抜きが有名だからそれをしてみようか」
「ばばぬき? ババってなぁに?」
「えっと、まず最初に遊び方を教えるね。そしたらババの意味も分かると思うから」
「そうなの? 分かった」
もみじ達に見えるようにトランプを広げて見せて一枚ずつ読み方と遊び方を教えていく。もみじは数字もちゃんと知っていたらしく、トランプのマークを教えるだけで済んだ。ババ抜きは単純なゲームだったからかもみじ達もすぐに覚えることが出来て、もみじもババの意味が分かったからか、うんうん頷きながらババ(ジョーカー)を手にもってジョーカーとにらめっこしている。
「そんなに見つめてどうしたの?」
「うーん? なんか見たことあるような姿だなぁって」
「え!? 見たことあるの!?」
「うん。表情はどっちかというと優しいおじいちゃんって感じだったけど……。こんなに怖い仮面付けてなかったよ?」
「鎌は持ってた?」
「持ってた! 何に使うの? って聞いたら草刈り用の鎌だって言ってたよ? 大きいねって言ったら何も言わないで微笑んでたけど……」
「そ、そう……」
何も言わずにいたのはもみじの態度に和んだからか、もしくはこれ以上の質問は許さないという意味で微笑んだのか。見たことのないもみじ以外の者たちには判断がつかなかった。
「青藍もあったことがあるのだ? わしは会ったことがないのだが」
「えっと、私もない。多分もみじちゃんだけだと思う」
「ちなみにやけどうちもあったことないで? というかあったことがあるって言ったのはもみじちゃんだけやし」
「もみじちゃんはどこで会ったの?」
「えっとね、ここの森の奥に行ったときに見たの! 迷子になっちゃってどうしようって思ってたら家を見つけて、そこにそのおじいさんがいたの」
「見つけた後どうしたのだ?」
「おじいちゃんがしゃがんで草むしりしてたんだけど、腰を痛そうにさすってたから心配になって声をかけたの」
もみじの言葉にどういう表情をすればいいのか分からないといった様子で目を瞑り考え込む静人だったが、他の者たちは興味津々な様子で話の続きを待つ。
「うんうん、それで?」
「おじいちゃんは私の顔を見て少し戸惑ってる感じだったよ。そのあとにいろいろお話してたら家の場所を教えてもらえて、だからお礼に草むしりをして家に帰ったの。それからもう一回おじいちゃんの所にお礼をしに行こうと思って行ったんだけど辿り着けなくて、それからは行ってないよ」
「なるほどね。あんまり無茶なことはしちゃだめよ? そのおじいちゃんがいい人……だったから良かったけどそうじゃなかったら大変なことになってたのよ?」
「ここの世界にいる時点で人かどうかは怪しいけどな。まぁ、これからはそんな危ないことはせんようにな?」
「うん!」
「静人さんはさっきからだんまりやけどどないしたん?」
「いや、なんというか……。僕もここに来たのは迷子になってもみじちゃんと出会ったからだしね。その時に知らない人とは話せませんって言われてたら生きて戻れてたか分からないから……」
「あー……、なるほどなぁ。まぁ、とはいえ危ないことには変わりないんやし。注意位はしてもええんやないかなとは思うけど」
「まぁ、そうだね。危ないことはしないようにねもみじちゃん。あとあの時はありがとう」
「分かった! お兄さんももう迷子になったらだめだよ? えへへ」
「あはは、そうだね。もう迷子にならないように気を付けるね」
「うん! あ、もうそろそろトランプで遊ぼう!」
「そうだね。あとはしてみながら覚えようか。最初の何回かは僕が教えながらやるから分からないことがあったら聞いてね」
「分かった。でも多分大丈夫」
「わしも大丈夫だと思うのだ。……多分」
「桔梗は無理せんで聞いといたほうがええと思うで?」
「なんでなのだ。さすがにこのくらいなら覚えられるのだ」
「私はよく分かんないから聞くね!」
「遠慮なく聞いてね」
覚えるのはトランプのマークだけだったためしっかり覚えていたらしく特に何事もないまま最後まで終わる。とはいえポーカーフェイスができないからか桔梗が基本最後まで残っていた。
「あはー、また桔梗が最後やね」
「なぜなのだ! 納得いかないのだ!」
「鏡見ればわかると思うんやけど……、まぁおもろいからええわ」
「なんなのだ? 鏡を見てもわしの顔が見えるだけなのだ?」
「あはー、せやな。次ババ抜きするときは自分の顔がどんな顔をしてるのか意識してみればええと思うよ」
「う、うむ。分かったのだ」
ニヤニヤした表情のみどりの言葉に納得していない様子だった桔梗だが、周りの反応から何か察したのか特に反論もせずに素直に頷く。
「じゃあもう一回する? 今度はお兄さんも一緒にしよう!」
「そうだね。ババ抜きは大丈夫そうだから僕もしようかな」
「そんならうちは一旦休もうか。人数増えるとすぐ終わってまうし疲れたさかい」
「そうかい? それならお茶でも入れとけばよかったね」
「お茶ぐらいなら自分でも淹れれるさかい任せてといてや」
「一応キャンプ道具しかないけど大丈夫かい?」
「あー、そう言われればそうやな。先にトランプやなくてこっち先に準備した方がよかったんやない?」
「なんだかんだでそこまで不便に思わなかったからね。ちょっと量を多く作れなかったり食材を切るときの場所が無かったりするけど」
「それは十分不便やろ。こんな感じの道具はうちでも扱ってるし今度持ってくるわ。ガスはここの野菜と相殺でよかったんよね?」
静人の説明に呆れた目をしつつため息を吐くみどりだったが、静人はそこまで不便に思ってないのか苦笑するだけだった。そんな二人の会話を見ていた桔梗はみどりの言葉を思い出した。
「そういえば、みどりが言っておった力が強い女はいつ紹介してくれるのだ?」
「今度連れてくるさかい。あ、静人さんらがいる時のほうがええよね?」
「うーん。僕達と一緒にいる時間よりももみじちゃん達のほうが長くいることになるんだし、僕たちのことは気にしなくていいんだよ?」
「そういう訳にもいかぬのだ。わしらからすれば静人達のほうが長く共に過ごした者なのだから、そっちを優先するのは当たり前なのだ」
「桔梗の言うとおり。初めましての人より少しでも長く一緒にいた人たちの方を優先するのは当たり前。私たちより先にいなくなってしまうのは分かっているけど、それだけの理由でおにいさん達に嫌な思いをしてほしくない」
「うん。先にいなくなるのは分かってるけど、だからこそ楽しい気持ちで別れたいって思うから」
「青藍ちゃん、桔梗ちゃん、もみじちゃん……。ありがとう」
「気にしなくていい。私はみんなで一緒に食べるご飯が好きなだけだから」
「あはは、そうか。うん、みんなで一緒に食べるご飯はおいしいからね」
「えへへ、最初に食べたハンバーグはおいしくて涙が出たもんね!」
「うん。美味しかった。今は一人でご飯食べるよりもみんなでご飯食べることが多くなった。正直家に戻るのめんどくさい」
もみじの言葉に頷く青藍は後半の言葉の後にため息をついた。そんな青藍をみどりが不思議そうな顔で見る。
「なんや、いちいち戻っとるん? この世界だとあんまり分かれても意味ないんやし。こっちに引っ越したらどない?」
「まぁ、正直そこまであそこに未練ないから良いけど。荷物持ってくるのに時間かかる」
「それは三人いるんやし大丈夫やろ。そこまで大きな場所やないならすぐ終わる」
「もちろんみどりも手伝うのだ?」
「え、いやええけど。そんなに持ってくるものあるん?」
「大量の本が……」
「やっぱりうち忙しいから手伝えへんかもなぁ」
桔梗の提案にキョトンとした顔で答えたみどりだったが、桔梗の顔と言葉である程度察したのかすぐに手のひらを返す。
「手伝うのだ?」
「わ、分かった。分かったさかいそんな目で見るのやめて」
そんなみどりの肩に手を置いた桔梗がジト目でゆっくりと顔を近づける。みどりは逃げようとしたががっちりとつかまれて逃げられずに慌てて了承していた。
「うむ。助かるのだ。本当に助かるのだ」
「桔梗が言うほど多くない。正直、持ってきても見るようなものは少ないからあっちに保管しててもいいと思う」
「あー、でもさすがに野晒しで保管はあかんやろ? いっそのことうちが預かろか?」
「む、確かにその方がいいかも。よろしくおねがいします」
「分かった。それやったらあとで行くわ。いつ頃がええ?」
「今からでも大丈夫?」
「別にええよ。むしろその方が助かるわ」
「じゃあ。今から行く」
「それだったら今日の所はこれで解散しようか」
「えー! まだお兄さんとトランプしてないよ!」
みどりと青藍の話がまとまったのを見ていた静人の提案にもみじの不満げな声が上がる。それを聞いた静人は頬をかきながらも帰り支度の手をとめる。
「うーん、それじゃあ一回だけしようかな」
「私だけ仲間外れ?」
「あ、仲間外れはダメだよね。うー、お兄さん、明日もトランプしてもいい?」
「もちろん。このトランプはもみじちゃん達にプレゼントしたものだから自由にしていいんだよ」
「そうなの!? ありがとうお兄さん!」
「ついでにババ抜き以外の遊び方が書いてある本も買ってきたさかいそれもよんでな。結構いろんな遊び方ができるんやで」
「ありがとうみどりちゃん! 覚えたら一緒に遊ぼうね!」
「うちもそこまで詳しくないから遊ぶときは教えてな?」
「うん! 任せて!」
「それじゃあ、僕たちは帰るね。また明日」
「明日も来るから明日も一緒に遊びましょうね」
「うん。お姉さんも一緒! また明日!」
結局青藍の寂しそうな顔を見たもみじが我慢したことで遊ぶのはまた次回となったのだった。二人が帰るのを見送った後すぐに青藍とみどりは行動して、二人よりかは多いほうがいいともみじと桔梗もついていくことにした。




