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「ただいま。まぁ、誰もいないけど」


一人暮らしの静人は誰もいない家に独り言をこぼしながら玄関を開ける。最初から一人でこの家に住んでいたわけではない。昔はここにもう一人女性が住んでいた。静人は玄関を抜け奥に進みものが片付いてる一つの部屋に入る。


「僕以外誰もいないのは分かってるけど、それでもただいまって言ってしまうんだ。おかしいかな? おかしいよね」


誰もいない部屋で誰もいないところに話しかける。そんな静人の目の前には一つの写真がある。静人と腕を組んで楽しそうな笑顔でピースをしている女性の写真だ。


「最近独り言が多くなったよ。前はそこまでではなかったんだけどね。やっぱり君がいなくなったからかな」


写真に話しかける静人は顔は笑っているのにとても寂しそうな顔をしている。


「そうだ、今日は少し不思議なことがあったんだ。僕でもびっくりするようなことだ。でも、そのまえに風呂に入ってこようかな」


静人はおもむろに立ち上がると、自分の着替えをもって風呂場に向かう。風呂場でシャワーを浴びて汚れをきれいに落とした静人はすっきりした顔で出てきた。そして、一つのノートとペンを持つとさっきの部屋に戻り写真の前で今日の出来事を話し始めた。


「ということがあったんだ。どうだい? びっくりしただろう? 今でも夢を見ていたのではないかと思っているよ。……っとこんなもんかな。日記帳は少し恥ずかしいね。でも、あと少しの間だけだし、寂しくなるような気もするよ」


そう言いながらペンを置くと日記帳を閉じて写真を見る。そのあとでため息をついた。


「しかし……、かなでの言うとおりに写真に向かって毎日日記を付けてるけど、これにいったいどういう意図があるんだろうか。僕にはわからないよ」


そう呟いてまた一つため息をこぼす。この今日あった出来事を日記に付けるという行為は別に静人が始めたわけではない。ある日急にかなで、静人の妻に言われたのだ。


「しず君しず君。今日から少しの間実家に戻るね。大丈夫大丈夫、一か月ぐらいだから。あ、そうだ。一か月会えないんだし、どうせなら日記付けてみようよ! 一か月どんなことがあったのか気になるし、ご飯何食べたーとかでいいから、それとそれと、日記を書くときは私の写真を見て、私に話しかけるような言葉で書くようにね! その方が臨場感が出るでしょ? えっと、ノートはこれで、はいペン。ちゃんと書くようにね! いってきまーす」

「あ、うん。いってらっしゃい。気を付けてね」


静人はかなでの言葉に声をはさむことができないでいると、ノートとペンを渡された。それを頬をかきながらも受け取って玄関から送り出したのが今から一か月前のこと。


「あの時はいきなりのことで困ったけど、何回もかいていると結構楽しいから帰ってきてからもかくようにしようかな。あれからもうそろそろ一月経つけど明日帰ってくるのかな」


そんな独り言をつぶやいているとチャイムが鳴った。


「こんな夜遅くに誰だろう? もう夜中なんだけど。……まさか」

「ただいま、しず君! やっと帰って来れたよ!」

「あはは、おかえり。かなで、帰ってくるなら連絡してくれればいいのに」

「それじゃあ、つまらないじゃない。しず君が驚くところが見たいの私は」

「まったくもう」


呆れたような声を出しながらも、会いたかった相手に会えたのが嬉しいのか、静人の表情は笑顔だった。


「あ、そういえばちゃんと日記は書いてた?」

「ちゃんと書いてたよ、今日の分はさっき書き終えたところだよ」

「ふふふ、えらい! それじゃあ今から読もうかな。あ、私がいない間食事とか大丈夫だった?」

「うん、簡単な物なら作れるからね。今日はさっき帰ってきたばっかりだったから冷凍食品にしようと思っていたけど」

「あら、珍しいね。しず君がこんな時間に帰ってくるなんて何かあったの? あ、それも日記に書いてる?」

「書いてるよ。かなではご飯食べたのかい?」

「なら、あとからのお楽しみにしようかな。ご飯は食べてきた! でも、食べたのは結構前だし、今から作っても食べれるかな。ということで今から作るね」

「今日は長旅で疲れただろうし、僕が作ろうか?」

「大丈夫大丈夫、さっきまで寝てたし。それに、しず君もさっきまで外にいたんでしょ? 私が作るよ。それとも私の手作り食べたくないのかな?」

「一月お預けだったからね。食べれるなら食べたいな。それじゃあ、お願いしてもいいかい?」

「うん! 任せて! 腕によりをかけて作るわ! 楽しみにしていてね」


かなでは騒がしく強引だが、今までの一か月を思い出した静人は、そのことにいつもの日常が帰ってきた気がしていた。


「できたよー。かなで特製簡単チャーハン! というか食材が少なかったからこれしか作れなかったんだけど本当にちゃんと食べてたの?」

「僕としては食べていたつもりなんだけど、野菜とかはコンビニで買ったサラダとか食べてたし」

「確かに野菜は大事だけど、しず君の場合はお肉をもっと食べなさい。体細いんだから、たくさん食べないといつまでたっても私を守れるようになれないぞ?」

「これでも食べてる方なんだけどな。筋トレもしてるし、」

「くっそう、私に対する当てつけだな? こちとら頑張って腰回りの肉を落としてるってのにー。罰にもっとたくさん食べろー?」

「わざわざ、そんなに具体的に言わなくても……。かなではそんなに太ってるようには思えないんだけどな。あ、おかわり」

「むむ、なんでそんなに食べても太らないんだ……? 夜中に油っこいものを食べてるのにー。はいおかわり。あ、私お風呂に入ってくるね」

「うん、ごゆっくり。洗い物は僕がしとくね。食べたの僕だけだし」

「私もなんか食べたいけど、中途半端に食べるのが一番きついし。今日は食べるのやめとくことにする。洗い物はおねがいします」

「分かった。日記はここに置いとくから」

「お風呂入ったら見るー。それじゃ!」 


かなではお風呂に早く入りたいのか、足早にお風呂場へと向かっていった。


「さて、僕もさっさと食べ終えようかな。洗い物もするし」


かなでがお風呂場に行ったのを確認しながらさっさと食べ終えると洗い物をしにキッチンに向かった。



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